1977年ソニー(株)入社。フェライト部品、スイッチング電源の研究および商品開発に従事。2001年通信・ 放送機構仙台EMCリサーチセンターに出向。以来、電子機器から漏洩する電波の三次元可視化技術の研究開発に従事。
1991年 郵政省通信総合研究所入所。屋内無線通信及び陸上移動通信における電波伝搬特性の研究に従事。 2001年通信・放送機構仙台EMCリサーチセンターに出向。以来、電子機器から漏洩する電波の三次元可視化技術の 研究開発に従事。
近年、無線通信技術を利用した小型の電子機器が急増し、機器内部での電波の干渉による誤作動や機器間での 通信障害が増加しています。このようなトラブルに対処するためには、不要な電波がどこからどのように漏洩 しているのかということを把握する必要がありますが、電波は人間の目では見ることができないため、対策は 容易ではありません。われわれはこのような問題を的確に解決できるようにするため、電子機器から漏洩する 電波の様子を可視化する技術の研究開発を行っています。
仙台EMCリサーチセンターでは、電子機器から漏洩する電波を可視化する手法として、電波を観測する視点に応じた 2つのサブプロジェクトに分けて研究開発を進めています。「近傍からの電波の可視化技術」では電波の成分で ある電界や磁界をできるだけ乱さずに測定できる検出装置(プローブ)を開発し、電子機器から漏洩する電波の 状況を電子機器を構成する部品の近傍で観測して可視化することを(図1)、「比較的遠方からの電波の三次元 可視化技術」では電子機器からある程度離れた位置で高速に電界分布を測定する技術と、そのデータを用いた 高精度な漏洩電波源の位置推定アルゴリズムの開発(図2)を目標としています。またこれらの技術を用いて 放射電磁雑音の解析やさまざまな対策による雑音抑制効果の検証への応用ができるシステムの実現を目指しています。
電子回路近傍の電界強度分布や磁界強度分布を正確に測定するためには、回路の動作や電磁界分布への影響が 小さく、電界と磁界の分離性能や空間分解能の優れているプローブが必要です。このプロジェクトでは電界の 強さによって光の屈折率が変化する電気光学結晶を利用したダブルローディド型光磁界プローブを開発し、 ギガヘルツ帯の高い周波数でも精度のよい測定ができることを実証しました(写真1: 光磁界プローブと回路基板上の 磁界分布を測定している様子)。
図3は無線LANなどで使われる2.4GHzの電波を放射しているパッチアンテナ近傍の磁界分布を、従来の磁界プローブと 本プロジェクトで開発した光磁界プローブを用いて測定した結果を示したものです。従来の金属ケーブルを持つ プローブでは、プローブがアンテナの動作へ影響を与え磁界分布にも乱れが現れていますが、光ファイバで信号を 伝える光磁界プローブではほとんど乱れがなく、精度の高い測定が実現できています。今後さらに高い周波数で 高速に電子回路近傍の電磁界分布を計測するために、小型化した複数のプローブを集積化したシステムを開発する 予定です。
本プロジェクトでは、電波源から数波長離れた位置における電波の到来方向を知ることにより、電波源の位置を 推定する検討を進めています。電波源から近い位置に配置したアレーアンテナで測定した位相分布を用いて 波源位置を推定するため、波源が十分遠方に存在するとはいえず、到来方向推定の精度が劣化します。そこで、 この影響を低減するための手法を提案し、コンピュータシミュレーションおよび実験により推定精度の劣化をある 程度を改善できる効果を確認しています。
上述の電波源位置推定手法を用いて、電子レンジからの漏洩波の放射位置を特定する方法について検討 しました。電子レンジからの漏洩波の振幅および周波数は時間とともに変化しますが、その信号が周期的に変化 することを利用して、アレーアンテナの各素子の位相分布を測定する方法を提案しました。実際の電子レンジから 漏洩する電波を測定している様子を写真2に、また測定結果から電波の放射の中心を推定した結果を図4に示します。 この図は電子レンジの正面を波源面とした場合の推定結果で、赤色が濃いほど漏洩電波の放射の中心に近いことを 示しています。 (a)は水平偏波成分(水平方向に振動する電界)に対する結果、(b)は垂直偏波成分(垂直方向に 振動する電界)に対する結果です。この結果から、水平偏波成分と垂直偏波成分では漏洩波源の個数が異なる 場合があることや、波源の位置に差があることもわかります。(b)の図では、電子レンジの天井付近に電波の 放射の中心があることから、電子レンジの筐体全体から漏洩波が輻射されている可能性があると考えられますが、 今後さらに詳細な検討を進める予定です。
本プロジェクトの目的である電波の可視化技術の応用により、電子回路の高密度化設計や、無線通信の高速化 のみならず、広く環境電磁工学(EMC)の研究に関するさまざまな問題の解決に貢献できることを考えています。 プロジェクトの最終段階では開発した技術を有機的に組み合わせた「電波可視化システム」のプロトタイプを 作製し、そのデモンストレーションを行って、可視化技術の有効性を実証したいと考えています。