スぺースデブリ観測技術


鈴木 良昭

 

はじめに
 人類の宇宙活動の発展に伴い、地球の 周りには人工物体が無数に存在するよう になってきている。これらは、通信衛星 のように実用に使われているものばかり でなく、他に使用済みとなった人工衛星 や使い捨てられた上段ロケット、さらに は、軌道上で爆発した人工衛星の破片が 含まれている。米国の宇宙監視網(SSN :Space Surveillance Network)では、 10p程度以上の大きさの人工物体を常 時監視しており、その数は現在約7000個 にのぼる。1o程度以上の大きさのもの となると350万個以上と推定されており、 その数は年々増加している。
 これらの人工物体の大部分は不要のも のであり、スペースデブリ(Space debris)と呼ば れている。スペースデブリが人工衛星やスペース シャトル等有人飛翔体に衝突する可能性が無視でき なくなってきている。スペースデブリの衝突速度は 秒速十数qにもなり、小さなデブリでも衝突によ る影響は深刻である。例えば、1gのデブリが衝突 するエネルギーは100s程度の物体が時速100q 以上で衝突するエネルギーに相当する。衝突すれ ば、人工衛星の機能が損なわれるばかりでなく、有 人飛行物体の場合には人命への影響もあり、除去、 回避及び防御等の対策が必要となってきている。こ うした対策のためにはスペースデブリの現状の把握 が重要であり、スペースデブリの分布状況や軌道の 把握及び監視を行うための観測を行わなければいけ ない。軌道が把握されればデブリとの衝突を末然に 防ぐことが可能であり、またデブリの分布が把握で きれば防御シールドの設計に役立つため、観測技術 はスペースデブリ対策の根幹ともいえよう。


(写真) JCSAT観測例

 

スペースデブリ観測の現状
 米国SSNで使用されているのは地上のレーダと 光学望遠鏡である。レーダで使用されている周波数 帯はUHF帯が最も多く、その他に、VHF、Cバン ド、Lバンド、Sバンド、Xバンド及びKバンドが 使用されている。強力なレーダは主に70p以上の 長波長を使用しており、追跡できる物体の大きさの 限界は約10pのオーダになっている。一方、光学 望遠鏡は、レーダの探知限界を越えるような高軌道 の物体を追跡するのに使用されている。レーダで は、観測距離の4乗で受信電力が減少するのに比べ て、光学望遠鏡では、太陽の反射光を観測するため 受信光強度が観測距離の2乗で減少することが大き な理由である。しかし、光学観測では、高度5,000 q以下の観測において、望遠鏡の視野を横切る物 体の角速度が速いために、観測が困難とされている。
 大きさが1p以下の小さなデブリについては、 地上からは直接観測することができないため、軌道 上で直接観測する必要がある。現在まで行われてい る軌道上観測としては、宇宙から持ち帰ったものに 残っているデブリの衝突痕及び比較的小さいデブリ の衝突を観測するダストカウンタの例がある。宇宙 機に地上からの観測と同じようなレーダや光学観測 機器を搭載する方法も当然考えられているが、現在 のところ検討段階であり、実現例はまだない。


図1 スペースデブリ光学観測の概念

 

CRLにおける光学観測技術の開発
 スペースデブリなど宇宙飛翔体の地上からの光学 観測の概念を図1に示す。太陽に照らされて光って いるデブリに対して、地上では光学望遠鏡を用いて 観測方向、受信光強度などを測定する。
 現状では、観測能力の限界から小さい物体、暗い 物体の観測情報が不足している。高高度軌道の観測 に適する光学観測では、現在及び将来の静止軌道の 保全の観点から静止軌道近傍を飛行するまたは飛来 する微少デブリの観測が重要であると思われる。観 測能力の向上の方法として、広視野高解像度のCCD カメラを用いるシステム、大気の影響を補正するア ダプティプ光学系の利用が考えられ、基礎検討を進 めている。

表1 CRL実験システムの諸元
望遠鏡 口径1.5m
合成焦点距離4.5m
(開口比)
検出器Low Noise CCD
385 X 578 画素
観測頻度1回/min.
視野角0.07度 x 0.11度
限界等級16.7 (1 sec)
(積分時間)

 

表1に諸元を示すようなCRLの実験システムで は、口径1.5m光学望遠鏡と検出器として液体窒素 冷却の低雑音CCDカメラが用いられている。CCD 撮像素子は良好な光・電気変換効率とともに素子自 体に信号対雑音比を改善する積分機能があり、長時 間の露光を行うことにより非常に暗い物体でも検出 できるという特徴をもっている。このCCDカメラ と大型望遠鏡を組み合わせることにより、地上から ほとんど静止して見える静止軌道近傍のデブリに対 して高感度の観測が可能である。過去2年間の試験 観測において、CS3、BS2b等の実用静止衛星を観 測しているが、このうち最も外形の小さいCS(2m ×2m)で14等程度、最も外形の大きいJCSAT(写真 1)では10等以下の明るさがあることがわかった。 このような観測を通じて、CRLのシステムを用いた 限界等級は、1秒積分で16.7等、10秒積分で18.7等 であり、新月に近い快晴の夜間には、積分時間を 100秒程度にすることにより静止軌道上でも20pの 大きさの物体が検出可能であると推定している。
 光学観測において今後取り組むべき技術課題は以 下の通りである。

(1)静止軌道上のデブリ観測
超高感度CCDカメラ及び赤外カメラを用いた 可視赤外の波長でデブリを観測する技術の研究
(2)低高度周回軌道のデブリ観測
高感度かつ受光面積の大きな(広視野になる) 2次元センサの研究
(3)大気の影響を補正し高感度及び高分解能の観測 を可能にするアダプティブ光学系の研究
(4)画像データ取得・解析システム及び軌道決定法 に関する研究
(5)低緯度光学観測施設の整備と国際的観測ネット ワークヘの参加
 

おわりに
 国内でのスペースデブリ観測の例は京大のMU レ ーダを用いた観測などいくつかあるが、欧米に比べ ると極めて少ない。有人宇宙時代に向けてスペース デブリの観測の現状を正確に把握することが緊急の 課題となっており、そのためにはグローバルで継続 的な観測体制が必要である。今後、諸外国と緊密な 協力体制を整えられるように、日本のこの分野での 国際的寄与を検討することが必要になろう。有人宇 宙時代の安全性確保の観点から、このスペースデプ リの観測や宇宙における太陽の放射線環境の監視を 総合的に行う宇宙環境モニタリングのありかたを検 討することが益々重要な時期にきている。

(宇宙通信部 衛星間通信研究室長)




TSCJ 君津衛星管制センターの近況

山本 稔

 

はじめに
 朝、宿舎の食堂で朝食を終えた職員を乗せて、8 時25分に管制センター専用の通勤バスが出発する。 約9時10分前にセンターに到着。9時から9時20分 頃まで泊まり明け勤務者と日勤者の衛星管制業務の 引継が行われる。この引継には、所長以下関係者全 員が立ち会う。夕方5時、日勤者と泊まり明け勤務 者の引継があり、5時35分に宿舎行きのバスが出発 する。時間は極めて正確である。口の悪い人は捕虜 収容所という。私は高級収容所と呼んでいる。都会 の喧噪から隔離された素晴らしい自然環境である。
 春、バスの窓から朝夕眺めるミツバツツジの鮮や かな深紅色と新緑のコントラストは、晴の日も雨の 日も、はっとするほど美しく飽きることがない。梅 雨時の雨に濡れた紫陽花も、なかなかの眺めであ る。また、晩秋の朝日にきらめく紅葉には、心を洗 うすがすがしさがある。
 時には、猿の群れが出没する人里はなれた山の中 に、最先端技術の結晶である通信衛星と放送衛星の 管制センターがある。我々は宇宙部落に住む仙人で ある。地上マイクロ回線との干渉がないことを重要 な要件の一つとして選定された当センターの敷地面 積は約13万平米、そのうち平坦部は約3万平米で、 残りは山の斜面である。建物の床面積は、約2千6 百平米、9基のパラボラアンテナが林立している。 平成7年に、多目的の片倉ダムが完成予定であり、 周囲が水没し、湖面に浮かぶ衛星管制センターとし て観光名所になる可能性がある。景観が良くなるの は大歓迎であるが、散歩、ジョギングのコース、山 菜の宝庫が水没するのは残念でもある。また、施設 管理の面で、頭痛の種が増えることになる。
 

経緯と最近の状況
 通信・放送衛星機構は、実用の通信衛星及び放送 衛星の利用推進と管理、運用等を効率的に行うため に、昭和54年に設立された郵政省の許認可法人であ り、君津衛星管制センターは、これらの衛星を一元 的、効率的に管制・運用する事業所として昭和57年 に開設された。昭和58年5月のCS-2aの管制開始 を度切りに、CS-2b、BS-2a、BS-2bの管制運用を行 い、現在は、CS-3a、CS-3b、BS-3a、BS-3bの4衛 星の管制運用を実施している。この間、不幸にも、 管制施設を整備し、運用開始に備えたBS-2x及び BS-3Hの打上げ失敗があった。日米貿易摩擦に端を 発した日本の宇宙開発計画の方針変更により、宇宙 開発事業団が衛星の開発・製作と打上げを担当し、 通信・放送衛星機構が定常運用を担当する従来の形 式の衛星計画は、BS-3bで最後となった。このよう な状況のなかで、一時、ポストCS-3、BS-3の展望 が不透明になったが、その後、NTTによるN-STAR 衛星の打上げが決定され、また、BS-4についても 将来の方向が示されたことで、なお流動的である が、当センターの将来も明るいものとなった。
 なお、当機構は、平成2年度以降、通信・放送開 発事業への支援業務、電気通信基盤充実事業への支 援業務等も実施している。
 

組織について
 組織の概略を以下に示す。()内最初の数字は職 員数、その次がCRLからの出向職員の氏名である。

・管理課(6、中島課長、2名は非常勤職員)
・調査役(1、田中調査役)
・データ処理課(9、沢田主査、丸山課員)
衛星の軌道及び姿勢の決定、制御に関連する企 画、解析、データ処理等を行う。
・通信衛星管制部計画課(7、井口課長、斉田主査)
衛星の管制計画、運用手順の策定、ハウスキーピ ングデータの解析等を行う。
・同管制課(12、西山主査)
交替勤務による24時間体制 で衛星管制を実施す る。人間と衛星のインターフェースを司る部隊 で、各課は、この部隊が確実に信頼性の高い衛星 運用を実施できるように準備する役割を負ってい るということができる。
・放送衛星管制部計画課(9、川名(旧姓井口)主査)
・同管制課(13、村田課長代理)
放送衛星管制部の内容は、通信衛星管制部と同様 である。
 センターの職員は3名のプロパーを除き、NTT、 NHK、郵政、KDD、NEC、富士通、三菱、SED、NHKア イテックからの出向職員で構成されており、2〜3 年で交代する。そのため送別会は年中行事となって いる。お互いの交流期間は短いが、職場で、宿舎 で、各種のレクリェーションでと密度が高いせい か、転勤後も私的な交流が続くケースが多いようで ある。夜間の管制卓勤務者は、CS、BSとも2名が 1チームとなって、夕方5時から朝9時まで、長時 間の勤務となる。時には関連各課の担当者等も加 わって、緊張した状態で長時間管制業務が継続す る。技術力、沈着冷静な注意力と判断力は勿論、チ ームワークも重要な要素である。頻繁に職員が異動 する状況で、スムーズに業務の継続性が維持され、 緊密な協力体制が出来上がっているのは驚きであ る。既にOBとなられた方も含めて、職員一人一人 が職務と役割をよく認識し、苦労を重ねて、後輩へ と引き継がれた結果と考えている。

 

出向者の近況
 写真の後列左から紹介する。西山主査はCS管制 課の中堅として、管制業務の傍ら、公私 に渡り若者の育成に余念がない。沢田主 査は、日常の業務に加えて、CRLとの共 同研究による新しい軌道制御技術の開発 に情熱を燃やしている。昼休みには、 ジョギングを欠かさず、健康管理も十分 である。斉田主査は、太陽・月同時干渉 時のCS管制手法の解析で機構記念日に 理事長賞を授賞した。花嫁募集中であ る。田中調査役は、広報、研修・見学、 各種会議の開催等広範な業務を一人でこ なしている。宿舎自治会長として、地元 とのパイプ役となり信頼を集めている。丸山課員 は、データ処理課の今後を担うホープとして、軌道 制御等の業務に熱心に取り組んでいる。テニス、ゴ ルフ、草球等を万遍なく楽しんでいる。
 次は前列左から。村田課長代理は、技術全般に明 るく、頼りになるセンターの主的存在である。セン ター唯一の自宅通勤者である。井口課長は、CRLで の経験を100%生かして、課内のとりまとめは勿 論、部内・部外の関係部署との調整、交渉を手際よ くまとめ、信頼を集めている。私同様、ゴルフ一年 生として修行中である。私、山本の当面の課題は休 肝日の確保である。川名主査は、ここ数年、何かと イベントの多いBS計画業務で多忙であったが、合 間を縫ってテニスに励み、それが縁でこの春めでた くゴールインした。中島管理課長は、センターの大 番頭ととして多忙を極めているが、センター勤務を 契機に自家用車を購入し、深夜に山中に入り星空の 美しさを楽しむロマンチストでもある。
 

終わりに
 通信・放送衛星機構が設立された頃に比べると、 衛星通信と放送衛星の発展には目ざましいものがあ り、この分野は情報社会の重要な基盤の一つとして 国民の日常生活に密着した存在となっている。当セ ンターでは、このような状況を自覚し、より信頼性 が高く、経済的にも効率の良い衛星管制事業の確立 を目指して一層の努力を続けている。引続き、関係 機関の御支援、御協力をお願いする次第である。
(通信・放送衛星機構 君津衛星管制センター所長)


ERS-1 SAR実験実施報告

 藤田 正晴(通信技術部通信装置研究室長)
 岡本 謙一(電波応用部電波計測研究室長)

 ESA(欧州宇宙機関)のERS-1衛星(欧州リモー トセンシング衛星1号)は本年7月17日にアリアン ロケットによって打ち上げられ、現在高度約800q の略円軌道を順調に飛行している。ERS-1衛星には 5.3GHz AMI(合成開口レーダおよび測風散乱計)を 初め、各種のセンサが搭載され、地球環境の総合的な リモートセンシングを行うことを目的としている。 ESAは1986年5月に全世界へ向けてERS-1の実験 提案を募った。これに応えて通信総合研究所から3 件の提案を行い、すべてが採用となった。これらの提 案の一環として、11月10日から16日にかけて、合成開 口レーダの較正実験及び海洋擬似油汚染・海洋波浪観 測実験を実施した。以下、各実験の概略を紹介する。

1.較正実験
 合成開口レーダ(SAR)で得られる映像は測定対 象からのレーダ波の後方散乱強度の二次元的な分布 を表しており、信号処理によって高い距離分解能を 実現している。従ってSARの映像強度とレーダ断面 積が関係付けられれば、測定対象の分類や種類の同 定、および状態の推定等が可能となる。このための 作業をSARの較正と言う。SARの較正は、通常既知 のレーダ断面積を持つ標準反射体を観測域内に設置 し、その映像強度とレーダ断面積の関係を評価する 事によって行われる。このとき、三面コーナリフレ クタが標準反射体として用いられることが多い。三 面コーナリフレクタは、レーダ波をその到来方向に 向かって反射する能力を持っているからである。さ らに標準反射体の設置面や周囲の物体の影響をなる べく減らし、正確な較正を行うために、後方散乱係数 が小さくかつ均一なテストサイトが必要となる。こ のような要求を満たす場所として旧秋田空港の滑走 路を選び、較正実験を行った。コーナリフレクタの 設置状況を

写真1に示す。コーナリフレクタのレー ダ断面積はレーダ波の入射方向の関数であるから、 映像強度をレーダ断面積と対応させるためにはコー ナリフレクタを正しくSARの方向に正対させるか、 または、測定した設置角を用いて補正計算を行う事 が必要となる。このためにコーナリフレクタの設置 に先立って、設置方位角の精密な測定を行った。コ ーナリフレクタのレーダ断面積が最大となる方向を レーダ波の到来方向に一致させるためには、コーナ リフレクタの設置角度を方位角方向のみならず仰角 方向にも調節する必要がある。このためにコーナリ フレクタを特製の架台上に設置し、さらにレーダ断 面積を正しく求めるためにその傾き角の測定をし た。さらに、SARのアンテナパターンを測定するた めの受信機を旧秋田空港に設置した。(写真2


(写真1) コーナリフレクタの設置状況


(写真2) SAR信号受信機

 ERS-1の軌道予測にもとづく予定通過時間を待つ ことしばし、ほぼ予定どおりの時間にスペクトラム アナライザの管面上にSAR信号特有の櫛の歯状のス ペクトラムが表れ、順調に観測が行われている事を 示した。そのレベル変化を記録することにより、SAR アンテナパターンを求めることができるわけである。


(図1) SLARで観測した擬似油汚染域

 

2.海洋擬似油汚染・海面波浪観測実験
 本実験では海面に作られた擬似油汚染領域及び周 辺の清浄海面をERS-1 SARと航空機搭載マイクロ 波映像レーダ(SLAR)で同時観測を行い、両者の比 較をとおし、衛星搭載合成開口レーダ画像の海洋擬似 油汚染・海面波浪観測のための有効性を評価する。ま た、船舶から海上風ベクトル、波浪等の海象のトルー スデータを収集し、SAR画像の解析に利用する。この ため、当所で借用した小型船舶並びに気象庁観測船 啓風丸よりシートルースデータを収集した。実験は 11月10日及び11月13日の2度実施した。但しSLAR の飛行は11月10日のみ実施した。実験海域は静岡県 御前崎の沖、約100qの海上で行った。擬似油汚染 領域は生物に対して無害な油に良く似た化学的性質 を有するオレイルアルコールを小型船舶から180リッ トル散布することにより作成された。船舶を海上風 に直角方向に走らせながら、オレイルアルコールを風 下側に散布するときれいな長方形となって広がる。
 SLARの観測では、通常アンテナ角度(アンテナ利 得の最大値が指向する方向と直下点方向のなす角度) を大きくとり、走査幅を広く取るが、今回の実験では ERS-1 SARの入射角23.5度と小さいため、アンテナ 角を40度(観測可能入射角:10−40度)及び50度(観測 可能入射角:20−50度)の条件で実施した。このため 走査幅が狭くなり、測定が困難になるが、合計8シー ンの擬似油汚染領域のSLAR画像が得られた。

図1 はERS-1の飛行経路に合わせて飛行したSLARに より取得した擬似油汚染域及び周辺の映像を示す。
 飛行高度は7000フィート、アンテナ角は50度であ る。航空機は図の上部を右から左へと飛行してい る。白い帯状の部分が海面からのエコーの領域であ る。図の中心付近で暗く写っているのが擬似油汚染 域である。上部の黒い部分は航空機から海面までの 散乱体のない領域であり、下部の黒い領域は、アン テナビームの外側で受信エコーの殆ど無い領域であ る。図の擬似油汚染域の中に海面のうねりと思われ る筋状の模様が右上から左下に向かって見られる。
 SARのデータの映像化は現在宇宙開発事業団地球 観測センターにおいて鋭意進められており、その結 果がまたれる処である。なお、本実験は宇宙開発事 業団との共同研究として実施されたものであり、ご 協力をいただいた同事業団地球観測センターの関係 の方々、海洋擬似油汚染観測実験でご指導いただい た海上保安庁の関係者各位、ならびにご助力いただ いた秋田観測係岩淵係長を初めとする当所の関係の 方々に感謝の意を表明します。


短 信


関西で国際シンポジウム開催さる

 11月25日と26日の両日にわたり、神戸のポートアイラ ンドにおいて国際シンポジウム「情報通信先端技術シン ポジウム/関西」が開催された。この国際シンポジウム は、当所の関西支所(関西先端研究センター)の新庁舎 が9月に竣工し、50名規模の研究者がそろって本格的な 研究を開始したことを契機に、当所が兵庫県等の自治体 や関係団体と共同して主催し、内外から情報、物性、バ イオの3分野にわたる先進的な研究者を招いて講演およ び討論を行ったものである。
 初日には、R. Shank教授(情報、Northwestern Univ.)、 大越教授(物性、東大)、西塚教授(バイオ、神戸大) による特別講演があり、2日目には3つの分野に分かれ てそれぞれ5人の講師による講演と熱心な質疑が行われ た。
 両日とも、関西地域をはじめ関東地域等からも産学官 や自治体に関係者など3百数十名の参加があり、盛会と なった。また、初日のレセプションや2日目の関西先端 研究センター見学会にも多数の参加があり、当所の関西 における情報通信先端研究の本格化への意義深いシンポ ジウムとなった。


▲国際シンポジウム


第3回電気通信フロンティア研究
 国際フォーラム開催さる

 (財)テレコム先端技術研究支援センタ・郵政省共催の第 3回電気通信フロンティア国際フォーラムが、11月21日 と22日に東京で開催された。
 今回のテーマは「マルチモーダル・ヒューマン・コ ミュニケーション」で、Prof. Nicolas P. Negroponte (MIT Media Lab.)およびProf. Roger C. Schank(Northwestern Univ.) による特別講演に引き続き、「言語と認知」 「視覚メディア」と「マルチモーダル・インタフェース」 の3セッションにおいて、内外の研究者11名による講演 があった。
 日本全国はもとより外国からも、統計約300名の参加 者があり、熱心な討論がなされた。
 次回は1992年10月頃、バイオテクノロジ関連をテーマ に関西で開催する予定である。


▲Negroponte 講演時の会場風景

CCIR SG6作業パーティ会合

 標記の作業パーティ(WP)会合が平成3年11月25日か ら12月6日まで15か国1国際機関及びITUから、計65 名が参加してジュネーブで開催された。WP6C議長は元 所長の若井東海大教授が務めた。
 今回の会合では1990年の第17回CCIR総会以後、新し い作業方法及び構成の下で始めて招集された会合で、6 つの作業班に代わり5つのWPからなる構成であった。 そのため、各WPの所掌が多少変更されたが、作業量の 平均化がはさほど行われず、HF計算法に関するWP6A に作業が集中した。寄与文書に関しても従来よりも少な く、また、CCIR委員長の意向を反映して、テキストの 勧告化やハンドブックヘの移行提案が多く、テキストを 充実させる提案は少なかった。
 WP6C会合は11月28日から12月3日まで開催され、7 つの寄与文書を処理し、2つの新勧告案等を作成すると 共に、WP6C議長の実行報告書も作成し、来年の5月の SG6会合へ送付した。


CCIR SG8 関係作業グループ会合

 CCIR(国際無線通信諮問委員会)のSG8(第8研究 委員会)の作業グループ(WP)会合が、スイスのジュネ ーブで昨年の12月11日から20日にかけて開催され、当所 からは小坂国際協力調査室長が出席した。SG8は、衛星 の使用を含む各種移動通信および測位システム、アマ チュア通信などの技術基準を所掌している。
 本会合は、1990年のCCIR総会で決定された新しい作 業方法に基づく最初のSG8の会合であり、136件の寄与 文書が審議された。その結果、31件の勧告案(改訂を含 む)を含む多数の文書が次回のSG8会合およびWPへ の入力文書とすることとした。承認された勧告案と研究 課題案については来年5月のSG8会合で審議の後、各 国主管庁(日本の場合郵政省)による郵便投票にかけら れ、正式な決定がなされる。なお、日本は次回の陸上移 動および衛星移動に関するWP会合を来年の秋に日本に おいて開催することを提案し、承認されている。


欧州の電気通信研究期間を訪問して

 筆者は科学枝術庁の中期在外研究が認められ、10月中 旬から1か月、イギリス、フランス、オランダにおける 電気通信分野の主要研究所や大学を調査訪問した。今回 の在外研究の主な目的は、

  1. 欧州における電気通信研究の現状、特にミリ波等新 周波数帯の開発と利用の動向、移動通信関連の研究、 および筆者の専門であるアンテナの研究状況の調査。
  2. 欧州の研究者への我が国の研究情報の提供。
  3. 各機関の責任者と意見交換を行い、相互の研究者交 流や共同研究の可能性を探り、その具体化を図る。
 限られた時間ではあったが、多くの知人のおかげで、 訪問は大変効率的で実り多いものであった。また、殆ど の所で当所の研究状況の講演を求められたが、新分野へ の展開を目指して大きく変わろうとしているCRLの姿 をいささかなりとも理解してもらったと思う。共同研究 の話しも進展し、フランスのレンヌ大学では講演の後で 早速STA Fellowshipに応募を希望する若手研究者が現 れるなど、直接対話でなければ得られない成果を得るこ ともできた。
 ミリ波のLANについては、まだどこも明確なシステ ムイメージを持って研究している所はないようである が、将来の「戦略的研究」と位置づけ、伝搬など基礎研 究を始めている。また、日本の動向を大変気にしている ようであった。
 今回の訪問では、どこでも温かい歓迎を受けたが、特 に旧知の人々からは、訪問のアレンジだけでなく、白宅 に招いてくれたり、泊めてくれたりしてもらい、研究を 通じて得た友情の有り難さを身にしみて感じた。
 最後に、中期在外研究の機会を与えられたことに対 し、科学技術庁、郵政省の関係各位に厚く御礼を申し上 げたい。

(通信技術部長 手代木扶)



▲レンヌ大学、ダニエル教授(左から2人目)と研究室メンバー


所内文化展開催される

 去る12月5日及び6日の両日、2号館講堂において平 成3年度文化展が開催された。今年の文化展の特徴は全 体の出品数が減る中、美術同好会が頑張りを見せ、独自 で行った絵画教室の作品が多く出品されたことである。
 最近文化展も文化サークルの活動の低迷から出品数が 減少気味であり、他の文化サークルにも美術同好会のよ うな活動を期待したい。
 最後に出品していただいた方々と実行委員会のメンバ ーに感謝します。人賞者は次のとおりです。

所 長 賞  田中  学 絵画「作品3」
次 長 賞  淡河貴美子  書「青山の譜」
総務部長賞  鈴木美知子 写真「神代植物園にて」
実行委員会賞 市野 芳明 絵画「風景水彩スケッチ」
実行委員会賞 早川 澄子 生花「構内の花」
実行委員会賞 増沢 博司  絵「大菩薩峠の秋」
所長特別賞  滝沢  修 アルバム「関西支所新庁舎定点撮影」
所長特別賞  イシエ・アイシャ(実習生) 絵画「油(模写)」