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若菜 弘充 (わかな ひろみつ) - 総合企画部 企画戦略室 室長

第一期中期計画の終了を迎えて

平成18年3月で、5年間の第一期中期計画は終了を迎えます。次号では第二期中期計画についてご紹介いたしますので、ここで はこの5年間を振り返ってみたいと思います。

情報通信研究機構の前身である通信総合研究所は、平成13年度に独立行政法人としてスタートを切りました。総務大臣により 中期目標が提示され、通信総合研究所自らがその目標を実現するための中期計画を策定し、総務省の認可を受けるとともに公表 しました。また、中期計画の達成度を評価するために、総務省独立行政法人評価委員会による評価が毎年行われることになりました。 独立行政法人化を機に、組織体制についても全面的な見直しを行い、従来の8つの研究部は、4つの主たる研究分野に対応した 4つの研究部門に再編されました。これが現在の情報通信部門、無線通信部門、電磁波計測部門、基礎先端部門です。この時、 研究室を廃止し、約30の研究グループを置く体制に変わりました。年限を限って重点的に研究リソースを投入するダイナミック プロジェクトや、萌芽的な研究テーマを発掘するための理事長ファンドを発足させるなどいくつかの新しい仕組みを作って、 研究開発の活性化を図りました。

NICTの発足

中期計画期間中の最も大きな出来事は、平成16年4月1日に独立行政法人通信総合研究所(CRL)と認可法人通信・放送機構(TAO) との統合により、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が、長尾理事長の下で発足したことです。情報通信分野を専門とする 唯一の公的研究機関として、我が国の国際競争力と社会の持続的発展の源泉であるICT(情報通信技術)に関して、基礎的な 研究開発から先導的な研究開発まで一貫して実施するとともに、大学、民間等の研究開発を支援する戦略的なファンディング、 通信・放送事業の振興等を総合的に推進する新組織が誕生しました。NICTビジョン「ICTで未来社会を創るエンジンになる」 として、図1にある4つの戦略的プログラム、図2の6つの重点化アクションを発表しました。

第一期中期計画

第一期中期計画における研究開発は三つの研究領域、すなわち、ネットワーク領域、アプリケーション領域、ファンダメンタル 領域から構成されています。

ネットワーク領域の研究開発では、テラビット級、ペタビット級の伝送速度を実現するフォトニックネットワーク技術、 高度情報通信ネットワークの安全性を確保するための情報通信セキュリティ技術、マルチメディア無線通信技術、成層圏プラット フォームを用いた広域無線通信技術、電磁環境に関する計測技術、ETS-VIIIやWINDS等の衛星を用いた超高速衛星通信技術の 研究開発が含まれています。

アプリケーション領域の研究開発では、様々な形態の情報を高信頼で流通させるためのコンテンツの制作・流通・検索・提供技術 やナチュラルビジョンを実現するための映像収集・表示・伝送・保存分析技術など、高度な情報通信技術を用いた様々な アプリケーションに関する研究開発が含まれています。

ファンダメンタル領域の研究開発では、高度な情報通信を支える様々な基礎的・先端的な技術開発が含まれています。光デバイス、 新機能デバイス、量子通信や高精度時間、空間、周波数標準技術の研究開発があります。

研究成果としては、将来の超高速光ネットワークの実現に向けて、光信号のままで超高速光処理を可能とする160Gbps光パケット スイッチ等の世界最先端の技術開発を行ったほか、長波標準電波の発射によって電波時計が爆発的に普及したように、研究成果が 目に見える形で国民生活へ寄与する成果も得ることができました。また、JGNU光テストベッドを使った産学官連携の実験が行われ 様々な成果を得ることができました。誌面の都合で個々の研究成果についてここでは紹介できませんが、これまで同様本誌面で 紹介していきたいと思います。

統合化された情報通信研究機構では、3つの系、すなわち総合研究系、先導研究系、促進・振興系でこれらの研究開発を行って います。総合研究系は、中長期的な視野に立ってリスクの高い基礎的、基盤的な研究開発を自ら実施するものです。先導研究系は、 実施化への橋渡しのための研究委託や産学結集型研究開発を実施し、促進・振興系は、事業化への加速のためのベンチャー支援や インフラ高度化支援を行っています。

さらにこれらの3つの系の有機的な連携を促進して、基礎研究から応用研究、実証実験を通じた実用化への橋渡しをするための 体制として研究開発推進ユニットを組織して活動しました。部門間連携が有効な研究分野を選んで、新世代モバイルユニット、 フォトニックネットワークユニット、情報セキュリティユニット、EMC(電磁環境)ユニット、光・量子通信ユニット、研究開発 ネットワークユニットを組織しました。民間企業や大学と共同実験や研究成果報告会を開催するなど連携の効果も得られました。 第二期中期計画ではさらに融合が進むような研究部門横断的なプログラム制を採用することとしています。

今後の展望

平成13年4月に第一期中期計画を通信総合研究所として開始した頃と比較すると、研究テーマや研究手法、組織体制や業務運 営も大幅に変わってきました。現在、国の情報通信政策への一層の寄与、研究開発分野の選択と集中の徹底、NICTの得意分野の 一層の強化と新たな分野への積極的な展開、産学との連携の一層の強化の4つの基本方針を念頭に置きつつ、新たな研究開発計画 の策定を進めています。今後の10年から15年先のターゲットとして国境や世代を超えた相互理解を可能にするユニバーサル コミュニケーションという概念を考えています。この実現に向けて研究計画の策定、新しい組織体制も検討しています。 これらについては次号で紹介したいと思います。