▲図1 Hα線中心でみた活動領域NOAA7590の進化
図1にみられる黒い筋模様は、磁気ループの
中に部分電離したガスが詰まって周囲より密度
が濃くなっている部分である。いわば、太陽上
空に浮かんだ雲の様なもので、下からの輻射を
一部吸収してしまうため黒く見えている。しか
し、部分電離したガスでできている事、磁力線
に支えられていること(電離気体は磁カ線を横
切る向きには極めて動きにくいので、長時間閉
じこめられてしまう)、周囲は数百万度の高温
のコロナであるにもかかわらずフィラメントそ
のものは数千度である事など、地球大気の雲と
は大いに異なった性質のものである。この黒く
見える筋状の雲(フィラメント)が突如として
動き出す事がある。時にはそのまま太陽表面か
ら惑星間空間へと飛び出していってしまい、フ
ィラメント噴出などと呼ばれている。フィラメ
ント噴出が発生すると、惑星間空間磁場や地球
磁気圏に擾乱を発生させる。また、活動領域の
フィラメント噴出はしばしばフレアを伴う。フ
ィラメントを支える磁気ループが不安定化して
フレアを引き起こすという説もあり、両者は密
接に関係している事は疑いがない。
フィラメント等の太陽大気中のガスが運動す
ると、光のドップラー効果によりその波長が少
しずれる。そのズレをうまく検出してやれば、
太陽面のガスの運動速度(視線方向成分)が求
められる。フィルターの中心波長をHα線中心
から赤い方と青い方へ少しずらした
像を撮像してやる。もし、観測され
たガスが我々の方へ近づいていると
すると、青側のチャンネルでの吸収
量が多くなるはずである。このよう
にして得られた太陽表面の視線速度
マップ(ドップラーグラム)を図2に
示す。これは、フィラメントがまさ
に動いている瞬間をHαセンターの両
側に少し(0.7オングストローム)中
心波長ずらして得られたデータセッ
トを解析処理して得られた速度場マ
ップである(1993年8月13日)。最初
フィラメントに沿って小さなフレア
がおこり、その後フィラメントが大
規模に運動を開始した。白い部分は
地球に近づいてくる方向の運動、黒
い部分は地球から遠ざかる向きである。最初ガ
スが水平に近い角皮で吹き出して、その後反対
向きに戻って行ったと解釈できる。
▲図2 Hα線中心+0.7オングストロームと-0.7オングストロームの像を解析処理 して得られた太陽表面の速度場マップ。ちょうどフィラメントの不安定化で ガスが噴出しているところ。
太陽観測において空間分解能はその観測の意
義を本質的に決定づけてしまうほど重要である。
我々は平成6年の夏ごろまでに検出器として
400万画素の高精細デジタルCCDカメラを導
入する予定でいる。これにより、デジタル撮像
のできる監視望遠鏡(全面撮像が可能な望遠
鏡)としては世界でトップクラスの性能が実現
されるものと期待している。
このような太陽の監視観測の性質上、宇宙天
気予報のための太陽監視及び太陽活動現象の観
測的研究はデータ量と自動化との戦いとなる。
例えば、平成6年度前半に稼働開始を予定して
いる新撮像システムの場合、2分に1枚程度の定
常的な監視観測でさえ1日あたり8ギガバイトの
データが生み出されることを見込んでいる。よ
って、計算機等の周辺技術の進歩をいち早く導
入して行くとともに、現象の自動認識やそれに
基づく望遠鏡の最適制御、解析の自動化等をめ
ざして行く必要がある。
また、よりよい空間分解能を得るためには何
よりも望遠鏡周辺の熱対策その他により、光路
上の大気がゆらがないような工夫が重要である。
例えば、望遠鏡を地上の陽炎から逃がすために
タワーの上に望遠鏡を設置したり.、望遠鏡内を
真空に保つ等の様々な工夫が、得られるデータ
の質を直接的に左右する。空間的に1秒角以内
の揺らぎにおさえる事が必要であるが、これは
それほど簡単な事ではない。将来的には、衛星
に望遠鏡を積んで、全くゆらぎのない宇宙から
の太陽観測が必要不可欠になるであろう。
今回紹介した望遠鏡は、CRLにおける宇
宙・太陽監視に対する本格的な第一歩である。
表面磁場の測定のための望遠鏡(微小偏光測定
による)の開発もいい線までたどりつきつつあ
る。精密自動分光観測のための太陽望遠鏡の設
計も開始した。少し毛色の変わったリモートセ
ンシングであるが、今後CRLにおいて着実に
発展させて行きたいとおもっている。
(平磯宇宙環境センター太陽研究室)
1.はじめに
北海道のオホーツク海に面した北岸では、毎年2
月から3月に掛けて流氷が訪れる。網走や紋別など
の港ではその間船の出入りかできなくなるため、漁
船は流氷の到者前に日本海側の漁港などに避難して
いる。漁業には困った流氷であるが、これを観光資
源にした流水ツアーが繁盛している。本州などから
たくさんの観光客がこの時期に訪れ、女満別空港の
定期航空便は観光旅行の客で満席で、港は毎日砕氷
船による流氷観望で賑わっている。今年は暖冬の影
響で流水の到来が2月中句に遅れたが、その到来を
待って、地球環境計測部光計測研究室で開発中のレ
ーザ高度計を用いて、この流氷の高度観測を行い、
その様子を計測することに成功した。レーザ高度計
による流水観測は我国で初めての試みである。
2.レーザ高度計の原理
レーザ高度計は送信レーザ光を、飛翔体に搭載し
た装置から地上に向けて発射し、地表面で散乱した
光が再び装置に帰ってくる伝搬時間を計測するもの
で、レーダと同じ原理である。この時間に光速度を
かけて地上までの距離を求める。飛翔体の姿勢と高
度か測られていれば、地表高度が測定される。距離
精度はレーザパルスの時間幅を受信光子数の平方根
で割った値になるが、高度の精度は姿勢と飛行高度
の精度も関係してくる。レーザは内部に蓄積した工
ネルギーを瞬間に光エネルギーに変換して放出する
ことが可能で、1メガワットの強カな光パルスを1
億分の1秒以下の時間で、ビデオカセット2巻分の
大きさの装置から取り出すことができる。開発した
装置はこの強カな光パルスにより、1回のパルスで
4kmの距離を6cmの精度で測ることができる。
3.開発の世界的現状
レーザ高度計は1960年後半から既に、北極海の海
氷の量や広がりを飛行機から計測する目的で、合成
開口レーダやマイクロ波散乱計とともに米国で研究
されてきた。近年、地球規模の環境変化のひとつと
して、地球温暖化か懸念されており、異常気象や北
極南極の氷の融解による海面上昇も心配されている,
地球全体の温暖化の統計的指標としては、陸地部分
に片寄った気象データよりも、海水面高度や極域の
氷の総量の方が良い。温暖化傾向を探るには、南極
の氷床高度を精度10cmで全体を1年ごとに計測す
る必要がある。極地の寒冷な気象条件や氷河などの
地理的状況を考慮すると、地上や航空機から測量す
ることはとうてい無理であり、衛星リモートセンシ
ングに頼らざるをえない。
レーザ高度計は、この5年間で急速に発達した高
出力半導体レーザ励起による固体レーザ技術の進歩
で、衛星搭載が可能になった。その特徴は送信レー
ザ光を小さく絞り込めることにあり、高度500kmの
軌道からの地上レーザスポットの直径は100mであ
る。また、パルス強度が高いため、1個のパルスで
10cmの精度のデータが得られ、起伏のある陸地でも
高密度の観測ができ、精密な地形図が作成できる。
最初の宇宙搭載レーザ高度計は昨年NASAが打
ち上げた火星探査機(Mars Observer)に搭載さ
れたMOLA(Mars
Observer Laser
Altimeter〉である。
2年をかけて火星表
面の詳細地図を作成
する予定であったが、
今年9月に火星軌道
に到着したところで
通信が途絶している。
しかし、今後地球の氷床や陸地高度、植生を計測す
るGLAS(Geoscience Laser Altimeter System)計
画がNASAで進行している。
▲写真2 レーザ高度計光学部
我国のレーザ高度計の開発はCRLで行われてい
るだけで、また、衛星観測計画もまだ構想中の段階
であるのが現状である。しかし、その開発は今後の
我国の衛星地球観測のために重要であり、高度計シ
ステムと観測基礎技術を開発しておくことがこの研
究の目標である。その1歩として今回の航空機搭載
の流水観測実験を行った。観測対象である流氷は、
極域氷床と同じく雪でおおわれ、また、高度を観測
する際に海面を高度の基準面として利用できること
から対象に選んだ。また雪氷学上、流氷の形状や分
布などのデータを得ることも流氷の生成消滅過程を
解明する上に有用である。
4.網走での流氷観測
今回の流氷観測は1993年2月16日から20日まで行
われた。この期間、我国の打ち上げた資源探査衛星
JERS-1が北海道東部上空の軌道に飛行してきて、
これに搭載した合成開口レーダの流氷観測の地上検
証実験の一環としても参加した。
▲写真3 流 氷
観測に用いた飛行機は写真1の航空撮影用の小型
飛行機セスナ・キャラバンで、単発のターボプロッ
プエンジンを搭載している。機体の床に直径50cm
のカメラ用の穴があり、ここにレーザ高度計を取り
付けた。また、時速280kmの低速飛行ができるので
今回のような地形の観測に適している。これに搭載
したレーザ高度計を写真2に示す。光学部はレーザ
とレーザ光を送信受信する各望遠鏡と検出器が30×
30×70cmのアルミハニカム製の光学ケースの中に
組み立てられ、パルス伝搬遅延時間を計測し記録す
る電子回路部は別のラックに納められている。流氷
はオホーツク海沿岸に到来するため、網走市から20
kmほど内陸の女満別空港を基地に行った。天候は
穏やかな季節とはいえさすがに北海道で、格納庫に
納めた飛行機が衣間に冷えて、観測に離陸した後レ
ーザがうまく動作するか心配であったが、起動後10
分ほどで正常に動作することができた。
▲写真1 セスナ・キャラバン
観測は流氷やサロマ湖、周辺の陸地の上空を500
m〜2kmの高度で飛行しながら行った。上空から見
た流氷は大小の平らな板状の形をしており、海上で
は写真3のように帯状に集団して漂い、海岸付近で
は密集した広い流氷域を形成している。観測データ
の例としてこの海上の疎らな流氷域から、密集した
領域にわたって取得したデータを図1に示す。水平
距離約8kmの区間の高度範囲12.8mの高度データを
プロットしてある。高度の測定間隔は4mである。
平均高度は一定になるはずであるが、飛行機の姿勢
と高度変動のため見かけの高度変動のうねりが生じ
ている。データのばらつきは波と流氷によるもので
ある。図中右側部分では、ばらつきの分布が正規分
布から矩形分布に変化しており、この上限と下限が
流氷の上面と海面高度を反映している。この差は80
cmあり、これが流氷の海面とみなせる。これは流
氷の常識的高度からは高めの値とのことであるが、
今後、観測を重ねて詳しく調べることにしている。
▲図1 レーザ高度計による流氷観測データ
今後は飛行機の姿勢や高度誤差による高度変動を
取り除き、氷床の絶対高度を観測できるようにする
とともに、衛星搭載に向けて観測技術を蓄積して行
く。
(地球環境計測部主任研究官)
《研究部紹介シリ−ズ》
〈通信科学部長)
《長期外国出張》
(衛星間通信研究室)
≪研修生シリーズ≫
すばる望遠鏡(8m)観測装置ワークショップ開催
(宇宙通信部 高見英樹)
▲会場の様子(4号館大会議室)
異文化間コミュニケーション講演会開催
(技術管理課 出版課長)
▲熱論するクディラ氏
12月1日、出版委員全は職員を対象に「異文化間
コミュニケーション」と題してF.J.クディラ氏に
よる講演会を開催しました。
クディラ氏は「西洋人は2人以上集まるとコミュ
ニケーションが必要になる。ところが日本人は人間
関係が事のはじまりだった」と氏の日本での30年の
生活や経験をユーモアを交え紹介し、今後異文化と
のコミュニケーションのもち方について@人間対人
間として接する、A接点を探し出す、B難しくても
拒否をしない。そのことをエンジョイする、C学ぶ
心をもつの4段攻めの気持ちが大切とまとめていま
した。
聴講者は、本所で101名と大変な盛況で、出席者か
らは「おもしろかった」「ためになった」との感想か
よせられました。講演
会はTV会議システム
で支所・観測所に放送
されました。
出版委員会は今後も.
研究者の英語による論
文発表や口頭発表のカ
を向上させるための講
演会を計画いく事にし
ています。