テラヘルツ電磁波発振用の新しい固体素子


阪井清美

はじめに
 我々の生活に光や電波は深く関わっているが、そ の中間に、未だあまり多くは使用されていない領域 がある。テラヘルツ帯と呼ばれ、周波数がテラヘル ツ(THz、1秒に1兆回の繰り返し)で呼ばれる 領域である。通信が徐々に高周波化して行って、ギ ガへルツ(GHz、1秒に10億回の繰り返し)から やがてはテラヘルツ帯に移行して行くだろうとの予 想に反して、一気に光領域まで跳んでしまったため、 少々開拓が遅れた感があるが、人類共通の財産とし て、開拓しておくべき重要な領域である。現在この 帯域の電磁波は、分光学、天文学、核融合の分野で 主に利用されている。この領域には、従来、強力な 信号源が無く、高周波すなわち短波長のためコンポ ーネントが必然的に微小サイズとなり、大気中の伝 播では水蒸気の吸収による減衰が大きく、取り扱い の非常に難しい領域である。
 現在、強力な信号源、新しい方式の信号源、高感 度の受信器、マイクロサイズのコンポーネント等の 研究開発が、上記の利用と関連して行われている。 話を信号源に絞ると、単一周波数で発振するコヒー レントな(位相の揃った)信号源と、広い帯域の周 波数を連続的に含むインコヒーレントな(位相が不 揃いな)信号源に分類出来るが、炭酸ガスレーザー 励起の分子気体レーザー、クライストロン等の電子 管やガン発振器等の固体発振器と周波数逓倍器、後 進波管(BWO)、そして自由電子レーザー等が前者 に属する。後者としては、高圧水銀灯、シンクロト ロン放射光(SOR)利用等がある。通信というこ とを念頭に置くと、単一周波数でコヒーレントな連 続波ということになるが、周波数特性を調べる研究 には、広帯域の信号源が役に立つ。今回我々が製作 し、発振に成功した信号源の特徴は、新しい方式の 信号源で、数テラヘルツに亘る広い周波数帯域を連 続的に含むインコヒーレントな信号源である。大き さの点では、素子そのものは小さいが駆動部も入れ て考えると、高圧水銀灯程小さくはないが、SOR 程大がかりではなく、デスクトップの比較的小規模 な信号源である。このような信号源の開発が可能に なった背景には、フェムト秒レーザー技術が確立さ れたことと、半導体結晶成長枝術及び半導体の集積 回路技術の画期的な進歩がある。
 

光伝導膜の作成とその光応答
 発振器(及び受信器)は、光応答の極めて速い光 伝導膜上に作るため、その膜作りと光伝導寿命の測 定が先ず重要である。光伝導膜は、半絶縁性のガリ ウム砒素(SI-GaAs)基板上に、分子線エピタキ シー装置(MBE装i置)を使って、GaAsを1.5μm 厚程度までエピタキシー成長させて作製した。通常 の高速の電子デバイスを作る際には、GaAs基板は 600℃程に保ち、その上にGaAsをエピタキシー成長 させるが、今回のデバイス作製ではわざわざ基板温 度を下げて、その上に薄膜を成長させた。基板温度 200℃、250℃、275℃、300℃の4種類で膜の作製を 試みた。更にこれらの膜には、成長後600℃で熱処理 を施した。このようなものは低温成長GaAs (LT-GaAs)と称される。
 これら薄膜の光応答の測定は、ポンプ・プローブ 法と呼ばれる、従来から過渡現象の高速測定でよく 使われる方法を用いた。光源は、アルゴンイオンレ ーザー励起のチタンサファイアレーザーをフェムト 秒バージョンで使用。1本のレーザービーム中にビ ーム分割器を入れ、強いレーザービーム(約20ミリ ワット)と弱いレーザービーム(約1ミリワット) の2ビームを作り、薄膜表面を強い方のレーザービ ームで照射(ポンプ〉して物理変化を起こさせてお いて、弱い方のレーザービームで、その変化を乱す ことなく診断(プローブ)する手法である。レーザ 一光の照射により電子と正孔の対が多数発生し、そ の数が減少して行く様子が、微小な反射率変化とし て観測される。図1は上記の4種類の薄漢 (LT-GaAs)とその基板のSI-GaAsの寿命を示したも のである(M. Tani et al. Jpn.J.Appl.Phys. Vol.33,4807(1994))。測定結果から明らかな様に、 SI-GaAsをそのまま使うより、その上にエピタキ シー膜を積んだ方が明らかに寿命が短く、またこの 測定結果によると、基板温度が250℃の時に最も短寿 命で250フェムト秒(1fs:千兆分の1秒)であった。 低速電子線回折(RHEED)パターンやラマン散 乱等による解析も入れて考慮すると、このような材 科は、完全な結晶構造が少し変化した、結晶性膜と 呼ばれるような状態になっていて、アモルファス(非 結晶質)ではないが、格子欠陥密度が高く、砒素 (As)のクラスター(かたまり)を含んでいる。こ れらが再結合及び補獲中心となって、キャリア(電 流を運ぶもの、電子や正孔〉の寿命を短くしている。 基板温度を下げて膜の製作を行った理由は、完壁な 結晶からはずれた、少々不完全なものをわざわざ作 って寿命の短い膜を作るためであった。LT-GaAs はキャリアの寿命が短いという特長の他に、抵抗が 高く、易動度も高いという特長があり、超高速の光 伝導材科として望ましい性質を備えているため、オ プトエレクトロニクス分野で、超高速の光スイッチ に用いられる。


▲図1 低温成長ガリウム砒素のキャリア寿命

 

テラヘルツ電磁波発振機・受信器とテラヘルツビ ームシステム
 テラヘルツ電磁波の発振器と受信器は、キャリア 寿命が最も短いことが分かった、成長温度250℃の LT-GaAs上に、金のコプラナーストリップ線路(単 純な平行線路)と、その中央にダイポールアンテナ を付けて作製した。発振器、受信器とも形状の異な るいくつかのものを作製したが、代表的なものを示 すと図2中央のような形をしている。LT-GaAs上 に単純に金だけをつけてもオーム性の接続が得られ ず、所期の目的が達成出来ないため、少々複雑であ るか、AuGe/Ni/Auの様な積み重ねになっている。 図のデバイスを発振器として使う時は、ストリップ 線路間に直流の電圧を加えておいて、フェムト秒レ ーザーからのパルス光を、ダイポールアンテナの間 隙に当てると、光伝導キャリアの発生により短絡し、 ダイポール発振がおこる。これがテラヘルツ帯の広 帯域発振になっている。受信器は、発振器と同形式 のもので、電圧源の代わりに電流増幅器を接続した 形になっている。ダイポールアンテナ部の間隙をフ ェムト秒レーザーのパルス光で照射して短絡し、回 路を閉回路にして、アンテナで受信される電磁波に よって誘起される電圧により、電流が瞬間的に流れ る。これは、基板の光伝導膜の自由キャリア寿命で 決まる時間幅を持った高速のサンプリング受信器で ある。


▲図2 テラヘルツ電磁波発振及び受信
(上)テラヘルツビームシステム (中)発振器・受信器
      (下)発振電磁波のスペクトル分布

 このような発振器と受信器を組み合わせた、テラ ヘルツビーム伝幡システムは、図2の一番上に示し た様なものになる。発振器に光パルスを当てる度に、 同様のテラヘルツ電磁波パルスが発振するものとし て、発振器に当てるレーザー光の一部を取り出して、 これに時間遅延をかけ、遅延時間を変えながらサン プリングして、元の電磁波の波形を再現する。発振 器、受信器ともシリコンの半球レンズと組み合わせ てその平坦部にマウントし、レンズと放物面鏡によ ってコリメーション(平行ビームを作る)と集光を 行う形になっている。実際に観測される信号は、図 中THz PULSEと書いた様な形のものであるが、 これにフーリエ変換という数学的な処理をほどこす と、周波数と電界の振幅の関係が得られる。一例が 図2の一番下のようなものである。この場合、発振 器の直流電圧として100ボルトを加えている。周波数 0−4THzの間に振幅が分布している。包絡線から 鋭く落ち込んでいる部分は、大気中の水蒸気の吸収 による減衰を表している。
 

おわりに
 現在、広帯域の信号源は幅広く、分光研究や材料 評価に使われている。いずれの場合にも、信号源強 度の弱さを補うため、液体へリウム温度に冷却した、 高感度受信器を利用することが殆どである。このた め常に不便さがつきまとっている。今回開発に成功 した発振器、受信器を用いたテラヘルツビームシス テムは、デスクトップの小回りのきくシステムとし て有用で、通信や分光、材科評価への応用が考えら れる。通信分野では超高速伝送線路の評価、分光や 材料評価の分野では、高温超伝導体や、半導体、超 格子などの最新の電子材料の性質を調べることが出 来る。その際、この方式の特長から、受信を常温で 行えるという大きな利点と共に、振幅と位相の情報 を同時に得ることが出来るということと、従来のよ うに周波数情報だけでなく時間情報も得ることが出 来るため、従来の信号源と比べ、格段に多くの情報 が得られることが期待出来る。

(関西支所 第三特別研究室)




高校地学の教科書編集委員になって


吉川 真

 去る10月のこと。「高校地学の教科書の編集委員に なってほしい」との連絡が教科書出版会社からあり ました。突然のことで一瞬、返事につまりました。 なぜ自分のところにこのような依頼がくるのだろう? 教科書なんて、自分の手に負えるものではないので はないか?そんな戸惑いと同時に、これは面白そう だしやりかいもあるのではないかとも感じました。 そして、例によってあまり深く考えずに、その場で 「自分にで、きることなら」と引き受けてしまったので す。
 私のところにこの依頼が来た理由は、大学学部の 時の恩師でありました海野和三郎先生(東京大学名 誉教授、近畿大学教授)から紹介されたためでした。 今までは海野先生がこの教科書編集に携わられてき たのですが、実質的な部分の編集は若手に任せたい ということで私の名前があがったようです。そうな るとなおさら責任が重いことになります。後になっ てから、だんだんと不安になってきました。
 初めての編集委員会。地学の教科書の編集委員と して、研究者と高校の先生それぞれ4、5人づつが 集まってきました。教科書の本文の執筆はおもに研 究者が行い、補足的な部分を高校の先生が書くとい うやり方で編集作業が進められているのです。研究 者側は、大学の教授や助教授の方および気象台や地 震研の研究者がメンバーです。高校の先生は、主に 都内にある高校から来ています。もちろん、私が一 番の若手です。
 現在の高校の地学の教科書には、IA、IB、IIがあ りますが、今回はIBの編集を行います。地学という 教科は、宇宙の中にある地球という存在を学ぶもの です。その内容を大ざっばに分類すると、地球本体 に関係する地球物理分野、地質や古生物に関係する 地質分野、大気や海洋などの気象分野、そして地球 が存在する宇宙に関する宇宙分野の4つに大別でき ます。この中の宇宙に関係する部分を、今までも編 集作業をされていた放送大学助教授の吉岡一男先生 と2人で担当することになりました。
 この編集委員会で改めて認識させられたことは、 教科書には文部省検定というものがあり、一般の本 や雑誌と本質的に異なるということです。この検定 が社会科などの教科書の場合に特に表面化している ことは周知のとおりです。理科系の教科書では、そ れほど個人の主観や価値観的なものは絡んできませ んが、それでもこの検定というハードルが非常に高 いのです。如何にして検定をクリアしつつ魅力的な 面白い教科書にするか、これが問題です。
 さらにもう1つ問題があります。それは、高校の 場合、大学受験という関門が後ろにひかえていると いうことです。受験にとっては、科学の面白さや考 えることの重要性などはどうでもいいと言えます。 如何にテストに出題されそうな知識を楽に多く覚え るかが重要なのです。教科書としても受験勉強に適 したもの、つまり、覚えるべき事実が整理されてい るものが好まれます。いわゆる進学校ほどこのよう な受験向きの教科書が採用される傾向にあるとのこ とです。
 文部省検定と受験という2つの障壁。これらを乗 り越えつつ、面白くて科学的思考能力を高めるのに 役に立ち、さらに売れる教科書を作る、ということ は、矛盾する要求を満たさなければならず限りなく 実現不可能な難問です。実際には、いろいろな点で 妥協をしながらの作業となるのでしょうが、かなり の困難を伴うことは確かなようです。
 学生の‘理科ばなれ’が叫ばれて久しくなります。こ れは、理科系に入って一生懸命勉強してもその後の 就職が決していいわけではないからだと思われます。 従って、‘理科ばなれイコール科学ばなれ’というわけ ではないのです。実際、多くの科学関連の雑誌や報 道があることをみても、人々の科学への関心は薄ら いではいないことは明らかです。しかし、理科ばな れというものが科学ばなれを引き起こす可能性がな いわけではないのです。科学好きな若者が1人でも 増え、科学嫌いの若者が1人でも減る、そんな教科 書を作りたいものです。

(関東支所 宇宙制御技術研究室)




入所3年を撮り返って


田 光江

 早いものでCRLに入所して4年目を迎えている。 振り返ってみてCRLの印象を聞かれると、まず初 めて平磯幾に来たときの景色のそれが強烈だった。平 磯宇宙環境センターに配属されるまでは兵庫、広島、 京都と転々としてきた私は、海は小島の浮かぶ瀬戸 内、山はこんもりしたお椀型と暗黙の中に思いこん でいたが、平磯はとにかく何でも正反対だった。海 は島など一つもなく水平線が広がり、山は遠く地平 線あたりに連なり、風が吹くときは瀬戸内では台風 並みの強風か日常のごとく吹きまくるのだ。しかも 事がないと牛乳一つ買いに行けない程人口密度が低 い。最初こんな所でやって行けるだろうかと非常に 不安だったのを覚えている。しかし住めば都とよく 言ったもので、今では東京などに出かけると人混み に疲れる程ここでの生活になじんでしまった。雄大 な太平洋やだだっ広い畑を見るとほっとする。
 さて研究環境についての印象を述べると、入所前 に見学に来たときから感じたが、物が豊富にあるよ うに見えた。その当時私が見学した部屋には各パソ コンにプリンターが接続されており、さほど広くな いその部屋にパソコンとプリンターがせめぎあって いる印象を持った。プリンターは共有するものと思 っていた私は、賛沢なように感したものだった。勿 論観測データを取得、管理している平磯宇宙環境セ ンターではそれぞれの機器に必要性があって配置さ れている。しかし、研究用に使える計算機の台数は やはり圧倒的に多く、これを研究環境がいいという のかどうかは分からない。例えば一台の計算機に何 人もぶら下がり、なかなか終わらないジョブを待つ のも困りものだが、一人一台の計算機があってユー ザーイコール管理者の状態もあまり望ましくない。 下手すると管理だけでその日は終わり、という状況 になりかねないのである。大学の研究室にいる人か ら見ると贅沢な不平かも知れないが、なかなか思う ように反応してくれない計算機との格闘の最中に5 時の鐘を聞き、あわてて保育園へお迎えに走るとい う日を繰り返すと、こんなことやっていていいのだ ろうか、とあせりを感じる。計算機は必要であり、 また計算機があると管理が必要なのも仕方がない。 願わくばもう少し人員が増えれば、など虫のいいこ とを思ってしまうのだが、やはり贅沢な望みなのだ ろう。幸いこれを書いている頃は計算機の機嫌も良 く、あまり手間をかけずにすむようになってきたの で、貴重な仕事の時間を研究に使える状態になって いる。
 研究の方は、というと平磯宇宙環境センターは宇 宙天気予報というプロジェクトを掲げている。ここ にいる研究者はこのプロジェクトに寄与すべく配属 されているのだが、残念ながら宇宙天気の予報官以 外では研究面での寄与はまだ出来ていない。この方 面で理論屋の私が出来ることは、太陽面で現象があ ったとき、それによる地球への影響の開始時刻や規 模などを数値シミュレーションにより予測すること だが、それには数値計算コードが必要である。これ は観測屋にとっての観測装置のようなもので、より 精度が高く、また現実に近い系を再現するためには 空間の次元が1、2次元より3次元が望ましいのだ が、それだけに構築するのには時間がかかる。精度 の高い数値計算法はこれ独自の研究分野がある程数 学的に複雑になってきている。またコ一ドを動かす ハードの部分、スーパーコンピューターも並列計算 機の時代を迎え、これまでの既存のコードにさらに 手を加える必要がでてきている。このような状況で なかなかアウトプットが出せないのが現状なのであ る。今から思えばどこかで見切りをつけて、少々精 度が悪くてもモデル計算をしておけばよかったかな、 と後悔しないでもないが、まあ今更仕様がないと本 所に入った並列計算機に習うより慣れろのごとくコ ードの並列化に頭をひねっている今日この頃である。
 私生活面ではこの3年間は就職、結婚、出産と節 目が続いた。4年目以降は育児が加わり、研究との 両立が課題になっている。これまでは周囲の人たち に助けられ、何とか無我夢中で過ごしてきたが、こ れからはそれらの人々のご好意に甘えず、またなる べく迷惑をかけずに、研究と育児に励みたいと思っ ています。

(関東支所 平磯宇宙環境センター宇宙環境研究室)




≪研究部紹介シリーズ≫

宇宙科学部


小川 忠彦

 昨年7月の機構改革で誕生した宇宙科学部は3研 究室から成り、第1特別研究室、第2特別研究室、 平磯宇宙環境センター及び地方観測所とともに、当 所の太陽惑星系科学の研究を担っている。部の前身 は長年の歴史を有する電波部であるが、当所の最近 の研究内容の急激な変化と基礎研究へのシフトを反 映し、機構改革を機に改名された。以下に示す通り、 現在の宇宙科学部の主な研究対象は、高度60〜 10,000kmの超高層大気(上部中間圏、電離圏、磁気 圏〉を研究することである。
【電磁圏研究室】室員5名。長年の歴史を誇る電離層 垂直観測(定常業務)に関し、世界の二ーズに対応 でき、省力化と効率化を目指した開発研究を行うと ともに、中層大気の研究にも力を入れている。
・電離層観測の近代化−観測システムのデジタル 化とネットワーク化、イオノグラム分散処理とデー タ管理システムの構築、電離圏世界資科センター (WDC-C2;電離層データ等の国際交換のために 1957年に設立)の近代化のための大規模画像データ べースの構築を行っている。
・中層大気の研究−平成6年9月に山川観測所に 設置した大型中波レーダを用いて、上部中間圏の風 系の研究を開始した。新しいデータが得られつつあ り注目を集めている。今後、国内外の研究機関との 研究協力を進めていく予定である。
・パートナーズ計画への参加−タイやインドネシ ア等の研究機関と協カし、赤道地域における衛星電 波伝搬に及ぼす電離圏の影響の研究を行っている。
【宇宙空間研究室】室員8名。電離圏から上空の宇宙 空間は希薄な電離大気(プラズマ)で満たされてい るが、当室ではこのプラズマが擾乱を受ける過程を 観測面と理論面から研究している。
・電離圏プラズマ不安定の研究−観測や計算機モ デリングの手法でプラズマ擾乱の発生機構を調べて いる。特に、磁気赤道付近で夜間に発生するプラズ マバブルの季節・経度変化を説明する機構を世界で 初めて解明した。
・電離圏トモグラフィーの研究−電離圏プラズマ 密度の空間分布を求めるため、NNSS衛星を用いた トモグラフィー技術を開発し、稚内、江別、仙台、 東京を結んだネットワーク観測で得られたデータか ら二次元分布を求めることに初めて成功した。
・南極における観測−30年以上にわたって毎年1 −2名の越冬隊員を派遣し、所内外の研究グループ と共同で電離圏やオーロラなどに関連したプラズマ 現象の研究を継続している。成果は多岐にわたる。
【宇宙計測研究室】室員3名。日本の宇宙空間研究の 黎明期から飛翔体を用いた直接測定法による宇宙空 間の研究を実施してきており、非常に多くの成果が ある。最近の研究内容は以下の通りである。
・人工衛星による磁気圏研究−文部省宇宙科学研 究所のEXOS-D衛星観測に参加し、カナダと共 同開発した熱イオン測定器で得られたデータを解析 している。特に電離圏イオンが磁気圏に散逸する過 程の研究で大きな成果を挙げている。
・火星探査計画への参加−宇宙科学研究所が1998 年に打ち上げを予定しているPLANET-B衛星 にカナダと共同開発するイオン分析器を搭載し、火 星電離圏の研究を開始する準備を進めている。
・測定器の基礎開発−飛翔体に搭載する測定器は 宇宙の高真空と大きな温度変化に耐える必要がある ため、その開発にはスペースチェンバーが必須であ る。当室は、イオン銃と真空紫外分光器を装備した 3代目のチェンバー(平成5年完成)を所有し、測 定器の基礎開発や搭載機器のテストを行っている。
 他の研究部に比べて、宇宙科学部の研究予算は決 して潤沢ではないが、研究成果は多いと自負してい る。これは、室員の研究意欲の高さだけでなく、電 波部時代から長年にわたって諸先輩が蓄積してきた 研究財産が大いに関係している。“地球周辺の宇宙科 学研究は成熟した”という世界共通の認識のもと、 各室と室員がより創造的な研究テーマを発掘し、今 後もボトムアップ研究を積極的に進めていくことを 期待している。

(宇宙科学部長)




第1回天気予報士試験を受験して


灘井 章嗣

 「明日は遠出をするんだけど天気は大丈夫かな」 など、天気を気にした経験は誰にでもあることでし ょう。それほど身近に感じる天気予報も「気象業務 法」により、不特定多数に対する予報は気象庁しか 行なうことができませんでした。しかし「欲しい時 に欲しい所の気象情報」を求める声に対応して、来 年(平成7年)4月から気象業務法が改正され、気 象予報士をおく民間気象業務者は「対象地域を限定 した一般向け局地的な天気予報」を不特定多数に出 すことができるようになります。天気予報士試験は 気象庁から指定を受けた指定法人〈現在は財団法人 気象業務支援センター)により行なわれ、第1回がさ る8月28日に行なわれました。これを受験した体験 談をここで紹介します。
 試験は学科試験と実技試験から構成されています。 学科試験はマークシート式で「予報業務に関する一 般知識」と「予報業務に関する専門知識」に分かれ ており、一般知識では気象学および気象業務法に関 する問題が、また専門知識では気象観測や天気予報 技術、気象警報などに関する問題が出題されました。 一般知識の問題は大学学部生対象の気象学程度であ り、気象に興味を持っている人にはさほど難しくな いと思います。一方、専門知識の問題は気象学に加 え、数値予報や客観解析など大気予報技術に関する 知識が必要になります。また、気象業務法などの法 規に関しても一通り目を通す必要があります。
 実技試験は記述式で、共通問題である「第1部」 と「一般予報」「航空予報」「波浪予報」の中から一 つを選ぶ「第2部」に分かれています。どちらも与 えられた資料を解析し、短期間予報をするという内 容です。与えられる資科としては地上天気図、高層 天気図、数値子報結果解析図、気象衛星画像および 解析図、気象レーダ、アメダス等の現況・実況をあ らわすデータなどがありますが、それぞれの資料が 合んでいる情報の種類やその引き出し方、応用の仕 方などが分かっていないと与えられた資科を有効に 使うことかできません。けれども明らかに気象災害 が起こりそうな状況が出題されたため、興味を持っ て天気図を時々眺めている人であれば結論にたどり 着くことができたはずです。
 以上が私の受験した第1回気象予報士試験の概略 です。私自身の感触としては、内容はあまり難しく なく、特に学科試験などは時間半ばにして回答が終 るくらいでした。一方、実技試験の時間の少なさ (設問に対して)はかなり厳しく感じました(気象庁 など実際に天気予報を行う現場ではこのくらい忙し いのかも知れませんが)。内容が難しくなかったため、 明らかに説明不十分だった箇所や思い出せなかった 用語などの不安材科を抱えた私はどうなることかと 思っていましたが、9月30日の結果では合格してい ました(実際に気象業務を行なうには、天気予報士 としての登録や予報業務許可の中請など必要な手続 きがあります)。


▲気象予報士試験合格証明書

 沖縄は台風被害の多い地方であり、沖縄電波観測 所は(来訪された方ならご存知でしょうが)海を見 渡せる高台の上にあるうえ、まわりに風を防いでく れるものがないために台風が近付くたびに強い風に 見舞われます。さらに沖縄電波観測所には短波海洋 レーダ,のアンテナなど風に弱い構造物もあるため天 気予報を軽視することはできません。沖縄では台風 がまだ遠くにある時から強い風が吹き始め、台風の 速度が遅いために強風が長い時間吹き続けるため、 うまくタイミングを見計らわないと全く屋外実験が できないか台風のさなかに撤去作業をすることにな ります。また、沖縄以外の場所で短波海洋レーダの 実験をすることもあり、離れた地方の天気を予測す ることが必要になる場合もあります。また、海洋と 大気は密接な関係にあるため、海洋観測の結果を解 析する際にも気象の知識は重要になります。こうい った機会に気象や天気予報に関する知識を適切に応 用できるようにこれからも精進してゆきたいと思っ ています。

(沖縄電波観測所)




《趣味シリーズ》

射撃&狩猟


高橋 和夫

新聞、テレビ等で毎日銃関係のニュースが流れてく る。一体日本に銃はどれくらいあるのか?
 警察庁のまとめによると、1993年(平成5年)末 に都道府県公安委員会の所持許可を受けた銃砲の数 は猟銃など50万6767丁ある。1978年をピークに15年 連続して許可銃の数が減少している。反対に押収銃 は1年間989丁だったのが1993年には1672丁と増加し ている。今年も9月未現在ですでに1107丁と昨年と 同レベルの押収数となっている。
許可銃の数が減っているのに対し、押収銃は増えて いる悪い傾向と言える。
 私が銃を始めた切っ掛けは、射撃のプロフェッシ ョナルに起き伏しに魅力を感じ平成3年に待望の所 持許可及び狩猟免許を取得した。愛銃は、ベレッタ 社(イタリー)製の散弾銃を手に、思う存分射撃と 狩猟を楽しんでいる。
 猟銃や空気銃は、高級なスポーツとして標的射撃 や狩猟などの用途に使用されているが、一担その取 扱いを誤ると極めて危険な凶器となるため、銃器の 所持については、「銃砲刀剣類所持等取締法」により 厳しい規制がある。
 ちなみに、我が国では、最近の10年間に許可銃の 所持者が半減し、大日本猟友会を構成する狩猟家の 数は、約22万人に減少している。減少している原因 は、国土開発により、狩猟の場が狭くなり、ゲーム が少なくなったため、狩猟の魅力が保てなくなった ことが原因であると聞いている。
 猟銃・空気銃は、それらを使用して、狩猟、有害 鳥獣駆除又は標的射撃をしようとする目的のある者 でなければ所持許可を受けることができない。 「所持」とは、「社会通念上支配の意思をもって、『物 を自己の支配しうべき状態』におくこと」をいい、 所持の形態としては、一般的に保管、携帯、運搬が ある。
 これから銃を所持し射撃を志そうとする人のため に、射法について簡単に述べることとする。


▲写真 散弾銃を手にする高橋和夫氏

 ◇スイング射法
 標的の真後ろから追いかけ、追い越しざまに撃つ 射法
 ◇スロー射法
 照星でいったん標的を捉えて送っていき、撃つ瞬 間に標的の前方に送り出すようにして撃つ射法
 ◇リード射法
 計算された一定の狙い越しを取り標的と全く同じ 速さで銃を送りながら撃つ原則どおりの射法
 射撃動作は非常に短い時間内に行わなければなら ないが、その間に正しい動的フォームによって射撃 しなければ命中させることはできない。

◆狩猟免許
 山野に生息する鳥獣を捕獲(狩猟)するためには、 所持許可とは別に、狩猟免許試験に合格しなければ 狩猟はできない。狩猟鳥獣は、環境庁長官が定めた 鳥獣でなければ捕獲できない。狩猟免許には、甲、 乙、丙の三種類があり、甲種免許は、銃器の使用以 外の方法(網、わな等)で狩猟をする者、乙種免許 は、猟銃(ライフル、散弾銃)を使用して狩猟をす る者、丙種免許は、空気銃を使用して狩猟する者、 にそれぞれ交付される。

◆狩猟者登録
 狩猟を行おうとする者は、狩猟を行おうとする場 所を管轄する都道府県知事に登録中請書を提出し、 狩猟免許の種別、狩猟を行う場所、氏名、生年月日、 住所等の登録を受けなければ狩猟はできない。

◆おわりに
 銃の事故発生は、一般世論から厳しい批判を受け ることになり、銃に対する規制の強化に即繋がるた め、法令には特に固守し、多彩豊富な体験を活かし、 無事故、無違反を存念している。今後もますます習 練し、惰弱に鞭打って「クレー射撃のスペシャリス トを目指すシューター」になるため、残された人生 を有意義に、また、精一杯楽しみたいと思っている。

(関東支所 平磯宇宙環境センター 課長補佐)



短 信




第87回研究発表会開催される


 去る11月30目、本所の大会議室で平成6年秋季研 究発表会(第87回)が開催されました。発表プログ ラムは以下の8件でした。
 (環境科学系)
1 熱帯降雨観測衛星(TRMM)
       搭載降雨レーダの研究開発
  (1)機能確認モデルの開発と実験結果
  (2)降雨強度推定手法の開発
2 広帯域太陽電波観測装置(HiRAS)の開発
 −宇宙開発天気予報の精度向上を目指して−
3 四次元時空の精密計測
 −ゆがんだ時空の謎に挑む−
 (通信情報系)
4 電子メール利用支援システム
 −マルチメデイア対話による利用者の支援−
5 三次元光学顕微鏡による染色体構造の解析
 −遺伝子を伝える生物情報のしくみ−
6 確率モデルを用いた二次元静止画像処理
 −ノイズ等に隠された画像情報の抽出−
7 ガウシアンビーム出力型発振器の開発
 −ミリ波通信のための
   新しい送信機を目指して−
8 技術試験衛星 型(ETS-VI)による 衛星間通信実験計画 主に本所における各種研究の 発表ですが、その他にも通信とは緑遠いようにも思 われがちな四次元や生物分野の研究、ETS-VIの研 究成果等の発表があり、多彩な内容でした。
 当日は所外から173名方が御来聴され、講演者とも 直接質疑応答等の意見交換を活発にして載きました。

(企画課 成果管理係)


▲写真 会場風景



フロンテイア国際フォーラム


 「電気通信フロンテイア研究開発」は、産学官の 密接な連携のもとに電気通信分野の先端的、基礎的 研究を推進するプロジェクトですが、国際研究交流 の一環としてこのたび国際フォーラムが神戸で開催 されました。今回のフォーラムは、285名が参加しま した。オープニングセッションでは熊谷信昭科学技 術会議議員の歓迎挨拶に続き、西澤潤一東北大学総 長の「先端通信技術と新しい世界経済の安定化」と 題する特別講演がありました。2日目の分科会を含 め17名の講演者のうち10名は欧米の著者な研究者で あり、熱心な討議が行われました。