はじめに
我々の生活に光や電波は深く関わっているが、そ
の中間に、未だあまり多くは使用されていない領域
がある。テラヘルツ帯と呼ばれ、周波数がテラヘル
ツ(THz、1秒に1兆回の繰り返し)で呼ばれる
領域である。通信が徐々に高周波化して行って、ギ
ガへルツ(GHz、1秒に10億回の繰り返し)から
やがてはテラヘルツ帯に移行して行くだろうとの予
想に反して、一気に光領域まで跳んでしまったため、
少々開拓が遅れた感があるが、人類共通の財産とし
て、開拓しておくべき重要な領域である。現在この
帯域の電磁波は、分光学、天文学、核融合の分野で
主に利用されている。この領域には、従来、強力な
信号源が無く、高周波すなわち短波長のためコンポ
ーネントが必然的に微小サイズとなり、大気中の伝
播では水蒸気の吸収による減衰が大きく、取り扱い
の非常に難しい領域である。
現在、強力な信号源、新しい方式の信号源、高感
度の受信器、マイクロサイズのコンポーネント等の
研究開発が、上記の利用と関連して行われている。
話を信号源に絞ると、単一周波数で発振するコヒー
レントな(位相の揃った)信号源と、広い帯域の周
波数を連続的に含むインコヒーレントな(位相が不
揃いな)信号源に分類出来るが、炭酸ガスレーザー
励起の分子気体レーザー、クライストロン等の電子
管やガン発振器等の固体発振器と周波数逓倍器、後
進波管(BWO)、そして自由電子レーザー等が前者
に属する。後者としては、高圧水銀灯、シンクロト
ロン放射光(SOR)利用等がある。通信というこ
とを念頭に置くと、単一周波数でコヒーレントな連
続波ということになるが、周波数特性を調べる研究
には、広帯域の信号源が役に立つ。今回我々が製作
し、発振に成功した信号源の特徴は、新しい方式の
信号源で、数テラヘルツに亘る広い周波数帯域を連
続的に含むインコヒーレントな信号源である。大き
さの点では、素子そのものは小さいが駆動部も入れ
て考えると、高圧水銀灯程小さくはないが、SOR
程大がかりではなく、デスクトップの比較的小規模
な信号源である。このような信号源の開発が可能に
なった背景には、フェムト秒レーザー技術が確立さ
れたことと、半導体結晶成長枝術及び半導体の集積
回路技術の画期的な進歩がある。
光伝導膜の作成とその光応答
発振器(及び受信器)は、光応答の極めて速い光
伝導膜上に作るため、その膜作りと光伝導寿命の測
定が先ず重要である。光伝導膜は、半絶縁性のガリ
ウム砒素(SI-GaAs)基板上に、分子線エピタキ
シー装置(MBE装i置)を使って、GaAsを1.5μm
厚程度までエピタキシー成長させて作製した。通常
の高速の電子デバイスを作る際には、GaAs基板は
600℃程に保ち、その上にGaAsをエピタキシー成長
させるが、今回のデバイス作製ではわざわざ基板温
度を下げて、その上に薄膜を成長させた。基板温度
200℃、250℃、275℃、300℃の4種類で膜の作製を
試みた。更にこれらの膜には、成長後600℃で熱処理
を施した。このようなものは低温成長GaAs
(LT-GaAs)と称される。
これら薄膜の光応答の測定は、ポンプ・プローブ
法と呼ばれる、従来から過渡現象の高速測定でよく
使われる方法を用いた。光源は、アルゴンイオンレ
ーザー励起のチタンサファイアレーザーをフェムト
秒バージョンで使用。1本のレーザービーム中にビ
ーム分割器を入れ、強いレーザービーム(約20ミリ
ワット)と弱いレーザービーム(約1ミリワット)
の2ビームを作り、薄膜表面を強い方のレーザービ
ームで照射(ポンプ〉して物理変化を起こさせてお
いて、弱い方のレーザービームで、その変化を乱す
ことなく診断(プローブ)する手法である。レーザ
一光の照射により電子と正孔の対が多数発生し、そ
の数が減少して行く様子が、微小な反射率変化とし
て観測される。図1は上記の4種類の薄漢
(LT-GaAs)とその基板のSI-GaAsの寿命を示したも
のである(M. Tani et al. Jpn.J.Appl.Phys.
Vol.33,4807(1994))。測定結果から明らかな様に、
SI-GaAsをそのまま使うより、その上にエピタキ
シー膜を積んだ方が明らかに寿命が短く、またこの
測定結果によると、基板温度が250℃の時に最も短寿
命で250フェムト秒(1fs:千兆分の1秒)であった。
低速電子線回折(RHEED)パターンやラマン散
乱等による解析も入れて考慮すると、このような材
科は、完全な結晶構造が少し変化した、結晶性膜と
呼ばれるような状態になっていて、アモルファス(非
結晶質)ではないが、格子欠陥密度が高く、砒素
(As)のクラスター(かたまり)を含んでいる。こ
れらが再結合及び補獲中心となって、キャリア(電
流を運ぶもの、電子や正孔〉の寿命を短くしている。
基板温度を下げて膜の製作を行った理由は、完壁な
結晶からはずれた、少々不完全なものをわざわざ作
って寿命の短い膜を作るためであった。LT-GaAs
はキャリアの寿命が短いという特長の他に、抵抗が
高く、易動度も高いという特長があり、超高速の光
伝導材科として望ましい性質を備えているため、オ
プトエレクトロニクス分野で、超高速の光スイッチ
に用いられる。
▲図1 低温成長ガリウム砒素のキャリア寿命
テラヘルツ電磁波発振機・受信器とテラヘルツビ
ームシステム
テラヘルツ電磁波の発振器と受信器は、キャリア
寿命が最も短いことが分かった、成長温度250℃の
LT-GaAs上に、金のコプラナーストリップ線路(単
純な平行線路)と、その中央にダイポールアンテナ
を付けて作製した。発振器、受信器とも形状の異な
るいくつかのものを作製したが、代表的なものを示
すと図2中央のような形をしている。LT-GaAs上
に単純に金だけをつけてもオーム性の接続が得られ
ず、所期の目的が達成出来ないため、少々複雑であ
るか、AuGe/Ni/Auの様な積み重ねになっている。
図のデバイスを発振器として使う時は、ストリップ
線路間に直流の電圧を加えておいて、フェムト秒レ
ーザーからのパルス光を、ダイポールアンテナの間
隙に当てると、光伝導キャリアの発生により短絡し、
ダイポール発振がおこる。これがテラヘルツ帯の広
帯域発振になっている。受信器は、発振器と同形式
のもので、電圧源の代わりに電流増幅器を接続した
形になっている。ダイポールアンテナ部の間隙をフ
ェムト秒レーザーのパルス光で照射して短絡し、回
路を閉回路にして、アンテナで受信される電磁波に
よって誘起される電圧により、電流が瞬間的に流れ
る。これは、基板の光伝導膜の自由キャリア寿命で
決まる時間幅を持った高速のサンプリング受信器で
ある。
▲図2 テラヘルツ電磁波発振及び受信
(上)テラヘルツビームシステム (中)発振器・受信器
(下)発振電磁波のスペクトル分布
このような発振器と受信器を組み合わせた、テラ
ヘルツビーム伝幡システムは、図2の一番上に示し
た様なものになる。発振器に光パルスを当てる度に、
同様のテラヘルツ電磁波パルスが発振するものとし
て、発振器に当てるレーザー光の一部を取り出して、
これに時間遅延をかけ、遅延時間を変えながらサン
プリングして、元の電磁波の波形を再現する。発振
器、受信器ともシリコンの半球レンズと組み合わせ
てその平坦部にマウントし、レンズと放物面鏡によ
ってコリメーション(平行ビームを作る)と集光を
行う形になっている。実際に観測される信号は、図
中THz PULSEと書いた様な形のものであるが、
これにフーリエ変換という数学的な処理をほどこす
と、周波数と電界の振幅の関係が得られる。一例が
図2の一番下のようなものである。この場合、発振
器の直流電圧として100ボルトを加えている。周波数
0−4THzの間に振幅が分布している。包絡線から
鋭く落ち込んでいる部分は、大気中の水蒸気の吸収
による減衰を表している。
おわりに
現在、広帯域の信号源は幅広く、分光研究や材料
評価に使われている。いずれの場合にも、信号源強
度の弱さを補うため、液体へリウム温度に冷却した、
高感度受信器を利用することが殆どである。このた
め常に不便さがつきまとっている。今回開発に成功
した発振器、受信器を用いたテラヘルツビームシス
テムは、デスクトップの小回りのきくシステムとし
て有用で、通信や分光、材科評価への応用が考えら
れる。通信分野では超高速伝送線路の評価、分光や
材料評価の分野では、高温超伝導体や、半導体、超
格子などの最新の電子材料の性質を調べることが出
来る。その際、この方式の特長から、受信を常温で
行えるという大きな利点と共に、振幅と位相の情報
を同時に得ることが出来るということと、従来のよ
うに周波数情報だけでなく時間情報も得ることが出
来るため、従来の信号源と比べ、格段に多くの情報
が得られることが期待出来る。
(関西支所 第三特別研究室)
(関東支所 宇宙制御技術研究室)
(関東支所 平磯宇宙環境センター宇宙環境研究室)
(宇宙科学部長)
▲気象予報士試験合格証明書
沖縄は台風被害の多い地方であり、沖縄電波観測
所は(来訪された方ならご存知でしょうが)海を見
渡せる高台の上にあるうえ、まわりに風を防いでく
れるものがないために台風が近付くたびに強い風に
見舞われます。さらに沖縄電波観測所には短波海洋
レーダ,のアンテナなど風に弱い構造物もあるため天
気予報を軽視することはできません。沖縄では台風
がまだ遠くにある時から強い風が吹き始め、台風の
速度が遅いために強風が長い時間吹き続けるため、
うまくタイミングを見計らわないと全く屋外実験が
できないか台風のさなかに撤去作業をすることにな
ります。また、沖縄以外の場所で短波海洋レーダの
実験をすることもあり、離れた地方の天気を予測す
ることが必要になる場合もあります。また、海洋と
大気は密接な関係にあるため、海洋観測の結果を解
析する際にも気象の知識は重要になります。こうい
った機会に気象や天気予報に関する知識を適切に応
用できるようにこれからも精進してゆきたいと思っ
ています。
(沖縄電波観測所)
▲写真 散弾銃を手にする高橋和夫氏
◇スイング射法
標的の真後ろから追いかけ、追い越しざまに撃つ
射法
◇スロー射法
照星でいったん標的を捉えて送っていき、撃つ瞬
間に標的の前方に送り出すようにして撃つ射法
◇リード射法
計算された一定の狙い越しを取り標的と全く同じ
速さで銃を送りながら撃つ原則どおりの射法
射撃動作は非常に短い時間内に行わなければなら
ないが、その間に正しい動的フォームによって射撃
しなければ命中させることはできない。
◆狩猟免許
山野に生息する鳥獣を捕獲(狩猟)するためには、
所持許可とは別に、狩猟免許試験に合格しなければ
狩猟はできない。狩猟鳥獣は、環境庁長官が定めた
鳥獣でなければ捕獲できない。狩猟免許には、甲、
乙、丙の三種類があり、甲種免許は、銃器の使用以
外の方法(網、わな等)で狩猟をする者、乙種免許
は、猟銃(ライフル、散弾銃)を使用して狩猟をす
る者、丙種免許は、空気銃を使用して狩猟する者、
にそれぞれ交付される。
◆狩猟者登録
狩猟を行おうとする者は、狩猟を行おうとする場
所を管轄する都道府県知事に登録中請書を提出し、
狩猟免許の種別、狩猟を行う場所、氏名、生年月日、
住所等の登録を受けなければ狩猟はできない。
◆おわりに
銃の事故発生は、一般世論から厳しい批判を受け
ることになり、銃に対する規制の強化に即繋がるた
め、法令には特に固守し、多彩豊富な体験を活かし、
無事故、無違反を存念している。今後もますます習
練し、惰弱に鞭打って「クレー射撃のスペシャリス
トを目指すシューター」になるため、残された人生
を有意義に、また、精一杯楽しみたいと思っている。
(関東支所 平磯宇宙環境センター 課長補佐)
第87回研究発表会開催される
(企画課 成果管理係)
▲写真 会場風景