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ホワイトスペースを用いた無線LANシステムの実証実験に成功 - 国際標準暫定規格“IEEE802.11af Draft 2.0”に世界で初めて準拠 - ワイヤレスネットワーク研究所 スマートワイヤレス研究室 研究員 水谷 圭一/ワイヤレスネットワーク研究所 スマートワイヤレス研究室 研究員 藍 洲/ワイヤレスネットワーク研究所 スマートワイヤレス研究室 室長 原田 博司

爆発的に増加する無線トラヒックとTVホワイトスペース

誰もが高機能携帯電話(スマートフォン)やノート型パソコン、タブレット端末を持つ時代となり、その通信量は数年前に比べ爆発的に増加しています。しかし、これら無線機が通信を行うために使用できる周波数資源は限られています。このままでは通信量の増加に対応できず、無線障害が頻発する事態が予想されます。そこで限りある無線周波数を有効に活用し、新たに利用可能な周波数を拡大することができる技術開発が急務となっています。

これに対応するために、現在、私たちは、「ホワイトスペース」を利用した無線通信システムの研究開発を行っています。現在、各周波数帯には、放送や通信など特定の目的を持った利用者が割り当てられています(これを一次利用者と呼びます)。しかし図1のように、地理的条件や時間的条件によっては、他の目的に利用しても一次利用者の通信に影響を与えない場合があります。この様な周波数を一次利用者以外の他の利用者(これを二次利用者と呼びます。)に利用させることができるようにするのがこの新しい通信システムの特徴です。特にテレビ周波数帯におけるホワイトスペースを「TVホワイトスペース」と呼び、現在、米国FCCや英国Ofcom等の規制当局をはじめ、日本でも総務省ホワイトスペース推進会議などにおいて「TVホワイトスペースを利用した無線通信システム」の実現に向け、その技術の検討等が行われています。一方で、既に様々なホワイトスペースにおける無線通信システムの国際標準化活動が進行しています。中でも、NICTが技術提案を行いリードしている標準規格団体IEEE802.11afグループでは、ホワイトスペースにおける無線LAN向けの最新暫定規格(IEEE802.11af Draft 2.0)を発行し、物理(PHY)層とメディアアクセス制御(MAC)層の仕様を定めています。

図1●ホワイトスペースのイメージ
図1●ホワイトスペースのイメージ(図をクリックすると大きな図を表示します。) 本図では例として、一次利用者XおよびYがそれぞれ周波数チャネル#Aと#Dを用いてサービスを提供しており、図中の赤色および青色の点線枠は各国・各システムの一次利用者保護基準によって計算される、一次利用者の通信を妨害してはならないエリアを示しています。例えばA地点では、本来一次利用者に割り当てられている周波数チャネル#A~#Dのうち、#B~#Dは一次利用者が地理的・時間的に使用していないチャネル(ホワイトスペース)であるため、二次利用者が他の目的に利用しても一次利用者に影響を与えません。

開発したアクセスポイント

NICTは今回、IEEE802.11af Draft 2.0に準拠した「PHY層」および「MAC層」を搭載した、無線LANシステムの「アクセスポイント」を世界で初めて開発し、NICTが以前開発したホワイトスペースデータベースに接続し、テレビ放送周波数帯(470MHz~710MHz)において、一次利用者に影響を与えない周波数が自動的に選択され、無線通信を開始できることを実証しました。ここで一次利用者に影響を与えない周波数とは、各国における一次利用者への干渉および混信保護基準に基づいてホワイトスペースデータベースが算出する周波数を指します。現在、米国FCCや英国Ofcomではその計算基準を定める法令が整備されつつありますが、日本ではこれから具体的な検討が行われる予定です。

今回開発したアクセスポイントの概観と主な技術仕様を、図2および表1にそれぞれ示します。今回新たに開発したIEEE802.11af Draft 2.0に準拠したPHYの他に、2.4GHz帯および5GHz帯で動作する従来の無線LANであるIEEE802.11a/b/g/nのデータ通信デバイスを搭載しています。なおUSB接続により、LTE、WiMAX、PHSのようなデータ通信デバイスを接続して、インターネットへの接続手段とすることができます。

図2●今回開発したアクセスポイントの概観
図2●今回開発したアクセスポイントの概観

表1●アクセスポイントの仕様(UHF帯)
項目 仕様
周波数帯域 470-710MHz
通信帯域幅 6MHz
最大送信出力 20dBm
アンテナ利得 0dBi
物理層方式 OFDM(IEEE802.11af Draft 2.0, non_HT_duplicated mode)
MAC層方式 IEEE802.11af Draft 2.0準拠

さらに今回開発したアクセスポイントには、IEEE802.11af Draft 2.0に準拠したMACが実装されています。複数の端末がアクセスポイントと通信を行う際、各端末が同じチャネルを用いると、お互いに干渉を与えてしまいます(同一チャネル干渉)。結果として、図3(a)に示すように双方の通信品質が著しく劣化します。そこでIEEE802.11af Draft 2.0では、RLSS(Registered Location Secure Server)という端末間の干渉を防ぐためのローカルサーバを用いて、各端末間で同一チャネル干渉が起きないように別のチャネルで動作させることにより、図3(b)に示すように、双方の通信品質劣化を防ぐことができます。

図3●RLSSによるチャネルマネジメント(同一チャネル干渉回避)の様子
図3●RLSSによるチャネルマネジメント(同一チャネル干渉回避)の様子(a)では、端末同士が同じチャネルを選択した結果、互いに干渉を与えてしまい、通信品質が劣化します。(b)では、IEEE802.11af Draft 2.0 MACが動作し、それぞれの端末にはRLSSにより別のチャネルが割り当てられるため、干渉が起きません。

今後の展望

NICTは、2014年度に策定完了を予定しているIEEE802.11afタスクグループにおいて、引き続き国際標準化活動を推進していくとともに、無線機の小型化・省電力化を検討し、技術移転を積極的に進めていきます。また、現在総務省で検討が進められているホワイトスペース推進会議での議論の進展等に合わせて、IEEE802.11afの適切な仕様変更等を提案していく予定です。

用語解説

* ホワイトスペースデータベース
ホワイトスペースデータベースとは、ホワイトスペースとして二次利用者が利用可能な周波数を、一次利用者の情報(送信所の場所、周波数、送信電力等)や地形情報等を考慮し、一定の計算基準に基づいて選択して、その結果を二次利用者からの問い合わせに対して返答する装置又は機能を指します。日本においては、干渉および混信計算基準や、二次利用者の運用情報の取扱いについても、これから議論がなされていくものとみられます。

水谷 圭一 水谷 圭一(みずたに けいいち)
ワイヤレスネットワーク研究所 スマートワイヤレス研究室 研究員

大学院博士課程修了後、2012年にNICT入所。コグニティブ無線、ソフトウェア無線、ホワイトスペースに関する研究開発、標準化に従事。博士(工学)。
藍 洲 藍 洲(らん ぞう)
ワイヤレスネットワーク研究所 スマートワイヤレス研究室 研究員

大学院博士課程修了後、2005年にNICT入所。ミリ波無線、コグニティブ無線、ソフトウェア無線、ホワイトスペースに関する研究開発、標準化に従事。博士(工学)。
原田 博司 原田 博司(はらだ ひろし)
ワイヤレスネットワーク研究所 スマートワイヤレス研究室 室長

大学院博士課程修了後、1995年に郵政省電波研究所(現NICT)入所。コグニティブ無線、ソフトウェア無線に関する研究開発、標準化に従事。博士(工学)。
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