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リアルタイム映像伝送公開実験も大盛況

佐藤正樹 (さとう まさき) - 無線通信部門 鹿島宇宙通信研究センター モバイル衛星通信グループ 主任研究員

災害発生時の被害状況を迅速に、且つ詳細に把握するには、機動性を有するヘリコプターから直接撮影する方法が有効と されています。しかし、撮影した被災地映像等をヘリコプターから目的とする伝送先にリアルタイムで送信するには、 中継用の車両や地上基地局が必要となります。このため、災害規模が大きい場合には現地までの道路が壊れたり、陸地から 遠く離れた海上等では、中継を行うことが困難であり、時にはこうした中継が不可能な場合もあります。そこで、 ヘリコプターから直接に静止通信衛星を中継局として通信を行うことができれば、通信路に障害物が無いためいつでも どこでも通信が可能となります。また中継車等が不要なためヘリコプターの機動性を充分に活かす事が可能です。 ヘリコプターからの伝送方式の「現在」と「将来(本システム)」との比較を別図に示します。

ヘリコプターから上空方向に位置する人工衛星に向けて発射される電波は、ヘリコプター自身のブレードで通信路が 周期的に遮断されます。さらに、ブレードで反射される電波は、目的とする人工衛星ではなく、他の隣接衛星や地上無線局に 電波干渉を与える恐れもあります。このため、このシステムでは、ヘリコプターから衛星へは高速回転するヘリコプター ブレードのわずかな間隙をねらって電波を送信する方式を採用しました。また、人工衛星から送信される電波を飛行中の ヘリコプターで受信する場合には、その受信電力が極端に弱くなり、地上無線局との干渉問題が生じないことから、同じ データをヘリコプター側で繰り返し受信し、ブレードの間隙をすり抜けて到達した電波を受信します。これらにより世界に 類がない画期的なヘリコプター衛星通信システムが完成しました。

このシステムはさらに、1) ヘリコプターと対策本部等との間のデータ通信機能、2) ヘリコプターの姿勢動揺があっても 人工衛星方向を高精度で捕捉指向させる機能、3) MPEG4規格での384kbps準動画伝送機能、4) 被撮影地(被災地)位置を 3次元地図を用いて高精度に特定する機能なども有しています。

昨年の12月2日には公開デモンストレーションを実施しました。公開では、静岡ヘリポートで衛星通信システムを搭載した ヘリコプターをご覧いただき、鹿島宇宙通信研究センターではヘリコプターで撮影された岐阜市上空の動画および静止画を、 静止衛星を介して直接伝送する模様を来場の方々にご覧いただきました。公開参加者は、ヘリコプター衛星通信の将来 ユーザになると思われる各省庁機関、マスコミ関係、民間企業等を中心に静岡と鹿島を合わせ計70名近くあり、 ヘリコプターに搭載されている実験機器や映像伝送機能に興味をもっていただきました。出席者からは、引き続き 小型・軽量化や通信速度の向上に取り組み、早期実用化を望む声が多数寄せられ、今後これらの要望に応じられるよう、 防災関連機関等と連携をとりながら開発に取り組み、社会貢献を果たしていく所存です。

最後に、事前準備、当日の対応等にあたり多くの皆様にご協力いただき、お礼申しあげます。