鹿島宇宙通信センター30周年を迎えて


杉浦 行

鹿島の名所旧跡
 「茨城県鹿島町」の名前は、サッカー「鹿島ア ントラーズ」のお蔭で、今や全国津々浦々まで知 れ渡っています。町にあるアントラーズの練習場 や県立サッカー場は観光コースの目玉になってい ます。でも昔は、海の見える小高い丘にある通信 総合研究所鹿島宇宙通信センター(当時は電波研 究所鹿島支所)が観光の目玉でした。
 「パラボラ」の通称で知られている鹿島支所が 設立されたのは、今から30年前の昭和39年5月で す。その当時の鹿島は、町の人口が1万6千人程 度で、国鉄の駅がある佐原まで20kmの道をバス で行くしかない陸の孤島でした。ただ、伊勢神官 に次いで格式が高く、戦の神様として崇拝されて いた「鹿島神宮」だけが大昔から全国的に知られ ていました。このような門前町を一変したのが、 昭和37年から始まった「鹿島臨海工業地帯」の建 設で、鹿島支所が出来た39年には大規模な土地買 収が始まりました。
  

「パラボラ」
 当時、我が国では宇宙開発はやっと緒についた ばかりでした。勿論、当所も人工衛星については 素人でしたが、昭和32年にソ連の衛星「スプート ニク」が成功すると、衛星通信が近い将来有望に なることを予想して、宇宙通信の調査研究を始め ました。すなわち、昭和36年には研究所に宇宙通 信研究室を新設し、衛星用地上局の場所として鹿 島を選び、アンテナの建設に着手しました。その 後、我が国最大の直径30mのパラボラ・アンテナ が完成し、昭和39年5月には2研究室からなる鹿 島支所ができ、本格的な宇宙通信実験を開始しま した。この時の苦労話については、25周年記念の 回想録「パラボラと共に」に詳しく書かれていま すから御覧下さい。とにかく、芋畑の中に写真の ような巨大なアンテナができ、ぐるぐる回るわけ ですから近郷近在で一躍有名になりました。当時、 NHKテレビが毎日このアンテナの映像を全国に 放映しましたから、「パラボラ」は鹿島神宮と共 に鹿島のシンボルになりました。


▲創立時の直径30mのパラボラ・アンテナ

  

揺籃期(昭和40年代)
 鹿島支所のデビューは、昭和39年10月に開催さ れた東京オリンピックの衛星中継でした。この時、 史上始めてオリンピックのテレビ映像を人工衛星 を介して米国に送りましたが、大成功で世界的な 反響がありました。それ以後、米国の様々な実験 衛星を使ったテレビ伝送や多元接続などの衛星通 信の実験を行い、その基本特性の研究と習熟に努 めました。今日の気象衛星の基礎となる雲分布画 像の受信なども行いました。また、ロケットや衛 星が打ち上がる度に、衛星追尾や軌道要素の観測 推定を行いました。さらに、昭和42年から、当所 が我が国初の実用衛星である「電離層観測衛星 (ISS)」を開発することになり、その追尾管制 施設も鹿島に出来ました。
 一方、電波天文の分野でも、直径30mや直径26 mの大型アンテナを使った観測研究が大学と協同 で始まり、X線天体からの電波の受信など世界的 に注目される成果を挙げました。
 この間、鹿島の町は「臨海工業地帯」の整備に 伴って人口が倍増し、昭和50年度には3万7千人 になりました。また、国鉄も開通しています。
  

独立期(昭和50年代)
 この時期になると、ISSを初め、実験用通信 衛星(CS)や実験用放送衛星(BS)などの国 産衛星が次々と打ち上がり、本格的な衛星実験の 時代に突入しました。鹿島支所は我が国の衛星実 験の中核として活躍し、多くの研究成果を挙げま した。特に、準ミリ波帯衛星通信や個別受信衛星 放送の実用化技術の確立を図り、今日の通信放送 衛星の基礎を作りました。また、追尾技術も上達 し、数多くの衛星を昼夜を分かたず管制しました。 この大活躍の時代に鹿島支所の職員数は急激に増 加し、70名を越えるようになりました。
 さらに、準ミリ波やミリ波帯の電波を使った衛 星通信を開発するために、雨による電波の減衰特 性を研究し、多機能降雨レーダも開発しました。 これが、その後の当所におけるリモートセンシン グ研究の発端になりました。一方、電波天文グル ープは当所の衛星通信技術と周波数標準技術を駆 使して、最先端の計測技術であるVLBIシステ ムの開発に挑戦しました。その結果、昭和58年に は世界で初めて太平洋VLBI実験を行い、日米 間の距離をcmの精度で測定しました。


▲鹿島宇宙通信センターにおける研究

  

発展期(昭和60年〜現在)
 昭和50年代に当所が計画していた移動体用通信 衛星の構想は、昭和62年に打ち上げられた技術試 験衛星(ETS−V)で実を結びました。鹿島支 所は、小型船舶、航空機、車両を対象とした統合 的な衛星通信技術の確立のため、この衛星を用い て各種の開発実験を行いました。例えば、移動体 に適したアンテナの開発を行い、その成果は、国 際線のジャンボ機にも利用されました。また、郵 政省が主宰するパートナーズ計画を推進し、大平 洋諸国とテレビ会議実験を行うなど、広範な衛星 利用形態の開発と技術移転に指導的な役割を果た しました。この功績により、電波システム開発セ ンター会長賞を本年受賞しました。さらに現在は、 今夏に打ち上げ予定のETS−$K$h$k1R@14VDL 信模擬実験の準備や、将来の高度衛星通信放送技 術の研究開発に重点を移しています。
 一方、衛星管制グループは、通信放送機構の設 立などにより、昭和60年代になるとその使命を終 えました。その後、それまでの高度な軌道計算や 管制技術を用いてクラスター衛星(分散衛星)を開 発しようとする動きが生まれ、現在その研究を着 実に進めています。
 また、リモートセンシング・グループは、我が 国を代表するマイクロ波リモートセンシング・グ ループに成長しました。例えば、鹿島では2偏波 レーダや航空機搭載用降雨レーダを開発しました。 最近では、日米共同プロジェクトである熱帯降雨 観測衛星(TRMM)計画に参加し、その基本部 分である衛星搭載用降雨レーダの先行的研究及び アルゴリズムの開発を行っています。
 VLBIグループは、その後も米国と観測を続 け、プレート運動を高精度に測定しました。その 功績によりNASA長官賞を受賞しました。この 外、世界中の様々な国と共同観測を行いました。 南極でも世界で初めてVLBI実験をしました。 さらに、日本周辺のプレート運動も測定しました。 これらの多様な観測実験の外に、最先端の観測シ ステムの開発も行っており、近年、国際機関から 「VLBI技術開発センター」に指名されました。 さらに、首都圏直下型地震の基礎データを集める ために、VLBI等を用いた地殻変動観測施設を 鹿島および研究所本所(小金井〉など4か所に設 置することになり、現在その技術開発と施設整備 に全力を傾けています。このように、鹿島のVL BIグループは今や世界のトップに立っていると 言っても過言ではないと思われます。


▲鹿島宇宙通信センター職員数の変化

  

終わりに
 鹿島町民に親しまれてきた「電波研究所」鹿島 支所の名前は、平成元年に現在の「通信総合研究 所」関東支所鹿島宇宙通信センターに変わりまし た。また、開設当時の直径30mの「パラボラ」 は昭和50年に撤去されましたが、その後、多くの 「パラボラ」が新たに建設されました。
 鹿島宇宙通信センターの研究内容も、この30年 間に大きく変わり、拡がり、発展してきました。 また、優秀な若手人材も多数集まってきました。 当センターのこれまでの研究開発は、衛星や大型 アンテナを足場にして宇宙と地球の両方に向いて きました。これからも、この有利な研究環境を利 用して、様々な事が無尽蔵に出来るような気がし ます。宇宙監視などの新しい研究テーマを発掘し、 広範囲な宇宙利用を対象にした「鹿島宇宙利用研 究センター」を作りたいと考えています。これか らの10年は、新しい「飛躍」の時代になると思い ます。

(関東支所長)




標準電波利用状況アンケートの結果


森川 容雄

 「皆さんは何を基準に時計を合わせていますか?」 この質間に大半の方は「ラジオやテレビの時報また はNTT117番」とお答えになるでしょう。それでは 放送局やNTTは何を基準にしているのでしょう か?正解は「通信総合研究所の短波標準電波(JJ Y)が放送している日本標準時」です。JJYは日 本の周波数・時間標準の供給手段として既に半世紀 の歴史を持っています。しかし、最近の科学技術の 進歩により衛星通信やコンピュータ通信の普及、光 ファイバ網の展開等、電気通信分野の情勢も大きく 変化しており、周波数や時間の標準に対する二ーズ も昔と大きく変わってきています。新しい二ーズに は新しい標準の供給法が必要です。
 このため、将来の周波数・時間標準の供給法の在 り方を検討するために、昨年11月に標準電波の利用 状況に関するアンケートを実施しました。その結果 約530通の回答をいただき、標準電波の利用実態が 明らかになるとともに、今後の標準供給の在り方を 考える上で参考になるデータを得ることができまし たので、アンケート結果をご紹介します。
 まず、アンケートの回答者ですが、放送局、通信 事業者、メーカ、衛星事業者、電子機器関連商社、 金融機関、鉄道事業者、船舶等の無線局、大学、国 立研究機関、官庁、アマチュア天文家等、多岐にわ たっており、回答者の約6割が何らかの形で標準電 波を利用していました。
 図1は標準電波の利用目的のグラフですが、利用 者の約8割が時刻の基準として標準電波を利用して いました。中でも、一般に広く利用されている放送 局やNTT等の二次報時機関はほぼ100%が時刻の 基準としてJJYを利用しています。また、全国の 地震観測網でも地震発生時刻の基準としてJJYを 利用しており、JJYか社会的基盤の一つとして重 要な役割を果たしていることを改めて認識しました。


▲図1 標準電波の利用目的

 さらに、船舶無線局の多くが時計の照合にJJY を利用していると回答していますが、このグループ は二次報時機関や地震観測網ほどの精度は必要とし ておらず、ラジオの時報や外国の標準電波等を利用 しているという回答もかなりありました。
 一方、鉄道事業者、通信事業者、金融機関のよう に正確な時間を必要としていると予想していた業種 では主に二次報時機関を利用しており、標準電波は あまり利用していないことがわかりました。ただし、 これらの業種からもテレフォンJJYや長波時刻コ ード等の新しい供給法に強い関心を示す声が寄せら れています。また、コンピュータや電子機器の内蔵 時計を自動的に合わせたいという二ーズも大きくな ってきています。その意味で、新しい標準時の供給 法が求められているといえます。
 標準電波を周波数の基準として利用しているグル ープは利用者全体の12%程度と時刻の利用者に比ベ 少なくなっています。これは通信機器、計測器等の 性能が向上し、一般ユーザは周波数精度を意識する 必要がなくなったためと考えられます。しかし、通 信機器、計測器のメーカ等では高精度の周波数標準 を必要としていますが、JJYでは電離層の影響を 受け、10^-7〜10^-8程度の精度しか得られません。図2 は標準電波を周波数の基準として利用している回答 者が必要としている周波数精度のグラフですが、約 80%が10^-8より高い精度を必要としている実態がお わかりいただけると思います。このため、大半の回 答者はJJYではなく、より高精度の周波数標準が 得られる40kHzの実験局の電波等を利用しており、 JJYは既に周波数標準の供給手段としての社会的 役割を終えたといえます。しかし、一方で科学技術 の進歩により、必要とされる周波数精度はますます 厳しくなっており、新しい高精度標準周波数供給法 の開発が必要とされています。


▲図2 周波数の必要精度

 このように、多方面で利用されている標準電波で すが、受信状況はどうでしょう?図3は周波数別利 用状況です。5MHz、続いて10、8MHzが良く利用 されていますが、2.5、15MHz、40kHzの利用者は かなり少なくなります。2.5、15MHzでは受信強度 か弱いという回答が5、8、10MHzに比べ多く、また 15MHzでは混信か強いという回答が他の周波数に比 べ多く、2.5、15MHzは他の周波数に比べ使いにく く、他の周波数ほど利用されていない様子がわかり ます。


▲図3 標準電波の周波数別利用状況

 一方、40kHzですが、常時受信しているという回 答が他のどの周波数よりも多く、利用者数こそ短波 に比べ少ないのですが、必要度は高いことがわかり ます。特に計測器メーカでは周波数の国家標準との トレーサビリティ(国家標準と一定の較正ルートで 結ばれていること)を40kHzで確保しているところ がかなりあります。図4は「JJYでいつでも安定 に時刻調整が可能ですか?」という質間の回答状況 ですが、約2/3がいつでも安定にできるわけでは ないと回答しております。また、JJYは混信が多 く、電離層の状態に依存するため必要な精度が得ら れにくいという意見も多く寄せられています。つま り、JJYは決して理想的な標準供給方法ではなく、 多くの利用者はより使いやすい、あるいは高精度の 供給法を望んでいると言えます。


▲図4 JJYで安定に時刻調整可能か?

 今回のアンケートにより、放送局やNTTあるい は通信機器、計測器メーカ等の周波数・時間の二次 供給機関をはじめ多方面で標準電波は利用されてお り、社会的基盤の一つとして重要な役割を果たして いることが再確認されました。従って今後も引き続 き安定かつ信頼性の高い周波数・時間標準を供給し ていくという社会的責務を果たしていくことが当所 に求められているといえます。一方で、JJYによ る供給には精度不足、混信問題、受信状況が不安定 である、新しい社会の二ーズに充分対応していない 等の問題点も明らかになりました。
 当所では、今回のアンケート結果や国と民間の二 次供給機関との役割分担を踏まえながら、効率的で 時代の二ーズにあった周波数と時間の標準の供給体 制を確立していく予定です。最後に今回のアンケー トにご協力をいただいた方々に紙面を借りて厚く御 礼を申し上げます。

(周波数標準課長)




光領域周波数帯の研究開発


荒木 賢一

 光領域周波数帯(光領域)とは、はっきりした定 義はありませんが、ここでは「可視光までを含めた 波長1mm以下の電磁波」の総称として扱うことに します(下図参照)。光領域は電磁波のうちでも非常 に高い周波数域にあり、しかもその周波数幅が数100 THzに渡る広大な領域であることがわかります。1.3 〜1.6μm帯は光ファイバーの低損失領域と言われ ていますが、この部分だけでも40THz以上の帯域が あります。光を用いるシステムは、近赤外域の光フ ァイバー通信の実用化を始めとして、一部では既存 の電波利用システムの代替として、また、簡便に設 置可能な空間伝搬システムとして利用が広がってき ています。しかし、波長によっては空間伝搬減衰が 非常に大きいことや適当な伝送線路が無いことなど から、デバイスの開発や利用があまり進まず、光領 域の大部分は未開拓のままとなっています。


 光領域周波数帯の研究開発のねらいは、まだ利用 の進んでいない光領域の通信への利用および必要な 素子等の基礎的な研究を行い、新しい利用分野を開 拓することにあります。さらに、光利用技術の高度 化を進め、来るべき高度情報化社会における周波数 の利用に関して適切かつ柔軟な対応ができるような 基礎技術の開発を行うことです。
 これまで当所では、周波数資源の開拓の一環とし て、まだ十分に利用されていない光領域(半導体レ ーザの発振波長よりも波長がずっと長い赤外〜遠赤 外光領域)における光源、変復調器、検出素子など の通信要素の基礎研究、光空間伝搬特性の基礎デー タ収集などを行ってきました。現在、将来の通信へ の応用を想定し、光・電波共用技術、装置の小型携 帯化、空間通信の高速・大容量化等の高度化された 利用技術の研究開発を目指しています。
 光・電波共用技術の開発に関しては、光の長所と 電波の長所を組み合わせた高機能な装置や高度なシ ステムの実現を目指しています。光の長所には、ビ ーム幅を非常に狭くできる、光ファイバーなどの細 い伝送線路で伝送することができる、変調帯域幅を 大きくできるなどがあります。一方、電波の長所と しては、広い範囲に放射することができ、気象条件 や障害物の影響が小さいことがあります。このよう な長所を組み合わせた一つの例として、中央通信基 地局から遠く離れた小型端局までは光ファイバーを 用いて電波で変調された光信号を伝送し、端局では 光信号をもとの電波信号に変換し空間へ放射させる システムがあります。複数の家庭や自動車等と、光 ファイバーを通る広帯域信号との柔軟な回線接続が 可能になります。このようなシステムやそれを支え る技術については、ミリ波以下の周波数帯でATR やNTTを始めとする通信関連の研究機関において 検討が進められています。技術的には、光信号と電 波信号の効率的な変換が課題であり、さらにミリ波 以上の高周波数域で動作する小型変換器の研究開発 が、より広帯域の信号伝送及びミリ波・サブミリ波 帯の利用技術開発の観点から重要です。
 空間通信の高速・大容量化に関しては、波長2〜3 μmの中赤外光の利用が有望です。これは、伝搬減 衰の小さい帯域にあること、可視域に比べ霧に強く 大気揺らぎの影響が少ないこと、固体レーザ等の小 型光源があること等によります。高速の光短パルス 列発生と伝送、高速受信機の開発、大気ゆらぎの影 響を軽減するための光波面の制御等が課題です。
 光を用いる通信と計測は、これまでの発展の推移 及び多くの分野での利用の可能性から、21世紀の高 度情報化社会における重要な基盤技術として発展し、 展開することは間違いありません。まだまだ多くの 要素技術の開発が必要とされていますが、当所では 今後ますます社会的な重要性を増していくと考えら れる技術の一つとして、上述のような光・電波共用 技術等の研究に取り組んでいます。

(電磁波技術部 光技術研究室長)




≪研究部紹介リシーズ≫

宇宙通信部


内田 國昭

 当所の宇宙開発・宇宙通信の研究は、昭和36年 の「宇宙通信研究室」新設と宇宙通信実験用地に茨 城県鹿島を選定したことによりスタートした。そし て、30mパラボラアンテナの建設、鹿島支所と本所 「衛星研究開発部」の発足等を経て、我が国のこの分 野の研究開発をリードするような機関へと発展した。 現在宇宙通信部は次のように4研究室で構成され、 所内外の機関と協力しながら「有人宇宙時代通信」 の先端的研究を推進している。平成5年7月の当所 組織改正でも変更なく、従前の研究室体制を維持す ることになった唯一の研究部であるが、職員25名 のうち8名が人事異動で交替した。今、新たな気分 で研究を進めている。
 以下、4研究室の研究内容を簡単に紹介したい。 衛星通信研究室は、平成8年度冬期に打上げ予定 の通信放送技術衛星COMETSに関する研究開発 を分担している。当所は、Ka/ミリ波帯での高度 移動体衛星通信ミッションと21GHz帯の高度衛 星放送ミッションの研究開発を行っている。衛星搭 載機器の製作は最終段階に入っている。研究室は、 移動体通信実験の目玉となるKa/ミリ波帯アクテ ィブフェーズドアレーアンテナの研究に挑戦してい る。目標どおりのものが開発されれば、世界で初め ての成果となろう。高度衛星放送ミッションは、総 合通信部の放送枝術研究室が担当している。移動体 通信研究室は、昭和62年に打上げられた技術試験 衛星ETS−$K$h$kN&!&3$!&6u$NAm9gE*$J0\F0BN 衛星通信技術の研究を行ってきた。この衛星はミッ ション寿命1.5年で設計されたものであるが、6 年後の今も大変元気に働いている。特に、後期利用 実験の一環として、アジア・太平洋諸国の大学その 他と遠隔教育・遠隔医療等のPARTNERS実験 で大活躍しており、国際貢献している。スタッフは、 交替でタイ、インドネシア、フィジー、パプアニュ ーギニア等を駆け回っている。また、研究室では、 小型周回衛星システムを始めとする次世代の移動体 衛星通信技術の研究にチャレンジしつつある。宇宙 技術研究室では、光衛星間通信技術とスペースデブ リ検出技術等の宇宙光通信の研究が進められている。 技術試験衛星ETS−$G$N8w1R@14VDL?.  最後に紹介する衛星間通信研究室は、平成6年度 夏期にH−%m%1%C%H$GBG>e$2$i$l$k5;=Q;n831R@1 ETS−$K4X$9$k8&5f3+H/$rBg  4研究室には、カナダCRCからのフェローや大 学と共同研究の相手である民間企業からの研修生併 せて12名が在室しており、賑やかになりつつある。 また、この紹介記事を書いている小生も平成5年7 月に着任以来、手打ちウドン、鮭バーベキュー、イ カソーメンパーティ等お酒を飲みながらの研究談議 で時折リフレッシュさせて貰っている。そして、当 部の業務係長は、レストランを開業してもおかしく ない程の科理達者で、酒好きの皆に感謝されている。 ビールを1〜2本待参しておいでになれば、どなた でも大歓迎されること疑いない。

(宇宙通信部長)




入所3年を振り返って
−「任期付き職員」から「任期の定めのない職員」ヘ−

王 鎮

 日本で国家公務員になるとは夢にも思いませんで した。
 約7年前、私が留学していた大学では、ある教授 が外国人の留学生を助手にするためにあらゆる努力 をしましたが、最後「前例がない」と言う日本の役 所の一番の切り札で、その留学生も無念な思いをし て帰国しました。
 その数年後、東西冷戦の終結など国際情勢の急激 な変化に伴い、日本も国際化社会への潮流に沿って、 外国人の大学、公的研究機関での就職が認められる ようになりました。そして3年前、CRLにまだ外国 籍の正規職員がいない時期、私は7年前のことを思 いながら、CRLの就職面接試験に臨みました。その 日の午後、本所の企画課長に呼び出され、「前例がな い」ではなく、「内定しました」の通知をもらいまし たが、「任期付き」という小さな条件付きでした。で も、夢にも思わなかったことが現実になりましたの でとても嬉しく思いました。
 それから関西支所で3年間の研究生活を送り、今 年3月に3年間の任期切れと同時に、「任期の定めの ない職員」となり、また一歩前進しました。過去3 年間を振り返って見ると、今まで大学で経験してい なかったことを色々体験し、また超電導研究室の皆 さんをはじめ、関西支所そして本所の沢山の方々に 支えられ、自分なりの研究ができた充実した3年間 でした。これからも初心を忘れずに次のステップヘ スタートしたいと思っております。
 私がCRLを知ったのは約7年前の大学院生の頃で した。当時、私は超伝導ジヨセフソン弱接合の研究 をしていました。ミリ波、サブミリ波帯での高周波 実験をしたかったのですが、大学では高価なミリ波、 サブミリ波設備を整備するのは不可能でした。先生 の紹介で、CRLの物性応用研究室(現超電導研究室) にご指導とご協力をお願いしたところ、快く引き受 けてくれました。そして、研修生として約3年間の 共同研究を行い、数々の研究成果を上げ、おかげさ まで私も順調に学位を取れました。就職の決まった 時から、恩返しのつもりで頑張って行こうと心の中 に誓いました。
 研修生の頃、CRLでの滞在期間は僅かでしたが、 自由な研究雰囲気と真面目な研究態度は非常に気に 入りました。就職後、ギャップを感じずに研究活動 に取り組めることは何より幸せでした。関西へ移転 してからは、地理、交通上の不便により人と情報の 交流には多少の障害がありますが、豊かな自然環境 の中で、のびのびと楽しく研究をしていくことを心 かけています。また、同じ屋根の下で、情報、物性、 生物といろんな研究者達が集まっています。今まで 付き合ったことのなかったタイプの日本人と付き合 うことができて、そして関西文化もたっぷり楽しま せて項いて、また一つ日本人と日本文化の勉強がで きました。
 研究の方ですが、CRLの超電導デバイスの研究が 出遅れていたので、短期間に世界トップレベルに追 いつく、そして追い越すことにみんなと力を入れま した。約2年間、一応CRLの特色をもつものが開発 できて、順調に滑り出しました。また、研究室の皆 さんのご協力で研究発表会の晴れ舞台に立たされま した。しかし、世界経済不況の中で、高温超電導ブ ームに便乗してきた多くの企業は次々と超電導研究 を中止し、超電導研究の正念場を迎えている世の中、 自分の研究についても、3年間を一区切りにして、 もう一度見直す必要があると思います。
 これからは、「任期の定めない職員」となりますが、 CRLの研究に役立たなくなったとき、あるいはCRL では自分の研究ができなくなったとき、転身をも覚 悟しています。でも、CRLに籍を置く限り、CRLの ため、自分のためそして将来中国のためにも微力で ありながら、全力を尽くして頑張っていきたいと思 っています。皆さん、今後ともご声援、ご指導の程 よろしくお願いします。

(関西支所超電導研究室)



短 信



「個人研究成果交流会」開始される


 当所では、所内の研究交流、情報交流を活性化 し、”インセンティブな研究環境”作りの一助とする ために、個人の研究成果・活動状況、今後の研究計 画等を年1回、公開の場で発表・議論する「個人成 果交流会」を本年3月より試行開始した。各研究分 野ごとに独自の工夫をして実施されているが、研究 成果のアピールだけでなく、予算・要員不足の直訴 や、不満、悩み、苦労話などが披れきされ、普段の 「研究談話会」では聞けない、あるいは話せない本音 が飛び出すなど興味ある場となっている。



生きたガン細胞の染色体。画像化に成功



 細胞核は細胞の持つすべての情報を保存する器で あり、染色体はその情報が乗っているテープのよう なものである。生物情報研究室では、高感度CCD カメラとコンピュータ制御の光学顕微鏡システムを 用い、生きたガン細胞が分裂する際の染色体(赤) の動きを画像化することに成功した(左の連続写真)。 固定細胞を用いればさらに高解像の画像が得られ、 他の細胞成分と色を染め分けることもできる(右: 赤が染色体、緑は微小管、青は中心体)。この方法を 使えば、生体に近い条件で染色体の分離を見れるの で、染色体分離のメカニズムだけでなく、抗ガン剤 の薬理効果の研究やガン治療の研究に新たな道を開 く可能性がある。

(生物情報研究室 原口徳子)



「電波擾乱テレホンサービスから
宇宙環境情報テレホンサービスヘ」


 平磯宇宙環境センターは1986年より電波擾乱に関 する情報をサービスしてきたが、近年は衛星運用や 送電線に与える太陽活動の影響が注目されるように なり、この方面の利用者も増加してきた。このよう な状況の変化に対応して、宇宙環境を中心とした情 報サービスを強化して、4月1日より新システムに よるサービスを開始した。
 提供する内容は項目別に0:概況・予報、1:太陽活 動、2:地磁気活動、3:プロトン現象、4:電波伝搬、5: 活動度指数と別れ、利用者は番号を電話機からいれ て、必要な情報を繰り返し開く事ができる。提供す る内容は平磯宇宙環境センター独自の観測データと、 ネットワークを通して内外から収集した情報に基づ いており、具体的数値での情報提供を心がけた。現 在、全国7カ所の端末からサービスしているが、今 後はファックス機能の追加、サービスサイトの増加 などさらに利用者に使いやすいシステムにしたい。



第一回アジア太平洋地域研究
交流促進連絡会(AP−PRO)開催


 本連絡会は平成6年4月25日に第1回会合が開催 された。これは、アジア太平洋地域に係わる国際共 同研究活動(24件)を有機的に結びつけるとともに、 ますます発展している同地域の研究活動に積極的に 寄与することを目的に結成され、企画部長を会長と し、所内及び本省関係者を全員等としている。
 第1回会合は本連絡会の主旨及び活動計画の説明、 さらにアジア太平洋地域研究者交流予算(当面、タ イ国から共同研究者を聘与する。)の実行計画、タイ 国モンクット王工科大学との共同プロジェクトの現 状と将来、及び会員の国際共同研究状況(タイ、イ ンドネシア、マレーシア、中国、台湾、パートナー ズ計画について)の報告などが議題となった。

(企画部国際研究交流室)



第34次南極越冬隊帰国


 3月28日夕方、第34次南極観測隊がシドニーから空 路無事帰国した。当所からは、山口隆司が電離層定 常部門、蒔田好行が宙空系部門として越冬に参加し した。なお、山口隊員は昭和基地郵便局長も兼務し た。かれらは、電波による超高層大気の観測、人工 衛星テレメトリ受信等、数多くの観測プログラムを こなした。とくに、FM/CWレーダによる電離圏の 早い変動の検出、昭和基地とアイスランドの磁気共 役点の同時観測キャンペーンでの電離圏全電子数観 測の成功は、特筆すべきものである。大きな成果を あげ無事帰国した隊員の顔は一段と逞しく、その表 情の中に充実感がうかがわれた。当日は、小川宇宙 科学部長をはしめ、多数の人々が出迎えに駆けつけ た。



科学技術週間講演会開催される


 平成6年科学技術週間講演会が去る4月13日に当 所の大会議室で開催されました。発表プログラムは、
 l.超高速衛星通信技術の研究開発
  −B−ISDNギガビットネットワーク時代 の衛星通信技術−
 2.先端技術で観測する地殻変動
  −首都圏直下地震の予知に向けて−
の2件で、最近、話題性の高いマルチメヂア関係の テーマと日常生活に密着した地震に関するテーマの せいか、当日は所外から163名の方がご来聴され、近 年、最高の参加者を得ることができ、大変盛況のう ちに講演会を終了する事が出来ました。



施設一般公開のお知らせ


 夏の恒例行事である研究施設、研究内容の一般公 開を8月1日(月)午前10時から午後4時にかけて、 本所、各センター、観測所において実施いたします。 皆様ご多忙中のこととは存じますが多数の御来場を 心よりお待ちしております。