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研究者紹介
白紙から作り出す新世代ネットワーク技術 未来のネットワーク実現のため ID・ロケータ分離アーキテクチャの標準化を目指す 新世代ネットワーク研究センター ネットワークアーキテクチャグループ 専攻研究員 ベド・カフレ

「AKARIアーキテクチャ設計プロジェクト」のスタッフとして活躍

新世代ネットワーク研究センターのネットワークアーキテクチャグループでは、20年後、30年後の情報ネットワーク社会を実現するために、「AKARIアーキテクチャ設計プロジェクト(以下、AKARIプロジェクト)」を進めています。現在運用されている仕組みにとらわれずに、クリーン・スレート・デザイン(Clean Slate Design)すなわち白紙から理想を追い求める新世代ネットワークを目指すこのプロジェクトに従事しているのが、ネパールからやってきたベド・カフレ専攻研究員。研究テーマはID・ロケータ(接続位置)分離アーキテクチャと呼ばれる技術です。
 「現在のインターネットでは、IPアドレスがノード(node)のロケーション、つまり位置を示すためだけでなく、ノードのID、つまり識別子にもなっているのです。ノードの位置が変わるとIPアドレスが変わるので、識別しているIDも変わってしまい、設定している通信のセッションが消えてしまいます。そうした現在のインターネットの問題を解決するために、IDとロケータを分離すれば、IDはずっと使い続けることができ、ロケータがノードの位置によって違っても、通信のセッションが切れることがないのです」

昨年は国際会議で2度の受賞

今のインターネットは、40年も前に原理設計されたもので、セキュリティという機能がついておらず、また、携帯電話のような移動通信環境を考えて作ったものではないことが問題になっています。さらに、ある情報が相手に届く経路であるルーティングの問題もあります。「AKARIプロジェクト」では、これらセキュリティ、モビリティ、ルーティングをゼロから見直すアーキテクチャを設計しています。
 カフレ研究員はこの「ID・ロケータ分離アーキテクチャ」の研究によって、昨年5月に日本ITU(国際電気通信連合)協会賞を、9月にはアルゼンチンで開催されたITU-T Kaleidoscopeイベントにおいて、論文賞を受賞しました。
 「ITUでは次世代ネットワークの標準化を進めており、私もその活動に関わっています。そして、このID・ロケータ分離アーキテクチャを推奨し、その仕様をまとめた論文を提出したのです」
 「AKARIプロジェクト」は、2020年までに新世代ネットワーク構築技術を実現し、これ以降に社会展開することを目指しています。新しいアーキテクチャが完成すると、サイバーセキュリティが確立されて電子政府・eデモクラシーが実現するなど、現代社会が抱えている様々な問題を解決してくれることが期待されています。
 「新しいアーキテクチャが、従来のネットワークよりいかに優れているかを社会に提案していくことが、実用化段階での課題になります。様々な新しい利用方法により、社会全体が想像がつかないほどドラスティックに変化することも考えられます。しかし、案外、新しい機能を、人々は当然のこととして利用するのかもしれませんね」

小学校では20×20までを暗唱

カフレ研究員の故郷は、ネパール南東部の町で、晴れた日には北にサガルマータ(エベレスト)が眺望できるそうです。ネパールはインドと同じく教育に熱心な国で、小学校の教科書も日本のものよりコンテンツが多くて重いそうです。
 「小学校での算数では、日本の九九(9×9)どころか、掛け算は20×20までを暗唱できなければなりません。日本ではみんなが同等のレベルになることを目指しますが、ネパールでは小学校から競争が激しいです。いい仕事に就くにはいい学校に進まなければならない、いい生活をするのに一番大切なものは勉強なのだ、という考え方が徹底しているのです」
 難関の留学試験に合格して、インドのパンジャーブ・エンジニアリング・カレッジに学びました。大学のあるチャンディーガルは、インド独立後に建設された新しい町です。フランス人の著名な建築家ル・コルビュジエによる都市計画に基づいて作られた、美しい町として知られています。
 「1947年にインドとパキスタンが分離独立する際、パンジャーブ州はインドとパキスタンに分かれてしまい、大学はすべてパキスタン側のラホール市に入ってしまったのです。そこでインドの初代首相ネルーは、インド側に新しい町を建設し、新たに大学を整備することに決めたのです。私の卒業したパンジャーブ・エンジニアリング・カレッジも、そうした大学の1つです」

韓国でつかんだ来日のチャンス

卒業後、故郷ネパールに戻って5年間働いた後、今度は韓国のソウル国立大学の修士課程に進みました。日本に来るきっかけとなったのは、ソウル国立大学を日本の研究者たちが訪れたことです。
 「先生方から日本の研究体制や環境を聞くうちに、日本に行く気持ちになり、申し込みをしたのです。日本に来たのは2003年10月、32歳の時です」
 総合研究大学院大学で博士を取得後、就職先としてNICTを選びました。
 「NICTは研究の範囲が広いです。基盤研究から標準化、さらに技術を実用化して社会に投入するところまでやりますね。私自身広い範囲の仕事をすることが好きなので、NICTで働くことを希望したのです。だから今は、たくさんの民間企業の人たちと会う機会があります」
 仕事を離れたカフレ研究員の趣味は、運動だそうで、
 「バドミントンは週に1~2回やっていて、週末には10kmほどランニングします。運動は何でも好きなんですが、簡単にできるのはこの2つですから」
 今はもう、すっかり日本の研究環境と暮らしに慣れた様子です。

Profile

ベド・カフレ(Ved P. Kafle)
新世代ネットワーク研究センター
ネットワークアーキテクチャグループ 専攻研究員
パンジャーブ・エンジニアリング・カレッジ卒業、2003年ソウル国立大学修士、2006年9月総合研究大学院大学博士、同年10月NICT入所、「AKARIプロジェクト」での研究に従事。博士(情報学)。

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