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研究現場訪問(鹿島宇宙技術センター)

1960年に電波研究所(現NICT)は、鹿島(茨城県)において直径30mのパラボラアンテナの建設に着手し、1964年5月に鹿島支所を開設し、その年の10月には東京オリンピックの国際衛星テレビ中継に成功しました。
このような歴史のある鹿島宇宙技術センターにおける現在の研究を紹介します。

(取材: 株式会社フルフィル)

次世代時空計測技術

超小型VLBIシステムを構成する、直径1.6mアンテナ(左)と直径34mパラボラアンテナ(右)

―直径34mのパラボラアンテナを目の当たりにすると圧倒されますね。このアンテナを用いて原子時計の周波数差を計測しているそうですが。

科学技術において欠かせない基本的な物理パラメータと言えば、位置座標と時間です。電波星から放射される電波の波形を複数のアンテナで精密に測定することにより、観測地点間の距離や観測に用いた時計のずれを正確に計測できる技術がVLBI(Very Long Baseline Interferometry: 超長基線電波干渉法)です。

我々は、各国の標準研究機関で開発されている次世代の周波数標準器の周波数を比較するため、VLBIを利用した超小型観測システムの開発を進めています。

―NICT電磁波計測研究所 時空標準研究室の関戸衛副室長は続けてこう語ります。

VLBIでは、距離や観測に用いた時計のずれの計測精度は、電波星からの電波の波形をいかに高精度に観測するかに依存します。具体的には、異なる2つの観測地点で使用するパラボラアンテナの直径の積と観測周波数幅などによって、電波の波形の観測感度が決まります。小型アンテナ同士の場合、S/N比が不十分ですが、大型アンテナと小型アンテナを組み合わせて観測することでS/N比を向上させることができます。

―超小型VLBIシステムとは具体的にどのようなものでしょうか。

鹿島の34mパラボラアンテナと、鹿島の1.6mアンテナおよびNICT本部(東京都小金井市)の1.5mアンテナとを組み合わせて観測を行い、両者の観測量の差分をとると、小型アンテナ間の観測に使用している原子時計の周波数差を求めることができます。

これら3つのアンテナでの同時観測は、直径7mのパラボラアンテナの組み合わせに相当しますが、より高精度の測定を実現するため、観測周波数の広帯域化を行っています。VLBIの対象観測帯域3~14GHzの中から、1GHz×4バンド×2偏波の観測が可能となるよう改修を行うことで、従来比で5.6倍にS/N比を向上させることを目指しています。これは直径17mアンテナの組み合わせに相当します。

超小型VLBIシステムによる周波数比較観測の概念図
超小型VLBIシステムによる周波数比較観測の概念図

―今後の展望をお聞かせください。

超小型VLBIシステムを活用して、海外の原子時計開発機関と連携して国際基線長での原子時計の周波数比較を行い、より高精度な時間の測定につなげていきたいと考えています。

関戸 衛 関戸 衛(せきど まもる)
電磁波計測研究所
時空標準研究室 副室長
独立行政法人
情報通信研究機構
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