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巻頭インタビュー

新世代ネットワーク 10年先、15年先を見据えたまったく新しい情報通信ネットワークを目指す 新世代ネットワーク研究センター ネットワークアーキテクチャグループ グループリーダー 原井洋明

新世代ネットワークとは

―昨年、新世代ネットワーク研究開発戦略本部が発足しました。新しいネットワーク作りのために、どのような活動を行っているのですか。

原井NICTでは5年ごとに中期計画を策定していますが、その中に、将来を見据えた新しいネットワーク作りが盛り込まれました。これを戦略的に推進するため、昨年10月に新世代ネットワーク研究開発戦略本部が発足しました。この本部の下に、戦略ワーキンググループを設置して、ビジョンの策定やロードマップの作成等を行っています。戦略本部のミッションとしては、新世代ネットワークに関する中長期的な戦略を策定する、研究開発戦略やロードマップを国内外へ発信する、国際的な連携や共存の中での先導的な役割を担う、NICT内部での研究開発全体の整合性をはかる、長期的・国際的な視野を有する研究開発の人材を育成することなどがあげられます。

―新世代ネットワークの「新世代」とはどういう意味ですか。

原井今までの制約にとらわれない、まったく新しいネットワークということです。現在のIT技術やインターネット技術、今の運用の考え方が邪魔になるという考え方を捨て、新しいネットワークを作っていくことを合言葉に新世代ネットワークの研究を始めました。10年、15年先にどのような課題が出てくるかを見ながら、ネットワークを作っていく上でどのような技術が必要になっていくかを考え、そこに至る移行ロードマップも決めていこうと考えています。ネットワークをただ作るだけでなく、ネットワーク自体が価値を生んでいく、そうした理想的なネットワークを考えていきたいと思います。

図1 新世代ネットワークへのアプローチ

問題を解決し、新たな価値を生み出すネットワーク

―戦略本部は今年9月30日に、「新世代ネットワークビジョン」を公表しました。ビジョンの内容はどのようなものですか。

図2 新世代ネットワークビジョン原井さまざまな社会問題や課題を情報通信技術で解決していこうというのが基本となっています。1つ目は現在の社会問題―エネルギー、医療、格差社会、少子高齢化、食糧などの負の部分をできるだけ最小化するということです。2つ目は新しい価値を作っていくということ。人の知の領域を増やすとか、生活の質を向上させるとか、生産性を向上させるということです。新しいネットワークはそういうものを作っていかなければなりません。3つ目はグローバル化が一層進むことによって生じる紛争や対立、格差、過疎といった問題に対して、多様性を尊重し、新たな協調を促進するようなネットワークを作るということです。

―具体的にはどのような例が考えられますか。

原井例えば、エネルギー分野では、二酸化炭素の排出削減とか、環境センシングによる環境管理などが掲げられており、フォトニックネットワーク技術という光通信技術や光交換技術を使って消費電力を削減することで解決していこうとしています。災害分野では、大災害が起きても切断されずに残存するネットワークを作ることはもちろんですが、さらに、地震発生を瞬時に検知する技術とか、テラヘルツを使ったセンシング技術などが、こうした課題を解決するために使えるとしています。医療分野では、テーラーメイド医療によって、いつでも、どこでも個人の特性に応じた最適な医療が受けられることを目指します。高精細映像や立体映像、カルテなどを送るときには、光ネットワークを使った大容量のデータ転送や暗号化関連のセキュリティ技術が使えるでしょう。いずれはロボットもこの分野で使えるでしょう。

―戦略本部は今後はどんな仕事を進めていくことになりますか。

原井まず技術ロードマップを作り、それに必要な戦略を考えていくことになります。ロードマップは今年度を目途にまとめることになっています。次には技術開発戦略やテストベッド研究を進めます。テストベッドについては、新しいネットワークができたときに、それを実際に検証できるようにしたいと思っています。そのための戦略を考えます。そのほか、技術移転、研究開発資金、標準化、国際化などの各戦略も考える必要があります。

図3 エネルギーの効率化

未来社会を支えるネットワークをデザインする

―新世代ネットワーク研究の中で、AKARIアーキテクチャ設計プロジェクトはどのような取り組みをしていくことになりますか。

図2 新世代ネットワークビジョン原井始めてから2年が経っていますが、まず概念設計を出しました。これはネットワークアーキテクチャの重要性についてのコンセプトをまとめたものです。その次に、設計原理というものを作りました。新しいネットワークを作っていく上での三大原則と我々が言っているものです。1つ目はネットワークの中をできるだけシンプルにすること、2つ目は仮想社会と実際の社会を結びつけておくこと、3つ目は作ったネットワークをいつまでも拡張できるような形にしておくことです。AKARIプロジェクトでは2011年に設計図を作ることを目標にしていますが、既にその第1版を昨年に出しました。これをどんどん改訂していきます。新世代ネットワーのビジョンに基づいて、理想のネットワークとはこうあるべきだということで設計図を作っていきますが、理想だけを掲げてもどうしようもありませんので、そこに至る技術的なシナリオもその後で作っていきます。新世代ネットワークでは送られるデータの量が飛躍的に増加します。トラフィック量が今の10万倍ぐらいになりますと、もっとたくさんのデータを流せる新しい光ファイバー網も必要になると考えています。AKARIプロジェクトでアーキテクチャを考えていく上では、将来出てくる多様なユーザーや社会からの要求、あるいは新しく出てくる基礎技術を採り入れていかなければなりません。アプリケーションごとにネットワークを作るという縦割りではなく、共通層を作って、10年先、15年先に限らず、30年先の新しい技術でも、それを取り込めるような柔軟性をネットワークに持たせたいと思います。

―どのような研究テーマがありますか。

原井例えば、データをナノ秒ぐらいで素早く切り替えられる光スイッチ技術、データを切れることなく送り続けるための物理・論理アドレス分離、光パケット・光パスの統合、リンクが何か所も切断するような故障が起こった時に、システムが自律的にどうしたらいいかを判断する自己組織化制御、新しいネットワークを試すためのオーバーレイネットワークとネットワーク仮想化などがあげられます。これらを実際に検証したり、新たに得た知見を反映させたりしながら、新しいテストベッド上で評価していく予定です。

―最後に新世代ネットワークの重要性について、もう一度まとめていただけますか。

原井我々は常に未来を向いて生きていかないといけない。今の問題を解決しても、また新しい問題が出てきます。問題解決だけでなく、新しい価値観を作ることも非常に大切だと思います。ネットワーク技術がその支えになればと思っています。

―ありがとうございました。


原井 洋明 原井 洋明(はらい ひろあき)
新世代ネットワーク研究センター
ネットワークアーキテクチャグループ グループリーダー
大学院博士課程修了後、1998年通信総合研究所(現NICT)に入所。光ネットワーク制御、光パケットスイッチ設計、新世代ネットワーク設計の研究等に従事。博士(工学)。



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