捕獲カドミウムイオンの高分解能分光


−1億分の1のさがしもの−

田中 歌子

はじめに
原子はそのサイズからは想像できないくらい実に 多くの情報を担っているが、いざ取り出そうとする といろんなものに邪魔されて、そう簡単にはいかな い。私たちの研究室では原子(正確には原子が電荷 を持った状態であるイオン)を空間的に閉じ込める イオントラップという技術をべ一スにしたいくつか の研究を行っているが、それはイオントラップによ ってそれまで見えなかった内部の情報か新たに得ら れ、ミクロの世界に対する認識が深められるからで ある。また応用についても、イオントラップは原子 の超高分解能分光の基礎技術としての地位を築いて きており、原子レベルでの物質の操作をはじめ、新 しいタイプの周波数標準にもつながる可能性も秘め ている。その場合にどのイオンを対象にすればいい のかは、世界的にみてもまだいくつかの候補がなら んでいる段階である。
これから報告するのはカドミウム(以下Cdと略 す)イオンの固有の周波数に対する精密測定である。 従来の測定と比べると、トラップ技術のおかげでは るかに精度の良い値を得ることができた。

原手の超微細構造
今回測定したイオンの固有の周波数というのは、 正確にはイオンの基底状態の超微細構造間隔の周波 数である。原子はそれぞれどういうエネルギー状態 をとるかが決まっていて、ある状態から別の状態に 移る際に、そのエネルギー差に見合った周波数の光 を吸ったり出したりする。この光は紫外や可視の領 域の場合もマイクロ波領域の場合もある。基底状態 というのはエネルギー的に低い、安定な状態だが、 原子の中にはこの基底状態がさらに細かく別れてい るものがあり、これを超微細構造という。
Cdではこの超微細構造の間隔はおよそ15GHzで ある。同じ様な電子配置のイオンを調べてみると、 基底状態に超徴細構造をもつものはその間の周波数 がやはり数GHzから数十GHzといったマイクロ波 帯にある。Cdの15GHzはそれらの中では高い方に 位置している。

イオンの高分解能分光
私たちの目的はこの周波数をトラップ技術を用い て高精度で求めることである。CRLニュースにも 何度か登場したことがあると思うが、イオントラッ プとは、イオンが電荷をもつことを利用して、制御 された電場をかけてやることによりイオンを一箇所 に閉じ込める方法である。通常イオンは熱運動によ って飛び回っており、ドップラー効果などが邪魔を して精密測定ができない。それに比べてトラップさ れたイオンは運動が制限されているので、より理想 的な状況で測定ができる。
具体的にはトラップされたイオンにいろいろな周 波数のマイクロ波をあてて、どの周波数のときに吸 収がおこるかを探す。光を原子やイオンにあてて吸 収や放出の様子を調べることを分光するというが、 特にここではトラップ技術を用いて高分解能分光を 行うことになる。

宝さがし
ではこのCdイオンの超微細構造はどの程度わか っているのか。さきほどおよそ15GHzといったが、 過去に測定されたのはなんと20年も前のことである。 その測定はトラップ技術を用いたものではないので 精度もあまり良くはなく、15240±200MHzという 値である。そこまでわかっていれば上等じゃないか と思われる方もあるかもしれない。しかしトラップ 技術を用いた場合、他のイオンでは数Hzからそれ 以下の精度で超微細構造間隔が測定されている。士 200MHzの範囲から数Hzの精度で値を求めるとい うのは、おおざっぱに言って1億分の1のさがしも の、たとえば東京〜大阪間の線路に沿ったどこかに 埋められている、数ミリメートルサイズのダイヤモ ンドのかけらを掘りあてなさいといわれたようなも のである。しかもちょっとくらいはこの範囲からは みだして、神戸あたりに埋っているかもしれない。 多少は見つかりやすいように工夫したとしても、気 の遠くなるような話である。

Cdイオンの利点
このような困難が予想されるにもかかわらず私た ちがCdに注目したのは、超徴細構造などの構造が 単純で、高分解能分光に適したサンプルだからであ る。また詳しい説明は省略するが、マイクロ波の吸 収を高感度に検出するためにはイオンにレーザー光 とマイクロ波を同時にあてて、イオンからの螢光強 度の変化を観測するという方法を用いる。イオンが マイクロ波を吸収すると、螢光強度が増加するよう にしておくのである。Cdの場合この方法に必要な 波長は214.5nmだが、この波長を発生させるには何 とおりかの方法がある。特に半導体レーザーの第4 高調波をとることでも発生できる。このことは将来、 新しいタイプの周波数標準の構成を考えた場合にも、 小型で安価な光源を用いての実用化が可能というこ とで有望といえるであろう。
ところがこれまでにCdイオンはトラップ技術を 用いた研究の対象にされたことはなかった。そこで 今回私たちはCdイオンの分光実験に取り組んだの である。

超微細構造の測定実験
実験は図1のような装置を用いて行った。真空チ ェンバーのなかにトラップ電極を配置し、中心にト ラップされたCdイオンにレーザー光とマイクロ波 を照射する。今回の実験では波長429nmの色素レー ザー第2高調波をとることで発生させた214.5nmの 紫外光源を使用した。この部分は上で述べたように 将来半導体レーザーの第4高調波でおきかえること が可能で、現在準備をすすめている。15GHzのマ イクロ波の方はルビジウム原子を用いた発振器から の信号を基準にして、シンセサイザで発生させた。 マイクロ波の周波数を掃引して、螢光の強度が増加 するのが観測できれば、そのときにシンセサイザの 示している周波数の値が求める超徴細構造間隔であ る。尚、Cdにはいくつかの同位体があるが、この 実験では113Cdをサンプルにした。


図1 イオンの高分解能分光のための実験装置


けがの功名
実際の作業は、マイクロ波を掃引しながら螢光強 度のモニタ画面を凝視することの繰り返しである。 初めは変化はあらわれず、いったい本当に見えるの だろうか、と不安な日々が続いた。SN比を上げる 努力を重ねたある日、ひょっこりダイヤモンドは姿 を現わしてくれた。ごくごくわずかの螢光強度の違 いが確認できたのである。マイクロ波を掃引した結 果得られたのは、予想に反して数十kHzの幅をもつ スペクトルであった。マイクロ波の強度が強すぎる ことによって、スペクトルがひろがってしまう現象 がおこっていたのである。ダイヤモンドが長さ数十 メートルに化けて埋っていたようなものだ。Cdイ オンの位置でのマイクロ波の強度は確認のしようが ないためできるだけ効率よく導入できるようにして いたのだが、実際には強度は吸収を検出するには十 分、いや十分すぎたのである。これは最終的には除 去しなければならない広がりなのだが、今のように 周波数を探している段階ではたいへん助かったわけ だ。
決して一か八かで実験しているのではないが、初 めてやる実験には手探り状態がつきものである。こ ちらで気のつく条件を一生懸命整えていくうちに、 いつのまにやらプラスアルファがそろっていたよう だ。他のどの条件が欠けていても結果はでなかった のだが、最後のプラスアルファはCdの方から「ま、 そこまで言うならそろそろ姿を現わしてやるか」と 付け加えてくれたような気がする。
マイクロ波の吸収が確認できたあとは、ひたすら スペクトルの幅を狭くするための努力が続いた。


図2 マイクロ波周波数を掃引したときの蛍光強度の変化


マイクロ波の強度を調整するだけでなく、Cdを純度 の高いものにかえたり、レーザー光の強度や他のさ まざまなパラメータを調整した結果、図2のような 幅6Hzのスペクトルが得られた。簡単のため図の 横軸の周波数の値は絶対値ではなく単にスケールを 示すものにしてある。このような測定を繰り返すこ とによって誤差2Hzの範囲内でスペクトルの中心 の周波数を読み取ることができた。

磁場による周波数シフトの補正
最終的に数値を求めるためには地磁気などの残留 磁場によるシフトを補正しなければならない。真空 チェンバーのまわりに3対のコイルを巻き、イオン の位置での磁場の向きや強さを変化させて各々の磁 場での周波数を測定した。理論的にこれらのシフト 量は磁場の値の2乗に比例することがわかっている ので、この曲線と測定値とを比較して磁場がゼロの ときの値を求める。図3はその比較であるが測定結 果は理論的に予想される2次曲線ときれいに合って いる。図の縦軸は下に示す周波数の下3桁のみを表 示したものである。
これらの補正を行い、113Cdの基底状態の超 微細構造間隔を、15 199 862 858Hzと決定した。


図3 超微細構造間隔の周波数の磁場依存性


おわりに
イオントラップという技術を用いたことによって、 Cdイオンの超微細構造が従来よりもはるかに精密 に求められた。それにしてもたった一つの数値を求 めるための苦労をいまさらながら実感させられた。 卓上になにげなく置いてある理科年表の重みが、最 近の私には何倍にも増したような気がしてならない。

(関西支所電磁波分光研究室)




差動電波干渉計の開発


川瀬 成一郎


研究の背景
衛星通信の発展にともない静止衛星の数が増大を 続けるならば、容量が限られている静止軌道はいず れ混雑を免れられなくなる。現に、2機以上の衛星 がすぐ隣あって、あるいは全く同じ静止位置に配置 されるという状況が生じはじめている。また一方で は、多数の衛星のクラスターにより故障に強い通信 システムを作ろうという構想があり、その運用のた めには相当な軌道の混雑を覚悟しなければならない。 軌道の混雑のもとで衛星を管理するためには、衛 星どうしの相対運動を正確に知るのが最も効果的で ある。ところが、ひとつの静止衛星を運用する技術 が永年の運用により成熟しているのに対して、複数 の衛星に関して相対位置をとらえる技術はまったく 未発達である。今後、国や所属を異にする不特定多 数の衛星を対象として混雑を管理していくためには、 衛星機上の特殊な装備にたよることなしに、地上で の観測に基づいて、しかも電波の受信だけによって、 衛星相対運動を正確に推定できることが望まれる。 電波干渉計を用いるならば、電波の受信により衛 星方向が正確に観測される。同一の干渉計で多数の 衛星を観測し、それらの観測値の差をとるならば、 観測誤差のなかで各衛星に共通のものが消えるから、 衛星の相対運動が正確に推定できるはずである。こ のような考え方に基づいて実験的な差動観測システ ムの開発を進めているが、そのハードウェアが完成 したのでここに紹介したい。

システム構成
本システムは放送衛星をターゲットとして実験を 行う。我国の放送衛星BS-3は、現用機と軌道上 予備機が東経110度の位置に共存しており、軌道の 混雑化の身近な例となっている。この軌道位置にお いては数か国の放送衛星の計画が重なっているため に、相当な混雑が今後に予想されている。実験シス テムは、BS衛星に割り当てられた11GHz下りビ ーコンの周波数帯のなかから、任意に選択した2衛 星のビーコン(a、bとする)を同時に受信するよう に作られている。有効径1.2mのアンテナが合わせ て5基、図1のA、B、Cに配置されている。


図1 アンテナ配置

その配置は、電波の入射方位に沿う直交L字型が望まし いが、地形や既存施設による制約のために図の配置 とした。システムの構成を図2に示す。各アンテナ に付随するRF部はそれぞれ、到来したビーコン a・bを、共通のローカルを用いて100MHz帯IF に落とす。特に低雑音コンバータとしては、BS用 市販品を外部ローカル対応に改造して使用した。I F以降の機器はB点に置かれているが、そこからア ンテナA・Cへ向けたローカル源振の供給ならびに IF伝送のためには、位相を安定化した光ケーブル を使用した。受信部RXはそれぞれ、ビーコンa・ bを分波する。そして両衛星について、L字配置の 中央アンテナB2の位相を基準として、他のアンテ ナ系の位相を測定する。このとき100m基線の観測 では、波長の整数借相当の位相不定性(ambiguity) が生じるので、それを解消するために4mの短基線 での観測を併用している。
差動観測を実現するためには、2衛星に対する観 測を同時並列に、しかも均一な特性をもって行わな ければならない。ここでは、各系のIFをさらに10 MHz帯に落としてから直接サンプリングを行い、 デジタル的に位相を計測する。


図2 システム構成



アンテナB2系の信号a・bをそれぞれ追尾して基準位相を作り、それ を基に残り4系統について2衛星分の位相計測を、 すなわち合計8チャンネルの位相計測を並列に実行 する。衛星間の差動化(DlF)および位相不定性除去 (AMB)は、位相計測データ収集の後段に続くソフ トウェアで行う。その結果、基線AB・CBにおけ る方向余弦(方位・仰角に近い角度データを表す)の 差が、観測データとして得られる。
この観測データから衛星の相対運動を推定するた めにはカルマンフィルタが適しており、その作成を 別途進めている。そのフィルタは2衛星にそれぞれ 対応する2組の軌道力学モデルを有していて、それ らが予測した観測値の差が、実測された差動観測デ 一夕に合うように各モデルの状態をアップデートす ることにより、衛星の相対位置・速度をリアルタイ ム推定することができる。

本システムの特徴
2衛星に対して厳密に同時並列な観測を行う機能 は、本システムの最大の特徴である。差動干渉計の 開発に先だって当所では、アンテナ追尾による差動 測角の方法を研究してきた。それは2衛星を交互に 切り替えつつ自動追尾を行い、補間法により衛星の 角度差をとるもので、相対運動の観測のために運用 可能であることが実験で確認されている。しかしこ の方法では、切り替え時間のあいだに大気屈折が変 化してしまうため、差動化の後になお誤差が残され ていた。本システムはこの問題の解消をめざして考 案されたものであり、原理的には100mより良い相 対位置の決定精度をねらうことが可能である。

今後の実験の進め方
基線AB・CBの信号伝送については位相安定化 を施したが、外気温の変化により多少の位相変動は 避けられない。これによる観測誤差は本来、差動化 により消えるはずのものである。ところが、推定フ ィルタのモデルが線形で済むならば差動観測データ だけを入力すればよいが、実際にはそうでないため、 差動化しない観測データも与えて各衛星の絶対位置 を参照しなければならない。そこで位相変動の現れ 方を把握し、それに整合したフィルタリングを工夫 する必要がある。
2衛星のビーコンは大気中のわずかに異なる経路 を通るから、大気の乱れの影響もわずかながら異な るであろう。それが同時差動化の後にどれだけ観測 誤差をもたらすかは、実験によりはじめてわかるこ とだが、このようなデータは大気中の電波伝搬の研 究にも役立つのではないだろうか。
さてこれらの問題がクリアできたとして、推定し た衛星の相対位置がどれだけ正しいかを較正しなけ ればならない。従来の技術に比べて高精度をねらう のだから、精度較正の仕事はむずかしそうである。
本システムの開発は、このように技術的に面白い 間題に係わりつつ、最終的に「静止軌道の有効な利 用」という実務的な応用をめざしている。まだハー ドウェアがようやく出来上がったところだが、衛星 通信に関連してこのような研究開発テーマがあると いうことを添えて紹介させて項いた。

(関東支所 宇宙制御技術研究室)



マルチメディア時代の時刻合わせ


今江 理人

郵政省通信総合研究所では、我が国の周波数標準、 並びに、標準時(JST)を維持/決定し精密な国際 時刻比較を通じて、国際原子時(TAI)の決定に 貢献をしており、その正確さは、例えば、数十万年 に1秒程度の狂いに相当します。
一方、この正確な周波数や日本の標準時を従来、 短波標準電波(JJY)等でお知らせしていますが、 情報通信の新時代(マルチメディア時代)に即した 新しい標準時の供給方法の各種研究開発を進め、一 部では既にサービスを開始しております。
ここでは、それらのいくつかに関しまして、概要 を紹介いたします。

1.電話回線による時刻供給(愛称:テレホンJJY)
電話回線による時刻供給の代表的な物としては、 NTTの"117"時報サービスが挙げられ、一日数 万コールの利用がなされておりますが、
(1)音声での供給のため、機械(電子)的に認識を 行うことが困難である
(2)基本的に片送りであるための回線遅延(数ms 〜10ms)がある
などの制限があります。
当所では、安定で、かつ、比較的簡易な方法で、 かつ、電子的な時刻情報を提供する手段として、電 話回線を利用した標準時の供給方法(テレホンJJ Y)を数年前から研究開発を行い、平成7年8月1 日より実サービスを開始しております。
テレホンJJYは、パソコンとモデム並びに通信 ソフトがあれば、簡易に標準時刻の情報を取り出す ことができ、また、専用の受信装置を用いれば、1 msよりよい精度で日本標準時との時刻合わせが可 能となるものです。
専用の受信装置は既にNTTや放送局の基準時計 の時刻合わせなどに導入されており、正確な時報の ために活用されております。
表1に簡単なアクセスの仕方等を記しましたので、 お試し下さい。接続後、HELP機能により、各コ マンドの簡単な説明が得られます。

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   表1 テレホンJJYの諸元等

 電話番号    0423-27-7592
 通信速度等   300/1200/2400bps、
         8bit、non-parity、SJlS
 ID       TELJJY
 パスワード   CRL
 情報      時刻情報
         UTC(CRL)、年月日、等
 機能      ループバック機能による回線遅延測定
         (利用者側で測定)

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サービス開始以来、利用者数は次第に増加しつつ あり、現在3000コール/月程度に達しており、今後、 利用の動向により、当所側の装置の拡充を図ってい く予定です。

2.FM文字多重放送による時刻供給
FMでの文字多重放送は郵政省がまとめた答申に 基づき、本年度より各FM放送局で利用が開始され た新しい情報伝送サービスの一つです。
このFM文字多重放送の技術の一環として、標準 時刻情報を伝送することが開始されつつあります。 基本的には1分間に1回の頻度で、日本標準時に 相当する時刻情報が送信され、これを受信すること により、原理的には10ms程度の精度で時刻合わせ が可能となります。
既に実験的に放送が開始されているものとしては、 東京FMをキー局とするJFM系列の「見えるラジ オ」が挙げられ、当所における受信評価実験では、 現状±30ms程度で時刻合わせが可能との結果を得 ており、より性能向上のための改良が図られつつあ ります。
このFM文字多重放送による時刻合わせ専用のI Cも開発されつつあり、今後、家庭用電気機器など (ビデオ装置等)の内蔵時計合わせも面倒な手間無 しに可能になっていくことが期待されます。

3.計算機ネットワークでの時刻同期(NTP)
計算機ネットワークの発展に伴い、複数の計算機 による同一のデータの利用や更新が一般的になりつ つあります。
この際、ファイルの更新時刻等は各計算機の内部 時計に基づいて行われますが、パソコンやワークス テーションの内部時計は非常に狂いが大きく、矛盾 を生じる可能性が大きくなります。
当所では、計算機ネットワークの最大のものであ るインターネットを用いた計算機間の時刻合わせに 関して、国内のインターネットサービスを提供して いるMインターネット・イニシアティブと共同研究 を開始しつつあります。
これは、NTP(Network Time Protocol)と 呼ばれる手順に従い、ネットワーク上の計算機を階 層化し、同一階層または、上位階層のサーバーと時 刻合わせを行うという方式で、容易に高精度でネッ トワークにつながれた計算機の内部時計の時刻合わ せを行えるようにするものです。最上位のサーバー を当所の維持する日本標準時に結合することにより、 ネットワークにつながれた計算機が、すべて日本標 準時と同一の時刻を持つようにすることも可能とな ります。

この他、当所では、標準時や標準電波関係のデー タを電子的方法(パソコン通信、または、インター ネット(telnet)経由)で入手できる“Horonet/BBS” システムを構築しており、正確な周波数や時刻の評 価のための当所の基礎データの公開を進めています。 この、Horonetを用いても、“日本標準時”を知るこ とができ、簡易な時刻合わせにも活用出来ます。

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  表2 Horonet/BBSの諸元等

公衆回線経由
  電話番号     0423-27-6908
  通信速度等    300/1200/2400bps、
           8bit、non-parity、SJlS
インターネット経由
  telnet      lupin.crl.go.jp
login ID       horonet
user name       guest(登録可能)
パスワード      guest(登録可能)
情報         JJY周波数偏差
           JG2AS周波数偏差
           TVサブキャリア位相値
           Loran-Cデータ
           その他(現在の時刻情報等)
           今後、GPSデータ等を公表予定

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以上のように当所では、マルチメディア時代に即 し、より使いやすく正確な周波数や時刻をお知らせ するための技術開発を進めております。

(標準計測部 周波数標準課)




(社)電波産業会とのミリ波伝搬特性に関する共同研究

真鍋 武嗣


オフィス内の情報機器間の接続やネットワークヘ の端末接続のワイヤレス化への期待から、無線L ANシステムが注目されており、既に、準マイクロ 波帯やマイクロ波帯によるシステムが実用化され、 10Mbpsのイーサネット対応の無線LANが実現し ている。しかし、有線ネットワークの高速広帯域化 の動向に呼応して、今後、無線LANにおいても更 なる高速化に対する二一ズが高まるものと考えられ る。当所では、このような背景を踏まえ、より高速 な無線LANシステムの実現を目指して、平成4年 度から7か年計画で、ミリ波構内通信技術の研究開 発を進めており、ミリ波アンテナや高速伝送方式の 研究と平行して、室内におけるマルチパス特性や建 築内装材の電気的特性等の基本的なミリ波伝搬特性 の研究を進めてきた(CRLニュースNo.222)。 このような中で、民間においてもシステムの実用化 に向けての早期の標準化への期待が高まっており、 標準化への基礎となる伝搬特性や高速伝送特性に関 して民間と共同で実験調査するために、社団法人電 波産業会とミリ波無線LANシステムのための電波 伝搬特性に関する共同研究を開始した。
(社)電波産業会では、高速なミリ波無線LANシス テムの実現を目指して、民間41企業の参加による「ミ リ波無線LANシステム開発部会」を設置し、ミリ 波無線LANシステムの標準規格案の作成に向けて 平成7年3月より実験調査を進めているが、本共同 研究を始めるにあたり開発部会メンバーのうちの21 社の参加による実験班を編成し、当所のミリ波技術 研究室と共同で電波伝搬実験を行うこととなった。
実験には、当所が平成5年度の補正予算により整 備したミリ波実験棟の中のミリ波構内通信実験室が 用いられる。この実験室は近代的なオフィスルーム を模擬して作られた広さ600平方メートルの部屋で、 床や天井や壁も可能な限りオフィス等で用いられて いるものと同様の構造となっている(CRLニュース No.222)。従来、オフィス環境での電波伝搬実験 は実際に使用されているオフィス等を惜りて行われ ることが多かったが、その場合、実験時間、室内の 無線装置や什器の配置などに大きな制約がある場合 が多かったが、本実験室を用いることによりこの様 な制約をうけることなく思い通りの実験ができるこ とは大きなメリットである。
共同実験の第一段として、ミリ波技術研究室と実 験班21社のうち8社の研究員等の参加により8月下 句から約一ヶ月間にわたって、ミリ波構内通信実験 室に実際に内装された状態での壁面、床、天井、窓 や、間仕切り用の各種パーティションについて、60 GHz帯における反射、透過、遮蔽等の特性の測定 を実施した。
今後、共同実験の第二段として、上記の実験で室 内の反射特性等が明らかになっているミリ波構内通 信実験室において、マルチパス伝搬特性および高速 ディジタル伝送特性の測定を、実験班参加企業のう ち21社の参加を得て実施する予定である。この実験 では、マルチパス伝搬特性を高い分解能(遅延時間 分解能約2ns)で測定するのと平行して広帯域ディ ジタル伝送時のビット誤り率を測定することにより、 伝搬特性と高速伝送特性の関係を明らかにできるも のと期待される。さらに、アンテナの指向性、偏波、 設置条件や、什器の配置などをさまざまに変化させ て測定を行うことにより、ミリ波無線LANシステ ムの種々の技術条件を明らかにし、システムの標準 化や実用化に資するものと期待される。
ミリ波無線LANをはじめとするミリ波利用シス テムは、研究設備や開発のために多大なコストを要 するためにリスクが高く、民間において単独ではな かなか研究開発に着手しにくいのが現状である。こ のような中で、当所のこれまでの基礎的な研究の蓄 積や研究設備を有効に活用し、本共同研究やモデル システムの研究開発をとおして民間と連携をはかり つつミリ波無線LANシステムの実用化に寄与したい。

(電磁波技術部 ミリ波技術研究室)



写真1 ミリ波構内通信実験室での共同実験



写真2 天井の反射特性の測定




短信


放送教育開発センターとのATM回線開通!

−HDTV映像双方向中継実験成功−

通信総合研究所と文部省放送教育開発センター (幕張)は、NTTが実施している「マルチメディ ア通信の共同利用実験」に共同参加しており、10月 から両機関の間が光ファイバーで結ばれ155Mbps のATMによる通信が可能になりました。これで、 図1のネットワーク構成のように当所とNTT通信 網研究所、放送教育開発センターがATMネットワ ークで接続される構成となりました。
11月に入り、放送教育開発センターでは7日及び 8日と「メディアと世界の大学」と題して国際シン ポジウムが開催され、当所では8日に研究発表会が 開催されました。そこで、この機会をとらえ、当所 で開発したATM回線用HDTV映像伝送装置を使 用し、放送教育開発センターとの間でHDTV映像 での双方向会議中継を行うこととしました。
7日は放送教育開発センターでのHDTV映像の 品質評価のため、センターの会議映像を当所で折り 返し、センター側でATM網を往復してきた映像を 評価しました。8日は当所と放送教育開発センター で互いに相手側の会議を聴講できるよう、双方の会 議室ロピーにて伝送されてきたHDTV映像を放映 しました。
中継実施の際、当所では、HDTV映像伝送装置 が設置されている講堂と大会議室間はアナログ光フ ァイバー伝送によってHDTV信号を伝送すること としましたが、HDTVカメラと映像伝送装置の同 期が不完全で画像か正しく伝送されない現象が生じ てしまいました。この間題は基準の映像同期信号を 各装置に供給することですぐに解決できましたが、 「映像同期信号などの基準とすべき時間情報を伝送 系全体でどのように管理すべきか」との問題があら ためて明確になりました。

鈴木龍太郎(総合通信部 統合通信網研究室)



放送教育開発センターからの中継映像



図1 ネットワーク構成



第1回情報通信関係研究所長合同連絡会

情報通信関係研究所長連絡会(合同連絡会)が、 10月26日(木)通信総合研究所4号館大会議室で開催さ れました。
この連絡会は、我が国の情報通信分野における研 究開発の最前線で、中心的役割を担っている民間企 業、公共的機関等の研究所、大学と郵政省通信総合 研究所及び本省との間で、情報交換、意志疎通、連 携を図ることを目的としています。
合同連絡会は、2つの部会に分かれており、メー カー部会については本年1月に郵政本省で第1回の 会合を開催し、今回で2回目。事業者等部会につい ては、従来、研究機関長連絡会議ということで毎年 1回開催していたものをべ一スにメンバーを多少変 更して構成され、今回が第1回目。本連絡会の事務 局は、通信総合研究所と郵政本省とが交互に行い、 今回は通信総合研究所が担当しました。
当日、メーカ部会からは民間企業14社の研究所長 並びに役員18名、事業者等部会からは公共的機関3 社、特殊法人2機関の研究所長等6名、郵政本省か らは岡井技術総括審議官をはじめとする幹部10名、 通信総合研究所からは古濱所長以下幹部5名が出席 しました。
第1回目の合同連絡会ということもあり、通信総 合研究所の概要の紹介及び施設見学も行われました。 施設見学は、マルチメディア情報通信網、地球環境 計測、宇宙通信、時空計測技術について行われまし たが、技術的な質間や熱心にメモを取る姿も見られ ました。
議事は、「未来創造型研究開発の推進(研究開発 体制の整備)」「平成8年度概算要求の概要について」 の郵政本省からの説明があり、自由討議では、「情 報通信分野の研究における産学官の連携の在り方」 について、各部会からのプレゼンテーションを交え ながら、活発なディスカッションが行われました。


情報通信関係研究所連絡会議風景

斉藤政満(企画部企画課)