通信総合研究所平成6年度研究計画


大森 慎吾

 当所は、電波及び電気通信/情報通信に関する 唯一の国立研究所として通信、情報、大気及び地 球惑星環境科学、電磁波物性、周波数及び電波標 準などに関する幅広い研究を行っている。これら 広範囲の研究分野を次の3つの系、7つの重要研 究分野に分けて、基礎から応用まで幅広く研究を 進めている。
(1)高機能知的通信の研究 ─┐
(2)人間・生体情報の研究  ├─情報通信系
(3)有人宇宙時代通信の研究─┘
(4)太陽惑星系科学の研究 ─┐
(5)地球環境科学の研究   ├─環境科学系
(6)時空系科学の研究   ─┘
(7)電磁波物性・材料の研究───材料物性系
 昨年度は、研究体制の一層の充実を図るため組 織の改編を行った。本年度は、さらに、次世代の 移動通信の研究開発の拡充を図るために「高速移 動通信研究室」を、さらに宇宙技術を用いた広域 地殻変動観測施設整備と研究開発を拡充強化のた め「時空技術研究室」を小金井の本所に新設する。
 研究課題については上記の7つの研究分野にお ける既定の課題を引き続き推進するとともに、平 成6年度から新規プロジェクトとして認められた 「次世代の通信・放送分野の研究開発衛星の研究 開発」を開始する。また、科学技術振興調整費、 地球環境研究総合推進費等による研究も積極的に 推進する。
 研究交流においては、国内外の関係機関との人 材交流を積極的に推進するとともに、科学技術庁 のフェローシップ、特別研究員制度等による優秀 な研究者の確保につとめる。さらに、研究指導力 の強化を目指して客員研究官の充実を図るととも に、顧問制度を充実する。なお、平成6年度の重 点の一つとして、各研究分野においてセンターオ ブエクセレンス(COE)化を目指した努力を行 っていくが、特に今年度からは当所の「先端的光 通信・計測に関する研究」が、科学技術振興調整 費によるCOE化設定領域に選定されたことによ り、その実現に向かって邁進する。

 7つの研究分野における研究調査計画の特徴は 以下のとおりである。また、当所の研究調査計画 の全容を一覧表に示す。

○高機能知的通信の研究
 電気通信フロンティア研究計画の高機能ネット ワーク技術研究の一環として、超多元可塑的ネッ トワークおよびネットワークヒューマンインター フェースの研究を継続するまた、周波数資源開発 の一環として、準マイクロ波帯における陸上移動 通信研究をインテリジェント電波有効利用技術の 研究へと拡張し、平成5年度より開始したマイク ロ波移動通信、放送用周波数有効利用技術、ミリ 波サブミリ波デバイス技術の研究を推進する。こ のほか、ミリ波構内通信、成層圏無線中継システ ム、電磁環境研究等を継続する。

○人間・生体情報の研究
 電気通信フロンティア研究計画のバイオ・知的 通信技術研究の一環として、超高能率符号化技術、 高次知的機能および生体機能に関する研究開発を 継続し、神経回路網の並列分散処理機能の解明、 生体ナノ機構の研究も継続する。また、平成5年 から開始した素子開発を目指して分子素子技術研 究を推進する。

○有人宇宙時代通信の研究
 移動体衛星通信、衛星間通信、宇宙ステーショ ンにおける大型アンテナ組立枝術、光宇宙通信、 高度衛星通信放送技術、小型衛星通信、および分 散衛星システムによる宇宙通信の研究を継続する。 新規課題として「次世代の通信放送分野の研究開 発衛星」の研究を開始する。

○太陽惑星系科学の研究
 21世紀の宇宙基盤技術としての宇宙天気予報 の研究や太陽から地球へいたるエネルギーと物質 の流れを研究する国際共同研究STEP計画を継 続するほか、光干渉計技術に関する基礎研究を行 なう。

○地球環境科学の研究
 降雨観測のための二周波ドップラーレーダ、短 波長ミリ波ラジオメータ、光領域アクティブセン サーの開発研究を進め、環境情報ネットワークに 関する研究を行なう他、平成5年度より開始した 三次元マイクロ波映像レーダの開発及びアラスカ における環境観測を行なう国際共同実験を推進す る。

○時空系科学の研究
 プレート運動、地球回転に関する研究及び、首 都圏直下型地震の予知に関する研究を継続する。
 今年度首都圏広域地殻変動観測施設のうち、三 浦半島局の整備を開始する。

○電磁波物性・材科の研究
 電気通信フロンティア研究計画の超高速通信技 術研究の一環として、高温超伝導体を用いた通信 技術および未開拓電磁波技術の研究開発を実施す る。また、周波数資源の研究開発の一環として、 光領域周波数及び、ミリ波サブミリ波デバイスの 研究を継続する。

(企画部 企画課長)





平成6年度通信総合研究所予算の概要


 平成6年度予算案は、平成6年2月10日の大蔵原 案内示、その後の復活折衝を経て同月15日の概算閣 議において決定。第129回国会(常会)に3月4日提 出されたが、衆院予算委員会での提案理由の説明が 行われないまま、4月1日に暫定予算が成立。細川 首相の辞任等で審議がずれ込み、暫定補正予算が5 月20日成立するなど難航したが、6月23日の衆院本 会議において可決・成立した。

平成6年度予算の内容は、
総額82億5531万円
5年度当初予算比13.1%
(9億5716万9千円)の増。

内訳を見ると、
人件費は29億4193万円
(5年度比3.3%、9444万6千円の増)
物件比は52億6512千9千円
(5年度比19.6%、8億6108万3千円の増)
旅費は4825万1千円
(5年度比3.5%、164万円の増)
となっている。
事項別内訳を別表に示すがその概要は次のとおり。

1.新規プロジェクトか辞められた。
★次世代の通信・放送分野の研究開発衛星の研究 開発
 コンパクトディスク(CD)並の高品質な音声 放送を自動車等の移動体向に行う「Sバンド移 動体衛星ディジタル音声放送」、全国あらゆる場所 で携帯電話を使用して通話等が可能となる「Sバ ンド移動体衛星通信」のための研究及び宇宙にお ける実験・実証を目的とする次世代の通信・放送 分野の研究開発衛星のミッション機器の研究開発 を行う。
 平成6年度は、衛星搭載ミッション機器の核と なるオンボード交換と大電力発生技術の開発に着 手する。(初年度経費1億2051万8千円)

2.組織・要員
@総合通信部に高速移動通信研究室、標準計測部 に時空技術研究室の新設が認められた。
A研究員3名の増員が認められた。

3.継続プロジェクト
@首都圏広域地殻変動観測施設の整備
 当研究所が開発し研究成果をあげてきたVLBI (超長基線電波干渉計)及びSLR(衛星レー ザ測距システム)技術を活用し、首都圏の広域地 殻変動を超高精度に監視する観測施設を整備する。 首都圏の4地点に観測局を設置し、1cmの精度 で定常的に地殻変動の3次元的変化の観測を行い、 首都圏直下型地震の前兆の監視を行うもので、平 成6年度は、5年度に整備した小金井局(東京) 及び鹿島局(茨城)に続き、VLBI三浦半島局 (神奈川)分が認められた。
A周波数資源の研究開発
 周波数資源の二ーズの増大と多様化に対応する ため、インテリジェント電波有効利用技術の研究 開発、ミリ波構内通信技術の研究開発、ミリ波・ サブミリ波滞デバイス技術の研究開発等前年度同 様大幅な予算額が認められた。
B宇宙通信技術の研究開発
 本年度打ち上げ予定の技術試験衛星7?!JET、 S-VI)の地上実験施設、宇宙ステーションでの アンテナ組立のための地上シミュレーション装置、 宇宙デブリ検出技術確立のための波面測定装置、 宇宙天気予報のための各種観測装置及び平成8年 度打ち上げ予定の通信放送技術衛星(COMETS) の衛星搭載機器、地上実験施設等がそれぞれ 認められた。

4.その他
 前年度限りの経費となっていた「電離層観測諸 施設整備」が復活した。

(総務部会計課)

平成6年度予算額総括表




《海外出張》

「新たなる国際協力の時代に向かって」
(米国出張報告)


吉村 和幸

目的
 当所は、基礎的、先端的研究を効果的に推進する ために、当所のオープン化を図り、外部機関との共 同研究を積極的に進めている。現在、共同研究件数 は約200件、そのうち外国機関とは80件を越えている。 地球環境科学分野においても、電波および光技術に よる地球環境の計測技術の開発と観測のために、関 係各国と共同して様々なプロジェクトを推進してい る。今回、郵政本省の依頼で、「熱帯降雨観測衛星 (TRMM)のための国際共同計画」および「地球環 境のための高度電磁波技術に関する国際共同研究」 のそれぞれの相手機関である、米国国立航空宇宙局 (NASA)/ゴダ−ド宇宙飛行センター(GSFC)、お よびアラスカ大学フェアパンクス(UAF)地球物理 研究所(GI)などを訪れる機会を得たので、その概 要について報告する。出張期間は平成6年3月30日 〜4月6日であり、企画部企画課の西村補佐が同行 した。

NASA/GSFC訪問
 最初の訪問地ワシントンD.C.では、あいにく肌寒 い日にぶつかり、わずかに咲きかけた川沿いや公園 の桜も開花が停止した状態であった。訪れたNASA 本部では惑星地球ミッション局局長のKennel氏と会 談した。また、翌日のGSFCにおいてはTRMMシス テムマネジャーKeating氏など、数人のTRMM責任 者と会談するとともに、TRMMのフライトモデルの 製作現場やモックアップなど、約2時間にわたって 施設見学する機会を得た。これらの会談等で私の注 目を引いたのは、NASA側の対応の丁重さもさるこ とながら、TRMM計画に対する日本など関係国の役 割の重要性を繰り返し強調していたことであった。
 TRMM衛星は、NASA側の開発する衛星を日本の H−%m%1%C%H$K$h$j1997年に打ち上げられるが、 その中心ミッションの降雨レーダは日本で開発する ものである。本計画の推進のために、当所からGSFC に研究者を常時2名(各人約2年間滞在)を交替で 派遣してきている。現在は、井口主任研究官と梅原 研究官が滞在している。衛星搭載降雨レーダは、当 所における技術開発成果と、GSFCにおける当所研究 者による長年に亘る航空機実験の成果に基づいて開 発がなされるものである。
 本計画は、衛星からの観測に呼応して地上から同 時観測をするために、赤道熱帯域沿いの開発途上国 などとの国際協力が不可欠である。実際約10か国の 協カを得て進めており、それぞれの国の科学者が所 属機関の気象測器や降雨レーダなどをもって参加す る。これは、TRMMオフィス室長Thiele氏が認めた ように、これまでのNASA主導の国際的計画の多く が、NASA側が各国に資金と施設を提供して進めら れたのと全く異にするものである。日本を含む各国 の国力の向上と米国の相対的な地位の低下のもとで、 対等平等の関係に立った新しい国際協カの枠組みの もとに進められている。我か国が国際協カを進める 場合、日本のこの国際的な役割と期待の大きさを自 覚し、責任ある態度で望むことが重要であろう。

国立科学財団訪問
 ワシントンでは、この他、国立科学財団(NSF) を訪れて、Behnke氏など集まった大気科学関係の担 当者約10名に対し、当所の研究プロジェクトや予算 などを紹介した。NSFは大学などに研究資金を提供 するための機関である。これは、今後当所と米国側 の共同研究の可能性を探るためであった。会談にお いては、米国の関係機関に詳しい話をするために科 学者を送って欲しい旨要請されるなど、国際共同研 究のもとに新たな可能性を切り開こうとする米国側 の積極的な姿勢が見受けられた。
 ワシントンD.C.では、井口君や梅原君の運転で訪 間先の行き帰りの時間を有効に活用して、あちこち 寄り道をしてもらって束の間の見学を楽しんだ。と ころで、大使館の坂田参事官に開いた情報によると、 現在米国の通信関係の企業は例の情報スーパーハイ ウエイ構想との関係で上昇機運にあり、不況とは全 然無関係な状態とのことである。

アラスカ・フェアバンクス訪問
 4月2日にアラスカのフェアバンクスに移動した。 所要時間13時間、ワシントンとの時差は4時間であ る。翌早朝からサマータイムに移行した。フェアバ ンクスは、かつて金鉱で栄えた歴史的な町である。 最初の夜は、空港から車で一時間以上のところにあ るChena温泉に宿泊した。夜は8時近いというのに まだ明るい。その夜幸運にもオーロラを見ることが できた。この時期は、気温は昼間こそ10数度になる が、夜は零下にまで下がる凍てつく星空の下での鮮 やかな光景であった。規模は後で聞くとせいぜい中 程度とのことであったか、それでも全天をカーテン 状の光彩が激しく動き、下の方が時折ピンクに変わ るのを見ることができた。

アラスカ大学における調印式
 アラスカ大学(UAF)地球物理研究所(GI)と当 所の共同研究では、極域における中層大気の観測を 目的に当所で何種類かの観測機器を開発し、フェア バンクスに1996年頃から搬入し始めて、GIの準備 する機器とともに共同観測をする予定でいる。今回 の訪問の目的は、両機関の研究交流促進に関する覚 書の調印を行うことであった。調印式には赤祖父所 長を始め大学および研究所の関係者が大勢集まった だけではなく、地方のTV局が撮影とインタビュー を行って盛り上げた(写真)。また、調印式の後に新 間社のインタビューが2件それぞれ30〜40分なされ、 翌日のDaily News朝刊のローカル版などに掲載され た。


▲アラスカ大学との調印式

 この調印式の後、UAF内の施設見学をし、次い でGIのポーカフラット研究サイト(PFRR)を訪 れた。途中のハイウエイは道路表面と地下の温度差 のために大きく波を打っており、スピードをだすと 車の天井に頭を打ちそうになる。PFRRの所長は、 私たちをフェアバンクス滞在中親切に車で案内して くれたStrandberg氏である。ここには日本を含む各 研究機関の観測施設が置かれているが、新たな計画 を進めるために今年中に新庁舎を建築予定であり、 当所もその一角を占有して観測装置を置き、共同観 測を行うことになっている。ただし、ここは地下10 mくらいまでざくざくの凍土のため、掘り返して新 しい土で埋なおすとのことである。
 PFRRでは、米国海洋大気庁(NOAA)などの機 関から気象等の関連データが実時間で入ってくるた め、それらを使ってここでのオーロラや大気の観測 結果を直ちに解析し、その運動状態などを表示して いた。ネットワークの威力を実感した思いである。 また、観測用ロケットを年間10機くらい打ち上げる が、ほとんどが学生などを使って手作りしている。

むすび
 今回の久し振りの米国旅行では時差の大きな三角 形を移動したわけであるが、改めて感じたことは広 大な大地と豊富なリソース、多民族のせめぎあい、 多様性を包み込む大きさであった。出張としては、 国際協力の新しい枠組みの進展をこの目で直接見る ことができたという意味でも大きな意義があったし、 また機関の長としてそれなりの役割を果たせたと考 えている。国際化の時代には、実際に交流に参加す ることの重要性を改めて痛感するとともに、旅費不 足の現状を如何に打開すべきかという、日頃の悩み を思い返しながら帰途に着いた。
 最後に、今回の出張のお膳立てをしてくれた本省 および当所関係者、訪問先でお世話になった米国大 使館林参事官および坂田参事官、NTTワシントン 支所渡辺次長、当所井口主任研究官および梅原研究 官、UAF/GIの赤祖父所長およびStrandberg PFRR所長、その他関係の方々に深く感謝します。

(所長)




《研究支援シリーズ》

図書24時間サービス


佐々木 勉

1.経緯
 昨今の世の中のご時勢では、さほど珍しくない事 柄ではありますが、当所図書係においても平成2年 11月から図書の閲覧を、コンビニエンスストア並 みに24時間サービスすることになりました。
 24時間サービスを始めるきっかけは、「次世代情 報サービス」を検討する「情報サービス・計算機検 討会」なるものか所内に発足し、ここにおいて、「図 書管理・情報サービスのあり方」について討論され たことが事の始まりです。

2.現状
 研究環境の整備・充実は、研究者が研究していく 上では重要な要素だと認識されています。しかし、 研究環境を高めるには、人的資源や経費が必要です。 この釣合いを保つ一つの方法として、写真のような 「タイム・データ・エントリ端末」なる装置を取入れ ることにより、職員IDカードで図書室の入退室が できるようになり、勤務時間外はもとより休日でも 閲覧できるとあって、研究者のフレツクスタイム制 が今年4月から実施されていることもあり、研究者 には好評を得ていると感じています。
 しかし、図書業務のすべてが24時間サービスで きる訳ではないので、研究者が充分満足されている か疑問です。

3.課題
 先の装置を採用したことにより、いっぱし研究環 境が整った図書室だと思われがちですが、問題はま だまだあります。例えば、コンビニエンスストアで 言えば取揃える商品の種類・数量すなわち、蔵書数 を増やすことで、研究者が新たなプロジェクトの取 り組みができ、また自由闊達に討論できる場を設け て、同分野あるいは異分野間で情報交換をしてもら いながら、お互いの研究心を盛りあげてもらう場を 提供したいと考えています。
 将来、図書業務を全体的に把握するために、すべ ての業務をコンピュータ化して一元性を持たせ、研 究者には自動貸出・返却・入退室等といったサービ スを提供する構想を持っています。
 この全体的な自動化により余裕が生まれた人的資 源は、図書室の充実・発展のための次元を高めるプ ロジェクト集団でありたいと考えています。

(企画部 技術管理課 図書係長)


▲タイム・データ・エントリ端末