▲図1 広帯域衛星通信デモンストレーション実験システム
1992年に米国コロラド大学から発表された「アジア
太平洋地域における電気通信に関する検討」と題され
た報告には、将来システムとしてAAPTS(Advanced
Asia Pacific Telecommuniction Satellites)構想が
提案されている。これは図2に示すような、6〜8ビーム
を有する衛星2機を用いて北米及びアジア太平洋エリア
の主要地域に1Gbps以上のサービスを提供する国際的
なギガビット衛星ネットワークである。
▲図2 AAPTSの概念
光ファイバの広帯域網が全国的、世界的に利用可能
になるまでの期間を考慮すると、ギガビット衛星ネッ
トワークは比較的短期間に実現できる可能性がある。
衛星通信システムは広域サービス能カ、放送或いは選
択放送型サービスを実現する際に有効な同報性、一時
的なサービスに対応するネットワーク構成の柔軟性に
おいて優れている。これらの特長を生かして、地上系
システムと統合することにより、高機能かつ使いやす
いサービスを効率的に提供することが可能である。ギ
ガビット衛星ネットワークは、次世代通信インフラス
トラクチャを実現するための技術として、早期に研究
開発が期待されている分野である。
(宇宙通信部衛星間通信研究室 主任研究官 門脇直人)
恒例の研究所施設一般公開を8月1日〈月)に、
本所、支所及び観測所において実施しました。例年、
8月1日の当所の創立記念日にちなんで行っている
ものです。今年は、例年にない猛暑のなかにもかか
わらず、多数の来所者を迎えることができ、成功裏
に無事終了できたことを感謝しています。
≪本所≫
本所においては、『高機能知的通信の研究』のほか
6研究分野、研究所全体で、11コーナー、36項
目からなる研究内容を一挙に公開しました。特に今
年は、平成5年度の総額約130億円にのぼる補正
予算により、首都圏直下地震観測施設の整備、ミリ
波実験研究センターの竣工、ACTセンター、研究
交流センター等の新しい研究施設が整備されました。
また、昨年7月の組織改正から一年後の一般公開で
もあり、非常に関心を集める一般公開となりました。
特に今回は地域への浸透を図るため、市内の中学校
や、昨年、開局した「小金井市民テレビ」を訪問し、
協カの要請を行いました。
≪鹿島宇宙通信センター≫
鹿島宇宙通信センターでは、技術試験衛星(ETS-6)
の打ち上げを8月17日に控え、『宇宙にかけ
る夢』を公開テーマに4項目からなる公開内容で鹿
島宇宙通信センター独自のチラシを用意し地域への
宣伝を強化しました。
≪関西先端研究センター≫
関西先端研究センターでは、昨年に引き続き、職
員の手製によるアメニタッチの『ぼくらの科学探検』
のパンフレットにより、『生体情報の研究』や『電磁
波物性・材料の研究』活動を分かりやすく紹介し、
好評を得ました。また、創立から5年が経過し節目
の年でもあり、地域の人たちに関西先端研究センタ
ーを一層理解していただくため、新聞の折り込み広
告を活用し一般公開の宣伝を行いました。その結果、
昨年度の3倍もの来所者を得ることができました。
▲手作りラジオを製作している見学者
≪観測所≫
平磯宇宙環境センターでは、『宇宙天気予報をめざ
して』をメインテーマに、そのはか各地の電波観測
所においても独自のアイデアと工夫をこらし盛大に
行われました。
≪来所者数≫
本所の出足は快調で昼過ぎまでの中間の集計では、
500人と昨年を上回る来所者数が訪れ、午後から
も、出足は快調なペースで伸び続け、受け付けをし
て頂いた来所者数は昨年の1.5倍の約1000人に及びま
した。
各会場の来所者は、表1に示しますように、関西先
端研究センターの3倍増を筆頭に、本所、鹿島宇宙
通信センター、平磯宇宙環境センターにおいても昨
年度以上の方々に参加して頂きました。最終的未所
者数は全体2800名、昨年度比1.3倍の伸び率となりま
した。
本年度 | 昨年度 | |
▲表1 来所者の集約結果
≪来年へ向けて≫
来年は、今年以上の方々に来場項けるよう、より洗
練された内容と企画を行うよう努カするつもりです
更にアンケートでも多くの皆様が要望されており
ます、休日開催の検討の必要性を痛感しております。
このことにつきましては、検討させていただきたい
と思います。最後に当日多数の方々にアンケート記
入についてご協力項きまして大変有り難うございま
した。特にいろいろな角度から感した事を素直にお
書き項いた貴重なご意見を参考に来年度の公開に反
映したいと思います。
(企画部 広報係長)
はじめに
私は平成5年4月より、電気通信大学の情報シス
テム学研究科(IS研究科)に新設された情報ネッ
トワーク学専攻の客員助教授に任命された(CRL
ニュース、No.210参照)。酒場での、”ヨッ、先
生!”は別として、人から先生と呼ばれるのは、大
昔の家庭教師以来20年ぶりで、嬉しい気持ちもあっ
たが、果たして先生と呼ばれるだけの能カを有して
いるのかといった不安もあった。
しかし、試行錯誤を繰り返しながら、講義、修士
学生の指導をするうちに、早いもので1年が経って
しまった。そこで、これまでの体験を紹介したい。
大学の先生達
大学では、「情報システム学とは何か?」といった
議論をいまだにしている。どうも定義が定まってし
まうと学問としてのフレキシビリティがなくなって
しまう不安からか、何となく”情報””システム”
から想起される、あるいは関連することを何でもで
きるというところに落ち着いているようだ。そのた
め、先生方の御専門は実に多岐にわたっている。情
報理論、計算機、ソフトウエア、ネットワークはも
とより、経営・経済、社会学、生体情報、シャトル
の飛行制御などの宇宙工学、ロボットなどが研究対
象となっている。この数年間に、それぞれの分野の
著名な研究者が外部から多く招かれており、自分の研
究のロマンをこのIS研究科で実現しようと意気盛ん
な先生方か多い。ただし、当然ではあるか、大学の先
生方は学内の事務的な作業への係わりは最小限にした
い意向があるようで、当所の企画部的職種があるわけ
でもなく、この3年間の研究科の完成にいたる幹部、
事務当局の苦労も多かったと想像される。それにして
も、そうそうたる研究者ばかりで、このチームが有機
的な研究活動を展開すればIS研究科の将来は非常に
明るいものと思う。
授業体験
学生を眠らせない方法や講義の準備についての記述
が木村泉著「ワープロ作文技術」(岩波新書)に見ら
れる。講義の準備については、講義数日前に資料を調
べはじめ、前々日にプリント0版、前の晩に夜更かし
して第1版、出勤途上に読み返し、講義開始直前にコ
ピー・配布が理想と述べている。また、英文学の大家
福原麟太郎は、「講義の準備というものは前の週の講
義か終わったときから始まって、次の講義の前の晩の
2時に終わる」と述べていたそうである。初めての
授業体験ということもあり、私もほぼ似たような体
験をした。ただし、ねっからのさぼり症のため、似
たような体験は”前の晩の夜更かし”だけである。
授業では、なるべく新しい技術、今まさに研究開発
の話題となっているものを紹介しようと心掛けた。近
隣の研究機関での研究開発が本務の客員教官に求めら
れているのは、そういった情報ではないかと判断した
ためである。しかし、あまり断片的な話題の紹介だと、
毎日が講演会で大学院の講義としてのアカデミズムに
欠ける。そこで、現在の専門である最近の放送技術に
関する話題を例に取って紹介し、かつその根底にある
基礎的な考え方、理論を解説するよう試みた。従って、
講義の全てを網羅する教科書はなく、毎回レジメを夜
更かしまたは徹夜で作ることとなったのである。
英国滞在中にBBCのラジオ放送で日本の基礎研究
に関する特集を聴く機会があった。その中で、半導体
研究で有名な菊池誠さんの体験談があった。同氏によ
れば、民間企業の研究所長として大学での特別講義を
することは良い人材を発掘する最良の機会で、講義の
集中度、理解度で優秀さがわかるそうである。また、
その優秀な学生は、必ずと言っていいはど就職先とし
てその民間企業を選ぶそうである。私は、講義を聴い
ている学生の評価をするほど余裕はなかった。今後は、
学生の評価はさておき、優秀な人材が当所を就職先に
選ぶような吸引力のある講義を身につけたいものと思
っている。
研究指導
現在、放送技術研究室に大学院1年生を3人研修生
として迎えている。研究室に学生がいることは研究室
の活性化に寄与する。同時に、学生が研究の自励発振
をするまでは、指導の職員に負担がかかることも覚悟
しなければならない。上記のように研究の範囲が広い
ため、機械科出身の学生もいて、情報通信の方言に慣
れるのにずいぶん苦労したようである。まだ、修士1
年を終えたばかりでもあり、これからの1年に大いに
期待を持っている。
おわりに
この1年間、初めての大学教官として多くの勉強を
させていただいた。特に、講義準備では自分の知識の
曖昧さに呆然とする思いをし、改めて昔の教科書を読
み返すこととなった。授業の稚拙さを考慮すると、講
義でためになったのは案外自分だけだったかもしれな
い。今後も初心を忘れずに大学、通信総合研究所の双
方への貢献を心掛けていきたい。
(放送技術研究室長)
【通情デバイス研究室】職員7名、STAフェロー2名、
大学からの共同研究者1名、研修生3名という構成で、
アンテナとデバイスの研究を行っている。アンテナに
関してはこれまで行ってきた各種アンテナ及びその測
定法の研究を生かし、平成4年度にマイクロ波電カ伝
送用レクテナの研究開発を行い無燃料模型飛行機実験
を成功させた他、平成5年度からはミリ波構内通信シ
ステム用アンテナの研究に着手している。また、デバ
イスに関しては、新周波数帯開発の鍵となるミリ波、
サブミリ波デバイスの研究開発のため、平成5年度か
ら薄膜素材製作装置、超微細加工施設等の整備を行い、
これらを収容するミリ波研究センターも完成し所外の
関係者の関心の高い中で研究を開始した。また、COE
研究の一翼も担っている。
【ミリ波技術研究室】組織改正前は「大気圏伝搬研究
室」として電波部に属していて、ミリ波帯電波の大気
中伝搬や各種物体の散乱の研究を行っていた。職員は
5名、研修生1名で、ミリ波構内通信システムの研究
開発を行っている。現在、これまでの研究を継承発展
させ、ミリ波構内通信システム検討の基礎となる屋内
伝搬の研究を行っている。各種建材の反射特性、屋内
でのミリ波伝搬特性を解明しつつあり、ミリ波構内通
信システムの設計に重要なデータが得られている。ミ
リ波構内プロジェクトでは要素技術の研究のみならず
利用システムの開発を行って具体的で分かり易い成果
を得ることが大切であるので、関係研究室と共同して、
前述のミリ波研究センターの中にモデルシステムを開
発整備し、B-ISDN時代のマルチメディア無線端末系
の各種実験を行うことを計画している。
【光技術研究室】宇宙通信部、電波応用部で光関連の研
究を行っていたグループの一部を集めて編成した研究
室で、職員6名、研究生、研修生7名の構成である。
この部屋はプロジェクト型よりも個人の創造性に依拠
して研究を進めているのが大きな特徴で、世界的な成
果も出している。例えば最近Ge:Ga半導体を用いて遠
赤外域(波長100ミクロン帯)で世界最高の感度と雑音
特性を示す検出器を開発したことや、パルス静電応カ
法により誘電体内部の電荷分布を数ミクロンの距離分
解能で計測する装置を開発したことが挙げられる。こ
の他、有無線一体化が必要とされる今後の通信のため
に、光、電波共用技術の研究を行うとともに、COEの
中核の研究室としての役目も負っている。
【電磁環境研究室】以前は総合通信部に属していた研究
室で、職員は4名、妨害波の測定法や測定場の評価、
妨害波に対する電子機器の耐性(イミュニティ〉の測
定などの研究を行っている。成果は国際無線障害特別
委員会(CISPR)や電気通信技術審議会等に提出され、
電波障害に関する国際的、国内的基準に反映されてい
る。最近、静電気放電による電磁波障害の事例が増加
しているので、そのメカニズム解明と対策の研究に着
手する計画で、これには、光技術研の協カを得て前述
の電荷分布精密測定法を活用することにしている。
新部発足後1年あまりが経過した。比較的関連のあ
る研究室を集めたので研究協力や共同ゼミ実施など部
内研究室間の連携が深まり、研究の推進によい効果を
もたらすことが期待できる。今後は各人の研究におい
てより創造的で有効性の高い研究に挑戦するような雰
囲気作りに努力していきたい。
(電磁波技術部長)
▲通信総合研究所筑波局
筑波山は4月から10月にかけて雷の発生頻度が極め
て高いため、以前の施設では少なからず損害を被った
が、現在は電源部に耐雷トランスを用い、装置を保
護している。また、電力会社では未然に障害・災害
を防ぐ意味から雷による電圧変化を感知すると電カ
供給を止め、安定状態に戻ると再開する。したがっ
て、短い時間ではあるが停電回数が多いので、筑波
局ではその対寒として浮動充電方式による給電を行
い無停電化している。中継局の安定運用は回線を保
障する上で大変重要である。関東支所管理課施設係
では定期的に点検・整備を行い回線の安定維持に努
めている。TV会議、LAN、計算機データ、電話、
FAXに至るまで伝送量は増加の一途の現在、7.5
GHz回線は高速ディジタル信号1.544Mbps×4の伝送
容量を持つ貴重な自営回線である。筑波局はその中継
局として、今日もお山で電波の橋渡しを行っている。
「精華通信実験センター施設公開」
▲大出郵政大臣に説明をする当所横山次長
精華通信実験センターは、今年8月打ち上げ予定の
技術試験衛星7?$rMQ$$$?
当日、郵政大臣を始め、通信政策局長、電気通信
局長、放送行政局長が、精華通信実験センターを視
察された。また、当所実験センター施設内に弦楽四
重奏団、BBCC施設に指揮者、けいはんなプラザ
内の住友ホールに合唱団を配し、ハイビジョンで各
地点を結ぶ多地点間演奏会も行われる等、盛況のう
ちにセレモニーが行われ、当所施設へも多数の見学
者があった。