日露パルサーVLBI実験


今江 理人

1.はじめに
 通信総研では、1992年より日露科学技術協力委員 会合意項目としてパルサー関連の共同研究をロシア 科学アカデミーLevedev Physical Instituteとの間 で実施している。本共同研究に基づき、当所鹿島宇 宙通信センター34mアンテナとロシア側64mアンテ ナ(Kalyazin局)との間でのパルサーVLBI実験計画 を推進中であり、本年3〜4月に日露間で予備実験 を実施した。
 本稿では、パルサー観測研究、特に、パルサー VLBIの意義、日露間パルサーVLBIの現状と将来計 画に関して紹介する。

2.パルサーとは
 パルサーは図1にモデルを示すように、高速に自 転する中性子星から放射される電磁波ピームやX線 が中性子星の自転とともに灯台のサーチライトのよ うに回転することにより、観測者からはパルス状の 信号が観測される天体である。


▲図1 パルサーの模式図

 中性子星は、恒星の一生の最期に生じる超新星爆 発によって生まれると言われており、中性子の発見 (1932年)後、時を経ずしてその存在が予言されて いた。中性子星は、ほぼ中性子のみで構成され、半 径10km程度の大きさのなかに太陽の1.4倍程度の質 量をもつ極限状態の天体である。
 実際のパルサーの発見は1967年に英国ケンブリッ ジ大学のヒューイッシュ教授のグループによりなさ れ、その功績によりヒューイッシュらはノーベル物 理学賞に輝いている。
 また、1982年にはミリ秒周期のパルサー(ミリ秒 パルサー)の発見や、秒速800kmという高速で運動す るパルサーなど、パルサーに関する話題にはこと欠 かない。
 最近では、連星系パルサーの軌道周期の減少によ り重カ波放出の間接的証明を行ったことの功績によ り米国プリンストン大学のテーラー教授らがノーべ ル物理学賞を受賞している。
 現在、パルサーはミリ秒周期から秒周期のものま で合計700個以上が発見されており、銀河系内だけで も10万個以上存在するであろうと言われている。
 パルサーの他の天体にみられない特徴としては、 何と言ってもその正確なパルス状の信号であり、そ れを応用して、様々な物理量の計測や応用が可能で ある。
 その各々を詳しく述べるだけの紙面はないので、 ここでは主なものを列挙するにとどめる。
@タイミング計測によるパルサーの天空上の位 置・固有運動の測定
Aパルス信号の伝搬媒質に起因するパルス幅の広 がりによるパルサーまでの距離の測定
B安定なパルス状信号を利用した
  ・時系への応用
  ・宇宙空間の伝搬媒質の研究
  ・太陽系ダイナミックスの研究

3.当所でのパルサー観測研究
 当所では、パルサー、特に、ミリ秒パルサーの周 期安定度が非常に安定であることから、時系の高精 度化を主目的としてミリ秒パルサータイミング信号 の精密計測に関する研究開発を、当所鹿島宇宙通信 センターに34mアンテナが導入されたのを契機とし て開始している。
 また、当所はVLBI(超長基線電波干渉計)に関し ては、我が国のパイオニア的研究機関としてのポテ ンシャルを有しており、さらに、"高精度時空計測" の一環として、パルサーを利用した時空の精密計測 に関する研究開発を進めている。
 当所でのパルサーVLBIはこのような背景から開 始されたもので、その科学的・技術的意義の主な物 は、
@パルサーの位置・固有運動の高精度測定
A@のタイミング計測からの数値との比較による 座標系の精密比較
Bパルサーの精密位置情報のタイミング計測への 反映
Cデータ処理技術の研究開発
  ・相関S/N向上のためのパルサーゲート処理 技術
  ・相対VLBI解析法
であり、特に、タイミング計測で得られるパルサー の位置情報(地球の年周運動を利用した太陽系力学 基準座標系に基づいたもの)とパルサーVLBIで得 られる位置情報(赤道座標系に基づいた物)との比 較を行うことにより、基準座標系の精密結合、比較 が可能となる。
 これを利用して、太陽系のダイナミックスの解析、 銀河系内の物理モデルの構築など、様々な研究への 発展が期待できる。
 パルサーのVLBIや干渉計方式での観測は従来、 10数例報告されているに過ぎないが、これは、パル サー自体の放射電力が一般的に弱いこと、特に、周 波数の2〜3乗に反比例して強度が低下することか ら高周波数帯では観測が困難であり、従来、測地 VLBI等で主に用いられる2GHz帯や8GHz帯での VLBI観測局での観測例が数少ないことによると考 えられる。

4.ロシアとのパルサーVLBI
 ロシア側ではソピエト連邦の体制崩壊に伴い、2 年ほど前より、従来深宇宙探査・データ伝送用に用 いられていた64mの口径を持つ2基のアンテナ (Kalyazin局;モスクワの北方150km程度、とBears Lake局;モスクワの東方30km程度)をパルサー観測 用に使用できるようになり、これらのアンテナを用 いて600MHz帯でのミリ秒パルサー〈PSR−1937+ 21等)のタイミング観測を開始している。
 当所との間でパルサーVLBIを進めているのは、 Kalyazin局64mアンテナでその外観を図2に示す。 同アンテナは600MHz帯の受信システムを有してお り、パルサー観測用に、1.4GHz帯の低雑音受信系が 整備されている。


▲図2 Kalyazin 64mアンテナ外観

 ロシア側では本格的なVLBI観測は初めての経験 であり、この予備実験では当所より研究者(鹿島宇 宙通信センター関戸研究官)をロシア側に派遣し、 かつ、当所のK-4 VLBIシステムを1式運搬し て鹿島34mアンテナとの間(基線長7,000km程度)で 1400MHz帯でのVLBI観測を実施した。
 このシステムを用いての”日露パルサーVLBI予 備実験”の位置付けとしては、
 @Kalyazin局のVLBI局としての立ちあげ
 A1.4GHz帯でのパルサーVLBI試験観測であり、 パルサーVLBI試験観測として、数個の比較的強度 の強いパルサーとその近傍(離隔5°以内程度)の クェーサーのVLBI観測を実施した。
 上記のようにロシア側は本格的VLBIは初めての 経験であること、また、観測局と日本との直通の連 絡手段が無い(e-mail等で本部と連絡をとり、ロシ ア内で電話連絡)ことなどから、実験の遂行には困 難をきわめたが、ロシア側研究者の熱意に支えられ、 パルサーVLBI予備実験を実施する事(3月15〜16 日、並びに、4月11日)ができた。
 実験後に関戸研究官が持ち帰ったテープを用いて 相関処理を行った速報値としては、強度の強い秒ク ラスパルサーや基準クェーサーに関してはパルサー ゲート無しでフリンジ検出(図3)がされており、 観測/記録が順調になされたことが判明している。
 今後、パルサーゲートを用いた相関振幅のS/N 向トや詳しい解析を進めるべく準備を行っていると ころである。


▲図3 日露パルサーVLBIフリンジ
             (PSR0329+59)

5.おわりに
 ロシアとの本格的なVLBI実験は、当所としては 初めてのものであり、通信・機材輸送手段の問題を 初めとして障害は多いが、長基線を確保でき、かつ、 大口径アンテナであることなどから、パルサー VLBIのみならず意義の大きい実験である。
 今後のパルサーVLBI観測計画としては、平成7 年度は、科学技術庁振興調整費個別重要国際共同研 究で日露間の実験経費が認められており、複数回の パルサーVLBI観測を実施する事を予定している。
 また、ロシア局のVLBI局としての立ち上げが順 調に進行できれば、将来、南北基線としてオースト ラリア局等を用いたパルサーVLBIネットワーク構 築に向け発展させ、数十〜100個程度のパルサーに関 する精密位置・固有運動の決定を行い、パルサー研 究に寄与していきたいと考えている。
 最後に、今回の日露パルサーVLBI予備実験に際 し、ご協カをいただいた関係各位に感謝する次第で ある。

(標準計測部 時空計測研究室)




小惑星と地球の衝突確率


吉川 真

 太陽系には、小惑星と呼ばれる天体が数多く存在 している。その名のとおり、小惑星は小さな天体で あるため、なかなかその素顔を見ることはできなか ったが、最近になって探査機が小惑星に接近しその 写真撮影に成功した。図1はイーダと呼ばれる小惑 星とその衛星の写真である。まるで宇宙に浮かぶ巨 大な、“さつまいも”のような形状をしている。この ように、一般に小惑星は不規則な形をしている。


▲図1 探査機ガリレオによって撮影された省惑星イー
 ダとその衛星。この小惑星の大きさは差し渡し約54km
 で、衛星は約1.6kmである。(NASA/JPLによる)

 小惑星は、現在の時点で軌道が確定しているもの だけでも6千個以上になる。軌道が未確定であった り発見されていないものも含めると、その数は数十 万個とも百万個とも言われている。これらの小惑星 の大部分は「小惑星帯」と呼ばれる火星と木星の軌 道の間に分布している。しかし、冥王星軌道付近に 存在するものや地球軌道よりも内側まで入り込むも のもかなり発見されるようになった。特に地球軌道 の内側まで入り込む小惑星の一部について、その軌 道を描いてみると図2のようになる。地球軌道付近 も小惑星軌道で混み合っていると言える。


▲図2 地球軌道の内側に入り込む小惑星の軌道。
 ここでは、軌道がよく決定された115個の小惑星に
 ついて軌道を描いてある。中心は太陽で、太く描
 かれた軌道は、内側から水星、金星、地球、火星
 の軌道である。(AUは天文単位)

 さて、地球軌道付近にもたくさん小惑星が存在す るとなると、誰しも地球との衝突を心配することで あろう。1994年の7月には木星にシューメイカー・ レビー第9彗星が衝突し木星表面にかなりの影響を 及ぼしたという事件があった。これを単なる”対岸 の火事”として片づけてしまってよいのだろうか?
 幸いなことに、小惑星のような天体の運動は天体 力学の知識を用いて非常に正確に予測できる。この ことは、シューメイカー・レビー彗星の木星衝突の ときにその衝突時刻や場所があらかじめかなり正確 に予測できたということからも分かる。そこで、筆 者はすでに軌道が決定されている小惑星のうち地球 軌道に近づくもの188個について、その軌道運動を過 去と未来へそれぞれ2,600年間づつ計算し、小惑星と 地球とのニアミスについて調べてみた。
 その計算結果であるが、まず結論を言うと、「現在 の段階で軌道が決定されている小惑星が近い将来に 地球に衝突する可能性はほとんどない」ということ になる。いくら地球軌道付近が小惑星軌道で混み合 っているといっても、やはり宇宙空間は地球や小惑 星の大きさからみれば桁違いに大きい。そう簡単に 衝突は起こらないのである。
 計算結果をみると、今後最も地球に接近する小惑 星は小惑星番号4660番のネレウスと呼ばれるもので、 西暦3539年の1月に地球からの距離15万kmのところ を通過する。図3に示すように、この距離は地球− 月の距離の半分以下という宇宙的に見れば正真正銘 のニアミスである。が、地球に衝突するまで接近は しない。この他に、月までの距離以内に接近するニ アミスは、未来2,600年間に4回ほどある。


▲図3 小惑星ネレウスの西暦3539年における地球
 接近。この図ではネレウスの軌道を地球の公転面
 である黄道面に投影してある。中心が地球である
 が、地球の大きさは正確ではない。

 それでは、小惑星の地球衝突の確率はどのくらい あるのであろうか。上記の計算結果を用いて小惑星 の地球衝突確率を求めてみた。その結果、計算に考 慮した188個の小惑星が地球に衝突する確率はほぼ 130万年に1回という値となった。ただし、地球軌道 付近にくる直径が1km以上の小惑星は2千個ほどは あると推定されているので、直径1km以上の小惑星 が地球に衝突する確率は12万年に1回程度となる。 この値は、別の方法で推定された値に比べて少し大 きめではあるがほぼ一致していると言ってよい。
 この解析によると、少なくてもすぐ小惑星が衝突 する可能性はなさそうである。しかし、手放しで安 心しているわけにもいかない。その理由は2つある。
 1つは、いくら正確に軌道計算が可能だと言って も、観測によって求められた軌道要素に基づいて計 算が行われていることである。観測には誤差がつき ものであるから、小惑星の軌道は観測が行われるた ぴに修正された軌道要素を用いて検討し直すと結果 が異なる可能性がある。
 もう1つの理由は、すでに述べたように、我々の 地球軌道のまわりといっても、まだまだ発見されて いない小惑星がたくさん存在しているということだ。 表1には、最近、発見された小惑星のうち地球に百 万km以内に接近したものを示す。これらは、たまた ま観測にかかったものである。この観測結果は、我々 の知らないうちに地球が小惑星のニアミスをかなり 受けていることを示唆している。

表1 最近、地球に百万km以内に接近した小惑星
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名前          日付        接近距離  推定直径
                               (万km)    (km)
1989FC    1989−03−23      75           0.1
1991BA    1991−01−18      17           0.005
1991TU    1991−10−08      73           0.005
1991VG    1991−12−05      46           0.005
1993KA2   1993−05−20      15           0.01
1994ES1   1994−03−15      17           0.013
1994WR12 1994−11−25      73           0.32
1994XM1   1994−12−09      10.5         0.016
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 小惑星の地球衝突というとかなりセンセーショナ ルな話になってしまう。しかし、観測によって小惑 星をすべて発見しその軌道を正確に求めてしまえば、 小惑星の運動は完全に把握できる。そうすると、仮 に小惑星が地球に衝突するとしてもそれはあらかじ め知ることができるから、いろいろ手だてをとるこ とができる。従って、小惑星の地球衝突など恐れる 必要はない。つまり、観測によってデータを得るこ とが重要なのである。
 ここでは、小惑星を地球衝突という側面からみて きたので小惑星が”悪者”であるかのような扱いに なってしまった。しかし、小惑星は原始太陽系の情 報を保存している天体だと考えており、太陽系 の起源や進化を探る鍵だと考えられている。また、 その資源的な価値もかなりありそうである。世紀末 ということであろうか、小惑星の地球衝突というこ とが何かと取り上げられる傾向にあるが、今後も小 惑星を科学の目で見続けていきたい。

(関東支所 宇宙制御技術研究室)




研究交流の現状と将釆展望


松本 和良

はじめに
 最近、共同研究及び研究者招へい等の研究交流の 実施件数の増加の観点では、当所の研究交流が確か に盛んになってきた。例えば、平成6年度について、 200件の共同研究の実施や、67人の招聘外国人研究者 及ぴ99人の国内招聘研究者(研修生)の受入れが行 われた。これは統計資料のある昭和63年と比較する と、共同研究で約4倍、招聘外国人研究者で約5.6 倍、国内招聘研究者で約4.5倍に増加している。以上 の増加の内容を報告し、将来展望も述べたい。

共同研究について
 共同研究の件数推移を第1図に示す。総件数は200 件に達した。昨年までは急上昇したが、この1年間 は上昇が緩やか(10件の上昇)になった。大学・公 的機関との共同研究は92件と昨年度より4件増え、 民間企業とのそれは24件と昨年より5件増え、国際 共同研究は84件と昨年度よリ1件増えた。


▲第1図 共同研究件数の推移

 注目されるのは、従来共同研究の実施件数が他分 野に比較して比較的少なかった電磁波物性・材料、 高機能知的通信、人間・生体情報の各研究分野につ いて、実験装置等を利用しあう共同利用の共同研究 が目立ちはじめたこと、また、民間との共同研究に ついて、高機能知的通信分野又はこれに関連する課 題(例えば、マルチメディア、広帯城ISDN、ネット ワーク関連)を開始したこと、産官学4者共同の研 究を一件であるが開始したこと、などである。
 国際共同研究について、中国との共同研究が健闘 し、ドイツと中国の順位が入れ替わったことを注目 したい。

外国人研究者の招聘について
 外国人研究者の招聘は、科学技術庁招聘予算にも とづくところのSTAフェローシップ制度、今年度ス タートしたCOE化プロジェクト非常勤研究員制度 等の長期招聘与制度(6カ月以上)や、短期招聘制度 (6カ月未満)が代表的である。この外国人研究者 の招聘実績の推移を第2図に示す。平成6年度は、 平成5年度の29人から急に2.31倍に増え、67人に達 した。


▲第2図 外国人招聘研究者の推移

 長期滞在の研究者は16人で、STAフェローシップ 制度による12人、COE制度での招聘の2人、及ぴ相 手国派遣(派遣元)の2人からなる。ただし、前の 2制度による合計14人は第2図では科学技術庁予算 42人の中に含めた。
 残り51人は最長3〜4か月程度の短期滞在であり、 科学技術庁予算29人と郵政省招聘予算2人、相手国 派遣2人、その他の制度18人からなっている。
 今年度の増加分の38人の内訳は第2図の科学技術 庁予算の増加分19人、その他の増加分15人、相手国 派遣の増加分3人及ぴ郵 政省招聘の増加分1人で ある。増加分のうち、長 期滞在分はCOE制度に よる2人であり、差し引 き36人の増加分は全て短 期滞在に分類される。
 所内に宿泊可能な施設 を若干用意し多くの研究 者を招聘したことが、今 年度の急激な人数の増加. (13人から36人、2.8倍) を可能にした。

国内の研究者(研修生)の招聘・受入について
 研修生を含めた国内の研究者の招聘・受入れ(原 則1年間)は、科学技術庁特別研究員、学部生(4 年次学部学生及ぴ5年次高専生徒)、マスター・ドク ター(大学院課程学生)、その他(民間企業からの技 術者、他省庁からの国内留学生、大学の先生、COE 制度で招聘したポスドク研究員など)、短期(3年次 学部学生等の夏季実習生)に分類し、第3図に受入 れ人数の推移を示す。


▲第3図 国内紹聘研究者の推移

 昭和57年度から平成6年度までのデータで見て指 数関数的に上昇し、特に、平成6年度は99人で平成 5年度からは、71%の増加となった。内訳は、学部 生が34人で48%、マスター・ドクターが31人で55%、 その他が13人で63%、そして短期が16人で4倍とな っている。科学技術庁特別研究員は平成6年度は5 人であり、ほぽ一定の水 準にとどまっている。
 この増加の当所側の理 由として、電通大の連携 大学院になったこと、民 間企業の技術者を受け入 れたこと、当所の研修制 度及び横極的受入姿勢が 広く知られるようになっ たこと、各受入研究室が 積極的に指導を行ってい ること等が上げられる。
 相手側の依頼の理由と しては、大学に関しては、 卒業研究テーマの多様化 と学生に対する研究指導 の充実化の手段として当 所の研修生受入を期待し ていること、民間企業に 関しては、国が先導して 研究開発を推進していく ことを期待していること、 などが考えられる。

今後の対処について
 現在までは当初のメリットのみを期待して共同研 究、研究者招聘等の研究交流を実施してきた。しか し、今後社会的ニーズとして研究交流はいっそう膨 らんでいくと考えられ、この要求に十分に対応でき る体制を整備し、積極的に対応していきたい。
 共同研究に関しては、大学等研究機関は言うに及 ばず民間企業との協力をいっそう活発化するために、 外部の研究者が当所のプロジェクトに容易に参加で きる様に手続を簡略化した。また、情報通信の国際 的同時発展に対応し、外国政府機関のみならず外国 の民間企業との共同研究も可能にした。
 研究者招聘に関しては、招聘予算を増やしていく ことと併せて、宿泊施設の充実等が少ない予算で多 くの研究者を招聘できる効率的な手段であると考え ている。

(企画部国際研究交流室)




新共用計算機システムについて


斎藤 義信

 流行は歌やファッションだけではなさそうである。 言葉、特に若者には、省略語による会話がはやって いるようで、オジンやオバンは別として、ゴクミ(後 藤久美子)、チョウビク(非常に驚いた)、チョウマ ンゾク(非常に満足)などよく耳にする。昔は重厚 長大、今は軽薄短小が尊ばれるゆえんであろうか。
 この傾向はコンピュータの世界も無縁ではない。 ”クラサバ”(クライアント/サーバ)なる省略語が ポピュラーになっていると言われている(ユニシス ニュース1995.4)。”クラサバ”とは、あるプロセス (クライアント)が他のプロセス(サーバ)に処理 を依頼し、その結果をもらう形で相互に連携しなが ら処理を実行するシステムを言う。当所に導入した 新システム(研究用共同計算機)は正にこの”クラ サバ”型システムである。
 40数年の歴史を持つ汎用機中心のシステムに対し、 クラサバはまだ始まったばかりで、多くの問題や課 題を抱えている。なのにどうしてクラサバなのか、

その主な理由は、
 第1に、当所の利用形態が、従来の汎用機を中心 とする集中処理型から、UNIX機やPCを中心とす る分散処理形式に変化していること。
 第2に、小型計算機およぴそのソフトウェアの高 性能化、低価格化が進んでいること。
 第3に、ネットワークの充実によりデータベース などの共有化が必要になっていることなどであろ う。
また新システムの主な待徴としては、
 @日本一の大容量NFSサーバの導入
 A種々の分野のアプリケーションソフトウェア (10個)の導入
 BSE(システム・エンジニア)の常駐
 Cスーパーコンピュータなみの計算能カを持つ CPUサーバの導入
さらに、60台弱の端末や10以上といわれる納入業者 の多さ(マルチベンダ)も挙げられよう。これら全 ての特徴は、職場からの意見や要求を受けた結果で あり、利用者が構築したシステムと言っても過言で はない。それと@からBまでは、共用のシステムと しては日本ではまだ他に類を見ない特徴でもある。
 しかしマルチベンダ化ゆえの課題や問題も多い。 これらの課題や問題を解消するには、利用者からの 指摘や助言が最も効果的である。このことは、情報 システムの主役が従来のコンピュータ・ベンダから 利用者に移り変わっていることを意味している。幸 い助言してくださる利用者も多く、紙面を借りて感 謝の意を表したい。又それに応えるためにも、チョ ウマンゾクは無理としても、横山次長が納入業者の インタビュー(火入式)で答えた『役割に応じた機 能を果たすシステム環境を作ること、研究者のどの ような処理にも対応できる万全のシステム基盤を目 指したものです。例えば、シミュレーション処理が 出来ない、このアプリケーション・ソフトウェアが 使えないというのでは、研究も進みません。良い研 究成果を続々と生み出してもらうためにも、システ ム環境の整備が必要不可欠−』に対応できるシス テム構築に日夜努カしているところである。今後も 皆さんのご協力をお願いしたい。

(企画部技術管理課電子計算機係)


▲写真 新共用計算機システム




北米のデジタル放送技術の動向調査に参加して


総合通信部放送技術研究室 井□政昭

 大正14年、AMラジオから始まった放送は、テレビ へと発展し、阪神大地震で炎上する町並、倒れた高 速道路の橋脚を生々しく映像で全国に伝えるなど、 人々の最も身近な情報源として娯楽・教養・教育の 普及その他、その役割を増大させてきています。そ の放送が、21世紀を目前にして大きく変わろうとし、 注目を浴びています。その背景は、発展してきたデ ジタル技術の放送分野への本格的な導入が現実的に なってきたことです。デジタル放送は、世界各国で 検討が進められ、日本においても、当研究室も参加 する郵政省の電気通信技術審議会において実験を含 めた検討が進んでいます。
 今回、放送技術開発協議会(BTA)主催の「放送 技術海外動向調査団」の一員として、米国・カナダ のデジタル放送技術の動向を調査する機会を得まし た。調査団は、国内の放送事業者や放送機器製作企 業などの専門家10人の陣容で、団長はCRL前次長の 小嶋弘BTA専務理事でした。調査は、4月8日の出 国から帰国まで12日間の期間で、全米放送連盟 (NAB)主催の放送機器展(NAB'95)ヘの参加と そこに出席している関係機関との打合せ、米国 CATV局、カナダ国の研究所や国営放送局などの訪 問による関係者との打ち合わせにより行いました。
 NABの放送機器展は、技術発表と展示会を内容と して毎年4月に開催され、放送技術に関する動向調 査と最新機器の買い付けの場として利用されていま す。この世界最大の放送映像機器の展示会は、世界 の放送業者、映像制作関係者、放送・映像機器メー カーの注目を集めています。BTAも毎年調査団を派 遣しているそうです。今年は、全世界から8万人(主 催者発表)が参加し、面積5万1平方メートルという 広大な施設のラスベガスコンベンションセンタ一と ヒルトンホテルで開催されました。ラスベガスの開 催は、91年からで、展示会のスペースの確保、ホテ ル代の安さ(主にはギャンブルの収益で経営?)な どの理由からだそうです。


▲写真 ディジタル音声放送デモ車と調査団
             (カナダ放送局CBC前)

 今回の調査によって、北米(米、カナダ国)の次世 代TV方式の検討の最新の進捗状況、サービスを開始 した米国の直接衛星放送(Direc TV)の現況、6割 以上の家庭が加入する発達したCATVの現況、デジ タル音声放送検討の進捗状況、立体的クロマキー合 成によるバーチャルシアター、デジタル画像圧縮機 器などの最新の放送技術、等を把握してきました。ま た、これらの現況は、広大な国土を持つ米国の国情を 色濃く反映していること強く感じました。
 今回の旅行は、4月半ばでも青空が印象的で上着 着用が億劫なラスベガス、タ方に0℃まで下がるカ ナダ、北風の強いニューョークなど気候変化が激し く、飛行機で移動する忙しいものでした。しかし、 食事がホテルでの朝食を除き、殆どが日本食(ラー メン、寿司等)であったおかげで、慣れない海外旅 行でも健康管理ができたようです(日本食になった 理由は、同行者の多くが海外旅行憤れしておられた ため?)。同行者の薦めで食べたソフトシェルクラブ (脱皮したばかりのカニ。日本風に唐揚げでカラま でまるごと食べる)は珍味で、今回の旅行の新発見 でした。
 最後に動向調査の機会を与え、お世話を戴いた関 係者の方々に感謝します。

(総合通信部 放送技術研究室)



短 信



施設一般公開


 夏の恒例行事である研究施設、研究内容一般公開を8月1日血゚前10時から午後4時にかけて本 所、各センター、観測所において実施いたします皆様ご多忙中のこととは存じますが多数の御来場 を心よりお待ちしております。

交通機関

<通信総合研究所>                   Tel 0423−27−7465
JR中央線武蔵小金井駅北口下車−京王バス(小平団地)
<関東支所鹿島宇宙通信センター>            Tel 0299−82−1211
JR鹿島神神宮駅−バス(電波研究所行き)終点宇宙電波研前下車
<関西支所関西先端研究センター>            Tel 078−969−2100
JR大久保駅(在来線)下車「国道大久保」から神戸市営バス(上岩岡、西神中央駅方面行き)(「秋 田回」以外で)上新地下車 徒歩10分
<関東支所平機宇宙環境センター>            TeI 0292−65−7121
常磐線 水戸駅下車−茨城交通バス(阿字々浦行き)無線下バス停下車 徒歩3分
<稚内電波観測所>                   Tel 0162−23−3386
JR宗谷本線 南稚内駅下車 徒歩15分
<犬吠電波観測所>                   Tel 0479−22−0871
銚子電鉄 外川駅下車 徒歩15分
<山川電波観測所>                   Tel 0993−34−0077
JR指宿枕崎線 山川駅−JRバス(山川港行き以外)大成校前下車 徒歩7分
<沖縄電波観測所>                   Tel 098−895−2045
普天間−東陽バス(中城公園行き)終点中城公園下車 徒歩3分