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独立行政法人情報通信研究機構の発足にあたって

独立行政法人情報通信研究機構(NICT: National Institute of Information and Communi-cations Technology)の 発足にあたり、ご挨拶を申し上げます。

この研究機構(NICT)は、独立行政法人通信総合研究所(CRL)と、認可法人通信・放送機構(TAO)を統合して、新しい 独立行政法人として出発するものであります。現在行なわれている国立研究機関や特殊法人等の統合を含んだ独立行政法人化は、 国の行政改革の一環として実施されているものであり、合理化・効率化にも真摯に取り組んで参りたいと思いますが、同時により多くの成果を出すことが期待されています。特に、NICTは、21世紀の高度情報通信社会を支える情報通信技術の研究開発を基礎から応用まで一貫した統合的な視点で行い、併せて情報通信分野の事業支援等を総合的に行う法人として設立されたものであります。 すなわち情報通信の基礎的・基盤的研究を主として行ってきた通信総合研究所と、情報通信技術の実用化に向けて産学と連携して実施する研究開発や、大学や民間が行う研究開発に対する各種支援、さらには通信・放送事業に対する各種支援等を 行ってきた通信・放送機構を統合し、全体を一貫した考え方で運営し、この分野の発展を期すものであります。 そういった意味で、NICTは「ICT(情報通信技術)で未来社会を創るエンジンになる」ことを目指しております。

この新しいNICTの出発に当たって、私は次の5項目を活動における基本的な考え方にしたいと存じます。

その第一は、これからの高度情報通信社会の基盤となる情報通信技術のNICTにおける研究開発において、産学官の連携を一層 強化すること、また大学や民間が行う研究開発に対する積極的支援を行うことであります。すなわち、社会に存在する諸問題を よく認識するとともに、社会の要求を的確に把握して積極的に新しい課題をとりあげ、研究開発と支援を行います。

その第二は、NICTのプレゼンスを一層高めることであります。国内・国外を問わず、情報通信の世界においてNICTの優れた 研究をよく知ってもらい、その存在価値を認識してもらう努力が必要であります。そのためには、NICTの研究者がそれぞれに 研究者としての自信、プライド、さらにしっかりしたビジョンを持ち、国内外の学界等で大いに活躍するよう、一層の努力を いたします。こうすることによって、若い優れた人材がNICTに入ってくるようになり、また学界で活躍する人材が大学等に 招かれてゆくなど、人材交流が活発になり、情報通信の研究分野における人材供給源になることができます。

その第三は、これからの高度情報通信社会はますます急激に進展し変化してゆくでしょうから、社会の要求するところをよく 察知し、中期的・長期的な戦略、ビジョンを常に弾力的に見直し、その戦略に沿って研究グループをダイナミックに組みなおしながら、 スピード感のある研究を行い、タイムリーに成果を社会に対して提供してゆく努力をいたします。そのような戦略、ビジョンは、 広く学識経験者の意見を聞き、国の情報通信政策を十分に勘案して策定してゆくとともに、国の情報通信政策の立案に貢献できる ものとします。そしてそれを実現する研究開発成果をあげる努力をいたします。

その第四は、情報通信技術の研究開発におけるNICTの位置づけをよく考えることであります。大学における基礎研究と産業界に おける実用化研究の間にあって、この両者との協力関係をより一層密にしながら、NICTにおいてやるべき研究は何かを明らかにし、 国のミッションとしての研究開発とサービスとともに、これらを強力に推進してまいります。

第五に、独立行政法人は自律性をもち、自己責任において活動をすることが最も大切であるとされています。したがって、 これまで同様に政府の情報通信政策の技術的な基盤を支えることはもちろんのこと、産業界や社会全体に独自の目を向けた活動も 積極的に行ってゆきます。

21世紀は知識社会へ大きく転換してゆきつつあります。天然資源が限られた我が国は、この時代の流れをよく認識し、知の創造と 活用により世界に貢献し、また国際競争力があり持続的な発展ができる国造りを目指さなければなりません。そこで、以下の4つの 戦略的な研究開発プログラムを設定し、科学技術基本計画やe-Japan戦略などの国の研究開発戦略の一翼を担います。そして社会の 安心・安全や環境問題といった緊急に解決すべき課題や、わが国に新たな産業の流れを創出できるような技術的課題に集中的に リソースを投入し、メリハリのある重点的な取り組みによって、我が国の知の創造と知の活用に寄与する情報通信技術の発出を 目指します。

  1. ヒューマンコミュニケーションやコンテンツ利活用、ユビキタスなど、日本から世界へ発信する新たな情報通信分野の「礎」となるキーテクノロジーを創出する研究開発。
  2. 情報セキュリティや電磁環境、地球環境計測など、社会の「安心・安全」を確保するための研究開発。
  3. バイオコミュニケーションや光・量子通信など、新しいコミュニケーション手段の「種」となる新たなパラダイムを創造して10年後、20年後の新たな社会生活の基礎を作る研究開発。
  4. 研究開発ネットワークや民間基盤技術の研究促進など、日本の技術を花開かせる「小槌」を作り出す取り組み。

更には、我が国の国民がもつ豊かな感受性を情報通信技術の核として活用できるような、言語や人間の感性を扱う領域にも果敢に 挑戦していきたいと考えます。21世紀は知の世紀と言われます。知は創造され蓄積されるだけではなく、活用されて初めてその 真価を発揮します。これから生み出される新しい情報通信の技術は、知の創造、蓄積、そしてその活用について、これまでにない 手段を我々人類に与えてくれる可能性を秘めています。その可能性を一つ一つ国民にわかりやすく解き明かしていく、そのような 役割をわれわれ情報通信研究機構は担っていくつもりであります。