宇宙の鉄腕でアンテナを組み立てる

−ETS-VIIにおけるアンテナ結合機構実験について−


木村 真一


1.はじめに
宇宙空間で大型アンテナの様に精密かつ複雑で大 規模な構造物を構築するには、どの様にすれば良い だろう。近年この様な宇宙構造物の構築にロボット を利用して、地上からの遠隔操作により宇宙空間で の組立を実現すると言う技術か注目を集めている。 こうした宇宙ロボットに関する研究は内外において 盛んに行われてきており、西暦1990年代後半から20 00年にかけて軌道上実験も多数計画されている。さ て、この様に書くと、はて昨今は工場はもとより寿 司を握るロボットまであるというのに、なぜことさ らに宇宙ロボットなのであろうと不思議に思われる 方もあるかもしれない。このことを説明するために は、宇宙ロボットの果たすべき役割と宇宙空間とい う特殊性は環境からくる問題点について考えてみる 必要がある。
先ず、我々が複雑で精密な物を組み立てる場合の ことを考えてみよう。組み立てる過程で、色々と向 きを変えて手元を見たり、手先の徴妙な感触を確か めたり、作業に関する多くの情報を確認しながら作 業を進めるのではないだろうか。ところが、宇宙に おける遠隔操作ロボットでは種々の制約から、得ら れる情報に制限があり、特に作業中の視覚情報が制 約されることが多い。また、地上で操作する人と軌 道上のシステムとの間には多くの場合、時間遅延が 存在する。先日の一般公開で体験した方も多いと思 うが、2秒ぐらいの時間遅れでも作業性には著しく 影響をきたす。


図1 開口径2mの組立型アンテナ試作モデル


このような状況で正確で確実な組み立てを実現するためには、 宇宙ロボットの制御法だ けでなく、組み立てられる機構にも限られた視覚情 報を有効に活用して、簡単な作業で正確な組み立て を実現できるように工夫を凝らす必要がある。
通信総合研究所ではこの様に宇宙空間で大型アン テナを組み立てる技術について研究開発を行ってき た。そして精密な組立を実現する上で最も重要な課 題となる宇宙ロボットの制御とアンテナの結合機構 について、技術試験衛星VII型(以下ETS-VII)で実験 を行う予定である。
ここでは、アンテナ結合機構基礎実験の実験計画 の概要と実験機器の開発状況について紹介したい。

2.組立型アンテナについて
図1は我々が開発した開口径2mの組立型アンテ ナである。我々は最終的には開口径10mクラスの組 立型アンテナを軌道上で実現することを考えており、 この開口径2mの組立型アンテナはその組立機構を 機能検証するためのスケールモデルである。副鏡を 含む中央の鏡面と、周辺の8葉の花弁とに分解して 軌道上に投入し、宇宙ロボットを用いた非常に簡単 な操作で組立が実現できる。図1は正に産業用ロボ ットを用いて組立作業を行っているところを示して いる。
我々は2m開口径の組立型アンテナを用いて、西 暦2000年代初頭を目標に開発が進められている国際 宇宙ステーションの取付型実験モジュールに組立型 アンテナの構成部分をはこび、マニピュレータによ り宇宙空間での組立を実現し、衛星間通信技術につ いての実験を行うことを提案している。
組立型アンテナには、展開型・膨張型には見られ ない幾つかの特徴を持っている。先ず、組立型アン テナでは、高い鏡面精度をもった大型アンテナが比 較的容易に実現できる事が上げられる。この特徴に よって組立型アンテナは、ミリ波帯等の非常に高い 周波数での大型アンテナの利用が可能となる。また、 展開形や膨張形のアンテナでは全ての部材を1回の 打ち上げで軌道上に運ばなければならないのに対し、 組立型アンテナでは組み立てる部材を何回かに分け て軌道上へ運ぶ事ができ、段階的なアンテナ構築や 非常に大きなアンテナ構築等が実現できる。

3.アンテナ結合機構基礎実験
3.1. ETS-VIIについて
ETS-VIIは宇宙開発事業団(NASDA)により開 発が進められている次期技術試験衛星で、1997年に 軌道上へ投入される予定である。ETS-Vllはチェイ サー衛星とターゲット衛星という二つの部分からな っており、その主要な実験項目としては、ターゲッ ト衛星をチェイサー衛星から軌道上で分離し再結合 するランデブ・ドッキング実験、及び、チェイサー 衛星表面に搭載されたロボットアームを用いた宇宙 ロボット実験が計画されている。この宇宙ロボット 実験では、NASDAが計画している実験の他に、科 学技術庁・航空宇宙技術研究所の「トラス構造物遠 隔操作実験」、通産省・電子技術総合研究所の「高 機能ハンド実証実験」等の実験も計画されており、 我々通信総合研究所もこの衛星上で「アンテナ結合 機構基礎実験」を実施する計画である。

3.2. 実験装置の概要
通信総合研究所ではこの実験に対して、ETS-VII ロボット実験面に搭載される「アンテナ結合機構 (AAM)」と、地上においてNASDAの宇宙ロボ ット制御系に接続し、地上からの遠隔操作を実現す る「遠隔操作システム」の2つの実験装置を開発し ている。
(1)アンテナ結合機構(AAM)
AAMは組立型アンテナの結合機構をモデル化し たものであり、図2に示すように「固定部」、「結合 部」及び「非常用キャッチャ」の3つの部分からな る。「固定部」及び「非常用キャッチャ」は衛星本 体に固定されており、「結合部」は組立型アンテナ のラッチ機構によって「固定部」と結合している。 実験は「結合部」に取り付けられたグラプルフィク スチャと呼ばれる把持機構をロボットアームが把持 し、ラッチを解除後、「結合部」を「固定部」から 分離・移動・再結合することでアンテナの組立作業 を模擬する。このラッチ機構は、ラッチピンを挿入 することで回転カムのストッパーが外れ自動的にラ ッチがかかる機構となっており、非常に単純な動作 で実現可能で、板ばねを駆動力とした電力等を全く 使用しない機構となっている。


図2 アンテナ結合機構(AMM)


ここでの「結合部」と「固定部」組み付け作業を支援し、 正確で確実な 組立を実現するための機構として、(1)ターゲットマ ークによる視覚的誘導と(2)ガイドコーンによる機械 的誘導が用意されている。ターゲットマークは図3 に示すような形状をした物体で、「結合部」と「固 定部」の相対的な変位によって、ロボットアーム手 先部に取り付けられた「手先カメラ」から異なった 画像が得られる。この画像を解析することにより、 ロボットアーム手先部と「固定部」の間の理想的な 結合位置からのズレを自動的に計測し、正確な組み 付け作業を実現することができる。更に、画像解析 で吸収しきれない徴小な変位や、振動等時間変動す る変位は、「結合部」に取り付けられたガイドコー ンとグラプルフィクスチャに取り付けられたバネ (コンプライアンス機構)が「結合部」を機構的に 誘導し、正確で確実な組み付け作業を実現すること が可能となっている。「非常用キャッチャ」はラッ チ機構部の不具合等が発生し、実験が続行不可能と なった場合に、「結合部」を不可逆的に固定し、ロ ボットアームを「結合部」から開放させるための機 構である。


図3 ターゲットマーク


(2)遠隔操作システム
遠隔操作システムはNASDAのETS-VII制御シ ステムとインターフェースし、ロボット制御コマン ドの生成とロボットテレメトリ情報の表示という基 本的な機能に加えて、(1)組立シーケンスの実行、(2) ターゲットマーク画像の処理と位置誤差の算出、(3) 後述の予測バイラテラル制御実験において使用する マスターアームとのインタフェース等の機能を持 っている。ロボットの操作は、予測バイラテラル制 御実験を除き、キーボードとマウス操作により行い、 ロボットの動作をコマンド発行前に確認するシミュ レータは3次元グラフィクスによる表示に対応して いる。
3.3. 実験計画の概要
軌道上では、次にあげる4つの実験項目が予定さ れている。
(1)基本着脱実験
AAMの着脱のシーケンスを、マニュアル操作を 併用しながら行い、組立作業の操作性の評価、各種 力学値の測定等を行う。
(2)全自動着脱実験
基本着脱実験の結果をもとに、基本着脱シーケン スを、画像処理による視覚誘導を利用し、マニュア ル操作なしに実現する。
(3)結合可能範囲測定実験
結合時のロボットアームの先端位置を意図的に理 想的な結合位置からずらして結合を行うことで、機 械的なガイド機構の性能を評価する実験である。 (4)予測バイラテラル制御実験
予測バイラテラル制御とは、地上のコンピュータ に軌道上のシステムのモデルを用意しておき、この モデルに基づいて計算された動作の予測によって作 業をガイドする制御方法である。本実験では、予測 パイラテラル制御をアンテナ組立作業に応用し、こ の制御方法の有効性を検証する。

4.実験機器の開発状況
4.1. 地上遠隔操作試験
搭載用のAAM(Flight Model:FM)を開発する のに先立ち、地上での機能試験及び環境試験に使用 するEngineering Model(EM)を作成した。EM は「非常用キャッチャ」が省略されている他は、外 形・寸法はもとより、ラッチ・ロンチロック機構や ヒーター・サーモスタットといった電気回路や熱構 造的にも、FMを忠実に反映している。このEMを 用いて、NASDA筑波宇宙センターの「ETS-VIIテ ストベッド」を用いて、1995年2月27日から2週間 にわたって地上遠隔操作試験を行った。(図4)地 上遠隔操作試験では以下の3つの項目について試験 を行った。
(1)基本インターフェース確認及びロボットアームの アクセス性の確認
(2)各種照度条件における手先カメラ画像の取得
(3)軌道上での実験シーケンスの確認及びAAMの機 能的な評価
4.2. 搭載機器開発
地上遠隔操作試験の結果を受け、実験遂行上の性 能について見直すと共に、開発したEMについて、 搭載にあたって必要となる熱真空試験、振動試験、 衝撃試験などの環境試験を行った。結果は何れも良 好であり、特に熱真空試験では熱真空下での機能確 認も同時に行い数10回の連続着脱に対して、特に不 具合もみられずすべて成功した。これらの結果をま とめ、1995年7月21日搭載実験機器の設計の最終確 認を行った。これをうけて、現在搭載モデルの開発 を開始している。開発を完了した搭載実験機器は19 96年12月末にNASDAに納入し、ロボットアームと の適合性試験(力覚操作試験)、システムアセンブ ル、システム全体としての射上試験を行う予定であ る。

5.まとめ
ここでは「ETS-Vllにおけるアンテナ結合機構実 験」について、その実験の概要と実験機器の開発状 況について報告してきた。ETS-‐VIIは1997年打ち上 げ予定であり、各搭載機器は開発の最終段階を迎え ようとしている。今後も関係各方面と協力して、有 意義な実験となるよう努力して行きたい。

(宇宙通信部 衛星間通信研究室)



図4 地上遠隔操作試験(宇宙開発事業団ETS-・ テストベットによる)




ハワイでSCGUワークショップ開催

門脇直人


通信総合研究所(CRL)は、11月13日から11月15日 の3日間、米国ハワイ州マウイ島のマウイ・イ ンターコンチネンタル・リゾートにおいて「GUの ための衛星通信国際ワークショップ(International Workshop on Satellite Communications for The Global lnformation lnfrastructure)」(通 称SCGUワークショップ)を開催しました。海外 で国際ワークショップを主催しようという話を企画 部から頂いたのは6月下句、飯田企画部長を筆頭に、 宇宙通信部、鹿島宇宙通信センターの精鋭で実行委 員会を結成しました。衛星通信関連でということで あれば、今一番タイムリーなトピックは、世界的な 情報通信基盤(Global lnformation lnfrastructur e : GII)を構築するために衛星通信が果たす役割、 特に高速衛星通信を中心とした技術ではないかと考 え、標記のような名称となりました。
当初はいつ何処でどんな風にということすら考え られない状況でしたが、例年ハワイで開催されてい る日米宇宙協力(JUSCSP)ワークショップ(本 年より日米科学技術宇宙応用プログラムと改称)を 発端として日米高速衛星通信実験の準備が進められ ていること、このワークショップに日米から多くの 研究者、技術者が参加することが予想されることか ら、JUSCSPワークショップが開かれる11月にハワ イで開催ということになりました。となると準備期 間は4ヶ月程、この間に参加者を募り、発表をお願 いしなければなりません。こんな急なお願いに、果 たしてどれだけ応じていただけるか非常に心配でし た。国内はCRLから関連機関、企業等に参加をお 願いする一方、米国ではジョージワシントン大学の B.I.Edelson教授、欧州では欧州宇宙機関(ESA) のE.W.Ashford氏の御協力を得て、参加者を募り ました。最終的に、日・米・欧州・カナダ・豪州か ら発表者が集まり、韓国から聴講に参加して下さっ た研究者を含め、69名の参加を得ることができました。
これらの参加者の中には、前週に開かれたJUSC SPワークショップから引き続き参加された方や、 以前から親交のある方も多く、なごやかな雰囲気で 幕を開けました。


SCGUワークショップのひとこま

ワークショップは、Opening Sessionに始まり、 Session 1 : The role of Satellite Communicatio ns in the GII,Session 2 : Applications and Ex periments,Session 3 : Systems and Networks, Session 4 : Key Technology for HDR Satcom の4セッション、最後にClosing Sessionという構成 でした。また、世界各国から衛星通信分野のキーパ ーソンが集まるこの機会を利用して、国際共同プロ ジェクトの推進を図るための日・米・欧・加4極会 合が並行して開かれました。
Opening Sessionでは、内田宇宙通信部長の司会 の下、古濱所長の挨拶、ハワイ州副知事M.Hirono 女史とホワイトハウスのR.DalBello氏よりメッセ ージを項きました。特にDalBello氏は、ゴア米国 副大統領からの本ワークショップヘのメッセージを 携えて来られ、主催者側としては本ワークショップ が非常に高いレベルで認識され、かつ期待されてい ることに喜びと驚きを感じずにはいられませんでし た。引き続き当所顧問で日本科学技術会議議員の熊 谷信昭先生の基調講演となりました。この基調講演 では、世界の平和共存にとって、情報の流通が非常 に重要な意味を持つこと、その中で情報通信技術が 担う役割は大きく、衛星通信もまたその一翼を担う べく大きな進歩が望まれることが強調されました。 その後Session 1に入り、前述のB.I.Edelson教授、 E.W.Ashford氏、飯田企画部長、カナダ通信研究 センター(CRC)のR.Huck氏、NASAのR.DeP aula氏ら、世界の衛星通信研究開発の頂点に立つ 人々のプレゼンテーションが続きました。総じて、 GIIとは何かを論じ、そして衛星通信はその中に無 くてはならない要索であることを主張されたと理解 しています。
Session 2では、鹿島宇宙通信センター宇宙通信 技術研究室の吉村直子研究官によるN-STARを用 いたディジタルハイビジョン伝送実験についての発 表をはじめ、米国の先端通信技術衛星ACTSを用い たスーパーコンビュータネットワーク実験、日米高 速衛星通信実験など、衛星によるATM伝送に関わ るいくつかの実験的プロジェクトが紹介されました。
Session 3では、米国のTeledesic,CyberSta r,AstroLink等の新しい衛星通信サービスシステ ムや、欧州のAstra,Italsat,Eutelsat等の今後の 計画が発表されました。これらの発表から、今後は 衛星からユーザの小型地球局に直接情報を流すサー ビス(Direct to the Home : DTH)が主流とな る気配を感しました。また、高速衛星通信における 静止・非静止衛星の利用手法についてJ.Peltonコ ロラド大学教授の発表があった他、筆者もCRLに おけるギガビット衛星通信技術の研究開発計画につ いて発表しました。
Session 4では、高速衛星通信に関する様々な 技術に関する発表が相次ぎ、米国のACTS,我が国 のETS-VI,COMETS,OlCETS等の衛星搭載機 器、その他衛星搭載用アンテナ技術、高速光衛星間 通信技術等に関する発表や、高速衛星通信用変復 調・誤り訂正装置、可変伝送レート(VBR)方式 HDTV画像符号化装置等の発表が行われました。
Closing Sessionでは、4極会合の計論結果が報 告されたあと、本ワークショップの締めくくりが行 われました。4極会合では、郵政省通信政策局宇宙 通信政策課が中心となって、今後国際共同高速衛星 通信実験を推進するため各国が努力すること、世界 の衛星通信の発展に寄与すること、更に4極以外の 地域との積極的な交流を図ることなどを柱とした行 動指針案がまとめられました。
最終日の午後には、テクニカルツアーとして、会 場から車で10分ほどの距離にあるMaui High Perf ormance Computing Center(MHPCC)を訪問 しました。MHPCCは国の予算を基盤として整備さ れたスーパーコンビュータセンターで、軍事的なデ ータ処理などに利用されている一方で、企業の研修 や映像産業のための画像処理などのビジネスも行っ ているそうです。MHPCCについて興味のある方は WWWのホームページ、http://www.mhpcc.edu を御覧下さい。
ワークショップ全体を通じて、GIIを実現するた めに衛星通信は大きな役割を果たすことを期待され ていること、その中で衛星通信の高速化が今後の技 術開発の重要なテーマであることがはっきりと見え てきたように思います。また、今回のワークショッ プには衛星通信分野の技術者、研究者のみならずサ ービス提供者からも主要なメンバーが集まり、多種 多様な情報交換が行われたことに大きな意義があっ たと思います。このような会議を主催することで、 CRLも衛星通信分野の主要メンバーとしての評価 を高めることができたのではないでしょうか?
ワークショップの運営においては、いくつかの不 手際はありましたが、参加者に大きな迷惑をかける ことは無かったのではないかと思っています。ハワ イという土地柄にも影響され、セッション中もディ ナーでもほとんどの方がアロハシャツを着、終始リ ラックスした雰囲気でした。ワークショップ終了後、 旧知の米国人技術者から「いい会議だった。ここに 招待してくれたことに感謝する。来年も期待してい る。」と肩をたたかれ、感激したことが忘れられま せん。胸を張って、本ワークショップの成功をご報 告する次第です。最後に、本ワークショップの開催 について多大な御支援を項いた企画部、総務部の関 係各位に深謝いたします。また、後援を頂いたハワ イ州政府及び日米科学技術宇宙応用プログラムに対 し感謝いたします。

(宇宙通信部 衛星間通信研究室)




CRLネットワークの管理

斎藤 義信

ネットワークの過去を見ると、常に社全の主役(社 会基盤の重要な位置)をなしています。農業社会か ら工業社会への発展を促した鉄道ネットワーク、高 度工業社会へ貢献した道路ネットワーク、そして今 は、高度情報社会を形成するための情報通信ネット ワークが主役の座を占めようとしています。このこ とは、テレビ、ラジオ、新聞など各メディアが、イ ンターネットを取り上げ報道していることからも伺 えます。今やコンピュータネットワーク(以後ネッ トワーク)は、社会の神経系統の役割を担っている といっても過言ではありません。

表1 OSIが定義するネットワークの管理項目

分類管理項目
構成管理
ネットワークを構成する要素の管理
ネットワーク構成表示、金銭的な資産管理、
アドレス管理、イベントリなど
障害管理
ネットワーク・システム上の障害の検知
障害箇所の切り分け、遠隔保守、
リブートバックアップなど
パフォーマンス管理
サーバの稼働率、LAN上のトラフィック、
応答時間などの管理
セキュリティー管理
不正アクセスのチェック、アクセス権の管理、
ユーザ管理
コスト管理
CPUや回線の使用料などの管理


このような重要性を鑑み、OSI(解放型システ ム間相互接続)では、表1のようなネットワーク管 理項目を定義付けしています。しかしながら、ネッ トワーク管理の必要性を認識することは非常に難し い、とも言われています。なぜなら正常に動作して いれば存在感が感じられず、逆に管理の効果が大き く感じられるネットワークは、そのものに問題があ るはずだからです。
これに“当らずとも遠からず”的な考えの人もお られるでしょう。しかし、ネットワーク管理が、障 害の検出やその分析、通知、復旧だけでないことは 言うまでもありません。短期的、長期的なデータ収 集、さらにそのデータをネットワーク利用や構築に フィードバックすることが、ネットワーク管理の重 要な任務になっています。そのためCRLは次の目 的からネットワーク管理を行っています。それは、
“ネットワークが提供するサービス(ネットワー クを利用したアプリケーション)の品質をモニタ し、その結果により、短期的にはネットワークシ ステムの制御/変更、長期的にはシステムの計画 /設計の見直し”
を行うことです。そして、CRLのネットワーク管 理は次のように行われています。
(1)構成管理:セグメントのノード(ルータ)、アド レス、ネットワーク構成などを管理しています。こ れらは、
・計21台のルータは監視コンソール上にマップで 表示され一目で監視可能。
・アドレスは、DNS(ドメイン・ネーム・サー ビス)により一括管理されており、ネットワー クヘ接続されている端末のホスト名やアドレス を各端末が保持する必要がない。
・ネットワーク構成図はWWW(World Wide Web)サーバ上におかれ、利用者が取得可能 になっており、ネットワークの変更、拡充が行 われる毎に更新される。
といった省力化、効率化が図られ、管理が行われて います。
(2)障害管理:ルータの動作状況、セグメントのトラ フィック量、インターネットからのトラフィック量 をそれぞれ監視及び測定しています。その内容は次 のとおりです
・常時監視:ルータの動作状況、インターネット からのトラフィック量
・遠隔監視:ルータの動作状況
・定期的に測定:セグメントのトラフィック量
また、随時LANアナライザによるネットワーク 管理も行っています。このLANアナライザには、 ネットワークの負荷、エラー発生率、ルータ別の通 信状況、プロトコル別の通信状況などの統計情報を 計測する機能があるので、障害時の要因解明に有効 に利用されています。
(3)パフォーマンス管理:各セグメントのトラフィッ ク量を定期的に(毎月1週間)測定し、使用率で統 計処理を行い、フィードバック資料として管理して います。
(4)セキュリティー管理:CRLネットワークは外部 ネットと接続し、多くの情報提供や情報収集が行わ れています。そのため外部ネットからのアクセスに 対するセキュリティー対策が大変重要な課題になっ ています。セキュリティーを重視する企業等ではす でにファイアウォールを導入しており、CRLでは、 利用者の利便性を損なわずセキュリティー向上をめ ざして技術検討を行っています。
これらの管理結果は、
・ネットワーク構成図
・トラブルシューティング一覧表
・障害事例集
・セグメント別トラフィック量
・IPアドレスー覧表
等々の具体的な資料に集約され、短期的あるいは長 期的なフィードバック用データとして利用されてい ます。さらに有効な資科の収集には、管理法の改善 や新たにやるべきことが多くあります。
ネットワーク管理が、CRLネットワークの“主 役”にはなり得ませんが、より安全な利用の確保、 使い勝手のよいネットワークの構築を目指し担当部 署として一層努力して行きますので、今後も皆さん のご協力をお願いします。

(企画部 技術管理課)




第89回研究発表会を開催


平成7年秋季研究発表会(第89回)を去る11月8 日に当所の大会議室で開催致しました。
発表プログラムは、
=情報通信系=
1.ETS-・におけるアンテナ結合機構実験につ いて
−結合機構とテレオペレーションシステムの地 上検証試験−
2.ミリ波無線LANの実用化に向けて
(1)ミリ波無線LANの開発動向
(2)ミリ波帯における建築内装材の電気的特性
(3)ミリ渡帯準平面型アンテナの開発
=環境科学系=
3.雪上車搭載アイスレーダによる南極大陸氷床内 部層の観測
4.スペースシャトル搭載合成開口レーダ(SIR-C /X-SAR)を用いた実験報告
(1)レーダポラリメトリとその較正
(2)海洋及び陸域の観測
5.地殻変動観測の高精度化に向けて
−ピコ秒衛星レーザ測距システムの研究開発−
=材料物性系=
6.超高速光スィッチ作用を用いたテラヘルツ電磁波の発生
=情報通信系=
7.通信総合研究所における情報通信基盤技術の研 究開発計画について
の10件で、本所に於ける各種研究成果、特にミ リ波無線LANのこれまでの成果、及び情報通 信基盤技術の研究開発計画等の発表で、多彩な 内容でした。
当日は所外から225名の方が御来聴され、活発に 意見を交換して戴きました。ホワイエでは発表関連 の展示が有り、また、今回、発表の際にコンピュー タの映像を映写し、動画、及び音声の再生などを用 いた発表が有り、好評の内に幕を閉じました。

   過去12年間の来聴者数


来聴者からのアンケートから(主な意見)
(1)プログラム別
(1 ETS-VIIにおけるアンテナ結合機構実験)
・今後のCRLのロボット研究に期待します。
(2 ミリ波無線LANの実用化に向けて)
・ミリ波の利用は今後極めて大事なことと思いま す。研究が早期に進展することを期待します。 特にコンセプトを明確にするためには、技術基 盤の確立の度合に左右されると思いますので、 幅広い研究への取組みが重要と考えます。
・オフィスの現場では高速の無線LANの登場が 待たれている。一刻も早く実用化して欲しい。
・無線LANでは基礎研究よりもっとシステムイ メージを優先させ、それに基づく研究をした方 がよいのではないか。
・無線LANの動向に関し、外国の事情も聞きた かった。
・ミリ波無線LANは世界標準を目指すようなタ ーゲット設定と相互接続性を重視するリファレ ンスの母体となる活動も視野に入れていただく ことを希望します。
・ミリ波LANのシステム選定は、できるだけ早 く方向付けをした方が良い(2〜3年では遅い)。
・ミリ波LANはオフィスのマルチメディア化に 重要な伝送手段であると考えています。コスト を念頭においたデバイスシステムの方向をこれ から示してもらいたい。
(4 スペースシャトル搭載合成開ロレーダ(SI R-C/X-SAR)を用いた実験報告)
・合成開ロレーダによる取得データから解析する アルゴリズムに今後の期待がかかっていると思 う。
(7 通信総合研究所における情報通信基盤技術 の研究開発計画について)
・マルチメディア情報通信センターは相互接続、 相互運用のテストベッド供給元であってほしい。 日本発信のTCP/IP、UNlXをつくる母体であ ってほしい。
・情報通信の研究はパイプを作るものだと理解し ていますが、パイプに流す水(情報)の内容に ついてのソフト側との交流も必要ではないか。
(2)全体の感想
・全体として良くまとまっている。プレゼンテー ションが格段に進歩。
・図やグラフを用いたものが多く、判りやすい面 もあった。グラフに関しては現状のものとの比 較を重ねて示して欲しい。
・動画スライドの活用はよかった。
・研究はよくやっておられますが、発表には一工 夫が必要です。研究の位置づけ、背景、成果の 用途、さらに他の機関との差別等、幅広い捉え 方に欠けております。特に発表者は元気良くス ビーチすることが大事。
・もう少し細かく説明が欲しい。時間が短かすぎ る(各1時間は必要)。
・地道にデータを集めることにより行う研究・独 自のアイディアや考察を具体化していく研究な ど通信総研の研究分野の幅広さを感じました。
・LANから衛星にわたる広範囲に研究されてい る点で電波応用の基礎研究センターとしてたの もしく感じております。質疑の内容として大学 の先生方からアプリケーションのターゲットの 明確化に関するものがありましたが、私見とし て広範囲な基礎研究の積み上げも重要と考えま す。
・以前に比べて発表が平易になってきましたとい う感じがします。この方向はよいことだと思い ます。また研究レベルは世界的に見てどうかと か、波及効果は何かなどがさらに述べられると よいと思います。


研究発表会の様子

・民間では出来ない、長期に渡る研究も入れて下 さい。
・COEを目指し、活躍をお祈りいたします。
・マルチメディア社会のリーディング研究所とし て大きく発展することを望む。
・異業種を越えた連携を実現されることを官庁に 期侍。

(企画部企画課成果管理係)


短信



第37次南極地域観測隊出発
第37次南極地域観測隊が、11月14日に観測船「し らせ」で東京港晴海埠頭から出発した。当所からは、 弓指勇と川名幸仁の両氏が、それぞれ電離層定常部 門、宙空部門の越冬隊員として参加している。弓指 氏は昭和基地内郵便局の郵便局長も兼務する。
出発当日は、丸橋宇宙科学部長をはじめ、大勢の 人が見送りに駆けつけ、横断幕やエールなどで両隊 員を激励した。正午には色とりどりの紙テープが風 になびく中、汽笛を鳴らして「しらせ」が出港した。
今後、観測隊は船上観測を実施しながらアフリカ 大陸の南方に位置する南極昭和基地に向かう。12月 中句には現地に到着する予定である。途中、オース トラリアのフリーマントルで生鮮食料品の積み込み や給油を行うが、これ以降、観測隊員は文明社会と のしばしの別れとなる。37次隊は12〜1月の夏期に、 新しく基地の施設となる「倉庫棟」の建設を行う予 定だが、その建設作業は、当所の2名を含めた観測 隊員全員が行うことになる。当所の2名は、2月1 日の越冬交代の後、電波による超高層大気の観測や オーロラ観測、観測衛星のデータ受信等多くの観測 を1年間行う。多くの成果が期待される。37次隊が 帰国するのは平成9年の3月末である。

小原徳昭(宇宙通信部 衛星通信研究室)



左から川名隊員と弓指隊員



新規採用研究リーダ懇談会のようす
通信総合研究所では急速に進展する情報通信技術 の研究開発を効率的・効果的に推進するために、外 部研究機関から優秀な研究者を積極的に招へいして います。特に、平成7年度にはこれまで、他省庁国 立研究所や民間企業、通信事業者、特殊法人の各研 究所から計5人の研究リーダを採用しました。各研 究リーダには研究室長等として、従来の慣習にとら われず研究の推進の他、研究者の育成など研究室の 運営をお願いしています。
折角このように、立場の異なる種々の研究機関か らの研究者を採用できたことから、「通信総合研究 所の常識が世間の研究機関の非常識」といった状態 がおきないように、各リーダの方々から、これまで 所属していた研究所との比較を通じて通信総合研究 所の印象や問題点を所幹部の前で語ってもらう場を 設けました。以下に、その懇談会での意見の概要を 示します。


開催日:平成7年11月9日
参加者:新規採用研究リーダ5名
所長、次長、総合研究官、総務部長、 研究リーダ所属部長・支所長、企画部長他。

Q:まず、通信総合研究所に入ってびっくりしたこ とは何ですか?
・思った程“お役所”的でなく、幹部への意志疎 通が図り易い。物品購入も予想以上に弾力的。 ただ、事務手続きには時間がかかったり、先例 主義であったり役所的な部分がまだ多くある。
・研究支援部門の体制が貧弱。
・分野によっては予算が潤沢であるが極端に研究 者人材不足である。
・赴任時期、プロジェクトの性格等の理由により 予算要求、増員要求、補正予算等の事務作業の 多さにびっくり。
・研究環境のすばらしさ(民間研究所から関西支 所へ着任した研究リーダ)。
・研究者数の割に研究開発の範囲の広さ。
・情報通信分野のインフラがまだ貧弱。そのため には1つの分野に多くの研究者を配する必要が ある。
・国内外の旅費の窮屈さ。
・国立試験研究機関のためか特許に対する意欲が 少ない。
・部門によっては研究の個人プレイが目立つ。

Q:通信総合研究所の問題点、改善点を指摘して下 さい。
・国の予算制度では長期的な研究計画がたてにく い。年度毎に予算がどうなるか全く不明。自転 車操業的な研究となる。
・時流にあったプロジェクトは予算が急増してい るがそれに見合った人材の確保ができていない。
・情報通信分野でのソフトウエア技術の重要性を 考えると、予算として施設整備費だけでなく、 試験研究費の大幅な増加が必要。
・研究人員の大幅な増加が制度上できないのであ れば、組織の大胆な再編(いわゆるリストラ) により内部構造改革するほかない。


この他、研究者の研究評価の仕方とその結果に基 づく研究者の処遇のあり方、研究所における望まし い情報化のあり方についても出身研究機関の例も交 えながら意見交換を行いました。
企画部としては、ここで指摘された問題点も参考 にしながら、今後も研究内容だけでなく、研究開発 推進体制、支援体制についても時代にあった試みを していくつもりです。
最後に、ある研究リーダの「通信総合研究所のカ ラーに染まらず今後も色々と意見を言っていきた い。」という発言が印象的でした。

福地一(企画部 企画課長)