NICT NEWS
4K3D超高精細3次元映像技術  ー「人の視覚に迫る」を目指してー 荒川 佳樹

人工知能と人工視覚

21世紀における人類の夢の1つは「人工知能」です。その中核となるのが、「人工視覚」の実現です。そして、この人工視覚を実現する第一歩として、「人の視力」に迫る「超高精細3次元映像(画像)技術」を研究開発し完成することがまず重要であると考えています。

4K超高精細映像技術

1997年から、HDTV(ハイビジョン)を超える超高精細映像技術とその伝送技術の研究開発に取り組んできました。NICTと日本ビクター株式会社(現JVC・ケンウッド・ホールディングス株式会社、以下、JVCと呼ぶ)は共同研究を行い、HDTVの4倍の解像度である800万画素(水平3,840×垂直2,048画素)を実現した基盤技術である4K超高精細映像プロジェクタ(2001年、図1左)および4K超高精細カラー動画像カメラ(2002年、図1右)を、いずれも世界に先駆けて完成しました。

図1●4Kプロジェクタと4Kカメラ(どちらも世界1号機)

現行のハイビジョン映像は、水平1,920×垂直1,080画素です。このHD映像の4倍(4画面分)である3,840×2,048または2,160画素を持つ映像を、水平解像度が3,840≒4K画素であることから、4K2K映像または4K映像と呼んでいます。

4K超高精細ロボットビジョン

また、ネットワークを介して分身を実現する分身通信(身体性拡張通信、遠隔操作通信)に関する研究開発を行ってきました。図2に示すように、人の手が持つ機能に近い触覚付き5本指ハンドを開発し、「分身ロボット」のプロトタイプを2003年に完成しました。

一方、JVCは、4Kカメラを当初(図1右)と比べて、体積比および重量比で約1/20に小型化・軽量化することに成功しました。図2上部に示すように、2005年に、この小型4Kカメラを、分身ロボットシステムの頭部に、ロボットの眼として搭載しました。すなわち、人の視力に一段と迫るロボットビジョンを実現しました。図3に示すように、この4Kロボットビジョンの超高精細映像を用いて、分身ロボットを高臨場遠隔操作できるようになりました。

図2●分身ロボットと4Kロボットビジョン
図3●4Kロボットビジョンの撮影映像(3D操作グローブで遠隔操作)

4K3D超高精細3次元映像技術

2010年には、図4に示すように、NICTとJVCは共同で、2台の小型4Kカメラを用いて、4K3D超高精細3次元映像カメラシステムの開発に成功しました。カメラを極薄型化することにより、人の眼の間隔65mmにかなり近いカメラ間隔70mmを実現しました。これにより、眼に自然な3D映像を撮影することができるようになりました。

マルチチャンネル映像伝送システム

現在、並列PCで構成されるマルチチャンネル映像伝送シスム(ソフトウエアコーデック)を研究開発しています。この伝送システムは、図4に示すように、HD映像を1対のPC(1チャンネル)でエンコード/デコードし伝送することができます。各チャンネル間は同期して映像伝送をすることができますので、8チャンネルを用いることにより、4K3D映像を同期伝送することができます。このシステムでは、超マルチチャンネル同期映像伝送を実現したことにより、数百視点を有する裸眼(メガネなし)3D映像を伝送することも可能です。

図4●JGN2plusを用いた4K3Dライブ映像伝送

4K3D-JGN2plus伝送実験に成功(世界初)

このマルチチャンネル映像伝送システムを用いて、4K3D超高精細3次元映像のライブ伝送に世界に先駆けて成功しました。2010年7月6日(火)に、図4に示すように、NICT鹿島宇宙技術センターとけいはんな研究所をJGN2plusで接続し、マルチチャンネル映像伝送システム8チャンネルを用いて、4K3Dのライブ映像を伝送上映することに成功しました。

4K3D-WINDS伝送実験に成功(世界初)

さらに、2010年11月2日(火)には、このマルチチャンネル映像伝送システムと超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS、非再生中継モード400Mbps)を用いて、4K3D映像のライブ伝送にも成功しました。図5に示すように、奈良平城遷都1300年祭会場に設置されたWINDS車載局→WINDS→NICT鹿島宇宙技術センター→JGN2plus→けいはんな研究所の経路でライブ映像伝送することに成功しました。

11月4~6日に開催された「けいはんな情報通信研究フェア」では、この実験の様子を一般に公開し、奈良平城宮跡に復原された大極殿の臨場感あふれるライブ3D映像を体感いただきました。

図5● WINDSを用いた4K3Dライブ映像伝送

謝辞

4K映像技術の研究開発は、磯貝光雄氏、鈴木健治氏、田中健二氏、掛谷英紀氏(現筑波大学)の各位と取り組んできました。あらためて感謝の意を表します。

4K3D映像技術の成果の一部は、総務省委託研究「眼鏡の要らない3次元映像技術の研究開発-3次元映像支援技術-」に基づいています。関係各位に感謝の意を表します。

4K3D伝送実験は、JGN2plusおよびWINDS関係各位と共同で実施しました。厚く感謝の意を表します。

荒川 佳樹
荒川 佳樹(あらかわ よしき)
ユニバーサルメディア研究センター 推進室 主任研究員
1980年早稲田大学大学院理工学研究科機械工学修了。同年松下電器産業(株)入社。1990年郵政省通信総合研究所(現NICT)入所。2003年ATR知能ロボティクス研究所主幹研究員。現在ユニバーサルメディア研究センター推進室主任研究員。幾何情報・画像・映像の研究に従事。工学博士。2001年注目発明大臣表彰。
独立行政法人
情報通信研究機構
総合企画部 広報室
Copyright: National Institute of Information and Communications Technology. All Rights Reserved.
NICT ホームページ 前のページ 次のページ 前のページ 次のページ