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“脳”から始まる人に優しい情報通信を目指して -脳情報通信融合研究センター(CiNet)の研究概要- 脳情報通信融合研究センター 統括 柏岡 秀紀

CiNetの開設

NICTと大阪大学は、「脳情報通信分野における融合研究に関する基本協定」(平成21年1月7日締結)の下、2013年3月6日に脳情報通信融合分野の研究活動の中心となる「脳情報通信融合研究センター(CiNet: シーネット)」の開所式をセンターが位置する大阪大学吹田キャンパス(大阪府吹田市)で開催しました。CiNetでは、NICT、大阪大学、ATR等による脳情報通信分野における基礎から応用展開までの研究開発を行い、「脳の機能に学んだ新世代のネットワーク」や「人間や地球に優しい技術」の実現を目指して革新的な情報通信技術の実現を目指します。

開所式では、小笠原倫明総務省事務次官、森本浩一文部科学省大臣官房審議官の他、大学、研究機関、産業界から総勢79名のご臨席を賜り、宮原秀夫前NICT理事長と平野俊夫大阪大学総長の主催者挨拶に続き、小笠原総務省事務次官と森本文部科学省大臣官房審議官からCiNetの研究が日本の発展に大いに貢献することを期待している旨のご祝辞を賜りました。その後、柳田敏雄研究センター長からCiNetの研究方針、概要について説明がありました。最後にファンファーレとともにテープカットが行われ、CiNetが開所されました(図1)。

図1 テープカットの様子
図1 テープカットの様子
(左から柳田研究センター長、森本文部科学省大臣官房審議官、平野大阪大学総長、宮原前NICT理事長、小笠原総務省事務次官、平田ATR社長)

CiNetの研究課題

CiNetでは、4つの融合領域(図2)を設定し、それぞれの分野が目標に向かって研究を推進します。これらの融合領域は、互いに他を巻き込みながら、さらに大きく発展融合することで、新たな情報通信の実現を目指します。

●HHS(Heart to Heart Science)

【こころとこころをつなぐ科学】

脳は、情報の受け手であり送り手でもあるコミュニケーションの中枢で、意識下で膨大な情報処理を行っています。脳が視覚や聴覚の様々な情報をどのように処理しているかについて、脳の状態を客観的・定量的に捉えることで、「量を重視」した情報通信から「質を重視」する情報通信の実現を目指し、言葉の理解や情報の把握をサポートする技術の研究開発を行います。

●BFI(Brain-Function installed Information)Network

【脳に学ぶ情報ネットワーク技術】

極めて複雑な組織体である人体を、様々な環境の中で制御している脳のネットワーク機能をまねることにより、爆発的に増大するトラフィックニーズに対応でき、拡張性、頑強性、自律性、環境適応性、自己修復性等に優れ、かつ、極めて低エネルギー消費の新世代のネットワークの実現に寄与します。

●BMI(Brain-Machine Interface)Technology

【こころを機械に伝える技術】

情報の送り手である脳の働きから伝えたい情報を読み解き、機械に伝えるインタフェース技術の開発と、伝えたい情報を効率よく脳に伝達するインタフェース技術の開発を行います。

これにより、高齢化などによる運動、言語、認知、感覚機能など脳機能の低下による生活への障害に対して、脳情報を活用した新たなリハビリ技術を開発し、クオリティオブライフの大幅な向上を目指します。

●計測基盤技術

【脳情報通信の基盤技術としての先端脳機能計測技術開発】

各種非侵襲脳機能計測装置の機能向上や、これらを用いた統合解析手法の開発、新たな原理に基づく測定手法の開発を行い、脳機能の解明をサポートするとともに、その知見を新たな情報通信へと展開するための基盤技術を形成します。

高機能・高精度化については、時空間分解能の向上とともに、リアルタイム計測、Single-Trial計測(1回の測定試行による測定)など実用的な計測技術の実現が期待されています。まず3テスラ磁気共鳴画像装置(3T-MRI)により脳の活動を解析し、興味深い活動をしている部位を選んだ後、今回導入された7T-MRIを利用し、脳機能の最小単位といわれるコラムの精細な解析の実現を目指します。

図2 CiNetの4つの融合領域
図2 CiNetの4つの融合領域(図をクリックすると大きな図を表示します。)

CiNetの設備

CiNetでは、日本で3台目となる7T-MRIのほか、最新鋭の3T-MRI、チャンネル数が極めて多い脳磁場計測装置(MEG)等、最先端の計測装置が稼働し、世界屈指の研究環境を整備します。具体的には、大阪大学吹田キャンパス内に7T-MRI、3T-MRI、MEG、また未来ICT研究所のある神戸市西区岩岡町に、3T-MRI、1.5T-MRI、MEGの合計6台の脳計測装置を有しています。MRIでは、神経活動に伴う細胞の血行動態の変化等が検出可能となります。7T(テスラ)という超高磁場を利用したMRIは、極めて高い空間分解能を有し、神経活動の検出が行えるほか、脳内の神経活動に関連する物質の濃度変化等の計測も可能で、脳の理解を加速します。MEGでは、高感度の磁気センサーである超伝導量子干渉素子(SQUID)を頭のまわりに多数配置し、神経活動に伴って発生する微弱な磁界を計測することにより、高い時間分解能(ms単位)で脳活動を計測することができます。

図3 CiNet 大型計測装置
図3 CiNet 大型計測装置

今後の展望

CiNetでは、脳科学と情報通信技術を融合し、人間や地球に優しいコミュニケーション技術の実現を目指し、研究開発を推進していきます。これまでに、実利用に適した脳波計の開発や、脳内の情報を抽出・利用することで、低下した運動・コミュニケーション機能のリハビリをする技術の開発を推し進めてきました。研究センターの開所により整備される最新鋭の計測機器を用いた新たな計測手法の研究、脳の情報処理・制御機構の解明を目指すとともに、現実世界で応用するためのシステム構築を視野に入れ、研究開発を行います。脳の仕組みを利用した情報処理、機器への情報伝達をする技術、また、計測素子の小型化・高性能化、処理の高速化を行い、情報通信技術のイノベーション創出を目指します。さらに、研究領域の融合だけでなく、産学官の研究者が活発に交流することによる人材育成や国際的な研究者の交流に努め、次世代の中核技術となるコミュニケーション技術の実現を目指します。

柏岡 秀紀 柏岡 秀紀(かしおか ひでき)
脳情報通信融合研究センター 統括

1993年大学院博士課程修了。博士(工学)。同年ATR入社。2006年よりNICTに所属。総合企画部プランニングマネージャー、音声コミュニケーション研究室 室長を経て2013年より、脳情報通信融合研究室 室長。主に自然言語処理、音声言語処理の研究に従事。脳科学と音声言語処理の融合を目指す。
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