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リサーチ ミリ波WPANの研究開発と標準化活動 ミリ波無線パーソナルエリアネットワーク 〜夢の超高速無線通信〜
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研究

ミリ波WPANの研究開発と標準化活動 ミリ波無線パーソナルエリアネットワーク 〜夢の超高速無線通信〜

ミリ波WPANとは
 ミリ波WPAN(Wireless Personal Area Network)はその名のとおり、波長がミリメートルオーダーの無線周波数を使用し、送受信機間の距離が10m程度までの通信を実現する無線パーソナルエリアネットワークです。この周波数帯として、日本では59から66GHz、米国では57から64GHz、ヨーロッパでは57から66GHzの周波数が割り当てられ、または検討されています。このように、使用可能な帯域が7から9GHzと従来の無線通信方式に比べて超広帯域であることから(例えば、2.4GHz帯無線LANの約100倍)、これまでの無線通信では考えられなかった数Gbps(最も汎用的に使用されている無線LAN方式の数百倍)という屋内での超高速短距離通信が可能になります。
 こうしたミリ波通信の特長は、その波長が”ミリメートル”であることから、送受信装置を極めて小さく実現できることがあげらます。例えば、装置の中で最も大きな面積を占めるアンテナでさえ、数ミリから十数ミリメートルのサイズで実現できるようになることから、モビリテイ(可搬性)に富んだ様々な応用が期待できます。
 NICTにおいては、10年以上前からこうしたミリ波通信の研究を開始し、この分野の草分け的な存在として技術開発に取り組んできました。しかし、そうした技術の実用化までには至っていませんでした。その背景には、ミリ波デバイスそのものの価格が高かったことが大きな原因です。
 一方、近年のミリ波デバイス技術の進歩は目を見張るものがあり、化合物半導体を用いた電力増幅器の特性、価格ともに大きく改善されたとともに、SiGeのような新しいデバイスによる電力増幅器が安価で、信頼性高く実現できるようになってきました。また、より安価なプロセスである標準的なCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)を用いたアンテナ・高周部(RF)一体化技術が大きな進歩を遂げてきました。これら技術的進歩に加え、無線LANの著しい普及、第3世代移動通信の普及等、最近の無線通信のグローバルな活発化を受け、超高速無線伝送への期待、ミリ波システム実用化の機運も盛り上がってきました。 
国際標準化
 こうした世界潮流の中、無線LANの標準化等を主導的に行ってきたIEEE802委員会*1にタスクグループ(802.15.TG3c)が2005年1月に結成され、国際標準化に向けた本格検討が開始されました。これを受け、IEEE802.TG15.3cに日本発の独自技術が採用されるよう、かつミリ波システムの実用化を促進すべく、2006年7月に“ミリ波実用化コンソシアム(略称 COMPA:Consortium for Millimeter Wave Practical Applications)”をNICTが提唱し、結成するとともに、IEEE802TG15.3cに様々な技術貢献を果たしてきました。
 日本をはじめ多くの国は、ミリ波WPANの最大送信電力を10dBm/チャネル(米国はEIRP:Effective Isotropic Radiation Power<実効輻射電力>で規定)、最低限の伝送速度2Gbps、オプションで3Gbpsと超高速での伝送を規定しています。今後は、これらの送信電力、伝送速度に加え、見通し通信(LOS:Line of sight)および非見通し通信(NLOS:Non-line of sight)チャネル条件下で、何mの伝送距離を実現できるかなどの技術開発力が競われることになります。
利用形態の例(ユーセージモデル*2
(1)非圧縮のビデオ信号伝送
 1.78/3.56Gbpsの伝送速度で、高画質ディスプレイとセットトップボックス間約5-10mを、見通し/非見通し、いずれの環境下でも伝送します。その際の伝送品質は、24ビットを1キャラクタとしてキャラクタエラーレートが10-9と高品質なものです。利用イメージを図1に示します。
(2)キオスク・ダウンローデング型ファイル転送
 1.5or2.25Gbpsの伝送速度で、1mの距離を見通し条件下で伝送します。この利用イメージを図2に示します。これは、リモート・コントローラでTVを操作するように、ポータブル端末使用者がキオスクを”狙って”データをダウンロードできることから、ミリ波システムの難点の一つであった高いアンテナ指向性の問題を実質的に解決し、現状の簡単なアンテナでもミリ波を十分に実用できるようになりました。
NICTにおけるミリ波研究開発
 NICTは“ミリ波実用化コンソシアム”のまとめ役として、6種のワーキンググループ(WG)の主査、副主査を務め各WGをリードするとともに、これまで培ったミリ波技術、無線技術を集大成し、ユーセジモデル、チャネルモデル*3、アンテナ指向性を考慮したMAC*4、デバイスの非線形性、フエーズノイズ等を考慮したより正確なシステム設計を実現してきました。
 今後はさらに、魅力的なシステム設計を提案すると同時に、数年先のシステムの核となる技術、例えば、指向可変なアンテナ等を研究・開発し、ミリ波システムの利用シナリオの拡大を図ります。さらに、ミリ波実用化コンソシアムの拡張として、ミリ波システムの実証実験等を継続し、実用上の技術的諸条件を明確にしていきます。
図1 非圧縮ビデオ信号伝送のイメージ
図1:非圧縮ビデオ信号伝送のイメージ

図2 キオスク・ダウンローディング型ファイル転送の構内伝送実験写真およびその利用イメージ
図2:キオスク・ダウンローディング型ファイル転送の
構内伝送実験 写真およびその利用イメージ


研究者:加藤 修三(かとう しゅうぞう) 研究者:加藤 修三(かとう しゅうぞう)
新世代ワイヤレス研究センター ユビキタスモバイルグループリーダー、 プログラムディレクター。
1977年東北大学大学院工学研究科博士課程修了、博士(工学)。衛星通信、パーソナル通信、移動通信の研究開発に従事。日米での開発センター創設、会社経営等経験の後、2006年より、現職。東北大学電気通信研究所客員教授、ハワイ大学アフリエート・メンバ、パシフィック・スターコミュニケーションズ代表。
  簡易用語集

*1 IEEE802委員会:米国Institute of Electrical and Electronics Engineers(IEEE)の国際標準化委員会の一つ、WLANの標準化等も行われている。
*2 ユーセジモデル:利用形態モデル
*3 チャネルモデル:無線信号が伝搬する伝搬路モデル
*4 MAC:メディア・アクセス・コントロールの略


なるほど Q&A

Q:なぜミリ波WPANは超高速通信が可能?


A:これは利用可能な周波数帯域幅が7GHzと広帯域なことによります。例えば、初期のアナログ方式の移動通信は1チャネルに25または30kHzの帯域が割り当てられていました。このため、通信可能なデジタル信号の速度は9.6kbpsが限界でした。一方、今回紹介しているミリ波WPAN方式は1チャネルあたりの帯域として、約2GHzを検討しております。これは先ほどの移動通信方式の帯域の約7万倍の帯域幅であり、その分、高速通信が可能となります。ただし、高い周波数(60GHz帯)となるために、伝搬損失が大きく、通信距離はせいぜい10m程度と短くなります。



暮らしと技術

ミリ波の名称は、その波長がcm以下、mmの単位となることに由来します。例えば、60GHzの信号の波長は5mmとなります。これがゆえに、60GHz帯を使用するWPANはミリ波WPANとも呼ばれます。このミリ波WPAN技術は、従来の無線通信では考えられなかった数Gbpsという超高速通信を小型な装置で実現できます。特に、COMPAコンソシアムが推奨している単一キャリア方式は他の方式に比較して、大幅な消費電力削減も可能であり、携帯端末での実現が有望視されています。近い将来CD1枚分の情報、ビデオクリップ、デジタルカメラの写真等を“あっという間に”携帯端末・カメラ等へ(から)ダウンロード(アップロード)できるようになることでしょう。


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