悠久たる地球を見つめるために


板部 敏和

 悠々たる大地と思われていた地球も今では我々 人類の活動によって変化しつつあることが分かっ てきています。人類以外の生物は、その生息の基 盤としている地球を変化させてしまうことはあり ませんが、高い英知を有する人類自身だけが自分 の生存している地球を破壊しつつあります。また、 「国破れて山河あり」と言われてきましたが、こ れからは「国栄えても山河は滅んでいく」ことを 心配しなければならなくなってきています。
 悠久と思われていた地球が変化することを、目 の当たりにさせたものは、南極での“オゾンホー ル”の発見です。産業革命以来、地球大気に含ま れる炭酸ガス(CO2)が増加していることもハ ワイのマウナケア山頂での観測から分かっていま す。これによって地球温暖化となる気候変動が地 球に起こるであろうと、指摘されています。もし、 地球の気候変動が人類の活動によって引き起こさ れるなら、その影響は“オゾンホール”より、さ らに大きな問題となりますが、気候変動そのもの は科学的にまだ良く理解されているとは言いがた いところがあります。一方、“オゾンホール”は 発見自身も大変センセーショナルでしたが、その 原因が人類によって作られた“フレオン”である ことが明らかになり、人類が地球環境を変えてし まった(しまえる)ことの初めての例証となり、 人類にさらに深刻な問題を投げかけることになり ました。“フレオン”は、揮発性が高く、不燃性 で、安定な〈地球表面でのみ。この特性が“オゾ ンホール”問題を引き起こした。)、人類の科学的 (化学的)英知によって作られた夢の化学物質で あり、現在の豊かな暮らしを実現するために計り 知れない貢献をしてきています。一方、CO2も 人類の生活向上のために放出されたもので、これ らによる利益の多くは先進諸国に遍在しています ので、これらの対応に関しては先進諸国の責任は 大きいと言わざるを得ません。
 環境を人類が変えてしまうことによって人類や 地球上の生物に恐ろしい影響を与えることは、有 機水銀や鉱山の廃液処理、大気汚染などの公害問 題によって良く知られているところです。現在の 状況は、公害問題も解決されていないうちに地球 環境問題か出てきて、局地戦を戦っているうちに 世界大戦が始まったようなものです。公害は、有 害廃棄物の放置や海外への持ち出しに見られるよ うにゲリラ戦的様相を見せてきています。地球環 境では国際的な戦略の作成が望まれていますが、 現状はそのための地球環境の科学的な状況把握と 環境変化の予測の研究を行っている段階にありま す。
 このため、多くの大学や国立研究機関で地球環 境変化を探る研究がこの数年来活発に(非常にと 言って言い程)行われるようになってきて、この 分野に関係する研究者は大変多忙になっています。 地球環境を把握する手段として、電波、音波、光 を使うリモートセンシングは重要なものですが、 通信総研にはより高度な技術開発に対する大きな 期待がなされています。さらには、リモートセン シングの技術開発だけでなく、地球環境全体での 研究者の不足から実際の地球環境観測の支援も行 うようになって、ますます忙しくなっています。 このため“酒”を飲む間は有っても“席”を暖め る間は無くなってきています。光計測研究室で行 っているリモートセンシングは、ライダー(レー ザレーダとも言います;レーザを光源とする計測 手段)と言われるものですが、その技術開発を主 とする研究テーマの場合も、その開発終了後は実 証のため野外観測を実施しますので、研究室を離 れている時間はさらに多くなってきています。
 数年前から準備して今年度観測を行うものとし て
・中国ゴビ砂漠での黄砂となる砂塵粒子のライダー観測
・北極での極域成層圏雲(PSCと言われていま す)と北極へイズのライダー観測
があります。これらは、さらに数年以上に亘って 観測が続けられる予定です。


▲中国蘭州付近を流れる黄河のほとり

 砂漠からの砂塵粒子は中国から日本さらには太 平洋の真ん中まで運ばれ黄砂となりますが、砂漠 でのライダー観測は、その輸送の解明のために砂 漠現地での砂塵の高度分布を観測するもので、黄 河の畔、西夏自治区にある蘭州砂漠研究所の沙波 頭実験所にライダーを運んで観測が行われます。 また、PSCは“フレオン”による“オゾンホー ル”生成の鍵となっている物質であり、北極ヘイ ズは北極の夜明けに起こる北極全体を覆うような 大規模な光化学スモッグのことです。北極のライ ダー観測は、カナダ領北緯80度のユーレカ基地 に新設されている建物の中に設置して、カナダ側 及び日本側の関係研究機関の協力の下に行われま す。“フレオン”によるオゾン層破壊が明らかに なってから、地球的な規模での成層圏オゾン減少 の長期傾向を調べるため、成層圏オゾンの変化を 観測するための観測網が世界各国とWMO(世界 気象機関〉の協力の下でできつつあります。ユー レカ基地もこの観測網の一つで、世界の全てのこ の観測網の観測地点では、成層圏オゾン、エアロ ゾル、微量分子観測用の紫外、可視、赤外、マイ クロ波リモートセンサーが整備され、10年に亘 る長期観測が行われる予定です。
 これら、数年前から準備をしてきたものに加え て、昨年度にはフィリピン、ルソン島のピナツボ 火山が噴火し、成層圏に多量の硫黄化合物を注入 しました。この噴火によって成層圏には、現在濃 厚な硫酸水溶液からなる雲が存在し、地球全体を 覆っています。火山性の成層圏雲は、いわゆる “日傘効果”によって地球の平均気温を下げると 言われてますが、これまでの火山性成層圏雲がで きた時との大きな差異は、地上から舞い上がった フレオンによる多量の“塩素化合物”が成層圏に 存在するようになっていることです。火山性成層 圏雲を媒介とする塩素および窒素化合物とオゾン の化学反応によって地球規模でオゾンの減少(地 球規模のオゾンホール)が起こる可能性が指摘さ れています。ピナツボ火山による火山性成層圏雲 のライダー観測では、気象研、国立環境研を中心 として日本国内にライダー観測網が作られ、観測 が続けられています。私達は、日本最北の地であ る稚内での観測を受け持ち、稚内電波観測所にラ イダー観測室を作って観測を行っています。
 さらに、来年度からの計画として、アラスカ大 学の地球物理研究所と協力して、成層圏から中間 圏の高度100km付近までの中層大気の観測機器 の開発と共同観測が計画されています。地球温暖 化のような気候変動については、対流圏のような 低層のみでなく、中層大気と呼ばれる上層の大気 層においてより拡大された形で影響が起こる場合 があり、地球大気科学の意味から中層大気そのも のの研究を行う重要性とともに、中層大気の長期 観測によって気候変動を強調した形でのモニター を行える意義があります。
 地球環境の観測は、地球環境の変化を把握する ことによって今後の地球環境保全の国際的な戦略 を立てる為に大事なものです。しかし、この観測 には地球規模での観測拠点が必要で、かつ長期に わたるものが大部分です。このため、観測に関係 する研究機関の多くの研究者が、“東奔西走”(私 の場合は“南奔北走”ですが)に明け暮れ、研究 室で“多くを語らず(語れず)”となってきてい ます。当研究室では、ライダーに関係する研究以 外にも、いろんな研究テーマを抱えていますが、 もともと研究は自己の裁量と責任によって行って いくものですので、室長不在が多くても実際に自 己の裁量、才覚で(粛々と?)研究が進んでいま す。


▲オホーツク海(サロマ湖沖)の流氷

 地球環境問題はリモートセンシング技術の社会 的な重要性を強く認識させるようになりました。 地球は宇宙に浮かぶ小さな天体ですが、人類にと っては大変大きな意味を持っています。これは、 精神的な意味だけでなく、地球環境を観測しよう として観測網を考えるとき本当に実感として感じ られます。このため、今後、衛星からの観測も含 めて、かなり長期に(4次元的に)観測できる地 球環境の監視体制を作り上げることが緊急に必要 になっています。このために通信総研に対する期 待も大変大きいものがあり、できうる限りその期 待に応えるようにすべきだと思っています。

(地球環境計測部 光計測研究室長)




《新研究室紹介》

環境システム研究室


森 弘隆

 フロンによるオゾン層の破壊が叫ばれ、また実際 に南極にオゾンホールが発見されてからというもの、 晴れた日には地上に降り注ぐ紫外線の量が気になる この頃です。また最近は、季節の移り変わりも以前 とは少し違うような気もします。気候にも異変か始 まっているのでしょうか。気になると益々不安が広 がります。しかし、闇雲に心配していても仕方あり ません。まず、地球環境を正しく理解し、その上で 有効な対策を行うことが大切です。
 地球環境は、ほとんど太陽エネルギーによって維 持されています。太陽は、よく知られている11年 周期の変動のほか、それよりも短周期や長周期の 様々な変動をしています。これに伴い、放出する工 ネルギーの量や性質も変動して、地球環境に影響を 及ぼします。最近は、このような自然の変動の他に、 フロンやCO2などの人工排出物による環境変化が 心配されています。このため、自然の変動に重なっ てわずかに現れる人工排出物による変動を正確に把 握し、予測することが重要な問題となっています。 そのためには、地球環境の形成・維持のメカニズム についての十分な知識が不可欠です。
 地球の大気は、地上から数千kmの上空にまで広が っており、下から対流圏、成層圏、中間圏、熱圏な どという名前で区別されています。これらの領域は、 互いに物質やエネルギーのやり取りを通して、密接 に影響しあい、全体として地球環境を形作っていま す。従って、この全体を一つのシステムと考えて、 そのメカニズムを理解する必要かあります。そのた めには、まず正確な観測による知識の集積が基本と なります。対流圏から成層圏下部までの高度20〜 30km以下の領域は、飛行機や気球によって直接観 測できるため、観測データも多く、長年にわたる研 究の蓄積があります。一方、熱圏下部の高度約12 0km以上の領域は、ロケットや人工衛星による観測 が可能になってから、多くのデータが得られるよう になりました。これに比べて、それらに挟まれた高 度20〜30kmから約120kmの範囲の中層大気と 呼ばれる領域は、これまで計測手段が限られていた ため、理解が著しく遅れています。そのため、現在、 この領域の有効な計測機器の開発が急がれています。 観測すべき物理量としては、物質やエネルギーの輸 送に係わる大気の風や温度、オゾン層の生成などの 大気化学反応過程に重要な役割を果たす大気微量成 分、及び紫外線や高エネルギー粒子により生成され る電離大気成分などです。これらの諸量を同時に総 合的に計測することによって、初めてこの領域で起 こっている現象を正しく理解することができます。
 このような計測には、電波や光の性質を高度に利 用したリモートセンシング技術が使われます。当研 究所は、このような技術の開発と大気科学の研究に 長年携わってきました。当所ではこれらの実績を基 に、中層大気の各種の計測機器を新たに開発し、人 類共通の課題である地球環境の保全に寄与しようと しています。環境システム研究室は、このプロジェ クトを中心となって進める研究室として、今年の7 月に誕生しました。
 地球環境は地球全体の問題なので、国際協力によ り取り組むことが重要です。当研究室は、所内の他 の研究室と連携して、各種の先端的な計測機器の開 発・研究を行うと共に、米国アラスカ大学等と協力 して、アラスカにおいて、太陽活動の影響を直接受 ける極域の中層大気を日米で共同観測し、地球環境 に及ぼす太陽活動や人工排出物の影響を詳しく研究 する予定です。アラスカの夜空はしばしばカラフル なオーロラに彩られます。これは正に太陽活動に伴 って降り込んでくる高エネルギー粒子により発生す る現象です。アラスカ大学は、この場所で長年にわ たりこの神秘的な現象の研究を行い、多大な成果を 上げてきました。今、私たちは、国際協力により、 地球環境をテーマにさらにその神秘のべールを剥が す研究を始めようとしています。

(環境システム研究室室長)




研究者生活三十余年を撮り返って


畚野 信義

 所長退任の挨拶を気楽な文章で書けという注文を 貰った。今まで退任の挨拶をニュースに書いた所長 はいない。若し受ければ今後所長の退任の挨拶を必 ず載せなければならないなどという悪い前例が出来 て仕舞うのではないかと少々悩んだ。上記の題を与 えられたが、正直言って私自身三十二年も木っ端役 人を続けることになるとは夢にも思わなかった。
 ハイティーンの頃音楽で身を立てようと本気で考 えていた。日本の土着のムードを持ち、聞く人を痺 れさせる迫力のある音楽を創りたいと夢見ていた。 日本製がメイド・イン・オキュパイド・ジャパンと 表示される時代であった。音楽をやるということは 飢えることも覚悟しなければならない頃であった。 母に必死に反対され断念した。かなりひどい喘息で 国民(小)学校も落第し、もう一週間はもたないと 医者に言われたことが何度もあった。母はどんな思 いだったか。積もる親不孝をひとつだけ返したつも りだった。母は私が所長になった翌日死んだ。
 企画課長、企画部長、所長と九年近く研究所のマ ネージメントに関わることになった。研究者として は運が良くなかった思っている。マネージメントの 部分の思い出の幾つかは先日出た四十年誌に書いた。 かなりはっきり書いたため毀誉褒貶が激しかった。 毀誉褒貶と言えば直研連代表幹事就任の挨拶で「直 研連はマンネリ化サロン化している」とやった時は もっと激しかった。しかしその後私の発言や行動を 割合よく理解したり支援して貰えたと感じている。 「敵を作るのを恐れていては味方は出未ない」とい うことを実感した。
 私の研究は宇宙科学、宇宙通信、宇宙からの地球 観測とずっと宇宙に関わって来た。我か国の観測ロ ケットを使った宇宙科学の黎明期とも言うべき東京 大学生産技術研究所時代の秋田道川海岸の実験から 参加した。我が国最初の科学衛星「しんせい」にも その最初から打ち上げ迄関わった。しかしロケット や衛星を使う仕事は大変リスキーである。短くても 七年、TRMM(熱帯降雨観測衛星)は二十年以上、 計画から収穫迄関われるのは余程運の良い奴である。 打ち上げやその後の出来具合、プロジェクトの進み 具合によって一生棒に振ることもあり得るのである。
 所長時代を除き、私くらい自由にやりたいことを やって来た者は少ないであろう。全観測所・支所へ 車で行った。内之浦には三十回以上、車でも十回近 く行った。高速道路など無い時代、舗装どころか自 動車の底を打つガタガタの峠のある国道をものとも せずノンストップで走り、帰りは九州は勿論四国・ 山陰と、佐渡以外日本中を回った。しかし一方後ろ 指を指され無いためにもやることはキチンやった。 私が成果主義、研究者請員業論を言うのはそこであ る。一回しかない人生、よく学びよく遊び、楽しく 自由に生きるべきである。
 人生には何度も分岐点がある。三十二年間に十一 回外から話があった。始めの頃こそ辞表を出すだの 握り潰すだのといろいろあったが、年をとるにつれ て日本的な理由で気が進まなくなった。音楽の道に 行っておればもっと違っていたであろう。小沢征爾 より有名になっていたか、パリのノミの市でスリを やっていたか。研究でも今から見るとなかなかいい ところへ行っていたな、もう少し頑張って続けてお ればと思うこともある。しかしその頃は既に次のこ とに気を取られていた。正に歌の様に青春時代は後 からいろいろ思うものであり、青春時代の真ん中は 道に迷ってばかりいるものなのだろう。人生は若い 頃見た夢がひとつひとつ消えて行く過程である。二 回生きてみる訳にはいかないのだから自分の責任で 選択して一生懸命生きて行くしかない。努力するこ とで少しでも夢に近づけると信じて。しかし、ベン ジャミン・フランクリンは「もう一度生きられると すれば迷いなく同じ人生を選ぷ」と言っているが、 私は多分違う道を選ぶのではないか。どの分岐点で かは未だ決めていない。

(前通信総合研究室所長)




施設一般公開開催される


 恒例の研究所施設一般公開を7月30日(金)に、本 所、支所及び観測所において実施しました。例年は 8月1日の当所開設記念日に行っているものですが、 今年は日曜日と重なったため二日繰り上げて実施し たものです。ご案内の不備により、8月1日に来所 された方には深くおわび申し上げます。
 小金井本所においては、『高機能知的通信の研究』 のはか6研究分野、全体で32項目からなる内容を 一挙に公開し、鹿島宇宙通信センターでは、『宇宙 にかける夢』をテーマに4項頁目からなる公開内容で 鹿島センター独自のチラシを用意し地域への宣伝を 強化しました。また、関西先端研究センターでは、 施設公開と共に職員の手作りによる『ぼくらの科学 探検』と題するアニメタッチのパンフレットを製作 し研究室の活動を紹介しました。さらに、平磯宇宙 環境センターでは、『宇宙天気予報をめざして』を メインテーマに、そのほか各地の電波観測所におい ても独自のアイデアと工夫をこらし盛大に行われま した。
 一般公開当日は、異常気象のせいか全国的に梅雨 明けが遅れ、朝から昼過ぎにかけてどんよりとした 曇の空模様でした。しかし、本所の出足は快調で昼 過ぎまでの中間の集計では、450人とはぼ昨年と 同し来所者数か見込まれましたが、午後から降りだ した雨の影響か出足の伸びが鈍ってしまいました。 最終的な各会場の来所者数は、犬吠、沖縄電波観測 所を除いて全体的に昨年の未所者数を割り込んでし まいましたが、1昨年の1700人台から昨年、今 年と2100人以上の来所者を迎えております。将 来的には、当面の目標設定を2500人台におき、 より洗練された内容と魅力ある企画を行うつもりで す。
 今年の来所者の内訳を見てみると、特徴的なこと は、本所やセンター、観測所においては職業別で関 連した企業の会社員が圧倒的に多くほぼ5割に達し、 年齢別では20才代が3割を占めていました。しか し、近年の一般公開の主旨から展示パネルは、小、 中学生やお子さんをお持ちの主婦を対象に描かれて おり、小、中学校への積極的な勧誘と、地域へのP R作戦を強化するとともに更に沢山の方々にもこの 機会を利用して頂くためにアンケートでも希望の多 い土曜日開催の検討等を進めて行きたいと考えてお ります。また印象的なこととして、若手女性研究者 の的確な内容表現と良く整理された説明が大変好評 でした。通信総合研究所の新しい流れとして育てて ゆきたいと思っております。


▲ゲームを楽しむ見学者

 今回は、初めての試みとして正面玄関ロータリに 大きな広告塔を公開日前日から試験的に設置しまし た。通りを行き交う人たちや職員の反応は想像した 以上に良く、来年以降は公開日の3〜4日前に取り 付けて雰囲気をもりあげたいと思います。最後に当 日多数の方々にアンケートにご協力項きまして大変 有り難うございました。特にいろいろな角度から感 じた事を素直にお書き頂いた貴重なご意見などを参 考に来年度の公開に反映し、一層皆様方のご理解と ご支援を持たれますよう努力してゆきたいと考えて おります。

(企画部広報係長 渋木 政昭)




《ホビーシリーズ》

ユーザ車検の楽しみ


鹿谷 元一

 一般に自家用自動車の車検(継続検査)の費用に は10数万円も掛かります。自動車を所有している 方の中には、定期的にやってくる車検に少なからず 頭を悩ましておられる方も少なくないことでしょう。 最近の行政改革の項目の中にも、車検制度の見直し が含まれていて、車検についての話題がよくのぼる 昨今です。そんな状況の下で、再び「費用の掛から ないユーザ車検」が注目をあびてきました。
 車検を整備業者に依頼しないで自動車の所有者が 自分で点検・整備をして車検場(陸運支局)に持ち 込んで検査を受けることを、「ユーザ車検」と言い ます。私が、ユーザ車検を始めたのは昭和58年の ことで、以来10年間に7回のユーザ車検を行ない ました。以下に、私の体験を含め、ユーザ車検の内 容、現状、感想等を記して、皆様の参考にしていた だけましたら幸いに存じます。
 車検を受ける準備としては、自動車の点検・整備 と書類の準備・作成があります。点検・整備項目は 「自動車整備手帳」に記載されています。「ハンドル の遊び」等はそのままできますが、ブレーキ関係は 車体をジャッキで持ち上げておこないます。
 点検・整備が終了すると車検場に電話をして「ユ ーザ車検」の予約をします。車検場では検査官が書 類のチェックを行なったあと、点検整備内容のヒア リングをします。(ヒアリングはユーザ車検のみに ある様です。)その後、いよいよ検査ラインに入り ます。検査ラインでは流れ作業的に@外観目視検査、 AABS検査(サイドスリップ検査、ブレーキ検査、 スピードメータ検査)、BHX検査(排出ガス検査、 ヘッドライト検査)、最後にC下回り検査(かじと り装置、緩衝、装置、制動装置、動力伝達装置など、 シャーシ床下の装置をビットの中の検査官がチェッ クします。)を受けます。@とCは検査官の指示に、 AとBではコンピュータの指示に従って、ブレーキ、 アクセル、ライト等を入れたり切ったりします。車 検場に車を持ち込んでいる整備業者と一緒に検査を 受けるのですが、1年や2年おきにしか来ない私は、 日常的に来ている業者の様にはテキパキとは進みま せん。もたもたしているので、ラインの流れが遅く なります。そんな時には殆どの業者や検査官は親切 な助言をしてくれるのですが、中には大声で罵声を 浴びせる人もいます。そんな訳で、検査ラインの所 要時間はわずか10分程度ですが、数時間にも感じ られる程緊張します。そして、この検査の全項目に 合格すると晴れて更新された車検証(自動車検査証) と車検ステッカー(検査標証)が交付されるのです。
 私が、ユーザ車検を始めた頃はまだ日本のユーザ 車検の歴史が始まって間もない時でした。当時はユ ーザ車検は違法だとか、多くのユーザが車検場に押 し寄せて来ると車検業務が麻痺してしまうとか、 色々な議論がありました。しかし、最近ではユーザ 車検は、おかげさまで市民権を得るまでになりまし た。また、心配された程にはユーザ車検人口も増え ていない様です。
 私がユーザ車検を始めた動機の一つは経済的なメ リットを得る事にありましたが、実際にはそれ程のも のではありません。業者の車検費用は高いと言われて いますが、費用の大部分を占める保険や税金、部品 代はユーザ車検でも同じです。工賃や代行費用が掛 からないだけです。業者は多数の部品を取り替えると も言われていますが、その分信頼性は向上します。
 経済上の利益よりも車検で動き回る過程がとても 楽しいのです。ジャッキアップした車の下でのスリ リングな油まみれの作業。工具店での整備工具の品 定め。自動車整備マニュアルの収集。ディーラへの 部品の注文。代書屋気取りの申請書作成。車検場で の緊張感。そして、車検がパスし「機械いじり」が 公認されることの満足感。・・etc.これだけあれば もうユーザ車検はやめられません。ユーザ車検は無 資格でも出来ます。あなたも楽しんでみますか?



短 信




神崎郵政大臣視察


 8月18日神崎郵政大臣は視察のため当所に来所 された。所幹部を引見し、今後もより一層の活躍を 期待する旨の訓辞をされた。その後、所長から当所 の概要について説明を受けられた。
 続いて、視察に入り、12カ所の研究室で説明者 からの説明を受け、精力的に視察を行われた。特に 地震予知にその応用が期待されているVLBI(超 長基線電波干渉計)・SLR(衛星レーザ測位)の 研究、マイクロ波による電カ伝送の実験や地球環境 計測の研究などに強い関心を持たれ、説明者に多く の質問をするなど研究所に対する理解を深められた。


▲真剣な眼差し