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リポート1 第2回国際標準化活動若手交流会の報告
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リポート3 NICTにおける国際貢献(技術研修プログラム)の紹介
探訪記

知っていますか?NICTの施設 NICTの研究活動に欠かせない様々な実験装置や設備。特徴ある設備や施設にスポットをあて、シリーズで紹介します。日本の時を告げる施設 〜はがね山標準電波送信所 探訪記〜

日本の「とき」を告げる施設
通信・放送・測位等生活に電離圏が及ぼす影響
上/「はがね山標準電波送信所」の送信局舎入退場ゲート。左端に200mアンテナ下部が見える。
下/標高約900mの羽金山山頂にそびえる長波標準電波送信用200mアンテナ。アンテナ頂部は雲に隠れ見えない。
 IT社会の進化は、いっそう正確で社会的に認知された時刻情報が必要となっています。その典型的な例が、電子商取引や病院の電子カルテ発行などの業種といえるでしょう。また、一般家庭や個人にも普及した「電波時計」にも基準となる正確な時刻情報が不可欠です。
 先進諸国では、こうした時間・周波数・時刻情報を政府や国の標準機関が定め、様々な供給手段を用いて社会に提供しています。日本においては、NICTが日本標準時と周波数標準をつくりだし、“標準電波”と呼ばれる長波帯の周波数標準局(無線局コールサイン:JJY)から電波で全国に供給サービスしています。急速に普及拡大している日本の電波時計は、すべてこの標準電波を基準信号としていることから、標準電波は現代の社会インフラの一つとも言えます。
 標準電波に重畳される時刻情報は、NICT本部(東京都小金井市)でつくられる日本標準時に高い精度で同期する仕組みが作られ、協定世界時との時刻同期精度10マイクロ秒以内(日本標準時は協定世界時を9時間進めた時刻)、周波数精度1×10-12という確かな精度を有しています。その送信運用は、“おおたかどや山標準電波送信所(福島県田村市都路町)”と“はがね山標準電波送信所(佐賀県佐賀市富士町)”の2局体制が構築され、それぞれ40kHzと60kHzの電波を24時間連続送信しています。標準電波の長波送信施設を持つ先進国の中で、こうした2局で相互バックアップを可能としているのは日本のNICTだけであり、非常に高い信頼性を確保しています。
 今回は、毎年1回行われている定期施設保守点検の機会をとらえ、“はがね山標準電波送信所”を訪ねてみました。
標準時を送出する機能
整合器室:インピーダンス整合を行うための可動型大型コイル(左)、固定大型コイル(中央)、アンテナをアースに接地する駆動装置(右)。
整合器室:インピーダンス整合を行うための可動型大型コイル(左)、固定大型コイル(中央)、アンテナをアースに接地する駆動装置(右)。
 “はがね山標準電波送信所”は、佐賀県と福岡県の県境に位置する“羽金山”山頂(標高約900m)付近に建つ地上高200mの傘型アンテナを備えた施設です。玄界灘を一望する施設は、そびえ立つアンテナを除くと一見は普通の建物。しかし、送信局舎全体が自ら送信する電波の影響を受けないように、金属素材を用いた特殊なシールドで覆われているそうです。送信する標準電波のサービスエリアは約1,000kmの同心円エリアに及び、沖縄諸島を含む西日本エリアの受信充実化を目指し、平成13年10月から運用開始されました。
 施設内部は、「原器室」、「時刻信号管理室」、「送信機室」、「整合器室」を主要とする4ブロックの構成となっています。
 電磁・磁気シールドされた「原器室」には、高性能なセシウム原子時計3台が設置されています。原器室内は通常時は入室不可となっており、銀行の金庫室のような扉の向こうでは温度・湿度が精密管理されています。
インピーダンス整合に使用するための大型コイルと大型コンデンサー。
インピーダンス整合に使用するための大型コイルと大型コンデンサー。
「時刻信号管理室」では、セシウム原子時計の基準信号をもとに長波帯の周波数信号と、電波時計の基準信号となる“タイムコード”とを生成します。同室では施設内の各種計測機器自動制御・計測データの収集、画像モニターなども行われます。また、人工衛星を使った時刻比較も行われ、常にNICT本部でつくられる日本標準時との“ずれ”が規定値以下(最終的に送信される標準時信号の偏差が10マイクロ秒以下となるように、原子時計レベルでは100ナノ秒以下で調整される)であることが確かめられています。
 「送信機室」では、現用/予備の50kW大電力送信機計2台が設置されており、送信信号を50kWに増幅(FET半導体増幅器48基板合成)したのちに、整合器へと送り出しています。
 最も特殊なブロックが、内壁及び床の室内すべてを銅板でシールドした「整合器室」です。この部屋は送信が完全停止している時にだけ入室可能な特別な部屋です。
整合器室:整合器室から50kW送信電力をアンテナに給電する最終部分。避雷対策のため、ドーナツ状の金属構造物が団子状に取り付いている。
整合器室:整合器室から50kW送信電力をアンテナに給電する最終部分。避雷対策のため、ドーナツ状の金属構造物が団子状に取り付いている。
室内に設置された整合器によって、送信機と送信アンテナとのインピーダンス整合が図られ、電波送信時は銅板シールドによってアンテナ以外から電波が輻射されることを防いでいます。赤銅色の室内に浮かび上がる銀色の大きな避雷リング・避雷ボールギャプ、そして人間の大きさにも匹敵する巨大なコイルや各種機器など、その迫力には不気味さも覚えるほどです。
 現地で伺った担当者の話では、「送信運用されている時の整合器室内は巨大な電子レンジの中と同じ状態です」とのことでした。
 アンテナから発射する電波をより効率的に送信するためには、そのアース性能も重要です。そのため、アンテナ中心の地下基礎部から直径4mmのアース銅線が1度間隔で360本埋設されているそうです。その半径はアンテナを中心に約150m(合計55,000m)にも及んでいます。当日は停波中の短時間見学でしたが、はがね山は気象条件が厳しく落雷が多い立地のため、数日前にも落雷があったとか。厳重な精度管理が課せられているだけに、その苦労がしのばれます。
いっそう正確で確かな日本標準時を求める時代
送信機室:50kW送信機が現用/予備として2台。故障発生時には現用系から予備系に自動切り替えがなされる。 時刻信号管理部:セシウム原子時計の信号を基に、周波数信号と電波時計用「タイムコード」の生成や時刻比較を行うための計測機器ラック群。
左/時刻信号管理部:セシウム原子時計の信号を基に、周波数信号と電波時計用「タイムコード」の生成や時刻比較を行うための計測機器ラック群。
右/送信機室:50kW送信機が現用/予備として2台。故障発生時には現用系から予備系に自動切り替えがなされる。
 標準電波で全国に送り届けられる日本標準時は、現在では電波時計をはじめ、家電製品、車載用時計、計測震度計など広い範囲での利用が進んでいます。そうした背景もあり、標準電波は日本の時を告げる“電波の灯台”として不可欠のものとなっています。日本に存在する二つの標準電波送信所の一翼を担い、また西日本の受信エリアをより確かなものとするその役割は、これからの市民生活に不可欠な21世紀の社会基盤としてますます重要性を増しているといえるでしょう。


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