極限分解光イメージング技術に関する研究

有賀 規

1.はじめに

 本研究は昭和63年度から開始された科学技術庁の省際 基礎研究の1課題として科学技術庁/科学技術政策会議 により選考され、昭和63年度から平成2年度までの3年 間同庁の予算に基いて行われた研究である。省際基礎研 究は、新しい試みとして国立研究所に大学、他省庁の 研究者及び国外の研究者が結集して1つのテーマを研究 するものである。CRLが中核国研となり後述するような 多数の研究者が国の内外から参加して研究か行われた。

 目的は、光リモートセンシングや天体観測等において 重要な課題である望遠鏡を用いたイメージングを赤外波 長で行い、従来技術による分解能を1桁以上上回る高分 解能を実現させるための基礎研究を行うことである。本 研究が発展すれば、現在点にしか見えない人工衛星の状 態を精密に観測したり、新しい発見に連がるような高分 解の天体観測が可能になる等、大きな波及効果が期待で きる。

 3年間の研究期間後、研究評価小委員会(委員長近藤 次郎政策委員)で評価が行われ、今年(平成4年)5月 14日政策委員会に報告された。ここでは、この省際基礎 研究の概要について紹介する。

2.極限分解光イメージングの原理

 回折限界イメージング(大気の効果を補正し望遠鏡の 限界の分解能を達成する)と赤外基線干渉計イメージン グ(1台の望遠鏡で得られないさらに高い分解能を複数 の望遠鏡を使って得る)の2つの技術を総合的に研究し た。

A.回折限界イメージング

 望遠鏡の口径をD、観測に用いる波長をλとすると、 望遠鏡のもつ限界の分解能(光の回折効果によって決る ので回折限界と呼ばれる)はλ/Dである。従って、口 径の大きな望遠鏡を用いれば高分解能が得られるはずで ある。しかし、地球上での観測の場合、地球大気の揺ら ぎのため得られた画像はぼやけが生じ、この限界までの 分解能が得られない。

 長時間露光した画像はぼやけてしまうものの、短時間 露光で画像に現れるスペックル(斑点:大気の揺らぎに よって光の位相が乱れるため発生する)には、実はぼや ける前の鮮明な画像情報が含まれている。そこで、短時 間露光で、何枚かのスペックル画像をとってこれを統計処 理して、大気の無い場合にほぼ等しい分解能(回折限界) の画像を得る。この方法が一般にスペックル干渉法 (Speckle Interferometry)と呼ばれるものであり、現在 地球大気の効果を補正する最も有効な技術である。

 通信等では時間周波数が用いられるのに対して、イメ ージングでは空間周波数が用いられる。回折限界のイメ ージングを空間周波数でみると、

図1に示すように通常 では大気の揺らぎによって光学的伝達関数の高周波成分 がカットされてしまう(これが画像のぼやけとなる)の を、上述のような手法によって高周波成分を回復させる (図の点線)ことに相当する。

▲図1 回析限界イメージングの概念

B.赤外基線干渉計イメージング

 1台の望遠鏡で得られる分解能よりさらに高い分解能 を得る手段として複数の望遠鏡を用いる干渉計がある。

図2に示すように2台の望遠鏡を用いた場合の距離(基 線長)をしとすると口径Lの大口径の望遠鏡の分解能が 得られる。相関をとり出力g(u)をフーリエ変換すること によって対象物の分布f(x)が求められる(u:空間周波 数)。このような枝術は電波領域では電波干渉計として既 に実験に用いられているが、光領域では未踏の技術であ る。

▲図2 赤基線干渉計イメージング

3.研究体制と分担

 省際基礎研究の特徴は、多くの研究者が結集し、一つ の研究テーマを目標に、協カして有機的に進めることで ある。そこで、本研究課題の細目を定め、細目の分野が 専門の研究者にメンバーとして参加してもらい、各部門 を担当してもらう体制で研究を行った。(所外からの参加 研究者を表1に示した。)

研究メンバー
所外研究者(注:所属は研究期間当時のもの)
併人職員
科学技術庁航空宇宙技術研究所
通称産業省電子技術総合研究所
運輸省気象研究所
文部省宇宙科学研究所
文部省国立天文台
(特別参加大学院生
東北大学電気通信研究所
中 正夫
藤定 広幸
青木 忠生
芝井 広
佐藤 修二
青木 哲郎)
佐藤 俊一
非常勤職員
東北工業大学
理化学研究所
理化学研究所
宇宙開発事業団地球観測センター
京都大学
(特別参加大学院生)
浅井 和弘
塚越 幹郎
箕曲 在道
前田 惟裕
舞原 俊憲
片坐 宏一

外国人研究者
Ruhr Univ.
J.Hopkins Univ.
Paris Univ.
Denis Gingras
Shu Wing Li
Jean Souchay

▲表1

4.研究内容及び成果

A.回折限界イメージング技術の研究

 HgCdTe128×128素子2次元アレイ赤外カメラ及び10 倍拡大のスペックル光学系を開発、画像解析システムを 整備した。同時に、新しいアルゴリズムの提案や計算機 シミュレーションプログラムの作成等、必要なソフトウ エアの開発も行った。

 実際に赤外の2.2μmの波長を用いて1.5m望遠鏡(図 3参照)で実験を行い、1/12秒おきに(積分時間1/12秒 で)スペックル画像を取得することに先ず成功した。得 られた画像データの前処理(素子の感度むらの補正、背 景光雑音の除去等)を行った後、スペックル干渉処理を 行い、回折限界に近い画像を得ることに成功した。例と して2重星αGemについてシフトアンドアド(ShiftandAdd) 法による解析結果を図4に示す。(a)は短時間露光 (1/12秒)によるスペックル画像、(b)はデータ処理後の画 像である。同2重星の空間周波数パワースペクトルから、 2.4cycles/arcsec即ち0.4秒角の分解能(大気効果を補正 しない場合の約10倍の分解能)まで得られており、開発 したスペックル光学システムでほぼ回折限界の分解能が 得られていることが確認された。

▲図3 口径1.5m望遠鏡システム

(A:赤外カメラ,B:高感度CCDカメラ)

▲図4 回析限界イメージング例(2重星αGem)

B.赤外基線干渉計イメージング技術の研究

 赤外の10μm帯の光を用いて研究を行った。先ず赤外 線を高感度に検出するためのヘテロダイン検波装置を試 作、光ミキサとしてはHgCdTeの赤外検出器を、局部発 振器(LO)として10.6μm帯のCO2レーザを用い、周波数 安定化の研究も行った。室内実験でヘテロダイン検波の 実験を行い成功、開発したヘテロダイン検波装置がイメ ージングに使用できることが確認された。

 次に広帯域(0〜500MHz)の中間周波数(IF)増幅器及 びアナログ相関器を開発、イメージング基礎実験用の光 学系、データ処理系等を整備した。これらの総合的なシ ステムを用いて干渉計イメージングで最も重要で基礎と なる干渉実験を赤外光源を用いて行い、フリンジパター ンをとることに成功した。

5.考察

 省際基礎研究の期間が3年間という短い期間であった ので、予定の100%の研究が出来たとは言い難いが、既存 の1.5m望遠鏡システムが有効利用でき、良い成果が得 られた。参考までに研究評価小委員会の評価の一部を抜 粋して紹介したい。

回折限界イメージング:「実際の観測に適用し成功を収 めたことは高く評価できる。現在、2次元の赤外線スぺ ックル観測に成功している例は世界的にも数少なく、こ れだけの短時間で成果を収めたことは研究グループの実 力と組織力を示すものである。」

赤外基線干渉計イメージング:「これから先のフィール ドに於ける実験に大きな困難が予想され、最も肝心な開 発部分が残っている。しかしながら実際の干渉観測は世 界的にも成功した例がなく、極めて挑戦的な開発である ことを考えれば、これに挑戦した意欲と努カを評価すべ きであろう。」

6.おわりに

 遠くの物を出来るだけ拡大して見たいというのは人類 の共通した夢であり、分解能を高めることは永遠の課題 とも言える。

 米国のローレンスリバモア国立研究所では口径2m の望遠鏡を12m径のアレイ型にして、スペックル干渉法 を用いて、低高度周回衛星を10cm以内の分解能で観測 する計画を立てている。また米国海軍研究所では1.5m の望遠鏡を6個使用した最大基線長450mまでの赤外基 線干渉計を計画している。

 高分解光イメージングは光学と画像処理の最先端技術 であり、世界先進国機関が競って研究を行っている。我 が国としても今後とも努力を続けて行くことが必要であ る。

(宇宙通信部 宇宙技術研究室長)


ロシア宇宙事情調査

−ClS宇宙ミッション参加報告−

吉村 和幸

(1)ミッションの目的と調査の概要 ミッションの目的
 去る7月5日〜17日の2週間にわたってロシアの 宇宙開発について調査する「CIS宇宙ミッション」が 組織された。科学技術庁の岡崎審議官を団長とする 官、学、民間からの代表40数名からなる調査団であ る。このミッションは、末たる9月にロシアのエリ ツイン大統領の訪日時に、日口宇宙協力協定を結ぶ に先立って、情報が不足しているロシアの宇宙開発 の実態を調査し、今後の協力の具体的な可能性を探 ることにある。したがって、調査結果は今後の我が 国の宇宙政策に様々な形で反映されていくことにな ろう。調査団には、一部の報道機関も参加した。

 訪問するロシアの宇宙機関はロシア側によりアレ ンジされた。筆者は第2班に参加し、その訪問機関 はロシア宇宙庁(写真1)、工業省、科学アカデミー の他、これらに所属する9研究所または施設である。 通信・放送関係は、結局、対象からはずされたが、 ロシア側に売込みを図る意思がないためと推測され る。

(写真1) ロシア宇宙庁による全体会合

ロシア宇宙庁と予算
 ロシア宇宙庁は1992年2月、大統領令により設立 され、それまで工業省で一元的に行っていたのを計 画、発注を宇宙庁で、生産を工業省で行うこととな った。1992年の宇宙予算(工業省)は90億R(ルー ブル)であり、現在の為替レート1R〜1円で考え ると大変な少額であるが、実際はロシアプロトンが 1機6,000万Rであり、米国タイタンの$1億2千万 と比較すると宇宙関係では1R〜$1以上の実質的 な力があることになる。なお、1992年のロシア国家 予算6兆R、軍事関係含む宇宙予算200億Rである。

実力と日本への期待
 ロシアの宇宙開発の実力は我々が想像していたも のと、結局、そう違わないものであったと言える。 巨大な打上げ能力と制御技術、素材の開発技術、各 種の先端的かつ巨大な試験・実験施設などである。 一言でいうと先端的な巨大メカ産業である。例えば、 工業省KBフオトンのロケット生産は年50機、発射 場に持込んでから組立て打上げまで2時間半程度で あり、いわばミサイルの感覚である。

 また、深宇宙探査、資源探査/地球環境監視、宇 宙生物学/微小重力素材実験などの科学および遠隔 計測衛星などの分野でも先駆的で意欲的な計画を進 めている。これらについては、欧米との共同研究を 盛んに行っており、すでに計画されたものは今後も 予定どおり進めていくとのことである。一方、通信・ 放送衛星と関係の深いエレクトロニクスの分野で立 ち遅れていることは明らかであった。

 調査団を迎えたロシア側の期待は明瞭で、ある。す なわち、肥大化した宇宙産業を独自に維持していく ことが困難になってきた現在、これを外国の協カ、 投資を得ることによって国力の中心的な役割を果た している宇宙産業の崩壊を食止め、できるだけ企業 化を図るとともに、徐々に持てる技術力を民生用に 転換していくことである。それには、ジャパンマネー 等の外国からの資金は不可欠である。ロケットや 様々な実験施設の利用、科学衛星などのプロジェク トに対する(資金)協力、先端素材開発企業等に対 する投資などが先ず求められているのである。

 例えば、地方都市にあるロシア宇宙庁ヒムマッシ ュ研究所はロケット試験等を行う巨大施設を有する ところであるか(写真2)、その維持に困難をきたし つつあり、したがって宇宙開発のためにできた町全 体の生活に影響を与えつつある。所長等の幹部が昼 食会で、宇宙施設の利用のみならず、職員の技術力 を民生に転換していくために日本の大メーカの協力 をしきりに訴えていたのは象徴的である。丁度、一 頃の日本の炭鉱町が思いだされた。ただ、そういう 中で、新素材開発関係の科学生産公団(NPO)コン ポジットのみが民生用を含め業績をのばし、外国と の合弁会社も作っているなど、自信にみちあふれて いた。これは、言うまでもなく、宇宙利用のために 開発された先端素材の転用である。

(写真2) ロケット各段燃焼実験施設

 安全保障の問題が大幅に緩和されてきた現在、こ のロシアの先端的で巨大な宇宙施設は、世界の共通 的な財産の意味を帯びつつあるのではないだろう か。現在の1ルーブル〜1円の為替レートから考え ると、ロシアの宇宙機器および施設の利用は極めて 安く利用できる可能性がある。これを日本独自の宇 宙開発の推進とどう調和させていくのか、今後の大 きな課題になると思われる。

その他
 上に述べた他、見学した中で特に印象に残ったも のを記すと、一つに工業省のNPOラボーチキンに おける電波暗室の吸収材である。これは長さ1mく らいの糸状の鉄分を含むガラス繊維に、細いいろい ろの長さのけばけばがついているものから成ってお り、波長8mm〜1.5mにわたって吸収率-40dBと いうものである。これは日本では見られないのでは ないだろうか。また、科学アカデミー中央機械製作 所には、高度50〜100kmの状態をシミュレーション するプラズマトロン装置(1千kw、プラズマ温度1 万度、圧力5〜200mbar)があり、これは世界で唯一 のものとのことである。

 その他、モルニアではブラン(ロシア版スペース シャトル)の開発を行ったところであるが、その長 期にわたる開発経緯の話は一つ一つが先端を行くも のの苦心が惨みでていて印象的であった。ここでは、 今後の計画として、シャトルを巨大飛行機と組合 わせた「マックス」システムを設計中であり、これ によれば高度200kmに1kgにつき$1千(米国の タイタンまたはシャトルは$1万)で打上げること ができるとのことである。

(2)新生ロシアの生活寸評
生活と物価
 ソ連崩壊後のロシアにおける生活の混乱ぶりは、 日本において度々報道されるところであり、今回の 訪問の非常に興味ある対象の一つであった。モスク ワにおける第一印象は、乗用車は道にあふれ、デパー トや市場には物が豊富に出回り、表面的にはいわゆ る日本の戦後の混乱期とは全く次元の異なる様子で あった。問題は物価であるが、現在もどんどん上が っているとのことで、ロシア人の通訳によるとこの 半年で2〜3倍になっているそうである。

 ロシア人の給料は、大学卒で2〜3千円、私クラ スで5千円以上、年金は月約千円とのことである。 一方、モスクワでの物価は、例えば野莱類は1kg百 円前後(自由市場)、着る物は2、3百円から数千円 であった。電気製品はほとんど輸入品で東京並の値 段である。一方、地下鉄は一律1円、アパートは例 えば4部屋で30円という超安値である。

 大雑把に言って、物価で日本の十分の一、給料で 百分の一というところであろうか。したがって、非 常に生活が苦しいわけであるが、それでも未だこれ までの蓄えを使っていける段階であり(通訳談)、本 当の生活の混乱はこれからのように思われる。その ため、国民はルーブルを信用していないようで、外 国人目当てにドルを稼ぐための土産物売りが街路の あちこちに見られた(写真3)。値段はいずれも東京 並に高い。ホテルなども同じである。

(写真3) 街道の土産物市場

食事
 我々の昼食、タ食はロシア側の旅行会社がセット したが、肉食中心の量だけがやたらに多く、またウ オッカなどの飲物も各種でてきた。一同は2、3日 で戦々恐々とし始め、胃袋の防衛とロシア式スロー サービスとの矛盾に苦しんだ。これらは、勿論、外 貨稼ぎのためであり、ブロイラーの心境であった。 我々は、不幸にして美味なるロシア料理を(もしあ れば)経験せずに終わった。

治安
 町の地下道には浮労者を見掛け、また年寄りの物 乞いがあちこちにいた。治安については、「まだヨー ロッパ程ではありません。」という話であった。我々 の場合、クレムリンの近くのホテルで治安はよかっ たが、それでもいつもジプシーの子供がわーっと金 をせびりに集まってきた。中には、地下道で彼等に 取囲まれて財布を取られたという話を聞いた。今後 一層状況が悪化せざるを得ないであろう。

夏の気候
 モスクワの緯度は55度であり、稚内より10度も北 に位置する。そのため、夏の日暮れは遅く、11時頃 になる。夜の時間は4時間くらいである。出発前、 高橋第二特別研究室長が、「渡り鳥が何故夏に北へ行 くのかが分りますよ。」と言われたが、モスクワに来 てみてなるほどと思った。夜は8時くらいでも日が 高く、町には人が昼間の様に沢山でていた。調査団 の一日のスケジュールが夜に向かって遠慮なく続い たのも、これが一因のようである。モスクワについ てから数日は涼しい日が続いたが、その後は日中は 30度くらいの日が続いた。この束の間の暑い夏に、 ロシアの人々は恩恵を受け楽しむのである。

その他
 ロシアの地は広大である。モスクワのTV塔から の眺めも、360度だだっ広い平野である。また、飛行 機で1時間飛んだときも同じあった。モスクワおよ びその近郊の自動車道路は幅広く、高速道は存在し ないし必要としない。若い女性の肌は透通るように 白く、きめ細かい。対称的に年配の女性は皆太って いる。食糧難の時代に維持が大変なことだなあと余 計なことをふと思った。我々の通訳のイリーナさん も同様の体型だが、彼女によると「私のは病気後に 突然ふくらんだ。」そうである。身体にふさわしくと てもおおらかで陽気であり、典型的なロシア女性を 思わせた。

 最後に、今回の調査団に参加するに当たって各方 面のお世話になった。深く感謝します。

(企画調査部長)


≪研究室長大いに語るシリーズ≫

雑感 IN KOBE

占部 伸二

 「研究室長としての苦心談・研究推進の工夫」につ いて何か書くように企画から連絡を受けたとき、正 直に言って非常に難しいテーマなので何を書いてよ いのか戸惑ってしまった。「これは断れませんから ね」とは三企係長の言葉である。

 丁度三年前に関西支所立ち上げの先発隊の一員と して神戸に着任したときは、カエルの鳴き声が周囲 にこだまし、あたり一面の田園風景を前にして、果 たしてここで先端的な研究が立ち上がっていくのだ ろうかと不安に思ったのが正直な感想であった。現 在は新しい庁含も完成し、活気のある若い研究者が 集まり、新しい研究を進めていこうという雰囲気が 高まりつつある。この間、私の役割も支所の立ち上 げという仕事から、室長としての研究室の仕事に重 心を移してきた。このようなわけで、研究の現場に 戻り、研究室の雰囲気を味わいなから感じているこ とを二三書かせていただくことにする。

 現研究室が発足して二年になるが、幸いにも現在 の研究テーマが順調に立ち上がり、最近成果も出て くるようになってきた。これは、ここ数年間予算等 に恵まれていたことに加え、優秀でやる気十分な研 究スタッフが揃ってきたことが最も大きな要因であ る。室長として特別な運営をしてきたわけではなく、 研究室が発足した最初の一年間は私自身先発隊とし て先に関西に着任していたため、地理的に研究スタ ッフと離れていたこともあり、研究を進める上で多 くのことは皆の自主性にまかせてきた。基礎研究に おいては、各研究者の自主性、能力、アイデア等が 研究遂行上特に重要なことと言われているが、それ を発揮できる環境を整えれば研究が進み自ずと成果 がでるものであるということ改めて認識した。この ため、若い研究者に対しては、早い機会に自分の研 究テーマを与え、経験を積み、自主的に研究を進め られるように配慮していくことが基礎研究を行う場 合にまず心掛けておくことだと感している。

 現在の関西支所は、地理的条件を含め、刺激が少 なく情報収集や研究者の交流をやりにくい環境にあ ることは事実である(交通の便が悪い、まわりはキ ャベツ畑、ネオンがない、若い女の子がいない等々)。 首都圏に多くの関連テーマの研究グループが存在 し、情報が集中していることを考えるとやはり心細 い限りである。しかしながら、関西という大きなポ テンシャルが背景にあること、国際都市神戸が近く にあり、また海や山などの自然環境に恵まれている ことを考えると、やりかたによっては楽しみながら いくらでも自分達の研究活動を高めていくことが可 能である。できるだけ活発に研究を進め、学会等に 積極的に成果を発表し、自分達の存在を外部に大き くPRしていくことが大切であると思う。一つには、 自分達が研究成果としての新しい情報を外部に積極 的に発信していれば、そのうち研究交流も進み、情 報も集まってくることを期待したいからである。積 極的に成果を発表することは、何も関西支所の立ち 上げに関連したことでなく、研究者として当然心掛 けなければならない基本である。研究者にとっては、 良い研究成果を外部に発表し、初めてその存在を認 められ名誉も得られるのだから。我々の場合、関西 の立ち上げ時期という状況にあるため、このことを 特に意識して研究を進めていくべきだと感している。

 最後に、最も難しい仕事であるが、研究室の大き な方向性を作っていくことがこれからの大事な仕事 であろうと思っている。現在の研究テーマが成熟し つつあるため、次の大きな目標をそろそろ皆で議論 し、作っていかなければならない時期だと感じてい るからである。

(関西支所 電磁波分光研究室)


《研究支援シリーズ》

研 究 と 支 援

宮田 洌

 企画課から研究支援について何か書けといわれ た。最近、所内で研究支援という言葉が大流行して いるが、僕ら総務部のものにとっては仕事の大きな 目的が研究支援だから、今更の感である。あらため て、精神的な面を中心に考えてみた。  

上を向いて歩こう
 総務部門は、会計検査院など の検査でつかまることがもっとも怖い。このためか 体質が自己防衛になりがち。検査院無事通過が最も 重要なことの一つであることはもちろんだが、この 弁解体質をできるだけ排除することが重要。研究室 などとの信頼関係を向上する上で重要なこと。ミス は無いにこしたことはないが人間あって当たり前。 能力才能の有無は上を見ればきりがない、下だって ある。自分の能力のなさを隠す必要もないし、卑下 する必要もない。上を向いて歩こう。  

優等生と落第生
 仕事の唯一つの目的は研究支 援、そのために立案企画、執行、結果がある。本来 なら研究支援と順法は一致しなければならないが必 ずしもそうでない。研究支援で優等生、順法では落 第しなければ良い。  

やりがい
 仕事の効率化を図るために重要なこと は三つある。一つは効率的な組織、流れを作ること。 二つ目はみんながそれを認識すること。最後にお互 いがやりがいのもてる職場を作ること。気持ちの良 いやりがいはストレス解消にも最高の良薬。それに はどうするか。一言でいえば、任せられること。頼 られることである。そのためには互いに信用しあう こと。自主性を重んじあうこと。行き詰まったとき に助言しあうこと。できなければ共に悩み考えるこ と。いずれにしても上から下へあまり小さなことま で押しつけることは極力避けるべきである。そのこ とによる責任は、各々責任あるものが取ればよい。  

間口の広さと奥行きの深さ
 特に会計事務は専門 的分野が多く奥行きの深さが不可欠。ただし立案企 画、方策の検討には、奥行きの深さだけではダメむ しろマイナスになることさえある。間口の広さが必 要。間口の広さと奥行きの深さがうまく合体したと き数倍の力が出る。囲碁将棋もしかり。局部的な力 と棋力は一致しない。企画調査部と総務部も同じ、 総務部は奥行きの深さだけでは勝負(研究支援)し たくない。  

合理化
 組織的には現在いろいろ実施されている が、みんなが次のようなことをやれば案外効果があ る。

@清書をやめよう
 読めないのはダメだが、内容が分かればよい。 大事な文書は往々にしてメモが多い。清書に費 やす時間は相当なもの

Aすぐやる姿勢と仕事をやる順番を考えよう
 後追いは倍の時間が必要

B消費時間と仕事のでき具合

 期限重視の仕事で期限後にいくら良いものを出 しても0点、たとえ期限がなくても適当な仕事 は適当に処理、すべての仕事を完全には昔のこ と、今は適当に要領よく

C机の上がきれいになっていることは別に悪いこと ではない。
 仕事をしている振りは昔のこと、仕事に区切り を持って

 話が大分細かくなってしまったが最後に、  

本来の研究支援
 ひがみであろうか。「研究支援= 研究者のいうことを何でも聞くこと」に思えてなら ない。研究者は成果を出したいがために、かなり無 理なことも実行したがる傾向にある。順法の問題は さきに触れたが、研究者自身の安全、過労のことだ ってある。研究者全体の利不利もある。研究者サイ ドに立って、もう一歩広範な見地から、そしておふ くろの感覚で研究を支援していくことが総務部門の 目指す真の姿だと思う。

(関東支所 鹿島宇宙通信センター 管理課長)


短 信

渡辺郵政大臣視察

 8月3日渡辺郵政大臣が当所の視察に見えられた。 所幹部と引見し、日頃の研究活動の労いに続いて、当 研究所は国立の通信に関する唯一の研究所であり、その 使命と国民の期待は大きい。予算、人員等では、支援す るので引き続き研究に専念してほしい、旨の訓辞をされ た。
 続いて、所長による研究所の概要説明が行われた。 来訪者記帳に際しては、十分に時間をかけ達筆をご披 露された。
 所内視察に際しては、説明に対し次から次へと勢力的 に質問するなど予定時間を超過し、大臣の研究所に対す る期待かうかがわれた。

▲視察風景

施設一般公開開催

 恒例の研究施設一般公開を7月31日(金)に、本所、支所 及び観測所において実施しました。例年は8月1日の当 所開設記念日に行っているものですが、今年は土曜日の ため1日繰り上げ実施となったものです。ご案内の不備 により、8月1日に来所された方には深くおわびいたし ます。

 本所では、人事院、大蔵省、報道関係者、郵政大臣、 局長等のVIP視察が目白押しに続く中、あわただしく準 備が進められました。

 当日は、好天に恵まれ鹿島・山川への来所者大幅増に 加え新庁舎か完成して初めての一般公開となった関西支 所もあって過去最多数を記録しました。
 今年は特に小中学生にも解る公開内容、模型等を用い て参加、体感できる公開内容を目標に実施しましたが、 出来具合はどうでしたか?また、アンケートにより、 マスコットキャラクタの愛称募集や公開日の希望調査を 実施しました。結果については、今後の検討課題ですが、 1日だけでは見切れないので休日を含む2日間の公開を 望む意見が多いようでした。

来所者数
本年度昨年度
本所
鹿島宇宙通信センター
平磯宇宙環境センター
関西先端研究センター
稚内電波観測所
犬吠電波観測所
山川電波観測所
沖縄電波観測所
909名
819名
119名
246名
25名
26名
247名
40名
766名
563名
105名
---
48名
36名
173名
94名
合 計2431名1785名

南極におけるクレバス探査実験

 通信総合研究所では、文部省国立極地研究所と共同で 雷上車の走行の妨げとなるクレバス(氷の割れ目)の早 期発見、雷上車の転落防止に役立つレーダの研究を行っ ている。
 今回、国内での模擬実験に引続き、第32次南極観測に おいて実際のクレバスを対象に実験を行い、良好なエコ ーを観測出来た。今後は、持ち帰りデータの詳細な解析 を行い、実用化に向けて検討を行う。

(電波部 大気圏伝搬研究室 高橋 晃)

▲クレパス探査実験の様子