脳の情報処理機構を探る


藤 田 昌 彦

 

はじめに
 信号処理研究室は平成2年度からプロジェクトテ ーマを「神経計算学の理論と情報通信への応用」と 変更した。国内的にも国際的にも、いわゆるニュー ラルネットの研究がひと頃の熱狂的な時期、20〜30 年前の成果の再発見の時期、何でもニューロの応用 という誤解と熱望で混乱した時期を経て、本当の理 論的成果が問われる段階、着実な研究の進展が期待 される段階への移行に対応した措置でもあったと考 えている。
 我々は現在、本当の応用に耐えるものを形成する ために、理論と実験の両面から基礎的研究を強化し ていこうと計画している。
 

神経回路網の研究が目指すもの
 いわゆる「ニューラルネット」(神経回路網)の研 究とは、神経細胞や脳の研究ではない。数理的に入 出力関係を定義した「神経細胞モデル」(抽象化のレ ベルには種々ありえる)が回路網を構成するとき、 回路網上でどのような形式で情報の表現が可能か、 どのような情報処理が可能であるか、回路網の振る 舞いがどのように進行するかを調べるのが基礎的な 研究方向である。素子の入出カ関係は可変なパラメ ータを含んでいるので、その特性は変化しえる。素 子から成る回路網の性質も変化する。入力情報の構 造に照応するような様式での自己組織化、あるいは 処理結果の良し悪しを元にした学習などが、このよ うな変化に含まれる。

 従来の工学は、可変パラメータを多数含むシステ ムを対象にしてこなかった。設計から考えても、可 変な要素はなるべく絞り込んでおくのが望ましいか らだろう。さらに、神経回路では、構成する素子が 互いに情報を交換しながら処理動作も同時進行する。 情報も個々の素子に担われているのでなく、多数 の素子に分散共有されていることが多い。このよう なシステムがどのような能力を持ちえるかについて 従来の工学は全く無力である。ところが現実の脳は まさしくこのようなシステムなのである。一言でい って、並列分散学習システムである。理論的にほと んど未開拓の研究分野であり、同時に脳 の情報処理を解明するひとつの有力な分 野(「計算論的神経科学」)であるといえる。

 並列・分散・学習による情報処理の研 究をどのように進めるか。脳の情報処理 機構の研究をどのように進めるか。情報 処理の原理を理論的に検討することも重 要である。人工知能、画像工学などや、 制御理論、ロボティクスなどの成果を基 礎としてこれらを神経回路場のダイナミ クスの中に統合して、脳にアプローチす る(計算論的)方法も有望であり、重要な 成果を上げつつある。我々は現実の神経 回路そのものから新しい原理を見い出せないかと考 えている。神経回路が担っているはずの機能をどの ような神経メカニズムが遂行しているかを調べ上げ る(神経回路モデリング)。機能の推定はどこで獲得 できるか、直接的には神経生理学などの実験的結果 が重要であり、よりマクロな現象から機能を推定す るには心理物理実験などが有効である。さらに計算 論的アプローチも重要である。これらの諸分野は相 互に刺激しあい交流しあいながら神経科学に対して 貴重な貢献を成すだろうと考える。

 我々はこれまで随意的な眼球運動であるサッケー ドの系に関して、中脳から下の脳幹部分の神経メカ ニズムを探求してきた(図1のA参照)。サッケード とは跳躍性眼球運動と訳されることが多い。興味あ るものを見るために視線をパッパッとジャンプさせ る運動であり、もっとも頻繁に行っているものであ る。脳幹のシステムは脳の高次機能の下部を担って いるにすぎないが、回路のデータは豊富にあり、機 能もよく同定されており、したがって神経メカニズ ムは把握しやすい。たとえ下部であれ、そこでの具 体的な神経メカニズムの解明は、計算論的立場も含 めて高次脳機能へ総合的にアタックする際に良い経 験を与えたと思う。というのもニューラルネットの 立場から脳をアクセスするのにセンスの乏しい研究 も少なくないからである。


 

眼球運動、とくにサッケード系の神経回路
 眼球の網膜に外界の像が結ばれる。像情報は視細 胞の電気的活動としてコード化されて大脳に伝達さ れる。このとき、像の空間的位置関係を保ったまま 大脳視覚野に投射される。これを網膜部位再現性 (レティノトピー)という。大脳皮質は多くの異なる 機能を持つ場所に区分できる(機能局在論)。視覚情 報処理系はまず二つの系に大別される。空間位置や 運動の視覚処理をする系と対象の識別につながる個 体視の系である。共通の初期処理過程を持つこの二 つの系は、それぞれ階層的にあるいは並列的に動作 する数多くの機能単位から構成されている。さらに また、この二つの系もどこかで統合されている。こ のような情報処理が進む過程で当初のレティノトピ ーは不明瞭となり、大脳の処理に都合の良い細胞配 列が構成されているらしい。

 このような視覚系その他の感覚情報処理の後に、 大脳皮質では運動系が続いている。運動系の最終出 力部分では、神経細胞の配列に外界と整合の取りや すい情報表現が再び現われてくる。運動野には身体 部位再現性(ソマトトピー)があり、骨格筋を駆動 する神経細胞の配列はほぼ骨格筋の身体部位と同じ 位置関係で並んでいる。明瞭ではないが、前頭眼野 でも活動場所に応じて一定の向き、大きさのサッケ ードが生じる。さらに前頭眼野から司令を受ける中 脳上丘ではサッケードの方位、振幅は明確となって いる(図2参照)。


 脳の神経回路で入り口から見た感覚系の奥の方、 出口から見た運動系の奥の方は、相互に多重的かつ 双方向に接続しているようである。この過程で認識 とか記憶とか意識とか思考とか最高次の脳機能が営 まれている。ここでの情報表現がどうなっているか は今のところ全くわかっていない。脳の高次機能は 来世紀に続く研究フロンティアである。

 これまでの研究成果は上丘と脳幹の眼球運動関連 ニューロンを対象としてきた。上丘に見られる運動 マップが運動神経の興奮過程に変換される様式、空 間一時間変換、および上丘の信号の極座標表現から 水平系・垂直系運動神経の直交座標表現への座標変 換の解明が課題であり、これについてほぼ解答を与 えたと考えている(図1のB参照)。歴史的には70年 代半ばに発表されたJohns Hopkins大学のD. A. Robinsonのローカルフィードバックモデルが空間− 時間変換のモデルとして有効である。これを2次元 に拡張するとき、座標変換と空間−時間変換を合わ せて解決しなければならない。ローカルフィードバ ックを構成する要素回路を考え、これの集団が上丘 の信号でドライブされると仮定すると、これまでえ られていた種々の実験データが説明可能となる。今 日、生理学実験は個々の神経細胞の活動を微小電極 (電極先端の直径が1ミクロン以下)で計測すること に成功しているが、個々の活動データから集団の振 る舞い、機能を推定することはやはり困難である。 ある意味でトップダウンに集団の振る舞いを推定し、 そこから逆のデータの検証が計画されなければなら ない。こういう局面でとくに我々のようなモデル的 なアプローチが意味を持ってくる。

 

脳の高次機能にむけて

 感覚系(視覚、聴覚、体性感覚)の研究で重要なこ とは、階層構造をもとにしてモジュール間での情報 のやり取りがどのように進められるかである。これ に関して最近、ATR視聴覚機構研究所の川人・乾 は、これを初期視覚の延長上に階層処理がなされる という興味ある独創的な基本仮説を提出している。

 この仮説では各モジユールがMRF(マルコフ・ラ ンダム場、CRLニュース、No.176、関西支所知覚 機構研究室の紹介文参照)と仮定されているが、高 次のモジュールまで成立するのか問題が残る一方、 個々のモジュールのどのような構造が情報処理を遂 行するか明らかにしていかねばならない。また高次 になるほど情報の統合性が高く、細胞が入力を受け る網膜(視野)の範囲(受容野)も広くなる。広い受容 野の細胞で識別された内容が、より低次の狭い受容 野を持つ細胞にどのように正しく伝達されえるのか、 理論的にも興味ある問題が種々ある。我々も視覚系 の本格的な理論研究を開始しようと考えている。

 運動系ではロボティクスの方向から、必要な運動 司令を推定することが可能であるが、これとともに 司令信号を生成・組織・制御する神経回路網の研究 も重要であると判断する。この方向での研究は今日 までほとんど見るぺき成果はないと思う。この分野 でも我々の果たせる役割は十分に大きいだろう。

 

おわりに
 脳の高次機能には感覚系、運動系がある。この両 面で理論と実験の研究を進めていこうと考えている。 幸い、運動系に関しては重点基礎研究として進める ことが今年度から認められた。また感覚系に関して は感覚情報統合の側面に比重を置いて科学技術庁総 合研究「センサフュージョンの基盤的技術の開発に 関する研究」としてやはり今年度からスタートでき ることとなった。いずれも3年計画であるが計算論 的神経科学の成果が期待される中、大いに成果を上 げていきたいものである。

(通信技術部信号処理研究室長)




小型衛星通信技術の研究


近藤 喜美夫

1.衛星の大型化と小型衛星
 衛星通信の利用は、大きなアンテナを持つ固定局 間の通信から、可搬局、移動局、あるいは携帯局へ と拡大し、われわれの情報社会を大きく変えつつあ る。このような変化は宇宙技術の進歩により可能と なっており、地上部分の簡易化のため、なるべく大 きなアンテナと、高出力の中継器を有する等、高機 能な衛星の開発が進められてきた。これは観測衛星 等についても同様で、衛星に高精度、高感度なセン サが搭載されることにより、多くの貴重なデータが 得られ、我々の考え方、生活に直接的、あるいは間 接的に影響を与えてきた。
 このような宇宙部分の高機能化、大型化、また、 長寿命化を目指す技術開発の重要性は今後も変わら ないであろう。
 しかし一方、このような宇宙部分の高機能化、大 型化は、開発コストの上昇、開発期間の長期化、あ るいは革新的な技術の使いにくさ等の問題も生じや すく、このような問題を避けられる点で、小型の衛 星を見直そうという動きが、最近世界的に高まって いる。
 小型衛星に関しては米国(ユタ大学)で、1987年 以来小型衛星シンポジウムが毎年開かれ、ESAシ ンポジウム、IAF(国際宇宙航空国際会議)、 AIAA等の国際会議でも特別なセッションが設けられ ている。また小型衛星打ち上げの手段として、大型 ロケットによる複数衛星打ち上げ技術、航空機から の打ち上げ技術等のサービスも開始されている。
 わが国では、衛星技術と打ち上げ技術の発展過程 として、最初は小型の衛星であったが、現在では、 科学衛星、理工学実験衛星、アマチュア衛星等、ミ ッションを絞った衛星のみが比較的小型の形状を維 持しているが、打ち上げロケットの性能向上に助け られ、実用衛星では重量効率を追求して、大型化、 長寿命化が進んで来た。
 しかし、1989年頃より、当所及び航空宇宙技術研 究所を中心として、小型衛星の利用、技術に関する 見直し運動が進められ、1990年には広範な機関にま たがる専門の研究グループ「小型衛星研究会」も、 活動を開始したほか、大学等でも研究が活発化して いる。

衛星重力50kg
固定方法重力安定方式
起 動800Km 太陽同期起動
通信回線400Mhz, 9.6kbps (対地上)

表 検討中の小型衛星通信システムの諸元

2.小型衛星の特徴と通信技術
 小型衛星としては、米国等では数百s程度の衛星 まで合まれるが、わが国では数十sから100s程度 の衛星が議論されることが多い。重量、体積が小さ いため一般に発電能力も小さく、搭載機器も小型、 軽量にする必要があるが、小型ロケットの利用、あ るいは大型衛星打ち上げ時の余剰ペイロード利用等 多様な打ち上げ手段が可能となる。その上、衛星は 安価で短期間に開発が可能、また複数衛星システム とするのも比較的容易である等、大型衛星にない特 徴を有しており、新しい宇宙利用の可能性がある。
 小型衛星は、静止化のアポジキックモータ等を搭 載する事により静止衛星としても実現できるが、重 量の点から、一般に周回衛星となることが多く、こ のため対地上通信は、衛星が周回してきたときのみ 可能となる。
 この通信時間の制約に関しては、蓄積転送技術、 衛星間通信技術により改善する事ができる。
 蓄積転送技術は、地上からの信号を衛星上に一旦 蓄積し、衛星が目的の地点に移動したとき信号を送 出するものでアマチュア衛星でもこの技術が使用さ れている。このような技術は小型衛星間通信でも重 要である。
 衛星間通信技術としては、小型衛星と大型中継衛 星間の通信及び、複数の小型衛星間の通信があり、 いずれも小型衛星の利用範囲の拡大に効果がある。 前者の例としては、わが国でもETS-Yが計画さ れている。同様な軌道にある小型衛星間での通信は、 これに比較するとやや困難さが増す。即ち、小型で あるためアンテナは簡易で送信出力も低くなる事か ら回線設計が厳しくなり、軌道によってはドップラ も大きくなる。また通信も常時可能というわけでは ない。


3.小型衛星通信技術の研究
 当所では、小型衛星利用の要素技術として上述の 蓄積転送技術と衛星通信技術に焦点を当て、衛星搭 載機器の開発、衛星システム及び通信方式の検討を 行う事として、研究計画を平成3年度より開始した。
 搭載機器は、衛星上での デジタル信号処理を活用し て、通信方式の変更実験等 もできる構成とする。また、 衛星シミュレータとの間で、 伝送速度1.2kbpsの衛星間 通信の実験を、またその後 開発する基地局、可搬局と の間で伝送速度9.6kbpsで パケット通信、デジタル音 声伝送の実験を行い通信シ ステムとしての特性評価を 行う予定である。
 このような研究を進める ことにより、簡易な地球局 を対象としたメッセージ集 配信、データ通信システム の通信技術の最適化を図る ことができる。また、衛星 間通信で結合された複数衛 星システムの検討は、遅延 時間が小さくサービス範囲 の広い通信システムの他、各種観測システム等の多 用な衛星利用を可能とすると考えられる。更に、衛 星及びミッションの小型化、高密度化の推進は、開 発、打ち上げコストの低減等を伴い、宇宙利用の進 展に貢献するものと期待される。

4.おわりに
 本研究は、小型衛星の特徴を活かした通信技術の 検討を行うものであり、小型衛星の多様な利用を進 めるものと期待される。しかし、研究計画は開始さ れたばかりであり、推進に当たっては、衛星システ ム、通信ネットワークの、より詳細な検討を行う他、 打上げ機会の確保等の課題も解決していかなければ ならない。
 自由で発展性のある小型衛星通信技術を開発する ため、多方面の方々のご助言とご指導を仰ぎたい。

(宇宙通信部移動体通信研究室室長)




AUSSAT滞在記


門脇直入

 1990年7月1日より1年間オーストラリア、シド ニー市のAUSSAT社に訪問研究員として滞在し た。昨年暮れ、オーストラリア政府はこれまで国内 の通信事業を独占してきたTelecom Australiaと国 際通信事業を独占してきたOTCを合併し一つの事 業体(仮称Megacomと呼ばれている)を形成する一 方、現在のAUSSATを中心とした第二のコモン キャリア(通信事業者)を認可し、競争体制を導入す る新しい通信政策を定めた。いま、AUSSATは 今年中に予定されている売却、民営化を控え、 Megacomに対抗できる新コモンキャリアとして成長す べく、新しいビジネスプランを展開し始めている。 1993年7月開業予定の国内移動体衛星通信サービス mobilesatはその中でも中核的な役割を果たすもの と期待されている。

 そのようななかで、私は、続々と到着するmobilesat 用通信装置群の評価、或いはデモンストレー ションのための技術的なサポートを行ってきた。具 体的には、前任者の開発した4状態マルコフモデル を用いた陸上移動衛星通信回線シミュレータによる 疑似伝搬データの作成及び評価、mobilesatモデム 用データインターフェイスの開発、親局1と子局3 の計4局での様々な通信形態を模擬するシェアドグ ループコールシミュレータの製作、GPSレシーバ を利用した移動体位置追跡システムの開発等を行っ た。また、前任者である当所の鈴木、若菜両氏によ って開発されたフェージングシミュレータがAUS SATによって製品化されるという嬉しい出来事も あった。ただ、AUSSAT社はまだ小さな通信事 業者であり、組織的な研究部門を持たないため、私 の活動も研究というより開発的な要素が強かった。 しかし、この経験を通じて、移動体衛星通信の実用 化に向けた精力的な活動の迫力を身近に感じること ができた。

 オーストラリア人の日本に対する評価は必ずしも 好意的なものばかりではない。湾岸戦争時の対応や、 東南アジアでの森林伐採による環境破壊等を取り上 げた批判的な報道も見られた。しかし個人的には mate(マイト)として実にオープンに、陽気に付き合 ってくれるし、人々は一般的に親切である。特に男 性の愛想がよいのが印象的だった。

 ところで、悪名(誇り)高き豪語Aussie Englishに は筆者も随分悩まされた。その独特の発音と極端な 省略形には、英米入さえ苦労している様子で、例え ば英米人の耳には“egg nishner”と聞こえる語句が、 実は“air conditioner”である、というような解説書 まで売られている。

 オーストラリアの最大の魅力はそのユニークで雄 大な自然である。人口400万人の大都市シドニーの まん中でも大型の白いオウムを見かける。すこし郊 外に行けばワラビーに出会える。西オーストラリア 州には野性のイルカが波打ち際までやってくるとこ ろもある。人々もまた豊かな自然の中で、時計に追 回されることなく伸びやかに暮らし、人生を楽しん でいるように思える。そのような生活様式がオース トラリアの経済活動に与える悪影響を懸念する声も あるが、私はこの国の一番の良さなのだと理解して いる。

(宇宙通信部衛星間通信研究室研究官)


夕暮れのシドニーハーバー




関西支所引っ越し大作戦奮戦記


 郵政省が昭和63年度から開始した情報通信に関す る電気通信フロンティアプロジェクトの中核実施拠 点の一環として、平成2年度に建設を開始していた 関西支所新研究庁舎がこのたび竣工した。
 その竣工を前に、情報系、物性系及びバイオ系の 3分野8研究室と第3特別研究室が、鉄筋コンクリ ート3階建て、延べ床面積約4600平方メートルの新 研究庁舎に移転する作業、そして、8月21日、18名 の集団移転となる人事異動発令が出た。職場、本人、 家族、生活のすべてが関西ヘ!!となる民族大移動で あった。
 発令時の赴任期間1週間で、全員が自宅の引っ越 しをする。その後、続けて職場が引っ越しをする。 僅か2〜3週間で、関西支所の人口も研究室も倍に なった。
 同時に、旧庁舎にいた情報系研究室の新庁舎への 移転も行われた。
 以下、この短期集団引っ越し大作戦の各職場の奮 戦記を紹介する。

物性系

(超電導・コヒーレンス技術・電磁波分光研究室)
 今回の引っ越しは、研究室と、自宅の両方が重な ったため、勤務中は実験機器を、週末は家財道具の 梱包という生活が数週間にわたり、しばらく段ボー ルを見たくないという室員もいた。
 研究室関係では、配電盤の容量とか機器の稼働率 あるいは水道の流量、水圧、さらに、第1種アース、 積載荷重等、日頃はまったく考えた事もないパラメ ータの続出で、果たして提出した資料が適正であっ たかどうか今でも自信がない。
 また、自宅の引っ越しでは特に妻帯者は、引っ越 し先の宿舎の確保が直前まで不安だったため、カミ さんをなだめるのが一番の苦労であった。


段ボールだらけの研究室

生物系

(生体物性・生物情報研究室)
 生物系の2研究室は6月に発足したばかりであり、 大型の実験装置をはじめ、ナベ・カマ類もほとんど 無いので、研究室としての引っ越しは比較的楽であ った。とはいってもこの時期、大蔵予算要求の資料 づくり、要員計画、各種研究集会への参加などは例 年どおり当方の都合に関係なく進んでいく。段ボー ルの山の狭間での執務は異様な感じであった。
 8月21日に転勤の辞令を受けてから、赴任手続き を済ます日をはさんで10日ほどの間に、千葉、東京、 岐阜などでの研究集会への参加・発表があった。さ らに、室員の1人がアメリカ、カナダに出張してい る状況で、荷出し・荷受けの立会人の調整など慌た だしい毎日であった。
 雨の中、4年にわたって飼い、大きく育てた、2 匹の金魚を2号館の南側の池に放つとき、「いよいよ 関西へ行くのだ」と実感が湧いてきた。

情報系

(知覚機構・知識処理研究室・知的機能)
 さあ、引っ越し開始だ。
 机のパーテイションをバラし、移設……と、
あれ?、部品が足らんぞ!!
机が立たない?、
とにかく荷物を運び込んでしまえ……、廊下に山積 み。これじゃLANケーブルが引けないゾ。
 引っ越しでごった返す旧庁舎2階に本所からの電 話。受話器に思わず「今週はKARCはお休みです!!」。
 しまった、電算機室に電源ケーブルをひいてもら うのを忘れてた!!、土曜午後に地元業者に平身低頭 でお願い……。
 床下コンセント工事の間違いでLANケーブルに 100Vの電位差が!!、コネクターからほとばしる火 花。うちの本、お宅の荷物に混じってないか?。こ の机は俺のだ、取ったらだめ!!。電算機室のエアコ ンが効かないゾ、え?、未完成?!。おーい、電話 はいつ開通するの?……。
 やっと個別空調の快適な部屋で涼しく研究できる と喜んでいるうちに外はすっかり秋の気配。岩岡の 署い夏はすぎていった……。


総務系

(管理・会計)
 ここまでで大変だったのは、引っ越し、竣工式だ けでなく、苦労話は、起工の時点から今までのすべ てにあるといえる。
 本所等から届く大量の荷物の運搬、整理は支所全 職員地獄のような苦しみだった。
 出勤すると既に正面玄関前に大型トラックの大群 が一日の仕事を待ちかまえ、関係者総動員ですぐに 作業開始!!。
 あげくには、一日中ジャージ姿だったり、首にタ オルを巻いての作業が何日も続いたため、何人もの 職員が、運送業者と間違われた。
 運搬以外にも、小雨の中での駐車場づくりや穴埋 め、そのうえ蝮退治まで我々でやったのである。
 一方、異動者の自宅の引っ越しであるが、18名も の異動スケジュールをまとめるのは一筋縄では行か ず、誰が、何時に何処に着く等の各人の予定は、な かなか決まらぬもので、間際になって相乗りトラッ ク荷物の降ろす順番変更があったり、日に5件の引 っ越しが集中したときなどは、若手職員などは引っ 越し手伝い部隊の巡業となった。
 やはり、一週間に18名もの引っ越しは、受け側の 職員の少ない支所にとっては、大仕事であった。
 また、引っ越し荷物を片づける間もなく、外国出 張した職員もいたが、帰国までの間、家族の人達の、 片付けの苦労も忘れてはならない。
 以上引っ越しは終わったものの、実験機器はまだ まだ整備されていない。一日も早く実験するために、 奮戦は続く。

(関西支所)




マスコットキャラクターの制定について


 通信総合研究所は、情報通信分野における唯一の国立試験研究機 関として情報・通信・電波の各分野にわたって、21世紀を目指し基 礎から応用まで幅広い研究を行っています。
 国民に分かりやすい研究所、なじみやすい研究所を目指してこの 度本誌1ページ右上写真のマスコットキャラクターを制定しました。
 マスコットキャラクターの作成にあたっては、郵便のイメージキ ャラクターを作成した郵政省郵務局の全面的な協力のもとに、研究 所内にイメージキャラクタープロジェクトチームを設けて、研究所 の性格・仕事の位置づけ・仕事の対象等について研究所のイメージ から「創造・サイエンス」「未来・優しさ」「コミュニケーション」 のキーワードをもとに絵本作家の村上勉さんに作成していただきま した。
 このマスコットキャラクターを通信総合研究所の顔として、パン フレット、ポスター等に使用し、広く普及をはかって行きます。




長期留学感想


題 維元

 1年を長いと見るか、短いと見るかは、それを見 る価値観に頼るところが多いのだろう。1年間、国 外にて一人での生活をしなければならず、たいへん 辛かったが、たくさんの様々な知識を得ることがで きた。このことは何よりも満足している。

 私の一生において一年でも、この世界で特に有名 な研究機関、日本郵政省通信総合研究所に席をおけ たことを私は自慢することができる。

 CRLでは高橋冨士信先生をはじめ、周波数・時刻 比較研究室及び、標準測定部の皆様にいろいろお世 話になった。彼らのおかげで、私はCRLでの学習 と生活が楽しくなった。楽しく過ごせたことを私は 心から感謝している。私のために皆様が協力されて いることに本当に感動したのであった。私はきっと これらのことを忘れることはないであろう。

 日本の山には森がいっぱいである。森は一年の中 に四季で青々とした波である。川は清く澄んでいて 見透けるほどであるから、様々な魚が群がり飛び跳 ねている。本当にうれしく思う。

 日本の料理は栄養分ばかりでなく、色、香り、味 など、全て注意しており、納豆以外はとてもおいし い。私はこれらが大好きである。

 日本人の振る舞いはまことに礼儀正しい。日本人 は親切な人間であり、本に書かれていた日本人とは 全く違う。本によれば、資本主義の社会では競争が 激しく、人の命を気にかけず、お金のことだけを考 えて補助がなく、人間性はもちろんない。しかし、 ここ日本に来てみると、私は驚嘆のあまり声も出な かった。事実、日本人は人情に厚い人間であり、み んなは私の友達である。私も彼らが好きである。

 世界において日本は先進的な国家である。日本の 社会は豊かであり、国民の生活水準は高く、安定し た平和な社会を持っており、年金や医療などの福祉 が充実している。

 日本人は勤勉と努力により、大きな業績を収め、 日本の科学技術は世界的に注目された。日本は世界 の中で経済大国になった。これからは、世界が共に 発展する事業のために、日本が貢献する事を期待し ている。

 人類発展の永い川の流れを、振り返って見ると今 世紀半において、科学技術が急激な進歩を遂げたこ とを改めて強く感じさせられる。

 これらの技術の進歩改良の努力の中、CRLは多 くの先端研究の成果や様々な関連する技術を取り入 れてきた。

 CRLには世界でも一流の科学者が集まっている。 今後、国際協力の窓口としてCRLには、国際交 流事業、国際共同事業の推進に努力するように、切 にお願いしたいと思う。

 中日両国は、一衣帯水の隣邦である。私達は共に 東方文化の薫陶を受けてきたのであった。世界的な 視野からすると私達は同一人種に属する。同じ顔、 目、同じ皮膚、共通する感情の心理など。

 中日両国の友好なことは、日本の経済大国の地位 を維持することばかりでなく、中国経済の発展に寄 与し、またアジア地域全体の安定と世界の繁栄にお いても重要な要素になっている。このための中日友 好への努力を皆様にお願い致したいと思う。

 皆様、もし機会がありましたらぜひ中国へいらし てほしい。いま、中国も変わりつつある。時代の動 きが最も早く表れたのは、女性の身なりだろうと思 う。中国各地の街角で見られるヤングレディと、東 京のOLの見分けはつかないと思う。

 最後に、私の感想を結束する時、山一電気株式会 社、経営企画部、原島一男部長の話を披露しようと 思う。「その昔、日本は中国から文化を移入し、生活 様式を学んだ。経済大国になった今、今度は経済や 技術の面で日本がそのお返しをするときがきた。そ れも、単に生産性や高度技術だけを教えるだけでは なく、日本がその発展の過程で、ある程度克服した 公害防止への対応、地球環境との調和を踏まえた総 合技術を移転していくべきだろう。」

 中国が発展すれば、世界的に大きい市場となりう るであろう。日本ばかりではなく、世界的な発展に 寄与することができるであろう。

(中国科学院陜西天文台 工程氏)



短 信




第81回研究発表会のお知らせ


 平成3年秋季研究発表会(第81回)が当所の大会議室で 開催されます。多くの方々の御来所をお待ちしています。 日時 平成3年11月6日(水)9時30分から16時30分まで
場所 通信総合研究所大会議室
    発 表 題 目
1 真空紫外コヒーレント連続光の発生(速報)
2 光と電波の境界領域における分光計測技術
3 ラージループアンテナによる妨害波測定
4 円筒面走査近傍界アンテナ測定システムの開発
5 オーロラ観測衛星(EXOS-D)の成果
 (1) 極域電離圏プラズマの加速と輸送
 (2) 磁気圏内に侵入した太陽風粒子の観測
6 惑星電離圏のモデリングの研究
7 航空機搭載用映像レーダによる雲仙普賢岳の観測
 (速報)
8 国際地球回転事業(IERS)VLBI技術開発セン ターとしての研究計画
 (1) IERSの概要と技術開発センターの役割
 (2) 次世代VLBIシステムの開発と観測



施設一般公開開催される


 毎年恒例である研究施設の一般公開を当研究所開設記 念日である8月1日に、本所、センター及び各電波観測 所において実施した。
 本所では、午後3時頃から雷を伴う豪雨に見舞われ、 終了時刻を延長する等のハプニングがあったものの、日 中は好天にめぐまれ、多数の見学者でにぎわった。また、 一般公開前々日の7月30日には記者クラブに対する公開 が行われた。
 施設一般公開来所者数
本所        :766名
鹿島宇宙通信センター:563名
平磯宇宙環境センター:105名
稚内電波観測所   : 48名
犬吠電波観測所   : 36名
山川電波観測所   :173名
沖縄電波観測所   : 94名




国際シンポジウム「情報通信先端技術シンポジウム関西」
(International Symposium on Advanced
Telecommunications Technology/Kansai)の開催


 通信総合研究所は、情報通信に関する基礎的・先端的 研究を、産学官の連携及び国際研究交流を図りながら推 進するため、平成元年に関西支所(関西先端研究センタ ー)を設立した。平成3年度には、研究組織は3研究分 野8研究室(50人規模)に充実し、この8月には新しい研 究庁舎も竣工している。
 関西先端研究センターでの研究の本格的な開始を機に、 兵庫県を始めとする地元自治体及び情報通信研究関係団 体、産業界等の幅広い協力を得て標記の国際シンポジウ ムを開催する。このシンポジウムは、内外から第一線で 活躍している研究者、指導者を招き、情報通信先端技術 の研究開発の最新動向を探るとともに、情報通信に携わ る研究者及び広範な関係者が交流する場を設けることを 目的としている。
日    程:平成3年11月25日、26日
場    所:神戸ポートアイランド
問い合わせ先:通信総合研究所 関西支所078-967-4196



第3回電気通信フロンティア研究国際フォーラムの開催


 第3回電気通信フロンティア国際フォーラムが、下記 の日程で開催されます。今回のテーマは「マルチモーダ ル・ヒューマン・コミュニケーション」です。
 初日には、Prof. Nicolas P. Negroponte(MIT Media Lab.)及びProf. Roger C. Schank(Northwestern Univ.)による特別講演と、「言語と認知」のセッションを 行ないます。2日目は、「視覚メディア」セッションと 「マルチモーダル・インタフェース」セッションを行ない ます。3セッションで、内外の研究者11名による講演が あります。

日 程:1991年11月21日(木) 22日(金)
場 所:高輪京急ホテル(東京都港区)
主 催:郵政省、(財)テレコム先端技術研究支援センタ
連絡先:(財)テレコム先端技術研究支援センタ
    第3回電気通信フロンティア研究国際フォーラ ム事務局(電話03-3597-8184)