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NICTで活躍する女性研究者 vol.2

NICTでは約80名の女性研究者や女性職員が活躍しています。 NICTニュースでは、シリーズで女性研究者にスポットを当て、お話を伺います。

福永 香(ふくなが かおり)さん - 無線通信部門 EMC推進室 主任研究員

1993年に藤倉電線(現フジクラ)在職中に工学博士号を取得(東京電機大学)。1994年、CRL(現 NICT)に入所。誘電絶縁材料の研究とEMCの啓蒙普及活動に従事。趣味は水彩画と美術建築鑑賞。 特技はイタリア語。


独立行政法人の研究所と企業の研究所に見る“違い”とは

現在の研究に興味を持った理由と、企業の研究所に在籍された経験から、NICTとの研究の違いについて紹介ください。

福永 絵画や建築といった芸術系に一番惹かれたのですが、 身近で単純そうな電気に進みました。電気の命を守る“絶縁 材料”では、物理、化学、電気といった幅広い内容の研究がで きるので飽きずに続けています。企業の研究所を辞め大学で 非常勤講師をしていた時、当時のCRL(現NICT)が公募広 告を応用物理学会誌に載せていたのを見て、応募し採用され ました。在籍して11年目になります。

NICTのような研究所と企業の研究所とでは、“予算”の考 え方に大きな違いがあります。NICTの場合は、研究そのもの に予算がつきますが、企業の研究所の場合、研究による製品 化でどれだけの利益をもたらすかが重要になります。また、必然 的に製品化のサイクルにあわせた研究計画となります。ものづ くりという点では、成果が製品化されるというやりがいがあります が、その反面、基礎研究がじっくりできないことがあります。例えば、 A・B・C、3つの材料の寿命試験で、Aが一番長生きならそれで 決定、なぜかは置いて先に進みます。でないと製品納期に間に 合わないのです。その「なぜ」や試験法の評価など、重要なの に開発現場で扱えないテーマに従事できるNICTの環境には 十分満足しています。

日本の産業を支える“プリント基板”

現在の研究内容をご紹介ください。また、それらの研究は、どのように発展していくのでしょう。

福永 主な研究内容は、機構内ファンディング制度で採用され た情報通信機器に使われているプリント基板の信頼性と、 EMC(電磁環境両立性)に関る啓蒙普及を中心とした研究 推進業務です。プリント基板の信頼性は、日本の産業全体に 関る重要なものですが、使われるものによって程度は違ってきま す。車に載せるインバータ用のように超高信頼性を要求される ものから、携帯端末のように商品寿命の方が材料寿命より短い ものなど様々です。それぞれに応じた試験方法を、単なる材料 の寿命ではなく、どう劣化していくかを明らかにしながら提案し ていきたいと思っています。また最近では基板用絶縁材料の 高周波特性が問題になっています。機能としては「高周波部 品を載せて、ただ耐えるだけ」の材料は真剣に測定されてきま せんでした。EMC設計などに効いてくるかもしれないのに、 です。そこで今年から汎用誘電体の高周波特性の評価法に ついても検討を始めました。

国際会議には、参加することが大切

国際会議に多数出席されているとのことですが、女性研究員として、感じたこと、思ったことは何ですか。

福永 国際会議などで顔と名前を覚えてもらえる利点は男性 研究員よりあるかもしれませんね。もちろん、発表する内容の中 身が濃く、話題性がなければなりませんが、女性研究員の参加 者が少ないこともあって男性よりも印象に残るのだと思います。

国際会議は男女に関係なく、続けて参加することが重要だ と思います。研究者同士仲良くなってはじめて入手できるような 情報もあるのですから。今フランスの宇宙研究機関と一緒に仕 事をしていますが、これも友人の友人という繋がりから始まった プロジェクトです。

後進の育成にも、力を入れているとのことですが。

福永 絶縁材料やEMCの研究は、いつもは陽が当たらないも のの、故障など不具合があると責任が回ってくる分野です。本 当は華やかな情報産業、豊かな現代生活を支えている重要な 役割を持っているのです。そのため企業でも、大学でも、若い研 究者や学生と多く会い、この分野を、引っ張っていく人を一人で も多く増やしたいと思っています。

コーディネータ的エンジニアというのは。

福永 私の主な仕事はコーディネートといいますか、天才的頭 脳を持った研究者達が開発した技術を応用して、産業界、モノ の開発現場に役立てていくことです。エンジニアリングというの は純サイエンスと違って、何かの役に立つ存在であるべきと考 えています。これからも基礎研究と開発現場、産・学・公、日本と 欧州といった境界での仕事を通じて、情報通信を支える技術 開発に従事していきたいと思っています。