リオサミット出席顛末記記


畚野 信義

プロローグ
 6月中旬の1週間パリの郊外ベルサイユ近くで開 かれるGEWEX(エネルギーと水の全地球規模の循 環に関する国際共同実験)のワークショップの座長 をNASAから依頼され出席する予定であったとこ ろヘ、5月半ばを過ぎて突然りオデジャネイロの地 球サミットヘ出席の話が郵政省からきて、急遽3週 間の世界一周をやることになった。郵政省からの政 府代表団メンバーは私の他に、官房企画課根本企画 調査室長、同国際課若林経済係長、通信政策局地球 環境対策室横幕課長補佐である。

地球サミット(環境と開発に関する国連会議)
 恐らく国際的な場で地球環境が初めて正式に話し 合われたのは、1972年の「国連人間環境会議」(スト ックホルム)であろう。今回はその20周年を記念す るものである。当時既にローマクラブの報告[成長 の限界]が広く知られてはいたが、ストックホルム 会議ではまだまだ身近なものと受け止められなかっ た地球環境の問題の指摘と対策の必要性について、 この20年間の事態の深刻化を踏まえ、いよいよ本腰 を入れねばならないという認識と姿勢で開催された のがこの地球サミットである。

  期間:1992年6月3−14日
  参加:約180ヵ国、各国政府関係者約8千人、
     NGO関係者約3万人。
     (一説では全参加者:数万人)

▲エコテック技術移転パネルディスカッション

主な成果
*リオ宣言
 最初、地球環境の憲章をつくることが計画され たが、途上国の主張を入れ開発を加え[環境と開 発に関するリオデジャネイロ宣言]となった。27 の基本原則からなっている。

*アジェンダ21
 リオ宣言実行のためのアクションプランであ る。開発のための大気、海洋、森林等の資源の保 全、各種物質、生態系、技術、廃棄物等の管理に ついて述べ、実行のための資金問題、技術移転、 機構等も示している。

*気候変動枠組み条約
 地球温暖化防止のための条約であるか、炭酸ガ ス等の排出基準などは「温暖化の仕組みには未解 明な部分が多い」とするアメリカの反対で骨抜き となった。

*生物学的多様性条約
 遺伝子、生物種、生態系等生物学的多様性の保全 と持続的利用のための条約であるが、技術移転等 について不満としてアメリカは署名していない。

*森林原則声明
 条約にすることが計画されたか、開発の権利を 阻害するとする途上国の反対で声明の形をとるこ とになった。
何と言っても今回の会議の最大の成果は地球環境が 大変重大な状況にあるということを世界中の多くの 人々に認識させたことであろう。

会場
 主会場は「リオセントロ(RIOCENTRO)」とい うリオデジャネイロから西へ車で約1時間の国際会 議施設で、ここで全体会合(開・閉会式、一般演説、 首脳会議、条約調印式等)と主要委員会(上記の合 意事項等の内容の検討)等が行われた。見本市会場 のような荒削りの建物で、各国代表団の事務所、プ レスセンター、各種案内所、展示、売店、食堂など もあり、いつもごった返していた。

 第2会場は「エコテック(ECOTECH)」と呼ばれ リオセントロヘの途中にある。荒れ地を均して急造 したと思われ、中庭を挟んでしゃれた回廊がある1 〜2階建てで、大小かなり多くの会議場や展示スペ ースがあり、技術移転、環境技術、エネルギー、ア マゾン地域の開発、ゴミ問題などの多彩なシンポジ ウム、パネルディスカッション等が行われるほか、 企業などの展示が行われていた。

 リオの海水浴場になっている海岸はカーブや直線 の美しい砂浜がところどころで突き出した大きな岩 の岬で区切られたような構造になっている。大きな ものは北の方から、フラミンゴ、ボタフォゴ、コパ カバーナ、イパネマ、レブロンと続くが、そのフラ ミンゴ海岸の背後の公園がNGOの会場となってい た。海岸と道路に挟まれ、急造の陸橋を渡った割り 合い細長いスペースに数十のテント(青と白の太い ダンダラのちょっとしゃれたもの)やバラックが建 てられ、幅広いテーマでのシンポジウムや討論が行 われる一方、バラエティに富んだ(環境保全、開発 反対、資源の有効利用などからホモ、エイズの類ま で)意見や主張が目白押しで、我が国からも長良川 堰反対グループ等多くの出店があった。しかし入場 料1日10ドルは現地の人に払える額ではなく、ゲー トの外がTシャツ売りなどで賑わっていた。

 その他関連する様々な会合や催しがリオ市内はも とよりブラジル各地で開かれた。

▲リオセントロ会場

会議の状況
 郵政省が地球サミットの政府代表団に参加するに 当たっては「何で地球環境に郵政省が」という受け 止め方が政府の一部にあったようである。つまり郵 政省は地球環境に関することに許認可権限も持って いないし、今回の会議の主な関心事である「金」に も関係がない(ボランティア貯金ではかなり貢献し ているはずだが)という理由である。事情は科学技 術庁も同様であった。

 何事も[(1)原因とその帰結を明かにし、(2)対策を たて、(3)実行する]のが手順である。しかし地球環 境は複雑で(1)がまだよく分かっていないが、どうも 雲行きが怪しいので手遅れになる前にとにかく(2)を やって、(3)にも着手したい、というのが今回の会議 の目的である。従って、主に(1)で努力している我々 にとってちょっと場違いではあるが、地球環境問題 の本当の解決には(1)が重要であり、今後も努力を続 ける必要がある。そこで、この分野における我々の 貢献について内外共に理解を得るために参加するこ ととなった。

 地球の環境をグローバルに把握するには電磁波を 用いたリモートセンシングが最も有効な手段であ り、当所が我国はもとより世界でも有数の力量と実 績を持つことは自他ともに認めるところである。リ オの会議用に当所の地球環境に関する研究を紹介す る和文、英文2種類の立派なパンフレットを僅か10 日で印刷まで仕上げたのは、当所のこの分野での実 力と研究者の層の厚さを実感させた。

 出発前から我々の地球環境への努力や貢献につい て各方面の理解を得るべく大いに積極的に努力し た。特に現地では出来るだけ多くの会合に出席し、 発表の機会を得るよう精力的に活動した。例えば、 6月2日(火)リオ到着、3日(水)午前:リオセント ロ下見、午後:パネル[New Model of Technology Transfer](於 エコテック)にパネリストとして出 席、4日(木)午前:シンポジウム[地球環境の観測 技術とデータの利用](主催:国連大学、於 NGO 会場)出席、午後:ジャパンデー(於 シェラトンホ テル)出席、5日(金)午前:パネル[Technology Transfer](於 エコテック)にパネルスピーカーと して出席、午後:ラウンドテーブル・ディスカッショ ン「Education,Information and Communication on Environment and Development](主催:ユネス コ、於 ブラジル大学)にコメンテーターとして出 席、6日(土)エコブラジル(環境関係機器・設備等の 見本市、於 サンパウロ)と駆けずり回り、これでは どうなることかと思ったが2週目はやや落ち着いて 一息入れることが出来た。

本当の話と正直な感想
 今回のブラジルヘの旅はいろいろな違和感やカル チャーの違いと同居した旅であった。それだけにま たいろいろと勉強になった旅でもあった。

 まず、私にとって地球環境とは今迄主に上記(1)の 場面での付き合いであり、研究の側面から地球環境 を見てきた。そして今回、地球環境問題とは国益の 問題であることを再認識させられた。上記(2)や(3)の 段階になればそうなることは理屈では判っていたが やはり印象は強烈で、私自身の(1)の段階に対する考 え方も今後かなり変わって行くのではないかと思 う。大気汚染の最大の責任はインダストリーだと書 くかどうかで争う途上国と先進国、エネルギーとい う言葉が出る度に反対する産油国というのは予想ど うりであったが、技術移転で技術の話は全然出ず、 経済のことばかりいうのには全く驚いた。日本はう まくキャッチアップした、何がシークレットか教え て欲しいと言う。日本についていろいろ話し、シー クレットは勤勉しかない、技術移転とは技術の移動 ではなくて参加だ、技術を貰うのではなく学ぶのだ と言ったら、不満な顔をされた。そこで次のチャン スに、悪い技術移転の例として日本の電力の50/60 Hz問題を紹介し、技術は十分理解し将来を見通し て導入しないと大変なことになる、どうも貴方がた の一方は環境をビッグボーナスチャンスだと思って いるし、もう一方はビッグビジネスチャンスと思っ ているようだ、と言ったときはさすがに会場は少し シンとした。ユネスコのディスカッションでも話の 内容が幼稚なのでシビレをきらしてかなり手厳しい ことを言ってしまった。どれも後から話をさせてく れと言って割り込んで来たくせに態度がデカイと思 っていたに違いない。

 カルチャーの違いというのは、ブラジルと日本と ではなくて、行政と研究との間の習慣の違いを改め て実感したことである。荷物は一切持たせない(配 布用のパンフレットのギッシリ詰まった箱を抱えて 大汗をかいていても)、スケジュールは先の先まで細 かく気配りして手配する(会議の出席予定や郵政省 の活動をPRするための各方面の方々との会食や案 内は当然としても、ちょっとした観光や買い物の時 間までチャント嵌め込んであったり、切符の再確認 もいつの間にかできていた。シュラスコは食べたか ら今度はフィジョアーダを食べたいなと雑談してい るときに漏らしたら、そのレストランが予約されて いたのには恐縮してしまった)。一方これは行動の自 由がないということである。アレンジされたスケジ ュールに乗って悠然と振る舞えばよいのだが、何で も自分で勝手にやる研究の世界に生きて来た人間に とっては、少々不自由を感しる環境であった。平生 の貧乏症が出て、つい一人歩きして皆を驚かせ(治 安がかなり悪く心配も当然なのだが)、以後エスコー ト(尾行)が離れなくなった。リオの飛行場(深夜 に拘わらず皆が送りに来てくれた)でパリ行きのゲ ートを入って実はちょっとホットした。皆一生懸命 やってくれていたことをすぐ思い出し、大変申し訳 無いと大いに反省した。

▲三国国境交叉点

ブラシル
 車と人と商品が溢れ町は活気に満ちていた。毎月 10%も20%ものインフレに悩まされ、破産状態にあ るとはとても見えなかった。しかし治安は悪く、ア パートはそれほど高級でなくとも頑丈な鉄のフェン スで囲い、ガードマンというより用心棒が24時間見 張っており、人込みの中でもホールドアップが珍し くないという状態である。リオは美しい観光の町で あるだけに、これでは観光客も敬遠し致命的である。 他の一部の中南米の国ほど極端ではないにして も貧富の差が大きい。貧民窟は町の背後の斜面 に迫り、パーティに招かれた邸宅は掘立て小屋 のような家の立ち並ぶ中に忽然と現れた。3 〜4メートルの頑丈な塀で小高い丘全部を取り 囲んだ広大なもので、厳重な警備は大勢の私兵 を雇っているのかと思わせるものであった。し かし石油ショック以来自動車燃料のアルコール 化を進め、現在走行車両の6割、新車の9割が アルコール車になっていると言われる。一国だ けでこのようなことが出来るのはやはり大変な 大国である。リオからリオセントロまでの道路 沿いには銃を持った兵隊が立ち並び、所どころ には戦車や大砲まで置かれており、VIPの集ま る6月11日からは海岸に直交するアヴェニューは全 部閉鎖され、海岸通りはサミット関係の車だけがノ ンストップで走るという大変な警戒振りであった。

 週末イグアスの滝へ行く途中エコブラジルを見る ためによったサンパウロは大都会であった。日本人 街を見たとき移民の人達がこの地球の真裏の国へ来 て大変な思いをして生きて来られたのだなというこ とを実感し胸が詰まる思いがした。今はサンパウロ の治安も悪くなり、だんだんと住み難くなっている という。イグアスは素晴らしかった。11年振りとい う大雨のせいもあり、迫力、スケール共に抜群で、 ナイアガラも田舎の小川に思えるほどであった。

エピローグ
 郵政省からパリに駐在している今林氏の依頼でユ ネスコのScienceとCommunication分野の二人の Assistant Director General以下両分野の人達と会 った。ユネスコでは地球環境のデータセンターを発 展途上国に設置して利用を支援し、ネットワークで これらを結ぶことを計画しており、我々の協力を希 望していた。計画にはやや難点も見られるが、この ような国際機関の計画に我国が協力するのは有意義 であるし、我々が今進めている地球環境のデータネ ットワークの研究の具体的な対象にもなり得るので はないかと思われる。

(郵政省代表団長 通信総合研究所 所長)


≪研究室長大いに語るシリーズ≫

VLBIプロジェクトにおける研究の進め方


高橋 冨士信

 当所の大型プロジェクトの一つであるVLBI(時 空計測)プロジェクトは多彩な研究に意欲的に取り 組んでいる。限られた予算、施設、マンパワーの中 で成果を出してゆくため、様々に工夫を凝らしてい る。本プロジェクトは多くの研究成果を挙げるため に明確に位置づけされた指導を特にしてきたわけで はない。しかし本プロジェクトの推進には必然的に 研究を指導する側面があり、またいくつかは私個人 の判断により助言できたことがあるので、参考にな ればと思い紹介させて頂く。

 組織的対応としては、第1に本部・センター体制 という、プロジェクトの推進体制をもっていたこと が、重要であろう。CS−BS衛星実験時代に始まった 本部・センター方式を、VLBIプロジェクトはうまく 活用してきた。週1回のセンター会議、月1回の本 部・センター連絡会により、研究者各人の研究状況 について率直に意見を交換し、それに基づいて実験 等を進めるシステムとして機能していた。

 第2に、プロジェクトの方向性・意義付けを組織 的に行ったことが、研究者個人への研究指導につな がっていたように思われる。郵政省としての本流で ある通信分野のプロジェクトがのびのびと長期研究 シナリオを主張できるのに対して、VLBIプロジェ クトは対照的に、郵政の枠組みの中でやってゆける 説得力ある内容とその看板化を求められてきた。こ うした組織的意義付けの努力は当然各研究者個人へ の研究の方向性に常に影響を与えてきたといえるで あろう。

 第3には、本プロジェクトが国際的である特徴を 生かして、各研究者の視野を国際的に広げる努力を 助けてきた。プロジェクトに参加しているほとんど 全ての研究者が英語で成果を発表する機会をもつこ とができ、その重要性を肌で学ぶことができたと思 う。

 第4には、所外誌上発表以外に、当所の季報やジ ャーナルなどの特集号を組織的に活用して、成果を 論文としてまとめてきた。成果をまとめにくい立場 の構成員にとっても論文実績を挙げる貴重なチャン スを提供できた。

 第5には、科技庁や環境庁などの外部予算に積極 的に応募することを勧めてきた。応募するためには、 目的、内容、期待される成果等について、考えをま とめなければならない。日頃漠然と考えているアイ デアを整理し、現実に具体化するチャンスであると して応募を勧めてきた。これも研究指導に当たるの ではないかと思う。

 こうした組織的対応とは別に、個人的な助言も心 がけてきた。

 第1は前向きのテーマに取り組むようにとの助言 である。郵政の枠内にあるという条件下で、長期的、 発展的にやってゆける工夫をすることが前向きに進 めてゆく上で重要であると思うので、相談を受けた 課題については、私の意見を明らかにして参考にし て頂いた。特に、博士号や実績のある研究者では、 研究内容そのものには、口を挟む必要もないけれど も方向性については率直に話し合うことが重要であ ると思う。

 第2は外部との共同研究のすすめ方についてであ る。当プロジェクトは34mアンテナのような大型施 設を保有しており、外部から共同研究を申し入れら れることが多い。こうした大型共同研究は、よほど 周到に見通しを検討し準備を進めないと、成果に結 びつかないことが多い。どういうプロセスによりど のような成果が導かれるのか、相手方とよく相談す るように助言してきている。

 第3には研究の区切りについてである。大学など では研究の区切り方が個人に任されている場合が多 いが、当所では、評価を受けるためには1年1年研 究を区切って成果に結び付ける努力が必要であると 助言してきている。

 以上が私の気付いた範囲でのVLBIプロジェク トにおける研究指導の対応例である。私自身、マネ ジメントと研究の両立が下手で、ここ数年十分な研 究ができていないので、研究指導とはおこがましい が、研究面の充電ぬきではマネジメントに自信が持 てなくなることは私の実感であり、プレーイング・ マネージャーとして自己への研究指導が一番の課題 であると感じている。

(時空計測委員会 ラインリーダー)

(標準測定部 周波数・時刻比較研究室長)


≪研究支援部門シリーズ≫

研究支援業務とその改善


奥田 哲也

 所内の研究業務を支援するために、情報管理部情 報管理課では、図書室、出版、研究用共用設備、通 信、試作開発などに関する5業務を行っている。こ れらの研究支援業務については、常設の出版委員会 のほか、業務改善検討委員会(平成元年8月〜平成3 年6月)において、厳しい予算状況や定員削減に対処 するための簡素化と効率化による業務改善の検討が 行われ、実行に移されている。ここでは、研究支援業 務のうち試作開発を除く4業務の概要を紹介する。

★図書室業務・・・第一技術情報係
 図書室業務は、研究に必要な国内・国外の書籍、 雑誌、資料を収集し、速やかに利用者に提供するこ とであるが、最近、利用者からの要望が多様化する なかで、予算や要員の確保が厳しい状況にある。

(1)業務の省力化とサービス向上を目指す図書業務 用電算化システムの導入に当たって
 当初、業務に合った図書業務専用のオフィスコン ピュータを検討していたが、予算的に導入が困難な ため、入れ替え時期にあった共用大型計算機システ ムの一部として、図書館業務用ソフトウェアパッケ ージを導入した。

(2)当所が所蔵していない資料について
 職員からの複写依頼が年々増加し、かつ、多分野 化や即時的な依頼など多様化している。複写は依頼 ごとに国会図書館、日本科学技術情報センター (JICST)、DIALOGサービスのいずれかを選んで申 し込む。また、一度に数十件の依頼があった場合、 申し込み書を一括して送ると、そのうちの1件でも 見付からないときに、全部が遅れることがあるので、 大量の依頼に関しては、数件ずつに分けて申し込む ように工夫している。

(3)要員不足の対策として
 職員から依頼された本所図書室所蔵資料の複写、 購入・寄贈・交換で入ってくる雑誌の受け入れデー タの電算機入力、保存期限を過ぎた図書の廃棄など の各作業を外注の作業請負により行っている。

(4)雑誌について
 貸し出しをやめて、その利用の効率化と業務の省 力化を図った。

(5)閲覧時間の延長について
 研究者の要望にこたえて、IDカードによる入退室 管理システムを導入し、休日も含めて毎日24時間、 図書室が利用できるようにしている。

★出版業務・・・第二技術情報係
 研究成果を公表する機関誌「通信総合研究所季報」 と「Journal of the Communications Research Laboratory」(英文)の2誌並びに「電離層月報」、 「昭和基地電離層資料」、「世界電離層資料C2センタ ーカタログ」の出版業務を第二技術情報係で行って いる。

(1)出版業務について
 予算、要員環境の厳しいなかで、研究者の協力と 理解を得なから、業務の負担軽減と効率改善に努力 した。

 その一例として、平成元年度末に、係のなかで最 も豊富な専門知識と経験を持つ職員が定年退職し、 要員の補充が困難であったため、平成2年度からは 機関誌の原稿整理と校正業務を専門業者に委託する ことにした。形式的には、この委託によって著者の 新たな負担は生じなかったが、従来「著者責任」を原 則としながらも、実際には著者等のミスに係で対応 していたことがたびたびあったため、委託後は初め て実質的に著者責任が問われる業務体制になった。

(2)今後の計画として
 著者による原稿作成から印刷作業の一歩手前であ る版下作りまでを、DTP(デスクトップパブリッシ ング)システムによる一貫したOA化処理にしたい と考えている。最近、普及期に入ってきたDTPシス テムでは、著者が自分のパソコンで、原稿を入力し て、図表も含めた印刷される紙面の状態を画面で確 認しながら編集作業ができるので、出版までの期間 が短縮され、長期的に考えれば経費の削減になるな ど、導入効果が大いに期待できる。このシステムは、 図表を切り貼りして行っている学会発表の資料作成 にも利用できるようになるので、研究業務の能率向 上に大いに役立つ。現在、機会あるごとに、研究者 の要望並びに論文編集・資料作成に必要なシステム の機能について調査している。

★研究用共用設備管理業務・・・設備係
 研究業務に必要な共用設備のうち、電気、通信、空 調の設備の大半について、運用計画、保守・管理、需 給調整及び需給契約の業務を設備係で行っている。

(1)電気・空調設備について
 老朽化が著しいものがあり、日常の保守・管理や 運用にはかなり神経を使っているが、昨今の予算事 情から見て、老朽化した設備の更新には年月を要す るので、万一これらの設備に故障等が発生した場合 は、直ちに復旧できないことも考えられ、研究業務 への影響が心配される。

(2)電話やファックスなど通信設備に関して
 ここ数年、情報化やOA化の進展にともない多様 化・増大する所内の二ーズに対応し、また、定員削 減による電話交換手、電話交換台の廃止を実現する ため、ディジタル電話交換機など、高度な情報伝送 に必要な各種設備の整備等を実施している。これま でに、

@所内及び所外への電話回線の整備、増設
Aファックス装置の各室への配備
Bファックスメールシステムの新設、整備
C電話機のダイヤル式からプッシュ式への入れ替え
D職員へのダイヤルイン内線電話機の配備

などを実施し、研究業務へのサービス改善と自動 化・OA化による簡素化・合理化を推進している。こ れらの実施には、業務の省力化・効率化を行う一方 で、「郵政さわやか行政」の趣旨に添って、対外的な 配慮を心掛ける必要がある。

 しかし、情報伝達のOA化整備に関しても、所内 の要望が多様化するなかで、必要な予算確保が非常 に厳しい状況にあることから、計画どおり実施でき ないことが多く、悩みの種である。

(3)通信料金ついて
 業務OA化の推進により利便性は向上するが、各 種料金等の支出は必然的に増大することになる。こ れらの経費の支出については、各業者が実施してい る割引制度等を有効に利用し、経費節減に努めている。

★通信業務・・・通信係
 遠距離の連絡には無線通信が主力であったころ、 通信係は、ウルシグラム放送を始め、緊急情報の送 受や一般の通信・連絡を行う研究所の「通信の要」 で、多くの無線従事者が交替勤務で昼夜別なく業務 を行った。しかし、通信網が発達し、世界のかなり の地域と自由に通信できるようになるなかで、通信 係の業務や人員体制も大きく変化してきている。

(1)無線局の事務手続きについて
 所内の無線局の開局、再承認、変更、検査のため の事務手続きや検査の立ち会いなどを通信係で統一 的に行ってる。現在、所内の全無線局数は70局にも 及び、定期的・不定期的な無線局の事務手続きは、 係の重要で比重の大きい業務である。

(2)国際テレックスや国際ファックスの業務について
 年間に700から800通の送受を扱っている。昼間は つながらない相手方には、夜を待って送信すること になる。

(3)本所・センター間マイクロ回線について
 本所・鹿島宇宙通信センター・平磯宇宙環境セン ターを結ぶ7.5GHzマイクロ回線の管理・運用や保 守・整備を行っている。また、同マイクロ回線を利 用するテレビ中継システムの管理、運営も通信係で 担当している。

(4)ウルシグラム放送について
 太陽地球物理諸現象観測データを内容とするウル シグラム放送については、業務の高能率化・省力化 を目的とするウルシグラム自動処理システムを考 案・開発して昭和60年度に導入、システムの改良を 行って処理能力の向上を図り、大きな成果をあげた。 この自動化は、平成3年4月のウルシグラム業務の 平磯宇宙環境センターヘの移管を円滑に実施する大 きな要素となった。このウルシグラム業務の移管を もって、西太平洋警報本部として通信係が果たした ウルシグラム業務50余年の歴史に終止符が打たれた。

おわりに
 業務改善については、OA化のための業務や業務 の流れの変更への対応などのため、超過勤務の大幅 減少などの効果は顕著には現れてきていない。研究 支援部門の効率化は、研究者の協力がなくては進め られないものであり、引き続き研究者各位のご協力 をお願いしたい。

(情報管理部 情報管理課長)


短 信

CPEM'92出席報告

 6月9日から12日まで4日間にわたり、フランス、パ リのデファンス地区において電磁気精密計測国際会議 (CPEM'92)が開催された。
 当所からは4名が出席し、時間・周波数分野で発表し、 当所のこの分野でのアクティビティの高さを示した。
 またこの期間中に秒の定義のための諮問委員会 (CCDS)のGPS時刻比較作業部会か開かれ、最近の GPS時刻比較の進歩にともなって、以下の2点の改正を 行ってゆく事が決定された。

 1)GPS時刻比較交換データフォーマットに電離層 全電子数実測データを追加する。
 2)同上のデータフォーマットの単位の最小値を1桁 だけ下げ、有効桁を上げること。

 以上についての対処方法は国際度量衡局BIPMから 各機関に周知されることとなった。

(標準測定部 高橋 冨士信)

願問制度発足

 当所は研究の一層の活性化を図るために、これまで客 員研究官制度を設けて所外研究者の評価や助言を研究指 導に生かすよう努めてきました。今年度からは、研究所 幹部に対して大所高所から意見をいただくために新たに 顧問制度を発足させました。顧問の先生方は表に示した とおりですか、各分野で指導的な役割を果たしておられ る方々ばかりであり、顧問の助言が研究の活性化と研究 所の円滑な運営に反映されることを期待しています。

(企画調査部 企画課長)

顧問氏名所 属関連分野
相磯 秀夫
稲葉 文男
大越 孝敬
熊谷 信昭
田幸 敏治
難波 進
森本 雅樹
慶応大学
東北大学
東京大学
前大坂大学総長
東京理科大学
長崎総合科学大学
国立天文台
超多元・可塑的ネットワーク技術
生体情報計測
電波リモートセンシング
通信工学
原子周波数標準
高温超電導体による超高速通信
電波天文