ギガビット衛星ネットワークの技術開発動向


門脇 直人

 1991年に米国のゴア上院議員(現副大統領)が提 唱したハイパフォーマンス・コンピューティング法 案を契機として、次世代の通信インフラストラクチ ャとしてギガビットネットワークの研究開発が急速 な進展を見せている。米国では既に6カ所でギガビ ットテストベッドがスタートしており、ATM交換機、 プロトコル、アプリケーション等について開発が行 なわれている。我が国では各家庭までの光ファイバ によるCATV、及びB-ISDNの実用化を目指して新 世代通信網利用高度化協会と新世代通信網実験協議 会が発足し、1994年7月から実験が開始されている。 欧州でも1995年に欧州広帯域網(IBC)の導入を目指 した研究開発が進められている。これらは、光ファ イバ等の地上系のシステムが中心である。しかし全 米情報基盤(NII)の構築を進めている米国では、遠距 離、遠隔地との接続には衛星を利用せざるを得ない 状況が有るなど、衛星の役割が改めて重要視されて きている。
 衛星通信システムは広域をカバーしサービスを提 供でき、また地球局を設置するだけで一時的・臨時 的な二ーズに対するサービスの提供や、即時的なネ ットワークの拡張に対応可能である等の特長を有し ている。世界的な情報通信基盤(G!K$N9=C[$K$O!"CO 上系通信網の整備が遅れている地域も考慮すると、 このような衛星の利点を最大限に活用することが重 要である。また衛星のもう一つの特長である同報性 を利用することにより、B-ISDNサービスで規定さ れている放送型及び選択放送型のサービスが容易に 実現可能である。
 現時点での衛星を用いた大容量通信の技術開発は 米国が最も進んでおり、データ中継衛星TDRSによ る300Mbpsの通信が実用化されている。また実験レ ベルでは1993年9月に打上げられた先端通信技術衛星 ACTSを用いた600Mbps以上の伝送システムの開発 が進められている。
 ACTSの広帯域中継器は約900MHzの帯域を有し、 高利得のホッピングビームアンテナを用いることに より、超高速伝送が可能である。米国先端技術研究 計画局(ARPA)と米国航空宇宙局(NASA)の実験シ ステムは、直径3.4mのアンテナを有する地球局を用 い、QPSK、短縮型リードソロモン符号を採用し、 伝送速度696Mbps、情報速度622Mbpsの全二重回線 を実現する。ビット誤り率は10^-11、回線の稼働率は 99%以上を目標としている。このシステムにより、 全米に分散しているNASAの研究施設を接続して分 散高性能コンピューティング環境を実現し、各種研 究の効率的な推進を図ることが計画されている。高 速伝送地球局は可搬型で6局準備され、今秋からハワ イ大学等も参加して実験が開始される予定である。
 衛星を用いたギガビットネットワークを実現する には、衛星搭載機器、地球局機器、及びネットワー キング技術のそれぞれにおいて新たな研究開発要素 が存在する。
 搭載機器に関する技術では、1GHz以上の広帯域に わたり特性の均一性を実現する点が最も重要である。 従来、搭載機器の中で随所に用いられてきたボンデ ィングワイヤは最も周波数特性を劣化させやすい要 素であり、これを排除してコンポーネントのMMIC 化を図ることが望まれる。また高EIRP(等価実効放 射電力)、高G/T(利得雑音温度比)を実現するために、 高出カ化、低雑音化も重要な課題である。衛星搭載 アンテナについては、高利得のマルチビームアンテ ナが必要となるが、衛星の特長である広域性、ネッ トワーク構成に対する柔軟性を発揮するためには、 ビームを任意の方向に指向できるスキャニングスポ ットビームアンテナの開発が望まれる。また、マル チビーム化に伴い、ビーム間接続方式の検討が必要 である。搭載機器のフィジビリティスタディを行っ た結果、6スポットビームで、6地点を1Gbpsで接続 できる搭載機器は中継器重量143kg、消費電力1026程 度であり、1トンクラスの衛星となるとの試算結果が得 られた。
 地球局システムにおいては、周波数利用効率の高い 変調方式の開発、高速誤り訂正符号復号技術の開発が 必要である。特に現在の誤り訂正復号用LSIの処理速 度は数十Mbpsであり、大幅な処理速度の向上が必要で ある。処理の高速化に適した符号及び復号アルゴリズ ムの開発も期待される。衛星搭載中継器の直線性が向 上すれば、トレリス符号化変復調方式の採用の可能性 もある。低速の回線を複数並列使用して高速回線を実 現することも可能であるが、この場合は回線ごとの特 性のばらつきの吸収が必要であり、またバッファリン グによる遅延の増加を極力抑えなければならない。
 衛星と地球局の規模は、近い将来の実現性を考慮し た場合、重要なパラメータである。Kaバンドを用い、 衛星のアンテナ直径が約5m、出カ100W、地球局出 力200Wの仮定を用いて検討したところ、1.2Gbpsの 回線を実現するために必要な地球局アンテナの直径 は3m程度であることがわかった。これは十分現実的な 数値であるといえる。
 ギガビットネットワークでは利用者の多くは地上系 システムで接続されることになる。したがって衛星系 システムと地上系システムの相互接続性がきわめて重 要である。そのキーはプロトコル設計にある。地上系 ではATM(Asynchronous Transfer Mode)、SONET (Synchronous Optical NETwork)、HIPPI(HIgh Performance Parallel Interface)等のプロトコル が用いられることが想定される。これに対して衛星 系では、大きな伝搬遅延に対処するために)順序番号 フィールドを大きくしたり、ウィンドウサイズを大 きくするようなプロトコルの改造が行われる。さら に、ギガビットネットワークでは単位時間あたりの データ送信量が、従来のシステムとは桁外れに大き いことから、フィードバックタイプの輻輳制御方式 は有効に機能しないことが指摘されている。そのた め送信許可制御、伝送レート制御等の方式が提案さ れている。また、放送型及び選択放送型サービスを 実現するための信号方式についても早期に検討を進 める必要がある。
 以上の様に研究開発要素は数多く存在するが、ス ーパーコンピュータネットワーク、B-ISDN等の次 世代通信インフラストラクチャの構築段階において 衛星系システムに対する期待も大きい。第一に、需 要が地上系システムを敷設する投資に見合うだけの 規模に達していない段階・地域でのサービスを衛星 を用いることにより提供可能であること、第二に、 衛星系の回線容量を過負荷時に使用することにより、 地上系回線の冗長性を抑え経済的な網構築が可能に なるのよ等が状況られる。CRLでは米国ジョージワシ ントン大学、ジェット推進研究所等と協カして日米高 速衛星通信デモンストレーション実験を計画中である。 本実験は衛星系ギガビット伝送システムの開発を促進 することを目的としたものであり、図1に示すような 実験システム構成となる。計画では米国本土からハワ イまでをACTSで接続し、ハワイ−日本間をインテルサ ットまたはその他の太平洋上の衛星で接続する。 155.52Mbpsの情報伝送速度を提供することを目標と しており、大容量画像データベースアクセス、HDTV 伝送等のアプリケーションを用いたデモンストレーシ ョンとなる。地上系システムとの接続性を考慮して、 情報伝送にはATMプロトコルが用いられる。本実験 は「宇宙分野における日米協カワークショップ」での 米ジョージワシントン大学エーデルソン教授からの提 案を契機に、CRLが中心となって1995年前半の実現を 目指して検討を進めているものである。


▲図1 広帯域衛星通信デモンストレーション実験システム

 1992年に米国コロラド大学から発表された「アジア 太平洋地域における電気通信に関する検討」と題され た報告には、将来システムとしてAAPTS(Advanced Asia Pacific Telecommuniction Satellites)構想が 提案されている。これは図2に示すような、6〜8ビーム を有する衛星2機を用いて北米及びアジア太平洋エリア の主要地域に1Gbps以上のサービスを提供する国際的 なギガビット衛星ネットワークである。


▲図2 AAPTSの概念

 光ファイバの広帯域網が全国的、世界的に利用可能 になるまでの期間を考慮すると、ギガビット衛星ネッ トワークは比較的短期間に実現できる可能性がある。 衛星通信システムは広域サービス能カ、放送或いは選 択放送型サービスを実現する際に有効な同報性、一時 的なサービスに対応するネットワーク構成の柔軟性に おいて優れている。これらの特長を生かして、地上系 システムと統合することにより、高機能かつ使いやす いサービスを効率的に提供することが可能である。ギ ガビット衛星ネットワークは、次世代通信インフラス トラクチャを実現するための技術として、早期に研究 開発が期待されている分野である。

(宇宙通信部衛星間通信研究室 主任研究官 門脇直人)




研究所施設一般公開を終えて


 恒例の研究所施設一般公開を8月1日〈月)に、 本所、支所及び観測所において実施しました。例年、 8月1日の当所の創立記念日にちなんで行っている ものです。今年は、例年にない猛暑のなかにもかか わらず、多数の来所者を迎えることができ、成功裏 に無事終了できたことを感謝しています。

≪本所≫
 本所においては、『高機能知的通信の研究』のほか 6研究分野、研究所全体で、11コーナー、36項 目からなる研究内容を一挙に公開しました。特に今 年は、平成5年度の総額約130億円にのぼる補正 予算により、首都圏直下地震観測施設の整備、ミリ 波実験研究センターの竣工、ACTセンター、研究 交流センター等の新しい研究施設が整備されました。 また、昨年7月の組織改正から一年後の一般公開で もあり、非常に関心を集める一般公開となりました。 特に今回は地域への浸透を図るため、市内の中学校 や、昨年、開局した「小金井市民テレビ」を訪問し、 協カの要請を行いました。

≪鹿島宇宙通信センター≫
 鹿島宇宙通信センターでは、技術試験衛星(ETS-6) の打ち上げを8月17日に控え、『宇宙にかけ る夢』を公開テーマに4項目からなる公開内容で鹿 島宇宙通信センター独自のチラシを用意し地域への 宣伝を強化しました。

≪関西先端研究センター≫
 関西先端研究センターでは、昨年に引き続き、職 員の手製によるアメニタッチの『ぼくらの科学探検』 のパンフレットにより、『生体情報の研究』や『電磁 波物性・材料の研究』活動を分かりやすく紹介し、 好評を得ました。また、創立から5年が経過し節目 の年でもあり、地域の人たちに関西先端研究センタ ーを一層理解していただくため、新聞の折り込み広 告を活用し一般公開の宣伝を行いました。その結果、 昨年度の3倍もの来所者を得ることができました。


▲手作りラジオを製作している見学者

≪観測所≫
 平磯宇宙環境センターでは、『宇宙天気予報をめざ して』をメインテーマに、そのはか各地の電波観測 所においても独自のアイデアと工夫をこらし盛大に 行われました。

≪来所者数≫
 本所の出足は快調で昼過ぎまでの中間の集計では、 500人と昨年を上回る来所者数が訪れ、午後から も、出足は快調なペースで伸び続け、受け付けをし て頂いた来所者数は昨年の1.5倍の約1000人に及びま した。
 各会場の来所者は、表1に示しますように、関西先 端研究センターの3倍増を筆頭に、本所、鹿島宇宙 通信センター、平磯宇宙環境センターにおいても昨 年度以上の方々に参加して頂きました。最終的未所 者数は全体2800名、昨年度比1.3倍の伸び率となりま した。

来所者数
本年度昨年度
本 所
954名
771名
鹿島宇宙通信センター
746名
738名
平磯宇宙環境センター
157名
114名
関西先端研究センター
678名
206名
稚内電波観測所
26名
27名
犬吠電波観測所
58名
36名
山川電波観測所
151名
186名
沖縄電波観測所
34名
46名
合 計
2804名
2124名

▲表1 来所者の集約結果

≪来年へ向けて≫
 来年は、今年以上の方々に来場項けるよう、より洗 練された内容と企画を行うよう努カするつもりです
 更にアンケートでも多くの皆様が要望されており ます、休日開催の検討の必要性を痛感しております。 このことにつきましては、検討させていただきたい と思います。最後に当日多数の方々にアンケート記 入についてご協力項きまして大変有り難うございま した。特にいろいろな角度から感した事を素直にお 書き項いた貴重なご意見を参考に来年度の公開に反 映したいと思います。

(企画部 広報係長)




<連携大学院シリ−ズB>

連携大学院の客員教官体験記


福地 一

はじめに
 私は平成5年4月より、電気通信大学の情報シス テム学研究科(IS研究科)に新設された情報ネッ トワーク学専攻の客員助教授に任命された(CRL ニュース、No.210参照)。酒場での、”ヨッ、先 生!”は別として、人から先生と呼ばれるのは、大 昔の家庭教師以来20年ぶりで、嬉しい気持ちもあっ たが、果たして先生と呼ばれるだけの能カを有して いるのかといった不安もあった。
 しかし、試行錯誤を繰り返しながら、講義、修士 学生の指導をするうちに、早いもので1年が経って しまった。そこで、これまでの体験を紹介したい。

大学の先生達
 大学では、「情報システム学とは何か?」といった 議論をいまだにしている。どうも定義が定まってし まうと学問としてのフレキシビリティがなくなって しまう不安からか、何となく”情報””システム” から想起される、あるいは関連することを何でもで きるというところに落ち着いているようだ。そのた め、先生方の御専門は実に多岐にわたっている。情 報理論、計算機、ソフトウエア、ネットワークはも とより、経営・経済、社会学、生体情報、シャトル の飛行制御などの宇宙工学、ロボットなどが研究対 象となっている。この数年間に、それぞれの分野の 著名な研究者が外部から多く招かれており、自分の研 究のロマンをこのIS研究科で実現しようと意気盛ん な先生方か多い。ただし、当然ではあるか、大学の先 生方は学内の事務的な作業への係わりは最小限にした い意向があるようで、当所の企画部的職種があるわけ でもなく、この3年間の研究科の完成にいたる幹部、 事務当局の苦労も多かったと想像される。それにして も、そうそうたる研究者ばかりで、このチームが有機 的な研究活動を展開すればIS研究科の将来は非常に 明るいものと思う。

授業体験
 学生を眠らせない方法や講義の準備についての記述 が木村泉著「ワープロ作文技術」(岩波新書)に見ら れる。講義の準備については、講義数日前に資料を調 べはじめ、前々日にプリント0版、前の晩に夜更かし して第1版、出勤途上に読み返し、講義開始直前にコ ピー・配布が理想と述べている。また、英文学の大家 福原麟太郎は、「講義の準備というものは前の週の講 義か終わったときから始まって、次の講義の前の晩の 2時に終わる」と述べていたそうである。初めての 授業体験ということもあり、私もほぼ似たような体 験をした。ただし、ねっからのさぼり症のため、似 たような体験は”前の晩の夜更かし”だけである。
 授業では、なるべく新しい技術、今まさに研究開発 の話題となっているものを紹介しようと心掛けた。近 隣の研究機関での研究開発が本務の客員教官に求めら れているのは、そういった情報ではないかと判断した ためである。しかし、あまり断片的な話題の紹介だと、 毎日が講演会で大学院の講義としてのアカデミズムに 欠ける。そこで、現在の専門である最近の放送技術に 関する話題を例に取って紹介し、かつその根底にある 基礎的な考え方、理論を解説するよう試みた。従って、 講義の全てを網羅する教科書はなく、毎回レジメを夜 更かしまたは徹夜で作ることとなったのである。
 英国滞在中にBBCのラジオ放送で日本の基礎研究 に関する特集を聴く機会があった。その中で、半導体 研究で有名な菊池誠さんの体験談があった。同氏によ れば、民間企業の研究所長として大学での特別講義を することは良い人材を発掘する最良の機会で、講義の 集中度、理解度で優秀さがわかるそうである。また、 その優秀な学生は、必ずと言っていいはど就職先とし てその民間企業を選ぶそうである。私は、講義を聴い ている学生の評価をするほど余裕はなかった。今後は、 学生の評価はさておき、優秀な人材が当所を就職先に 選ぶような吸引力のある講義を身につけたいものと思 っている。

研究指導
 現在、放送技術研究室に大学院1年生を3人研修生 として迎えている。研究室に学生がいることは研究室 の活性化に寄与する。同時に、学生が研究の自励発振 をするまでは、指導の職員に負担がかかることも覚悟 しなければならない。上記のように研究の範囲が広い ため、機械科出身の学生もいて、情報通信の方言に慣 れるのにずいぶん苦労したようである。まだ、修士1 年を終えたばかりでもあり、これからの1年に大いに 期待を持っている。

おわりに
 この1年間、初めての大学教官として多くの勉強を させていただいた。特に、講義準備では自分の知識の 曖昧さに呆然とする思いをし、改めて昔の教科書を読 み返すこととなった。授業の稚拙さを考慮すると、講 義でためになったのは案外自分だけだったかもしれな い。今後も初心を忘れずに大学、通信総合研究所の双 方への貢献を心掛けていきたい。

(放送技術研究室長)





《研究部紹介シリ−ズ》

電磁波技術部


飯田 尚志

 電磁波技術部は、平成5年7月の機構改革で、これ まで5つの部に属していて主として電波や光に関する ハードウェアの研究を行っていた研究室やグループを 集め、4研究室と業務係で発足した。電波や光に関する 先端的要素技術の研究を効率的に進めることと、周波 数資源開発のうち、未利用周波数帯開発のプロジェク トを効果的に推進することが組織改正の狙いである。 また、平成6年7月からは総括主任研究官を中心とし て、COE(Center of Excellence):”先端的光通信・ 計測に関する研究(科学技術政策委員会で選考された) のための所内体制を整備しつつあり、部の職員は総勢 25名である。以下に、各研究室の状況をご紹介する。

【通情デバイス研究室】職員7名、STAフェロー2名、 大学からの共同研究者1名、研修生3名という構成で、 アンテナとデバイスの研究を行っている。アンテナに 関してはこれまで行ってきた各種アンテナ及びその測 定法の研究を生かし、平成4年度にマイクロ波電カ伝 送用レクテナの研究開発を行い無燃料模型飛行機実験 を成功させた他、平成5年度からはミリ波構内通信シ ステム用アンテナの研究に着手している。また、デバ イスに関しては、新周波数帯開発の鍵となるミリ波、 サブミリ波デバイスの研究開発のため、平成5年度か ら薄膜素材製作装置、超微細加工施設等の整備を行い、 これらを収容するミリ波研究センターも完成し所外の 関係者の関心の高い中で研究を開始した。また、COE 研究の一翼も担っている。

【ミリ波技術研究室】組織改正前は「大気圏伝搬研究 室」として電波部に属していて、ミリ波帯電波の大気 中伝搬や各種物体の散乱の研究を行っていた。職員は 5名、研修生1名で、ミリ波構内通信システムの研究 開発を行っている。現在、これまでの研究を継承発展 させ、ミリ波構内通信システム検討の基礎となる屋内 伝搬の研究を行っている。各種建材の反射特性、屋内 でのミリ波伝搬特性を解明しつつあり、ミリ波構内通 信システムの設計に重要なデータが得られている。ミ リ波構内プロジェクトでは要素技術の研究のみならず 利用システムの開発を行って具体的で分かり易い成果 を得ることが大切であるので、関係研究室と共同して、 前述のミリ波研究センターの中にモデルシステムを開 発整備し、B-ISDN時代のマルチメディア無線端末系 の各種実験を行うことを計画している。

【光技術研究室】宇宙通信部、電波応用部で光関連の研 究を行っていたグループの一部を集めて編成した研究 室で、職員6名、研究生、研修生7名の構成である。 この部屋はプロジェクト型よりも個人の創造性に依拠 して研究を進めているのが大きな特徴で、世界的な成 果も出している。例えば最近Ge:Ga半導体を用いて遠 赤外域(波長100ミクロン帯)で世界最高の感度と雑音 特性を示す検出器を開発したことや、パルス静電応カ 法により誘電体内部の電荷分布を数ミクロンの距離分 解能で計測する装置を開発したことが挙げられる。こ の他、有無線一体化が必要とされる今後の通信のため に、光、電波共用技術の研究を行うとともに、COEの 中核の研究室としての役目も負っている。

【電磁環境研究室】以前は総合通信部に属していた研究 室で、職員は4名、妨害波の測定法や測定場の評価、 妨害波に対する電子機器の耐性(イミュニティ〉の測 定などの研究を行っている。成果は国際無線障害特別 委員会(CISPR)や電気通信技術審議会等に提出され、 電波障害に関する国際的、国内的基準に反映されてい る。最近、静電気放電による電磁波障害の事例が増加 しているので、そのメカニズム解明と対策の研究に着 手する計画で、これには、光技術研の協カを得て前述 の電荷分布精密測定法を活用することにしている。
 新部発足後1年あまりが経過した。比較的関連のあ る研究室を集めたので研究協力や共同ゼミ実施など部 内研究室間の連携が深まり、研究の推進によい効果を もたらすことが期待できる。今後は各人の研究におい てより創造的で有効性の高い研究に挑戦するような雰 囲気作りに努力していきたい。

(電磁波技術部長)




筑波局と甦ったアンテナ系


山西 光夫

 本所・鹿島・平磯間をマイクロウェーブで結ぶ 7.5GHz帯連絡回線は、研究業務の推進に貢献するCRL 保有の回線である。この度全局(平磯局は鉄塔の み)のアンテナ系が平成5年度補正予算によって更新 された。本回線の中継局である筑波局においてはパラ ボラアンテナ及び導波管の取替工事が去る3月実施さ れたので、これまであまり触れられなかった筑波局と 更新状況の概要について紹介する。
 本所から真北東、約80kmの地点に位置する筑波局は 「西に富士、東に筑波」と称されるほど、山容が美しい 筑波山山頂の一角にある。筑波山は茨城県南西部に位 置し、関八州の展望に恵まれた絶好の無線中継基地で、 西に標高870mの男体山、東に6m高い876mの女体山 の二つの峰を持つ双耳峰で、男体山から女体山にかけ ては多数のパラボラアンテナが林立するマイクロ銀座 である。万葉の昔から数多くの詩歌に歌われ、神話と 歴史にも満ちた名山である。筑波山も冬ともなると山 頂は-7℃〜-8℃に下がり、土浦市などの山麓一帯に吹 き下ろす筑波風(つくばおろし)は冷たい季節風であ る。筑波山中腹に天照大神の父神にあたる伊弉諾尊 (いざなぎのみこと)と、伊弉冉尊(いざなみのみこ と)を祭神とする筑波山神社がある。神社近くの宮脇 駅から男体山・女体山鞍部の筑波山頂駅まではケーブ ルカーでわずか8分である。ケーブルカーを降り、左 手に見える男体山の急坂を10分登ると項上の筑波山神 社奥院の男体祠に達する。筑波局はその奥の無人の気 象庁筑波山通信所内にある。
 さて、工事はアンテナを運搬車輌に載せ山頂駅まで 持ち上げることから始まった。鉄道会社の指示でケー ブルカーの運行時間を終えた夕方5時過ぎから宮脇駅 で積み込み後、軌道敷の両側に等間隔で並ぶ電柱の間 いっぱいにせり出したアンテナ積載のケーブルカーが ゆっくり進んだ。この後、山頂駅での荷降ろしまでが 第1日の作業であった。後日、山頂駅から10数人の 人カによる山頂までの運搬、新旧アンテナの取り付 け・取り外しなど3月初句の筑波山はまだ冬。降雪 の日もあって工事は幾日も要した。6年前入れ替っ た7.5GHz送受信装置の上部より新楕円型導波管が壁 穴をくぐり、取り替えられたアンテナに接続された。 新しいアンテナはレドーム付きパラボラアンテナで 開口直径3mφ7425MHz〜7825MHzの周波数帯域 を有する。軽金属と真鍮による構造から腐食性は無 く、気密性に優れ、雨・雪・水滴による送信出カ低 下の懸念が解消された。


▲通信総合研究所筑波局

 筑波山は4月から10月にかけて雷の発生頻度が極め て高いため、以前の施設では少なからず損害を被った が、現在は電源部に耐雷トランスを用い、装置を保 護している。また、電力会社では未然に障害・災害 を防ぐ意味から雷による電圧変化を感知すると電カ 供給を止め、安定状態に戻ると再開する。したがっ て、短い時間ではあるが停電回数が多いので、筑波 局ではその対寒として浮動充電方式による給電を行 い無停電化している。中継局の安定運用は回線を保 障する上で大変重要である。関東支所管理課施設係 では定期的に点検・整備を行い回線の安定維持に努 めている。TV会議、LAN、計算機データ、電話、 FAXに至るまで伝送量は増加の一途の現在、7.5 GHz回線は高速ディジタル信号1.544Mbps×4の伝送 容量を持つ貴重な自営回線である。筑波局はその中継 局として、今日もお山で電波の橋渡しを行っている。



短 信




「精華通信実験センター施設公開」


 平成6年7月8日、新世代通信網パイロット事業 オープニングセレモニーが京都府相楽郡精華町にあ る関西文化学術研究都市のけいはんなプラザにて開 催された。当日、同パイロット事業で使用される新 世代通信網実験協議会(BBCC)及び新世代通信 網利用高度化協会(PNES)の施設公開に合わせ、 通信総合研究所精華通信実験センターの施設公開が 行われた。


▲大出郵政大臣に説明をする当所横山次長

 精華通信実験センターは、今年8月打ち上げ予定の 技術試験衛星7?$rMQ$$$?  当日、郵政大臣を始め、通信政策局長、電気通信 局長、放送行政局長が、精華通信実験センターを視 察された。また、当所実験センター施設内に弦楽四 重奏団、BBCC施設に指揮者、けいはんなプラザ 内の住友ホールに合唱団を配し、ハイビジョンで各 地点を結ぶ多地点間演奏会も行われる等、盛況のう ちにセレモニーが行われ、当所施設へも多数の見学 者があった。



沖縄観測所に新シンボル登場!


 この春、中城湾(ナカグスクワンと読む)を見下 ろす絶景の場所に建つ沖縄電波観測所に、新しいシ ンボルが完成した。
 直径5mの低層大気観測レーダ(通称ウィンドプ ロファイラ)用レドームがそれである。
 このレドームの完成により、以前は観測できなか った台風接近に伴う暴風時の低層大気の状態をウィ ンドプロファイラを使用して観測することができる ようになった。
 国内でも数少ない貴重なデータを得ることができ これから台風シーズンを迎える沖縄で大きな成果が 期待される。(台風はあまり歓迎できないが…)
 ところでこのレドーム、外見は白色だが観測所員 からは「せっかくのシンボルだから何かペイントし ては?」との声があり、検討中である。

(沖縄電波観測所 金木 政巳)


▲低層大気観測レーダ