太陽の彩層と速度場


秋岡 眞樹

 太陽は我々にもっとも近い恒星であり、その 表面をつぶさに観察できる唯一の天体である。 大きさが地球の百倍以上あるが、恒星としては G型とよばれるごくありふれた普通の星にすぎ ない。しかしそのありふれた恒星である太陽の 表面では、太陽面爆発をはじめとする我々の直 感的想像を絶する激しい現象が絶え間なく起こ っている。太陽面の諸現象はしばしば惑星間空 間や地球周辺の宇宙空間、電離層などに激しい 擾乱を引き起こし、衛星や地上の施設に大きな 障害を発生させる事がある。CRLの太陽研究 室では、この太陽を毎日観測し、その活動を常 時観測・監視している。今回は、その中心的役 割を担っている観測装置のひとつであるHα望 遠鏡でみた太陽を紹介する。
 我々が肉眼で太陽を見上げたときにみえる光 を出している部分がいわゆる太陽の表面で光球 と呼んでいる。光球にはところどころに黒点が 見える。黒点は非常に強い磁場をもっており、 黒点やその近傍から磁カ線が上空に向かって延 びていることがわかっている。この磁気ループ がガスの運動に引きずられて様々な相互作用を おこすと考えられている(具体的にどのような 相互作用が起こっているかは未だよくわかって いない)。このような領域を活動領域と呼ぶが、 活動領域の様子を詳しく調べるには、光球より 上層の彩層と呼ばれる部分を詳しく観測する必 要がある。
 CRLの太陽望遠鏡は、透過幅がわずか0.25 オングストロームの狭帯域フィルター(複屈折 干渉フィルター)を装備している。このフィル ターの中心波長を、Hα線と呼ばれる吸収スペ クトル線に正確にあわせて観測すると、その不 透明さのためにより上層の太陽大気が見えてく る。Hα線で太陽をみると、フィラメントと呼 ばれる磁気ループや、プラージュとよばれる明 るい領域などで活動領域がおおわれているのが わかる。フレア(太陽面爆発)が発生すると、 彩層が急激に明るく輝きだし、場合によっては 大規模なガスの噴出か見られる。
 図1はNOAA7590と呼ばれた活動領域の9日 間の変化を示している。西側(右側)のひとき わ大きな黒点の近くではほとんど活動的な現象 はみられず、10月2日ごろから東端のあたりで フレアがいくつか発生した。表面下から浮上し た磁気ループが周辺の磁気ループと相互作用し てエネルギーを解放したと考えられる。


▲図1 Hα線中心でみた活動領域NOAA7590の進化

 図1にみられる黒い筋模様は、磁気ループの 中に部分電離したガスが詰まって周囲より密度 が濃くなっている部分である。いわば、太陽上 空に浮かんだ雲の様なもので、下からの輻射を 一部吸収してしまうため黒く見えている。しか し、部分電離したガスでできている事、磁力線 に支えられていること(電離気体は磁カ線を横 切る向きには極めて動きにくいので、長時間閉 じこめられてしまう)、周囲は数百万度の高温 のコロナであるにもかかわらずフィラメントそ のものは数千度である事など、地球大気の雲と は大いに異なった性質のものである。この黒く 見える筋状の雲(フィラメント)が突如として 動き出す事がある。時にはそのまま太陽表面か ら惑星間空間へと飛び出していってしまい、フ ィラメント噴出などと呼ばれている。フィラメ ント噴出が発生すると、惑星間空間磁場や地球 磁気圏に擾乱を発生させる。また、活動領域の フィラメント噴出はしばしばフレアを伴う。フ ィラメントを支える磁気ループが不安定化して フレアを引き起こすという説もあり、両者は密 接に関係している事は疑いがない。
 フィラメント等の太陽大気中のガスが運動す ると、光のドップラー効果によりその波長が少 しずれる。そのズレをうまく検出してやれば、 太陽面のガスの運動速度(視線方向成分)が求 められる。フィルターの中心波長をHα線中心 から赤い方と青い方へ少しずらした 像を撮像してやる。もし、観測され たガスが我々の方へ近づいていると すると、青側のチャンネルでの吸収 量が多くなるはずである。このよう にして得られた太陽表面の視線速度 マップ(ドップラーグラム)を図2に 示す。これは、フィラメントがまさ に動いている瞬間をHαセンターの両 側に少し(0.7オングストローム)中 心波長ずらして得られたデータセッ トを解析処理して得られた速度場マ ップである(1993年8月13日)。最初 フィラメントに沿って小さなフレア がおこり、その後フィラメントが大 規模に運動を開始した。白い部分は 地球に近づいてくる方向の運動、黒 い部分は地球から遠ざかる向きである。最初ガ スが水平に近い角皮で吹き出して、その後反対 向きに戻って行ったと解釈できる。


▲図2 Hα線中心+0.7オングストロームと-0.7オングストロームの像を解析処理 して得られた太陽表面の速度場マップ。ちょうどフィラメントの不安定化で ガスが噴出しているところ。

 太陽観測において空間分解能はその観測の意 義を本質的に決定づけてしまうほど重要である。 我々は平成6年の夏ごろまでに検出器として 400万画素の高精細デジタルCCDカメラを導 入する予定でいる。これにより、デジタル撮像 のできる監視望遠鏡(全面撮像が可能な望遠 鏡)としては世界でトップクラスの性能が実現 されるものと期待している。
 このような太陽の監視観測の性質上、宇宙天 気予報のための太陽監視及び太陽活動現象の観 測的研究はデータ量と自動化との戦いとなる。 例えば、平成6年度前半に稼働開始を予定して いる新撮像システムの場合、2分に1枚程度の定 常的な監視観測でさえ1日あたり8ギガバイトの データが生み出されることを見込んでいる。よ って、計算機等の周辺技術の進歩をいち早く導 入して行くとともに、現象の自動認識やそれに 基づく望遠鏡の最適制御、解析の自動化等をめ ざして行く必要がある。
 また、よりよい空間分解能を得るためには何 よりも望遠鏡周辺の熱対策その他により、光路 上の大気がゆらがないような工夫が重要である。 例えば、望遠鏡を地上の陽炎から逃がすために タワーの上に望遠鏡を設置したり.、望遠鏡内を 真空に保つ等の様々な工夫が、得られるデータ の質を直接的に左右する。空間的に1秒角以内 の揺らぎにおさえる事が必要であるが、これは それほど簡単な事ではない。将来的には、衛星 に望遠鏡を積んで、全くゆらぎのない宇宙から の太陽観測が必要不可欠になるであろう。
 今回紹介した望遠鏡は、CRLにおける宇 宙・太陽監視に対する本格的な第一歩である。 表面磁場の測定のための望遠鏡(微小偏光測定 による)の開発もいい線までたどりつきつつあ る。精密自動分光観測のための太陽望遠鏡の設 計も開始した。少し毛色の変わったリモートセ ンシングであるが、今後CRLにおいて着実に 発展させて行きたいとおもっている。

(平磯宇宙環境センター太陽研究室)




網走における流氷のレーザ高度計観測実験


石津 美津雄

1.はじめに
 北海道のオホーツク海に面した北岸では、毎年2 月から3月に掛けて流氷が訪れる。網走や紋別など の港ではその間船の出入りかできなくなるため、漁 船は流氷の到者前に日本海側の漁港などに避難して いる。漁業には困った流氷であるが、これを観光資 源にした流水ツアーが繁盛している。本州などから たくさんの観光客がこの時期に訪れ、女満別空港の 定期航空便は観光旅行の客で満席で、港は毎日砕氷 船による流氷観望で賑わっている。今年は暖冬の影 響で流水の到来が2月中句に遅れたが、その到来を 待って、地球環境計測部光計測研究室で開発中のレ ーザ高度計を用いて、この流氷の高度観測を行い、 その様子を計測することに成功した。レーザ高度計 による流水観測は我国で初めての試みである。

2.レーザ高度計の原理
 レーザ高度計は送信レーザ光を、飛翔体に搭載し た装置から地上に向けて発射し、地表面で散乱した 光が再び装置に帰ってくる伝搬時間を計測するもの で、レーダと同じ原理である。この時間に光速度を かけて地上までの距離を求める。飛翔体の姿勢と高 度か測られていれば、地表高度が測定される。距離 精度はレーザパルスの時間幅を受信光子数の平方根 で割った値になるが、高度の精度は姿勢と飛行高度 の精度も関係してくる。レーザは内部に蓄積した工 ネルギーを瞬間に光エネルギーに変換して放出する ことが可能で、1メガワットの強カな光パルスを1 億分の1秒以下の時間で、ビデオカセット2巻分の 大きさの装置から取り出すことができる。開発した 装置はこの強カな光パルスにより、1回のパルスで 4kmの距離を6cmの精度で測ることができる。

3.開発の世界的現状
 レーザ高度計は1960年後半から既に、北極海の海 氷の量や広がりを飛行機から計測する目的で、合成 開口レーダやマイクロ波散乱計とともに米国で研究 されてきた。近年、地球規模の環境変化のひとつと して、地球温暖化か懸念されており、異常気象や北 極南極の氷の融解による海面上昇も心配されている, 地球全体の温暖化の統計的指標としては、陸地部分 に片寄った気象データよりも、海水面高度や極域の 氷の総量の方が良い。温暖化傾向を探るには、南極 の氷床高度を精度10cmで全体を1年ごとに計測す る必要がある。極地の寒冷な気象条件や氷河などの 地理的状況を考慮すると、地上や航空機から測量す ることはとうてい無理であり、衛星リモートセンシ ングに頼らざるをえない。
 レーザ高度計は、この5年間で急速に発達した高 出力半導体レーザ励起による固体レーザ技術の進歩 で、衛星搭載が可能になった。その特徴は送信レー ザ光を小さく絞り込めることにあり、高度500kmの 軌道からの地上レーザスポットの直径は100mであ る。また、パルス強度が高いため、1個のパルスで 10cmの精度のデータが得られ、起伏のある陸地でも 高密度の観測ができ、精密な地形図が作成できる。
 最初の宇宙搭載レーザ高度計は昨年NASAが打 ち上げた火星探査機(Mars Observer)に搭載さ れたMOLA(Mars Observer Laser Altimeter〉である。 2年をかけて火星表 面の詳細地図を作成 する予定であったが、 今年9月に火星軌道 に到着したところで 通信が途絶している。 しかし、今後地球の氷床や陸地高度、植生を計測す るGLAS(Geoscience Laser Altimeter System)計 画がNASAで進行している。


▲写真2 レーザ高度計光学部

 我国のレーザ高度計の開発はCRLで行われてい るだけで、また、衛星観測計画もまだ構想中の段階 であるのが現状である。しかし、その開発は今後の 我国の衛星地球観測のために重要であり、高度計シ ステムと観測基礎技術を開発しておくことがこの研 究の目標である。その1歩として今回の航空機搭載 の流水観測実験を行った。観測対象である流氷は、 極域氷床と同じく雪でおおわれ、また、高度を観測 する際に海面を高度の基準面として利用できること から対象に選んだ。また雪氷学上、流氷の形状や分 布などのデータを得ることも流氷の生成消滅過程を 解明する上に有用である。

4.網走での流氷観測
 今回の流氷観測は1993年2月16日から20日まで行 われた。この期間、我国の打ち上げた資源探査衛星 JERS-1が北海道東部上空の軌道に飛行してきて、 これに搭載した合成開口レーダの流氷観測の地上検 証実験の一環としても参加した。


▲写真3 流 氷

 観測に用いた飛行機は写真1の航空撮影用の小型 飛行機セスナ・キャラバンで、単発のターボプロッ プエンジンを搭載している。機体の床に直径50cm のカメラ用の穴があり、ここにレーザ高度計を取り 付けた。また、時速280kmの低速飛行ができるので 今回のような地形の観測に適している。これに搭載 したレーザ高度計を写真2に示す。光学部はレーザ とレーザ光を送信受信する各望遠鏡と検出器が30× 30×70cmのアルミハニカム製の光学ケースの中に 組み立てられ、パルス伝搬遅延時間を計測し記録す る電子回路部は別のラックに納められている。流氷 はオホーツク海沿岸に到来するため、網走市から20 kmほど内陸の女満別空港を基地に行った。天候は 穏やかな季節とはいえさすがに北海道で、格納庫に 納めた飛行機が衣間に冷えて、観測に離陸した後レ ーザがうまく動作するか心配であったが、起動後10 分ほどで正常に動作することができた。


▲写真1 セスナ・キャラバン

 観測は流氷やサロマ湖、周辺の陸地の上空を500 m〜2kmの高度で飛行しながら行った。上空から見 た流氷は大小の平らな板状の形をしており、海上で は写真3のように帯状に集団して漂い、海岸付近で は密集した広い流氷域を形成している。観測データ の例としてこの海上の疎らな流氷域から、密集した 領域にわたって取得したデータを図1に示す。水平 距離約8kmの区間の高度範囲12.8mの高度データを プロットしてある。高度の測定間隔は4mである。 平均高度は一定になるはずであるが、飛行機の姿勢 と高度変動のため見かけの高度変動のうねりが生じ ている。データのばらつきは波と流氷によるもので ある。図中右側部分では、ばらつきの分布が正規分 布から矩形分布に変化しており、この上限と下限が 流氷の上面と海面高度を反映している。この差は80 cmあり、これが流氷の海面とみなせる。これは流 氷の常識的高度からは高めの値とのことであるが、 今後、観測を重ねて詳しく調べることにしている。


▲図1 レーザ高度計による流氷観測データ

 今後は飛行機の姿勢や高度誤差による高度変動を 取り除き、氷床の絶対高度を観測できるようにする とともに、衛星搭載に向けて観測技術を蓄積して行 く。

(地球環境計測部主任研究官)




《研究部紹介シリ−ズ》

通信科学部


飯田 尚志

 通信科学部は、本年7月の機構改革により、それ までの通信技術部の中から信号処理研究室と通信方 式研究室、情報管理部の電子計算機室の中から研究 を行う部門で構成した情報処理研究室、および業務 係から発足したもので、主としてソフトウェアを手 段とし通信・情報に関する基礎的研究を行う研究部 である。全要員は21名である。
 信号処理研究室は、視覚を入力とし、眼球運動を 出カとする人間の脳の動作を理論、モデル化、実験 の側面から神経回路網情報処理の研究を進めている。 この際の視覚や眼球運動にいくつか面白い現象(フ ィリング・イン、サッケード運動中の空間知覚の歪、 等)を発見し、その面白い現象を手がかりとして脳 の働きを解明しようとしている。将来はニューロコ ンピュータを実現できると期待している(詳しくは CRLニュースNo.185号および本年秋の研究発表 会参照)。脳は広大な宇宙であり、このような限ら れた人的資源でどこまで食い込めるものなのかまだ 見えないような気がする。これを少しでも打ち破る ために広く大学の先生方とつきあいがあり、今後の 活躍に期待したい。
 通信方式研究室は、陸上移動通信におけるディジ タル無線伝送の高品質化、高能率化、及び高速化を 実現するための誤り制御技術、高能率変調技術、高 速化のための選択性フェージング対策技術等の各種 通信技術の研究開発を行ってきた。最近では、16Q AM方式の提案、実験による実証を行い、フェージ ング歪補償という技術を世界に先駆けて開発した (詳しくはCRLニュースNo.160号参照)。今後は、 さらに高速の伝送技術を開発しようとしている。
 本研究室は、当所の重要なプロジェクトの柱であ る周波数資源開発プロジェクトの中で、インテリジ ェント電波有効利用、マイクロ波移動通信、および、 ミリ波構内通信における変復調方式の研究という重 要な位置を占めている。本研究部が発足するに当た り、主として同プロジェクトを担当する総括主任研 究官が配置された。また、本研究室は毎年学部、修 士の学生等を研修生として受け入れており現在でも 6名を指導している。このことは研究の推進にとっ て非常に強力な助けとなっている。しかし、所の重 要プロジェクトの中枢としてはもっと本格的な、し かもダイナミックな人的投入を図る必要があるよう な気かする。
 情報処理研究室は、地球環境計測・情報ネットワ ークに関する研究の一環として、各種の地球環境デ ータの相互利用に必要となる動画像マルチメディア 情報処理、情報検索、ネットワーク接続・伝送技術 の研究を行っている。この研究室では所内ネットワ ークの管理運用の技術的支援も行っている。本研究 室は、現在のところ、従来の電子計算機室における 計算機の運用というルーチン業務から情報処理とい う間口の広い研究を行う研究室への衣替えを行って いるところである。
 さらに、業務係は1名体制であり、研究活動の広 がりと共に業務が極めて忙しくなっているのが実情 である。
 以上、当部の研究を概観したが、周波数資源開発 プロジェクトがユーザに利便性を与え、社会的還元 が求められる研究を行っているとはいえ、このよう な基礎的研究でしかも主としてソフトウェアが手段 の研究では、論文発表しか成果を示すものがないと いってもよいであろう。このことは研究者に極めて 厳しい側面を求めるものである。当事者がこのこと を十分認識した上で、研究のマネージメントとして は、自分達だけに分かる成果ではなく、如何に世の 中の人に納得できる成果を上げていくか、それを精 神的な負担を最小にしつつ、自然に成し遂げていく ような仕組み(研究環境)を如何に作っていくかが 問われていると思っている。

〈通信科学部長)




《長期外国出張》

ロサンゼルスに滞在して


田中 正人

 私は平成4年度科学技術庁の長期在外研究員とし て、ロサンゼルスにあるUCLAに1年間滞在しま した。UCLAはロサンゼルス空港から北へ車で30 分ぐらいのウエストウッド地区にあります。ウエス トウッドはサンタモニカとビバリーヒルズの間にあ り映画館、レストラン、ブティックが立ち並び、学 生や観光客でにぎわっています。UCLAは州立の カリフォルニア大学の分校の1つで、アメリカンフ・ ットボールやバスケットの名門校であるとともに、 高校での成績が優秀な人が集まっている学業優秀校 です。昼休みともなれば、大学構内の芝生は本を広 げて勉強している学生で溢れています。また、UC LAは観光ポイントになっていて、アッカーマンユ ニオンという学生生協では、UCLAのロゴ人りの 買い物袋を持っている日本人観光客を毎日見かけま した。
 私が所属していたのは電気工学科のDr.Itoh教授 の研究室です。ここでは、ミリ波アクティブアンテ ナや電磁界解析の研究を行っています。学生は全部 で15人で、うち3分の2がアジア系です。この研究 室では毎週1回、ミーティングが行われます。ミー ティングでは研究室の学生全員が前の1週間でやっ た研究の内容や現在の研究状況を報告し、これに対 して教授が指導を行います。1人当たり10分ぐらい かけて議論しますが、時には1時間ぐらいかかるこ ともあります。研究の進み具合が遅かったり、曖昧 な理解をしていたりするとすぐに教授から厳しく叱 咤されますので、ミーティングにはかなりの緊張感 が漂っています。このため、学生も研究熱心で普段 はお茶の時間もなく計算機に向かい、中には土、日 も研究室に来る学生もいました。
 ところで、ロサンゼルスに行く半年前にロス暴動 があって行き先の選択を誤ったかと思いましたが、 生活してみるとそれほど恐いところではないと感じ ました。治安の悪い地域と良い地域がわりとはっき り分かれていて、治安の悪い地域へ入り込まないよ うにさえしていれば安全です。UCLAのまわりは ロサンゼルスの中でも特に安全で、夜も普通に歩け ます。
 ロサンゼルスの夏はほんとうに快適で、毎日青空 が広がっています。日差しは強いのですが日陰に入 ると涼しく感じます。冬もそれほど寒くなく、1年 を通して大変生活しやすいところです。アメリカ人 の中にはロサンゼルスのある南カリフォルニアで老 後を送るのが夢という人もいます。私も実際ロサン ゼルスで生活してみて、そういう思いが実感できま した。もしかしたら、老後は強い円を頼りにロサン ゼルスで暮らすかもしれません。
 ロサンゼルス滞在中にいろいろな所を旅行しまし たが、中でも印象に残っているのはサンフランシス コに住んでいるアメリカ人ファミリーを訪ねて行っ て1晩泊めてもらったことです。知り合ったのはこ のアメリカ人の奥さんがたまたま私のアパートの近 くの公園に遊びに来ていて私の妻と話をしたのがき っかけでした。訪ねて行った日はターキーの丸焼き で歓迎してくれました。アルコールが入ると分から ない英語も分かった気になり、アメリカの健康保険 制度や日本の物価高などを酒の肴に話が弾み、ディ ナーはあやしげな日米交流の場となりました。次の 日は朝食をごちそうになり、そのあとサンフランシ スコ市内を案内して項きました。私はアメリカ人の 生活ぶりを映画でしか見たことがなく、実際泊めて もらい生活ぶりを見ることができ感激しました。
 最後に、このような貴重な機会を与えて頂いた科 学技術庁研究開発局宇宙国際課、郵政省通信総合研 究所の関係者各位に感謝致します。

(衛星間通信研究室)





≪研修生シリーズ≫

CRLに滞在して


藤田 晃

 私は千葉工業大学電気工学科4年の学生です。今 年の6月から研修生として通信総合研究所に通って います。来年の2月頃までこちらで研究をし、卒業 論文を執筆する事になっています。6月に来た頃は 電波応用部電波計測研究室に入りましたが、今は研 究室の変更等があり、地球環境計測部電波計測研究 室になっています。6月、7月中は大学の前期の講 義かいくつか残っていたので週に2日間だけ研究所 に通っていましたか、8月以降は必要な単位は取っ たので卒業論文に専念する事になり、ほぼ毎日研究 所に通っています。最近では大学に行く事も少なく なり大学の友人と会う事もほとんどないので、自分 が大学生なのを忘れてしまいそうになります。私の 家は千葉県の柏市にあり研究所に来るために2時間 以上かかります。しかもラッシュアワーの都心を通 過して来なければなりません。特に常磐線の電車は 朝もタ方も混んでいるので大変です。お茶の水駅か ら武蔵小金井駅まで中央線で来ますが、朝の時間は 下りの電車は空いているので30分ぐらい本などを 読みながら来ています。
 現在、私が取り組んでいる事は去年(1993 年)の2月18日と19日に行われたオホーツク海 の流氷観測実験のデータ解析を行う事です。この実 験では人工街星に搭載された合成開口レーダと航空 機に搭載された実開口レーダを用いてオホーツク海 の流氷を観測するというもので、ほぼ同時刻に北海 道の網走沖を通過したヨーロッパの人工衛星ERS -1と日本の人工衛星JERS-1の合成開口レー ダのデータと、それに合わせて同時刻、同地点を飛 行した航空機の実開ロレーダのそれぞれのデータを 比較、検討し流氷の分布や海水面と流水の識別、流 氷の散乱係数の周波数特性、入射角特性について調 べるのか目的です。今のところデータの収集や整理 をしているところで、これから論文としてまとめる 作業に入ります。
 最初、研究所に来たばかりの時は、わからない事 ばかりで何をしていいかわからずオロオロしていま した。とりあえずリモートセンシングに関する資科 を読んだり英語の論文を訳したりしていました。そ れまでリモートセンシングの事は何も知らなかった のですが、徐々に勉強していきました。また、私は コンピュータに詳しくなかったので、パソコンやワ ークステーションの使い方も覚えねばならず、C言 語のプログラミングの練習などもしていました。研 究所の方は皆さんコンピュータに詳しい人ばかりで 仕事で忙しいにもかかわらず、全くの素人を相手に いろいろ親切に教えていただいたり助けていただき ました。私のいる研究室には研修生が私一人なので、 皆さん寄ってたかって教えてくれました。7月にな ると、研究所の人事異動があり研究室の名前が地球 環境計測部電波計測研究室に変わり、研究員の方も 大幅に変わってしまいました。当初、私の研究を指 導してくれた方が鹿島に移ってしまって多少不安で したが、そのまま研究は続ける事になりました。こ の頃は部屋の引っ越しなどがあって研究員の方々は たいへん忙しそうにしていましたが、いろいろ親切 にしていただきました。
 研究所の設備は私の大学の研究室と比べると、コ ンピュータ等、格段にいいものが数多くあって驚き ました。大学では数少ないコンピュータを学生が順 番で使っていますか、こちらでは私一人でほとんど 制限もなく使わせてもらっています。また、大学の 研究室は非常に狭いので4年生には自分の机があり ませんが、私は大きな机を貸してもらっているので、 その点では他の学生より恵まれています。
 研究所の方々には卒業論文やその他のことで手伝 っていただき大変お世話になりました。大学とは違 った貴重な体験ができたと思います。



短 信




すばる望遠鏡(8m)観測装置ワークショップ開催


 文部省国立天文台が1998年観測開始を目指して、 ハワイ島マウナケア山(標高4200m)山頂に建設中 の口径8mの望遠鏡(愛称:すばる)に取り付ける 観測装置の開発が進んでいる。これら観測装置の開 発についての検討・議論のために、全国の天文学及 び関連分野の研究者が集まり、1994年1月11、12日 にCRL大会議室でワークシヨップが開催された。
 観測装置として、現在提案されているものは、赤 外分光撮像装置(IRCS:1〜5μm)、ステラー コロナグラフ(Cl AO:1〜5μm)、中間赤外分 光器(COMl CS:8〜13μm)、高分散グレーテ ィング分光器(HDS:主に可視域、分解能10^5)、 可視撮像分光装置(FOCAS)などかある。また. 大気揺らぎを実時間で補正して、空間分解能を1桁 (0.5”→0.05”)改善する補償光学系の開発が進ん でいる。
 このワークショップでは、これらの装置の開発の 現状をレビュワーが批判的に紹介し、それに対して 開発担当者が答えるという形で、活発な議論が行わ れた。また、新たな装置の提案等もなされた。

(宇宙通信部 高見英樹)


▲会場の様子(4号館大会議室)



異文化間コミュニケーション講演会開催


 12月1日、出版委員全は職員を対象に「異文化間 コミュニケーション」と題してF.J.クディラ氏に よる講演会を開催しました。
 クディラ氏は「西洋人は2人以上集まるとコミュ ニケーションが必要になる。ところが日本人は人間 関係が事のはじまりだった」と氏の日本での30年の 生活や経験をユーモアを交え紹介し、今後異文化と のコミュニケーションのもち方について@人間対人 間として接する、A接点を探し出す、B難しくても 拒否をしない。そのことをエンジョイする、C学ぶ 心をもつの4段攻めの気持ちが大切とまとめていま した。
 聴講者は、本所で101名と大変な盛況で、出席者か らは「おもしろかった」「ためになった」との感想か よせられました。講演 会はTV会議システム で支所・観測所に放送 されました。
 出版委員会は今後も. 研究者の英語による論 文発表や口頭発表のカ を向上させるための講 演会を計画いく事にし ています。

(技術管理課 出版課長)


▲熱論するクディラ氏



科学技術講演会開催のお知らせ


 4月18日の発明の日にちなんだ科学技術週間の行 事としまして、当所では下記により最新の成果を紹 介する講演全を開催いたします。
 一般の方々を対象とした講演内容です。多数のご 来所をお待ちしております。
 講演日時 :平成6年4月13日水曜日
       午後2時から午後4時まで
場    所:通信総合研究所4号館大会議室
対    象:一般(申し込み不要)
間い合わせ先:企画部企画課広報係
       電話:0423−27−7465(ダイヤルイン)



研究談話会−採用後3年間の報告−


 今年より採用後3年を経た研究職員が、所内の研 究発表の場である研究談話会で3年間の研究活動の 報告を行なうことになった。対象者18名のうち、1 月の研究談話全で吉川(鹿島センター)、青木(地 球環境計測部)、佐藤(電磁波技術部)、張(関西支 所)、田(平磯センター)の5研究者が発表を行なっ た。第2陣は2月以降の研究談話会で行われる。
 当日は所長をはしめ多くの聴講者があり、質疑応 答も活発に行われた。いろいろの分野の発表があっ たこと、短いトピックの報告ではなく3年間の報告 であることから、いつもとはひと味異なった談話会 であった。
 最近の談話会では所属部の者しか聴講しない傾向 があるが、このように異分野の発表も積極的に聴講 し、談話会が研究交流の場として一層活性化される よう努カしたい。

(企画課)


▲発表中の張兵さん