NICT NEWS
スマートメータ用無線機が実用化フェーズへ - 国際標準規格準拠の省電力無線機の開発 - ワイヤレスネットワーク研究所 スマートワイヤレス研究室 主任研究員 児島 史秀

スマートメータ用無線の利用イメージと普及化動向

近年、一般家庭やビル等、建物内の電気・ガス・水道のメータを制御することで、エネルギー使用量をできるだけ抑え、人にも自然にも優しい環境づくりの動きが進んでいます。このように省エネルギーへの関心が高まる中、各種メータの自動検針・状況監視・動作制御を、無線技術を用いて効果的に行うスマートメータの研究開発が急務とされていました。

図1に、スマートメータ用無線の利用イメージを示します。各家庭に設置された電気・ガス・水道メータとして、無線機能を有するスマートメータが適用され、集合住宅や、戸建の住宅区画に相当するサービスエリア内で検針データが自動的に収集制御局へと収集され、一方で収集制御局から各メータへの制御も行う利用例を示しています。このような利用イメージにおいて、スマートメータ同士の多段中継によるマルチホップ通信機能と、省電力動作機能が、主な技術要素として考えられています。スマートメータの有するマルチホップ通信機能は、通信距離を確保し遮蔽等による電波不感地帯を解消することに有効であり、さらにスマートメータの省電力動作機能は、電池駆動で約10年の継続動作を実現し、電池交換のコストを低減することができます。

図1●スマートメータ用無線の利用イメージ
図1●スマートメータ用無線の利用イメージ

スマートメータ用途の無線周波数帯としては、当初、電子タグシステム等と同様に、950MHz帯の割当てが想定されていました。しかし、欧米の動向への協調、国際競争力の強化といった目的から、昨年、総務省は、新たに920MHz帯の割当てを検討し、告示を出しました。これに伴い、スマートメータ用無線の国際標準化を進める米国IEEE802委員会に対し、NICTが当該周波数帯の明確な仕様に関する追加提案を出した結果、本委員会は日本国内におけるスマートメータ用920MHz帯の割当てを含めたドラフト最終版(2012年3月に標準化完了)をまとめるに至りました。本年1月には、世界初のスマートメータ用無線の規格認証団体も設立されているという状況を鑑みても、国際標準規格ドラフトの最終版に準拠するスマートメータ用無線機の早急な実用化が求められていましたが、無線機の開発例はありませんでした。

スマートメータ用無線機の研究開発

このような状況で実用化が急がれる中、NICTは、IEEE 802国際標準規格ドラフトの最終版に準拠した無線機を開発しました。図2に無線機の外観および内部モジュールの一部を、表1に諸元をそれぞれ示します。この無線機は、これまでNICTがIEEE802委員会に提案してきた無線の通信方式を具備し、新たな国内スマートメータ用無線周波数帯920MHz帯に対応するもので、小型化かつ省電力化の実装に成功したものです。さらに、本無線機は、技術基準適合証明を取得しており、国内いずれの地域でも直ちに実運用が可能です。

図2●開発されたスマートメータ用無線機
図2●開発されたスマートメータ用無線機

表1●本無線機の諸元
サイズ82 mm×70 mm×35 mm(アンテナ部を除く)
周波数帯926.3~927.9MHz
送信電力20mW
変調方式2GFSK
伝送速度50k、100k、200kbps
PHYペイロード最大長2047オクテット
アクセス制御方式アクティブ区間におけるCSMA/CA
ルーティング方式ツリー構造に基づく、各ノードから根までの単方向ルーティング

本無線機の特長は、電源投入時にマルチホップ通信によるメータ間のデータ収集・配信経路を自動的に構築できること、そして、通信待ち受けやデータ送受信の動作を無線機間でタイミングを合わせ、間欠的に行えることです。これにより、連続的な動作と比べ、稼働時間割合が1/100以下となる間欠的な動作によってさらに省電力化を実現し、電池駆動による約10年の動作が可能です。さらに、将来的に各種メータやセンサとの接続動作させる場合を想定し、拡張が容易なインターフェースを実装していることも、この無線機の新たな特長です。

図3に本無線機のアクセス制御を示します。通信同期のためのビーコン信号は通常休止状態にあり、同期が必要な場合にのみオンデマンドで送信されます。また、周期的にアクティブ期間とスリープ期間を規定し、各無線機によるデータフレームの送受信の開始、および通信待ち受けはアクティブ期間においてのみ行われ、スリープ期間ではアクティブ期間から継続するデータフレーム送受信を除いてスリープ状態に入るため、消費電力の低減が可能です。さらに本無線機は、図3のように電源投入後、各無線機がツリー状構造の中継経路を自動的に確立し、上記の通信同期を行いながら収集制御局へと効率的にデータを収集することができます。

図3●本無線機のアクセス制御方式
図3●本無線機のアクセス制御方式(図をクリックすると大きな図を表示します。)

今後の展開

今後も、規格認証団体による支援のもと、IEEE802国際標準規格に基づいたスマートメータ用無線の国内外での普及を促進し、ICTを利用した安心・安全な社会の実現を目指します。

児島 史秀 児島 史秀(こじま ふみひで)
ワイヤレスネットワーク研究所 スマートワイヤレス研究室 主任研究員

1999年、大学院博士後期課程修了。同年、郵政省通信総合研究所 (現NICT) に入所。 以来、384kbps高速PHS、低レート動画像リアルタイム伝送、ROFマルチサービス路車間通信、VHF帯自営用移動通信の研究開発に従事した。現在、スマートユーティリティネットワークにおけるPHY/MAC技術に関する研究開発、および標準化推進活動に従事。博士 (工学)。
独立行政法人
情報通信研究機構
広報部 mail
Copyright(c)National Institute of Information and Communications Technology. All Rights Reserved.
NICT ホームページ 前のページ 次のページ 前のページ 次のページ