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未来ICT研究所 量子、ナノテクノロジー、バイオ等の研究を通じて先端技術を確立し、社会に還元する 大岩和弘

数多くの研究実績を持つ5つの研究室(超高周波ICT、量子ICT、ナノICT、バイオICT、脳情報通信)が集結した未来ICT研究所は、情報通信技術のブレークスルーにつながる技術シーズを作り出し、芽吹かせ、社会展開可能な苗木まで一貫して育てることができる研究所となります。ビジネス戦略論*には「偉大な企業への飛躍は、(中略)巨大で重いはずみ車を1方向に回すのに似ている。始めはわずかだが、ひたすら回し続けていると少しずつ勢いがつき、やがて突破段階に入る」とあります。これは研究開発に置き換えて読むこともできます。基礎的研究から始めた場合、社会還元という成果はすぐには挙がりませんが、長い期間をかけて育てた研究開発の実力は、組織に競争優位をもたらし、変化に追従するポテンシャルをも賦与します。未来ICT研究所で現在展開されているのは、フォトニックデバイスラボラトリーを擁して社会展開を推進している超高周波技術の研究開発と、量子暗号通信の長期試験運用を開始した東京QKDネットワークです。今中期計画では、これらの牽引によって更に多くの技術を社会に送り出すことを目指します。

光と電磁波の境界であり未開拓周波数領域であるテラヘルツ帯の研究開発において、超高周波ICT研究室は、現在、我が国における先導的研究の一翼を担っています。低雑音・高感度NbN-SIS・HEB電磁波受信機、地球環境計測用超伝導サブミリ波リム放射サウンダ、テラヘルツ波非破壊検査などのNICT内のテラヘルツ研究と有機的に連携することで、テラヘルツ領域の利用技術の更なる展開を図ります。

量子ICT研究室では現在の情報通信技術の限界に挑戦する大容量の情報通信を可能にする量子情報通信の研究開発に加えて、量子暗号通信技術の研究開発を進めています。量子暗号通信で動画も送れる「東京QKDネットワーク」の長期試験運用では、量子ICT研究室がAll Japanのリーダーシップを取っています。この量子暗号通信には、光子の到達を検出するための高感度で高速の単一光子検出器が必須ですが、デバイス開発からシステム構築までを行って、従来のアバランシェフォトダイオードの性能を凌駕する世界最高のシステム性能を誇る単一光子検出システム(SSPD)を作り上げてきたのは、ナノICT研究室です。このように、量子暗号通信の研究開発は、独自のデバイス開発からシステム構築、さらに運用まで一貫して実施されており、当研究所の旗艦的役割を担っていきます。

またナノICT研究室では、高速駆動でありながら消費エネルギーを大きく抑制できる有機分子EO材料の開発にも成功しています。所内連携や企業連携を強化することで有機EOデバイスの構築に乗り出します。また、有機材料とフォトニック結晶のハイブリッドによって構築したデバイスでは、スローライトの発生を確認しています。超伝導研究では、単一磁束量子デバイスの開発を進めつつあり、低消費エネルギーの光バッファーや光メモリーなどの開発につながる萌芽的成果が挙がってきています。

トップクラスの国際誌に掲載された研究成果の数々は、バイオICT研究室の存在を輝かせてきました。細胞生物学・生物物理学分野での重要な成果を発信し続けてきた同研究室は、この研究に磨きをかけるとともに、応用に向けた研究開発を始めます。ナノICT研究室との連携により、分子通信の研究資産を活かしたセンサー、信号処理の研究展開を図ります。

また、脳情報通信研究室では、将来、ICT分野で重要な位置を占める脳機能研究について、情報通信技術との融合を目指した研究を推進します。情報の受け手や送り手の主体が人間の脳であると考えるとき、より正確に情報を伝え、人間同士のコミュニケーションを快適かつ効率的に行うために脳における情報処理を知ることが大事です。非侵襲計測法に特徴を持つこの研究室は、機能的磁気共鳴画像法や脳磁場計測装置を駆使してコミュニケーション技術の視点から脳機能研究を進めるユニークな存在です。脳に関する研究開発は長期にわたるものですが、情報通信技術分野においてはNICTが中心となってすすめるべき研究と位置付けています。

私ども未来ICT研究所は、これまで蓄積した研究開発ポテンシャルの高さを活かして、社会還元を目指した第3期中期計画の実施と目標達成に向けて進み出します。

* ビジョナリー・カンパニー② ジェームズ・コリンズ、山岡洋一(訳) 日経BP

最先端ICT分野における萌芽的研究から実用化研究開発まで
大岩和弘
大岩 和弘(おおいわ かずひろ)
東京大学大学院博士課程修了後、帝京大学医学部講師を経て1993年通信総合研究所(現NICT)に入所。以来タンパク質モータの単一分子計測や構造解析と分子通信技術の研究開発に従事。兵庫県立大学連携大学院教授。博士(理学)。第23回大阪科学賞。
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