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新たなシステムインフラをひらくワイヤレスグリッド技術-小電力型SUNの研究開発と標準化- 新世代ワイヤレス研究センター ユビキタスモバイルグループ 主任研究員 児島 史秀

検討の背景と技術課題

 電気・ガス・水道メータの検針データ収集を無線通信を用いて自動的に行うスマートユーティリティネットワーク(SUN:Smart Utility Networks)は、業務合理化とサービス向上をもたらす新たな無線通信システムとして注目を集めています。本システムのPHY/MAC(Physical・Medium Access Control)仕様について国際標準規格の策定が急速に進められる一方、本標準規格を次世代電力網スマートグリッドにおけるスマートメータのための無線通信規格の一候補とみる動きも起こっています。

 図1にSUNのシステムイメージを示します。各家庭のメータに取り付けられたSUN無線機の検針データが、無線通信によってSUNのサービスエリア内で集約され、そこから必要に応じてWAN(Wide Area Networks)等の広域無線システムによって収集局に伝達されます。わが国でのSUNのサービスエリアは、図のように集合住宅の一棟や、一戸建住宅地の一区画に相当し、最大で1km程度の規模になると考えられます。

 SUNの実用化と今後の普及のために、以下の主要技術課題が挙げられます。

マルチホップ通信技術

 図1に示されるように、SUNのサービスエリア内で無線機間の伝搬距離による電波減衰や、建造物の遮蔽等による電波減衰の影響で、十分なサービスエリアが確保できない場合があります。この場合、無線機同士がバケツリレーのように通信を中継する形態が有効です。メータの新規設置や撤去等の状況変化に応じて、中継経路は自律分散的に設定されることが望まれます。

図1●SUNのシステムイメージ

低消費電力動作技術

 電池駆動型メータ(例えばガスメータ)の場合に電池交換のコストを下げるため、無線機の低消費電力動作が望まれます。具体的な数値目標として、電池交換無しでの10年間動作が想定されます。

 以上の背景から、ユビキタスモバイルグループでは小電力型SUN実現のための高度PHY/MAC技術に関する研究開発を行っています。

小電力型SUNのためのPHY/MAC技術

PHY技術

 SUNの運用周波数として、わが国で有望と考えられているのは、それぞれ特定小電力システム、無線タグシステムとしても利用されている400MHz帯と950MHz帯です。データ伝送速度は、システムの前提から100kbps程度が想定されています。また、SUNのサービスエリア内に配置されるメータの個数は最大で10,000台にも達することから、低コストの無線機実装が必須となり、シングルキャリア変調のひとつであるFSK方式の適用が検討されています。

MAC技術

 図2に、検討するスーパフレーム構成を示します。スーパフレームは、定期的に送信される同期用信号のビーコンの間隔内で設定される時間周期です。本検討では、消費電力の低減を目的として、ビーコンは休止することがあり、同期が必要な場合にのみオンデマンドで送信されます。また、図2のようにスーパフレームをアクティブ区間とする一方で、スーパフレームの終了から次のスーパフレームの開始までをスリープ区間としています。本検討では、各無線機によるデータフレームの送受信の開始、および受信のための待機はアクティブ区間においてのみ行われ、スリープ区間ではアクティブ区間から継続するデータフレーム送受信を除いてスリープ状態に入るため、さらなる消費電力の低減が図られます。

図2●低消費電力のためのスーパフレーム構成

 図3に本検討におけるマルチホップ通信のためのツリー構造と、データフレーム中継の例を示します。収集局の無線機(またはWANにつながる無線機)が根となり、各メータの無線機がツリー構造を自律分散的に構築します。本構造に基づき、各メータで発生する検針データは収集局に対して単方向に中継されます。無線機同士の通信の際には、親となる無線機が自身のすべての子に対してスーパフレームを規定します。

図3●ツリー構造を利用したマルチホップ通信

試作機の開発、ならびに実地試験による特性評価

 前述の仕様に基づく小電力型SUN無線機の試作機を図4に、また諸元を表1に示します。周波数帯は400MHz帯と950MHz帯で、送信電力は10mWです。表1の諸元をすべて実装した汎用型試験装置に対し、機能限定小型端末は一部のPHY諸元を削減した代わりに開発台数を増やしたことでマルチホップ通信等、巨視的な性能評価を可能とします。2種類の試作機を使い分け実地試験を行った結果、3段程度のマルチホップ通信により、建造物等による遮蔽があった場合にも、半径約500mのサービスエリアにおいてデータフレームの収集が確実に行われることが確認できました。

表1●PHYおよびMAC諸元
図4●小電力型SUN無線機の試作機

標準化への反映

 IEEE 802委員会では、IEEE 802.15.4規格のPHY仕様の、SUN運用形態に合わせた変更が、タスクグループIEEE802.15.4gにおいて、同時に本PHY仕様変更に伴うMAC仕様変更がIEEE 802.15.4eにおいて、それぞれ検討されています。図5にIEEE 802委員会の構成を示します。ユビキタスモバイルグループは、PHY/MAC技術をそれぞれIEEE 802.15.4g、IEEE 802.15.4eに提案し、両グループの最新ドラフトドキュメントに採用された実績により、本標準化活動に対する寄与を行っています。2つのタスクグループはいずれも2009年5月に提案募集を行い、ともに2011年3月における標準化完了を予定しています(2010年6月現在)。

図5●IEEE 802委員会におけるSUN標準化の位置づけ

今後の展開

 標準化活動と並行し、平成22年度には、実機メータとの接続等を考慮した、総合的なシステム評価を実施する予定です。本検討による成果は、SUNにとどまらず、今後新たなシステムインフラを支えるワイヤレスグリッド技術として意義あるものと考えられます。

児島 史秀
児島 史秀 (こじまふみひで)
新世代ワイヤレス研究センター ユビキタスモバイルグループ 主任研究員
1999年大阪大学大学院博士後期課程修了。同年通信総合研究所(現NICT)入所。以来、384kbps高速PHS、低レート動画像リアルタイム伝送、ROFマルチサービス路車間通信、VHF帯自営用移動通信の研究開発に従事。現在、SUNにおけるPHY/MAC技術に関する研究開発、および標準化推進活動に従事。博士(工学)。
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