対話型計算機利用支援システム

−対話で利用者を支援する−


熊本 忠彦

1.はじめに
 近年、各種情報処理機器は、その著しい進歩に伴 い、さまざまな便利な機能を利用者(ユーザ)に提 供しているが、その反面、マン・マシンインタフェ ースの未熟さから、ユーザがそれらの機能を十分に 活用できないという状況が生している。特に、この ような状況は情報処理機器の代表格である計算機の 利用において顕著である。

 計算機を利用する際の理想的な環境は、困った時 に助けてくれる熟練ユーザがいつもそばにいてくれ ることだが、このような環境は実現不可能に近い。

 そこで、知識処理研究室では、熟練ユーザの代わ りとなるマン・マシンインタフェースが必要である と考え、自然言語を用いた対話によってユーザの計 算機利用を支援する対話型計算機利用支援システム の構築を行なっている。

 このような支援システムを構築するためには、 様々な要素技術か必要とされるが、本報では、それ らの要素技術について、システムの全体像とともに 報告する。

2.対話型計算機利用支援システムの使用環境
 図1に支援システムの使用環境モデルを示す。普 段、ユーザは、計算機に直接コマンドを入力して、 自分の仕事を行なう。そして、何か問題が発生した 時のみ、支援システムに自然言語で助けを求める。 なぜなら、コマンドのような人工言語は、自然言語 に比べて冗長度が小さくまた簡潔な表記法をもつた め、その機能や利用法を知ってさえいれば高い入力 効率を得られるからである。しかしながら、その反 面、知らなければ入力効率は著しく低下する(極端 な場合、完全に行き詰まってしまう)という一面も ある。このようなとき、すなわちユーザの知ってい るコマンドだけでは対処できなくなったとき、自然 言語が有用となる。なぜなら、自然言語は、高い表 現能力を持ち、曖昧な概念や漠然とした要求を表現 することができるからである。

図1 支援システムのモデル

 また、計算機がこのような支援を行なうことは、 熟練ユーザとは違った長所もある。実際、システム にとっては、今までにユーザがやってきたことを知 っているのだから、ユーザの最小限の説明でも問題 点を発見して有効な支援をすることができる。また、 ユーザにとっては、人に聞くのとは違って、何回で も同じことを聞けるし、気に入らなければアドバイ スを無視もできる。

3.対話型利用支援システムの要素技術
 このようなことが計算機にできるためには、まず 計算機は人のいったことを「理解」しなければなら ない。例えば、人は母国語であれば容易に自然言語 を理解できる。ところが、他国語の場合はそれを慣 れ親しんだ母国語の表現に写し直すなどの(心の中 での)操作が必要となる。

 同じことが支援システムについてもいえる。支援 システムは本質的には計算機上のソフトウェアであ り、形式的な表現(知識表現)のみを理解する。従 って、計算機による「理解」達成のためには、

(1)意味/知識を形式的に記述する知識表現形式 の開発と、これを用いた支援すべき領域につ いての知識の記述、
(2)自然言語を解釈し、上記知識表現形式に変換 する自然言語解析部(パーザ)の開発、が必要である。このようにして、システムがユーザの質問を「理解」できるようになると、次の仕事は、ユーザに対 する適切な支援の生成である。このためには、
(3)ユーザのタスクプランに基づき、問題解決を 行なう問題解決部の開発が必要となる。

4.知識表現の特徴
 人は、心の中に世界のモデルを持ち、それを用い て世界を理解する。この世界モデルは、世界の静的 な知識を表現するだけではなく、これまでの世界の 変化の歴史を含んでいる。同じように、計算機が人 と自然な対話をするためには、そうした時間経過を 表現できる必要がある。このため、我々は「フレー ム表現」という、「もの」と「もの」との関係を中心 にした表現形式に時間概念を採り入れる拡張を行な い、これを用いて、さまざまな知識や、ユーザとの 対話の過程を表現できるようにする。

 次に、支援領域において存在する「もの」と、そ の可能な変化の仕方を定義し、そうした知識の集合 として領域知識を定義する。例えば、「ファイル」を 「削除」すると、その時点において、「ファイル」の 「存在」という属性が「真」から「偽」に変わるとい うような形式的記述で、ファイル削除という概念が 定義される。このような、一見自明な知識を一つ一 つ定義していくことで初めて計算機は世界を理解 し、対話を理解できるようになるのである。

5.自然言語理解部(パーザ)
 我々が開発しているパーザの構成を図2に示す。 我々のパーザは、第1パーザ、第2パーザ、および 発話意図タイプ決定システムの3つのパートから成 っている。

図2 パーザの構成

 第1パーザは、入力文の構文を解析し、その統語 構造を出力する。例えば、ユーザ発話として
     Did you delete abc?
が入力されたら、次のような統語構造を出カする。 ただし、見やすいようにモデル化している。
文1=((目的語 名詞句1)(時制 過去)
   (動詞 delete)(主体 名詞句2))
   (文タイプ yes/no型質問)
名詞句1=((名前abc))
名詞句2=((代名詞you))
 第2パーザは、この統語構造に基づいて、入力文 の命題部分(上記の例では、”delete abc”)を解析し、図3のような意味フレーム表現を出力する。


図3 意味フレーム表現

「ファイルを削除する」という「行為」はDelete Fileインスタンスとして、「ファイル」という「もの」 はFileインスタンスとしてモデル化されている。

 発話意図タイプ決定システムは、第1パーザの出 力である統語構造に基づいて、ユーザの発話意図タ イプを決定する。

 発話意図タイプの種類には、表1に示されるよう な6タイプが定義されている。上記の例では、発話 意図タイプask-ifが選択され、ユーザの発話がYes またはNoによって応答されるような質問であるこ とを示す。

発話意図タイプ処理パターン
ask-if
ask-wh
ask-about
have-belief
have-goal
ask-execution
Yes/Noによる応答
スロット値による応答
ドメイン知識による応答
信念の登録
ゴールの登録
命令の実行
表1 発話意図タイプと意味表現の処理パターンとの関係

 この発話意図タイプと第2パーザで得られた意味 フレーム表現を結合して、ユーザ発話の意味表現
   (ask-if Delete Fileインスタンス)
が得られる。ただし、Delete Fileインスタンスの内 部構造は、図3に示したとおりである。

6.電子メール処理プログラムの利用支援
 具体的な応用例として、電子メール処理プログラ ム(XMH)の利用支援を取り上げた。電子メールと は、通信ネットワークを利用して、遠く離れた人同 士が、計算機上で手紙を交換できるシステムである。 XMHは、メニュー/マウスによる視覚的インタフ ェースで電子メールを読む/書く/送る/整理する などの操作ができるプログラムである。

図4に、その操作画面を示す。今、ユーザは電子 メールを読んでいるが、その返事を送ろうとして、 送り方を知らない(忘れてしまった)ようである。 そこで、「ヘルプ」ウィンドウを用いて、使い方を質 問し、その答えに従って操作を行なっている。

 残念ながら、現在は問題解決部を設計中なので、 このような対話を自動的に得ることはできない。こ れは、オペレータが解答を手で入力したものである が、問題解決部の開発と並行して、実際にいろいろ な人に利用してもらい、どのような質問がなされる のか、またそれにどう解答したら良いかなどの検討 を行なっている。

(関西支所 知識処理研究室)

図4 電子メール処理プログラム(XMH)の操作画面


移動体衛星通信と医療情報伝送


近藤 喜美夫

1.はじめに
 家族の突然の高熱、あるいは腹痛時、往診を待つ 間のあの心細さは医療の重要性と、近所の医師殿に 対する信頼と尊敬が如何に大きいかを示している。

 都会に住めばありふれた短時間の心細さである が、過疎地あるいは船や、航空機の上では少し状況 が異なることは容易に想像できる。医者がいないと き、あるいはいても、その後の適切な処置のため連 絡を必要とするとき、通信の重要性がわかる。

 このような医療に関わる通信(医療情報伝送)は、 患者、補助者、医者、病院の4つの要素の関係によ り異なったものとなる。

 患者及び補助者が医者、病院と異なる場所にいる ときの医療活動は遠隔医療と呼ばれ、特に通信が重 要な問題となる。

 これまで、過疎地、無医村等に対して有線による 心電図、音声伝送等の伝送システムは運用されてき た。このようなシステムを、遠洋の船舶、航空機内 にも供給でき、十分なデータのもとで、専門医の適 切な判断に基づく指示が得られることは、社会生活 上大きな意義を持つといえる。

2.移動体衛星通信
 いつでも、どこでも、だれとでもと言う通信の理 想に近付くべく、移動体に対する衛星通信の利用が 世界中で検討されている。

 この特徴は、基本的には衛星から見える範囲が広 いという広域性と、直接波通信に起因する安定、確 実性、更に、使用周波数が高いことによる広帯域性 と言える。

 当所でも1987年以降ETS-V(技術試験衛星V型) を用い、船舶、航空機、自動車、列車、携帯局等を 対象として広域にわたる本格的な移動体衛星通信実 験を通じて、移動局用のアンテナ、通信装置の開発 を行うほか、通信方式の検討、伝搬特性の解明等を 行ってきた。

 遠隔医療への移動体衛星通信の応用に関しても、 北海道大学と協力して、ETS-Vを用いた通信実験を 行い、船舶からの静止画伝送を含む基本的伝送特性 の確認を行ったほか、厚生省等への協力を通してシ ステム検討を行ってきた。以下では、移動体に対す る衛星を用いた医療情報伝送システムについて述べ る。

3.移動体医療情報伝送
 医療情報伝送では、患者の生命に関わる情報を扱 い、患者の状況と容態変化を確実に知り、時間遅れ なく適切に対処するために、

 @高信頼性
 A実時間性
 B画像の必要性

が要求される。

図1に移動体に対する衛星利用医療情報伝送シス テムの概念図を示す。移動体からの送信と移動局で の受信の2種の通信があるが、いずれにせよ、主に 移動体のアンテナに起因する衛星回線設計上の制約 と、利用できる周波数帯域上の制約から、伝送する 情報量を低減させる必要がある。

図1 衛星利用医療情報伝送システム概念図

 血圧、心電図、脈拍等、息者の状態を最も的確に 示すパラメタの選択とその精度、伝送頻度の決定が 必要である。移動体の中で、どれだけ的確な情報を 取得するかは、安定した取扱易い小型の医療機器を どれだけ搭載できるかに依存する。

 これらのデータは、例えば数十から数百ビットを 適当な間隔で送ればよく、通信回線に対する負荷は 大きくないが、その精度、頻度を考慮した信号の多 重化と、再送方式等の誤り対策が重要である。また、 専門医の判断に役立つよう適切に表示するため、情 報処理方式も重要である。

 音声は了解性が求められ、最近の移動体衛星通信 で開発が盛んな圧縮技術がそのまま応用でき、数 kbpsの音声が利用できる。

 一方、肌、唇、爪、出血等の色、外傷の様子等を 示す良質のカラー画像は診断に欠かせない重要な情 報であり、移動体医療情報伝送では、特にこのための 通信技術が重要といえる。画像圧縮技術が重要であ るが、通常のテレビ画像の静止画を1Mbpsで伝送 しても1秒以上かかり、広帯域信号の伝送技術が必 要で、従来の移動体衛星通信が狭帯域化を目指して 技術開発が行われてきたのと異なっている点といえる。

 一般には、患者のいる移動局から送信される情報 が支配的で、通信システムとしてはアンバランスな 回線となるが、移動局受信に関しても以下のような 用途のための通信は欠かせない。

 @カルテファイル、症例等データベース提供
 A質疑、指示

 移動体特有の伝搬特性に関してはETS-V実験等 により解明が進んでいるが、フェージングは不可避 であり、このような伝搬特性に対応できる誤り訂正 方式、信頼性確保の伝送方式の検討が必要である。

4.研究の方向
 画像伝送が不可欠な医療情報伝送は、移動体に対 する高品質音声放送、画像伝送と同様、移動体広帯 域情報伝送技術の重要性を示していると言える。

 利用の点からは、特に移動体のアンテナ、RF系が 比較的簡単になる低い周波数帯が望ましくLバンド 帯等での技術開発が有効であるが、一方このような 画像の重要性は、帯域が十分とれる高い周波数帯で の移動体衛星通信開発の必要性も示している。この ためKa帯等高い周波数での移動体衛星通信技術の 開発を進めることが、医療情報伝送システムの発展 のために効果があると言える。

 移動体に対する医療情報伝送は、当面は遠隔地を 移動する船舶、航空機を対象とした実用化が目指さ れると考えられるが、医療情報の効率的収集を可能 とする小型の医療情報機器と、各種生命活動の特徴 を捉えた信号圧縮技術の開発、また情報を的確に表 示できる情報処理技術の進歩を必要とする。また、 画像を中心とした広帯域信号伝送のため、移動体通 信衛星での専用チャンネルの設定、医療専用衛星の 実現等も含む移動体広帯域情報伝送システムの検討 が必要であり、総合的なシステム開発が望まれる。

(宇宙通信部 移動体通信研究室)


≪室長大いに語るシリーズ≫

選手兼監督として


大森 慎吾

 研究者はプロ野球選手に例えられないだろうか。 活躍の場である球場がある、選手、コーチ、監督が いる、そして観客がいる。新人選手は厳しい練習に 耐えて、まずはレギュラーを目標にする。そして野 手ならば打率、投手なら勝率などの実績を積み重ね て一流選手を目指す。選手生活を経て、最後まで第 一線の現役で活躍する選手もいれば監督となる選手 もいる。監督となれば当然チーム全体を考えて采配 を振るわなければならなし、明日のチーム作りのた めに選手を育てなければならない。選手として生き 残ろうと思えば実績をあげてチームに貢献しなけれ ばならない。他のチーム、別なポジションの方が活 躍できる場合もある。観客は選手のプレー、監督の 采配を第三者の冷静な目で評価している。

 私は新採時から現在まで「宇宙」に係わってきた。 配属先は新たな研究プロジェクトであるETS-V計 画の芽を出そうとしていた研究室であった。7年間 在籍したか、いま想い返すとこの間は「選手」とし て専念できる絶好の機会に恵まれていたと思う。先 輩達の活躍で既に球場は整備されていたし、監督、 コーチなど指導陣にも恵まれた。予算をはじめ、本 省や外部機関との調整・交渉は室長、主任研究官が 殆ど手際よく処理していた。その後、主任研として 新たな室長のもとでも3年間ETS-Vの仕事に係わ ったが、選手としてだけ働くことはもはや不可能で、 言ってみればコーチとしての教育を受けた時期だっ たと思う。予算、本省の審議会、研究会、外部機関 との調整など対外的な仕事が多くなった。これらは 「選手」本来の仕事ではないかも知れないが、この時 期の経験で自分以外の選手の動き、試合の流れ、球 場全体の様子や観客の反応などが見えてくるように なった気がする。

 4年前に室長に任命されたが、この頃「選手」と 「監督」の役割について考え、私の中に「選手兼監督」 として自分の研究以外に後輩の育成をして微力なが らもチームに貢献したいという意識が芽生えてい た。新人「選手」が多く、自由闊達な雰囲気の鹿島 宇宙通信センターでの選手兼監督生活に期するとこ ろがあった。学生時代の恩師や研究所の諸先輩達か ら受けた有形無形の教えを自分なりに反芻・工夫し て実行した。まず、プロ選手としての意識と試合に でるため基礎力を身につけてほしいと思った。基礎 的な訓練、練習なしに試合でいきなりヒットが打て るものではない。ボームランバッターである必要は ない。地道な努力をしてヒットが打てる選手に育っ てほしいと思った。選手はチームの一員である。チ ーム全体として試合に望むであって練習の準備、あ と片付けなども選手として必要かつ不可欠な「雑務」 であることもつけ加えた。

 「宇宙」は要素技術の集大成であり研究対象の裾野 が広い。さらに、通信総研の「宇宙」球場は先輩達 の努力と活躍でグランドも道具も立派に整備されて いるし、輝かしい伝統もある。私が鹿島に赴任した 時はETS-Vが打ち上げられ、実験が本格的に開始 されようとしていた時期と重なり、研究のテーマは 幾らでもあった。研究自体は個人プレーであり、選 手がヒットを打てなければ野球が成り立たない。コ ーチと相談して具体的な研究テーマを選定し、各人 の責任と努力で研究を進めるよう努力した。研究室 に必須なゼミは毎週月曜日の午前中とした。ゼミ担 当コーチを決め、各自の研究の進捗内容を発表して 皆で議論した。どんな些細な、わずかな進展でもよ いから自分で体得した研究成果の方が大切だと思っ ていたので、内容を理解せずただ読むだけに終わり がちな輪講は意識して行なわず「自主トレ」に期待 した。関連した論文はゼミの対象にしたが、そのま ま訳すのではなく可能な限り理解して要約するよう 助言して議論の材料とした。議論は、定性的な考察 と定量的な検討に留意して進めるように気を配っ た。前者は実験データや解析結果の物理的な意味を 考えるために、後者は実験結果を理論的に裏付ける ために必要である。研究の一環として計算機シミュ レーションも行っていたが、計算機によるシミュレ ーション結果については、特にその物理的解釈をさ せるようにして「計算機だから正しい」と結果を鵜 呑みしないよう心がけた。常に物理的な意味を考え ることは研究における直感力(センス)を養うのに 良い訓練になると思い重視した。

 このようなゼミを通して問題点、次になすべき実 験、検討すべき項目、前回からの進展度などが明確 になり、各個人は勿論、チームワークで行う実験に おいても目的意識がでてきて、プレーする喜びを持 ちはじめてくれたと思うし自らも大いに勉強になっ た。

 定期ゼミとは別に、国内外の学会や研究会で発表 する場合はその都度臨時ゼミを開催した。内容につ いては既に定期ゼミで議論しているので、この時は 観客にアピールすることを第一の目的とした。「研究 の背景は?目的は?どこが新しい?何を主張 したい?結論は?次にすべき課題は?」。これら の点をチェックポイントに発表の練習をした。発表 者以外には質問するよう促した。「試合で恥をかかぬ よう練習で恥をかこう」を合い言葉に2回でも3回 でもやり直した。ゼミは言ってみれば練習、訓練の 場であるが、学会発表は対外試合である。不十分な 場合には発表そのものをやめさせたこともある。基 本方針として研究室ゼミで十分議論しないものは外 部発表は勿論、所内の研究談話会でも発表しないこ ととした。

 練習の成果は論文として最後の仕上げにはいる。 新人選手ゆえ最初は荒削りである。これからレギュ ラー選手に育つのであり無理もない。してはいけな いとは知りつつも「監督」自らバットを振ってしま ったこともあるが、側について懇切丁寧?!に指導 するように心がけた。成果は大勢の観客に見てもら った方が励みになるので論文はIEEEを目標に設定 した。いきなりIEEEに英文で論文を書いて投稿す るのは初打席で長打を狙うようなものなので、国際 会議での発表を心がけ、普段からヒットを打つよう に努力して総上げで得点を狙うような作戦もたて た。

 通信総合研究所、特に「宇宙」はチームプレーで ある。いかに選手が優秀でも個人プレーだけでは勝 てない。チーム全体の意見交換、周知事項のために ゼミと同様にミーティングである業務打ち合せも重 要視した。鹿島では地球局など実験施設の維持管理、 実験のために皆で作業しなければならないことが多 かった。4人一組のグループで毎週の当番制になっ ていたが、各グループにリーダを決めて責任体制を 明確にした。船舶や航空機実験など、直接自分の研 究テーマでない実験のために徹夜するなど大変であ ったとが思うが、皆よく頑張ってくれた思うし、チ ームメイトの協力なしには自分の研究も進まないこ とを少しでも理解してもらえたと思う。

 かく言う私も、ヒットエンドランを指示されたの にダブルプレーになったりして、チームの足を引っ 張っぱった苦い経験がある。が、ワイルドピッチや エラーなどはなんのその、若い選手には思いきりの いい撥刺としたガッツプレーを大いに期待したい。 観客の大きな声援を受け、脚光を浴びて活躍するの は選手であって監督ではないのだから。

(宇宙通信部 衛星通信研究室長)


≪外国出張≫

アメリカ見て歩記


関 進

▲ゴダード宇宙飛行センターにて

 この度、2月2日から2月7日までの日程で米国 に出張する機会が与えられ、NASAのゴダード宇宙 飛行センター(GSFC)を訪問した。ここには約8、 500人(正規の職員は約半分で残りの半分は派遣会社 等からの派遣職員)の人が働いていて、CRLから電 波応用部の井口氏と鹿島宇宙通信センターの佐竹氏 が滞在し研究をしている。

【メリ一ランドまでの旅】
 成田空港を2日の17時過ぎに出発、機内でウトウ トするが何せ途中乗り換えを含めワシントンDC (バルチモア空港)迄の所要時間は約15時間、なかな か時間は進んでくれない。行けども行けども窓の外 は真っ暗やみ、ようやく空が白んで来たなと窓から 下を見ると“オオッ スバラシイ”アラスカの上空 らしく雪を被って尖った山が2〜3列奇麗に並んで 連なっている。そうこうするうちにカナダを通り、 張りつめた氷の上に雪が積もったエリー湖が過ぎ、 少し雪化粧をしたデトロイト空港に到着した。

 初めて踏む異国の地、ここで入国審査がある。い かめしく銃弾の見えるガンベルトを締めた警備官が 威圧的に並ぶ列を指示する。東南アジア系の4人組 の一行がなかなか審査をパスできず、長く待たされ る。トラプルが起こるのではないかと少し緊張する。 同行した電波応用部の熊谷氏のサポートを受け、何 事もなく入国審査がパスできホッとする。

 飛行機を乗り換えメリーランド州グリーンベルト 市のホテルに19時半頃チェックインした。タ食を近 くのレストランでとり、代金のほかに15%のチップ をテーブルに置くという初めての経験をする。夜は なかなか寝つかれない上に途中で目が覚めてカーテ ンの隙間から中庭を覗いてみると、毛糸の帽子を深 く被った男がジィーットこちらを見て立っており、 不気味な感じでまたまた寝つかれず、寝不足のまま 朝を迎えることとなった。

【ゴダードにおける見聞】
 翌3日は目的地ゴダード宇宙飛行センターを訪問 する。あらかじめセンター内に入れるように手続き をして頂いてあり、受付で身分を証明するためパス ポートを提示しバッチを貰う。(後で聞いたことであ るが、受付の人は銃を携帯しているという。) ビルディング22(マイクロ波関係の研究室があり井 口氏や少し前までCRLに滞在していたShort氏か いる。)近くの駐車場を捜したが満杯でとめられず、 レンタカーを敷地の外れにある駐車場にとめる。

 GSFCでは、フレックスタイムの勤務をしてお り、早い人は朝の7時頃から仕事につき午後3時30 分頃になると帰り始める人がいる。駐車場は、自分 の勤務している建物の近くから埋まっていく。

 フレックスタイムだと勤務時間の管理が大変かと 思ったら、一日何時間勤めたかは自己申告制で、2 週間に一回ペーパーを提出し、きちんと管理されて いる。

 広い敷地内にはテニスコート等の屋外スポーツ施 設が無く、筋肉トレーニングのできる平屋建ての建 物があるだけで、日本のように昼休みになるとグル ープでスポーツやゲームをするという習慣が無いよ うだ。昼休みも一斉に取るのでは無く、建て物内に ある自動販売機のハンバーガーとジュースですませ てすぐに仕事につく人や、町に出て2時間位ゆっく りかけて休む人もいれば、昼休みをとらずに仕事を 続ける人もいるという。

 年次休暇は、勤務年数により2週間に何時間とい った単位で付与されており、たとえば1年目は4.61 時間(年換算15日)、2〜10年は6.15時間(同20日)、 11年以上は、7.40時間(同24日)、病気休暇は連続し てとる場合には診断書が必要であり、ほぼ日本の公 務員と同じ様である。

 物品関係についてコード975で管理を担当してい るFuch氏に聞いてみると、

(1)測定器等の購入
 @要求→A品物が特定(指定理由)されているか 同等品で良いかを見て調査の上発注するのでその間 約1カ月かかる→B契約期間→C納期・納品

(2)ペーパー等の文具
 要求をすると各ブランチのセキュレタリーが持っ てくる。

(3)パーツ類等
 @INSTITUTIONAL SUPPLY SUPPORT CATALOG(毎年更新される。)から欲しい品物を選 びガバメントサービスに要求→A手元に届くまで通 常3〜4週間、無ければそれ以上かかる。

 感想→特に見習うところなし。

 次に、TRMMサイエンスチーフマネージャーの ハミルトン氏に予算関係の説明をして頂いたが、ほ ぼ日本の予算制度と同じ様である。

 また、アメリカ人の気質として窓の少ない建物や 研究室、その他居室の照明が全体に暗く、地下鉄の 駅の照明も暗かったことから、想像していたより暗 さを好むところがあるのだと感じた。

【最後に】
 GSFC滞在中井口氏と佐竹氏、特に井口氏には夕 食の招待を受けて自宅を訪問、御家族の方々、佐竹 夫人、Short夫人に大変お世話になった。

 また、このような貴重な機会を与えて頂き、アレ ンジまでして頂いた所長を始め、手続き等でお世話 になった関係者の方々に、紙上をお借りして深く感 謝致します。

(総務部 会計課 課長補佐)


短 信

南鳥島は動いた!! 西太平洋電波干渉計中間報告

 この程昨年夏に実施した西太平洋電波干渉計南鳥 島実験のデータ解析が終了した。1989年夏から3年 にわたり観測された南鳥島の水平面内の動きは最新 のプレート運動モデルの予測とよく一致する(図1)。
 こうした位置変動の精密測定とプレートの他の領 域(例えばハワイ)の運動と比較する事によりプレ ート内変形についての議論か可能となる。

(関東支所 宇宙電波応用研究室 近藤 哲朗)

(図1)観測された南鳥島の動き。求められた局位置
は各実験毎に英文字および誤差楕円で表されている。