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探訪記

知っていますか?NICTの施設 NICTの研究活動に欠かせない様々な実験装置や設備。特徴ある設備や施設にスポットをあて、シリーズで紹介します。脳内情報を未来のコミュニケーション技術へ 〜未来ICT研究センター(神戸)探訪記〜 width=

どうしてNICTに医療用装置?
 未来ICT研究センター(神戸市)は、NICTの一翼を担う基礎研究の拠点として、バイオ、脳、ナノテクノロジー、超伝導や量子・レーザーなど様々な研究が行われています(写真1)。そこでは、人間の生理的な情報に焦点を当てた研究も進められています。今回は、“どうしてNICTに医療用大型装置があるの?”という素朴な疑問を出発点に、人間の脳活動を探る最先端の計測装置を使った脳情報の「可視化」や、脳情報の利用技術研究に取り組んでいるバイオICTグループを訪れました。
人に優しい「脳」計測装置の研究
写真1 未来ICT研究センター(神戸)では、バイオ、脳、ナノテクノロジー、超伝導や量子・レーザーなど様々な研究が行われています。
写真1 未来ICT研究センター(神戸)では、バイオ、脳、ナノテクノロジー、超伝導や量子・レーザーなど様々な研究が行われています。
 医療分野では、X線を利用した診断装置がよく知られていますが、現在は安全・安心にも配慮した非侵襲な「可視化」装置、例えば被曝や造影剤の無い計測装置の統合研究が進んでいます。バイオICTグループでは、fMRI*1(機能的磁気共鳴画像法装置)、MEG*2(脳磁界計測装置)、NIRS*3(近赤外分光法装置)による脳情報計測の高度化と同時に、これらを関連付けた情報の抽出に関する研究が精力的に行われています。私たちが医療施設で目にする診断装置は病理的な検査を目的としていますが、NICTにおけるこうした装置開発や利用技術の研究は、“人間の脳の情報処理特性に学び、人に優しく、快適な未来のコミュニケーション技術の実現”を目指しています。
次世代を担うfMRIの開発
写真2-1 3.0テスラの高磁場を発生させるfMRI本体
写真2-1 3.0テスラの高磁場を発生させるfMRI本体。

写真2-2 fMRIには高磁場発生のための8チャンネルのフェイズドアレイコイルが装備されている。
写真2-2 fMRIには高磁場発生のための8チャンネルのフェイズドアレイコイルが装備されている。

写真3 各種実験をコントロールする磁気シールドで守られたfMRIのオペレーションルーム。
写真3 各種実験をコントロールする磁気シールドで守られたfMRIのオペレーションルーム。
 未来ICT研究センターの第3研究棟、ここに磁気遮蔽されたMRI室があり、3.0テスラ高磁場MRI装置(写真2-1)が置かれています。MRIとは、Magnetic Resonance Imagingの頭文字で、主に水素原子の核磁気共鳴現象を応用して人体の断面を画像化する手法を指します。最近では、“人間ドック”のオプションメニュー「MRI脳ドック」などの看板を見かけることも多くなりました。装置名称に使われている「テスラ」は磁場の強度を表す単位で、3.0テスラは日本周辺で観測される地磁気の約10万倍も強力な磁場の強さで、超伝導技術によってつくりだされます(写真2-2)。現地で伺った話では、買い物などで使用するクレジットカードを装置内に持ち込むと、記録情報はすべて消去されてしまい使用不可となるとのことでした。
 このMRI装置は、血液内の酸化ヘモグロビンと脱酸化ヘモグロビンの磁性の違いによって生じるBOLD(Blood Oxygen Level Dependent)効果を利用することにより、 脳内の局所的な血流量の変化を求めることができます。 これにより脳活動を非侵襲的に測定することができます (これを「fMRI」と呼びます)。 3.0テスラ高磁場MRI装置は今までの1.0/1.5テスラMRI装置よりも信号とノイズとの分離度が良く、視覚野などの感覚野を高精度に測定することが可能です (写真3)。しかし、その反面、生体組織、体液、空気などの磁化率が異なる部位の測定においては注意が必要となり、高磁場下では眼窩や鼻腔の近くの前頭葉の一部特定部位などで生体組織等の磁化の違いから脳活動の測定が困難になります。バイオICTグループの研究者たちは、 こうした効果・影響を排除する工夫を考え、高磁場MRI装置を用いた前頭葉脳活動の測定法を開発すると同時に、 この測定法を利用して感情・思考に関連した脳活動を測定し(写真4)、 それを情報化してコミュニケーション技術に適用するための基礎的な研究を行っています。
  しかし、こうしたBOLD効果を利用した方式にも限界があるそうです。 血流を変化させる代謝反応は神経細胞(マイクロメートルオーダー)よりも大きな領域(ミリメートルオーダー)で起きるため、 実際の脳活動が起こってから血流量が変化するまでに時間差が生じてしまい、時間精度の高いマッピングが難しいことや、 血管内血液のヘモグロビンによる信号変化があたかも血管部分も活動しているように見えてしまうことなどだそうです。そこで、新しい研究課題に挙げられているのが、拡散強調 fMRIなどのPOST-BOLD-fMRIへの取り組みです。こうした基礎研究を行う例は少なく、医療分野への成果還元が各方面から期待されています。

写真4 脳活動の測定例(2004.Sep. NICT News 「速読の脳活動」) 写真4 脳活動の測定例
(2004.Sep. NICT News 「速読の脳活動」)
正確な脳内情報の計測を目指して
 こうしたfMRIの研究開発とともに、MEG(脳磁計)、NIRS(近赤外光分光装置)の研究も行われています。紙面の制約から詳細は割愛しますが、これら三つの装置はそれぞれ特徴があり、それぞれが最も得意とする計測を行うことで、正確な脳内情報の分析が可能になります。
情報通信の未来へ向けて
 未来ICT研究センターの研究開発は、バイオICTグループが目指す脳情報計測機器の進化のほかにも、同センター内の多様な研究グループと連携を図りながら、特定領域にとどまらない基礎研究開発が進められています。今回取材したバイオICTグループが情報通信の新概念につながると期待される脳内情報に取り組むのをはじめ、多角的なアプローチと研究を行う未来ICT研究センターは、情報通信の未来に寄与する重要な研究拠点施設といえるでしょう。
<用語>
*1 fMRI:「f」はfunctional(機能的な)の略、MRI(Magnetic Resonance Imagingの頭文字)は主に水素原子の核磁気共鳴現象(Nuclear Magnetic Resonance: NMR)を応用して人体の断面を画像化する手法のことで、「機能的MRI」を意味するもの。
*2 MEG:脳磁計(Magnetoencephalography)のことで、脳の電気活動により発生する極めて微弱な磁場信号を、超伝導量子干渉素子と呼ばれる非常に高感度な磁気センサーによって計測するもの。
*3 NIRS:NIRS(Near InfraRed Spectroscopy)は近赤外光分光による非侵襲・低拘束な脳機能計測装置で、脳を透過した光量により脳内のヘモグロビン量の変化を計測するもの。


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