通信総合研究所長
吉村 和幸
(よしむら かずよし)
昭和13年1月1日北海道名寄市に生まれる。
昭和37年3月北海道大学工学部電気学科を卒業。
同年4月1日付けで郵政省(電波監理局)に入省、
9月1日付けで電波研究所(現在の通信総合研究所)
に配属。昭和53年3月工学博士(東京大学)の学
位を取得。昭和62年から平成5年6月30日まで
宇宙通信部長、標準測定部長、企画調査部長を勤め、
同年7月1日付けで通信総合研究所長に就任。
昭和62年科学技術庁長官賞(研究功績者賞)を
受賞。
遠隔教育情報ネットワーク
遠隔教育の分野では、当所が中心となり、タイの
キングモンクット工科大学、インドネシアのバンド
ン工科大学、パプアニューギニアのパプアニューギ
ニア工科大学、フィジーの南大平洋大学に地球局を
設置し、本格的な実験が行われている。この地球局
は簡易で廉価な構成を目標に、直径1.2mのパラボ
ラアンテナ、送受信機、64kbps音声画像符号化装
置、ビデオカメラ、ビデオモニターから構成され、
高画像圧縮技術を用いた動画像によるテレビ会議が
行えるシステムである。これまでにも、昨年11月
に開催されたアジア・太平洋国際宇宙年会議をはじ
め、日本語教育、国際遠隔教育に関する様々なシン
ポジュウムにおいて実験がなされてきた。この衛星
通信ネットワークを通してアジア・太平洋諸国が参
加し、その有効性を参加者全員に強く印象づけた。
現在、文部省放送教育開発センターが主催する国際
衛星ワークショップ(通称:SAWS)が、隔週で開
催されている。写真1から4は、各国でTV会議実
験を行っている様子と地球局設置時のスナップ写真
である。
▲写真1 タイのキングモンクット大学での会議風景
▲写真2 インドネシアのバンドン工科大学での地球局設置
▲写真3 パプアニューギニア工科大学での日本との交信
▲写真4 フィジーの南太平洋大学での地球局設置時のスナップ
遠隔医療ネットワーク
遠隔医療の分野では、東海大学医学部を中心とす
る医療グループ(日本医科大学、江戸川医師会、秋
田大学医学部等から構成される)により、国内に6
局、タイ、パプアニューギニア、カンボジアの3カ
国に計11局の衛星通信用地球局が設置され、精細
静止画像による遠隔医療、遠隔診断などの実験に使
われている。この医療ネットワークは通称AMINE
(アミノ酸)と呼ばれ、現在は、あくまで実験べース
であるが、実利用に向けた様々な検証実験を行うと
同時に途上国の患者の救命活動にも使われている。
カンボジアのプノンペンからも、連日、外傷、重傷
感染症、ネフローゼ症候群等の医療コンサルテーシ
ョンを受けている。
その他の情報ネットワーク実験
宇宙開発事業団地球観測センターとインドネシア
国立航空宇宙研究所との間では地球観測衛星データ
の画像伝送実験を行っている。この実験は、防災、
洪水、森林、火災、沿岸侵食等の、地球観測衛星に
よるモニタリングシステムの構築を目的としている。
日本科学技術情報センターでは、タイのキングモ
ンクット工科大学とのオンライン情報検索システム
実験を行った。
当所と宇宙開発事業団では、日本、タイ、インド
ネシア、パプアニューギニアの4カ国で同時にLバ
ンド電波伝搬測定実験を行っている。
地球局の設置
最後に、当所がPARTNERS地球局を設置した際
のエピソードのいくつかを紹介したい。
地球局装置の準備期間が短かったのも問題であっ
たが、ようやく準備できた装置をタイとインドネシ
アの二カ国に送ったところ、業者の手違いで、タイ
にアンテナが2台、インドネシアに送受信装置が2
台届いてしまった。設置のために当地へ滞在中の当
所の研究員は、事情もわからず税関から荷物が出て
来るのを何日も待つことになった。その後関係者の
必死の努力により装置も送りなおし、研究員も滞在
期間を延長し、地球局を無事設置し終った。いざ出
国という時になって、ビザの有効期間が過ぎていて、
現地の大使館の方々には大変お世話になった。
パプアニュ一ギニアでは、マラリアが大流行。大
学内でも、学生がマラリアで死亡したり、本国に帰
国して治療している教授がいたりという状態が続い
ている。地球局設置の研究員は、帰国後もマラリア
の予防薬を何週間か飲み続けたため、幸運なことに
今のところ発病の兆候はない。
フィジーでは、地球局設置場所の選定、調整が難
航、さらに無線局免許と局の設置の許可もおりず、
結局、第1陣は設置を見送り帰国した。その後の関
係者の努力により問題が解決し、第2陣が今年3月
に出発して、ようやく設置に成功した。ここでは物
事がすべてゆっくりと進行して行く。日本の時間感
覚と太平洋諸国の時間感覚との違いを思い知らされ
る出来事であった。
おわりに
現在、このPARTNERSネットワークを使って
様々な実験が進められ、多くの有益な成果が得られ
ている。この実験を通して、参加者の誰もが、恒久
的なアジア・太平洋地域の衛星通信情報ネットワー
クの有効性と必要性を感じつつある。この
PARTNERS計画が、このように早期に実現したの
も、国内外の多数の方々の強い要望とご協力による
ものである。ここに深謝いたします。
鹿島アントラーズ優勝!
▲鹿島アンテナーズのメンバー
(鹿島サッカースタジアムにて)