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無線機器の型式検定業務 電磁波計測研究所 電磁環境研究室 主幹 宮澤 義幸

型式検定とは

型式検定は、国際海事機構(IMO)や国際民間航空機関(ICAO)などの国際条約に基づいて、人命安全や救難システムに用いる無線機器が遭難時の厳しい環境下でも国際的に定められた能力を発揮できるか否かを判別する試験です。NICTは、2001年4月の独立行政法人化以後も、総務省との請負契約事業として型式検定試験を実施しています。

型式検定の歴史

1935年(昭和10年)の「型式検定制度の制定」に伴い、当時の逓信省電気試験所(現NICT)で無線機器型式検定が始められました。今回はこの無線機器の型式検定についてご紹介します。

英国の豪華客船タイタニック号が氷山と衝突し、1,500名を超える犠牲者を出した惨劇は1912年(明治45年)のことでした。タイタニック号の遭難を機に1914年(大正3年)に「海上における人命安全条約(SOLAS条約)」が成立し、1929年(昭和4年)の改正を経て、1933年(昭和8年)に発効しました。この改正により遭難局の方向を探す無線方位測定機と遭難信号を受信する警急自動受信機の船舶への搭載義務が決定されました。

逓信省(当時)ではこれを受けて、1935年(昭和10年)「無線方位測定機及び警急自動受信機型式試験規則」を定め、試験をして技術基準に合致しているかを確認する無線機器型式検定が始まりました。

型式検定は当初、人命安全に関するものしかありませんでしたが、戦後施行された電波法無線機器型式検定規則では、義務機種として「電波監理上必要な機器」の追加、及び任意機種として「無線局開設手続き等の簡略化に資する機器」が追加されました。

当初すべての機器を郵政省電波研究所(現NICT)において試験をしていましたが、電波の利用が進むとともに、任意検定機種の申請が増加したため、1978年に指定試験機関として設立された「無線設備検査検定協会(現テレコムエンジニアリングセンター)」が、任意検定機種の試験を実施し、電波研究所では試験結果の認証をするスキームが導入されました。その後1999年に任意検定制度は技術基準適合証明制度に統一され、多様な試験方法として書面申請制度が導入されました。

現在は40種の無線機器が検定対象となっていますが、必ずしもすべての機種が毎年申請されるわけではありません。しかし、NICTでは申請があった際にはスムーズに検定試験が行えるよう、試験装置の維持管理に努めています。

野外や船上での試験

型式検定試験には温度や湿度、衝撃などの実際に機器が使用される船舶や航空機の環境においても破損や性能の低下が無いかを調べる「環境試験」と電力や周波数、プロトコルなど規定の能力があるかを調べる「性能試験」があります。

NICTには落下試験用プールと鉄塔で構成される20m落下試験装置があります(図1)。これらは海上で使用する機器に対する環境試験(JIS F0812: IEC60945)のうち、海に浮かぶ機能を持った機器を対象に、船舶から水中に落下しても機器が破損しないことを確認したり、規定の深さに沈めた場合に自動的に浮き上がり、正常に動作することを確認するためのものです。落下の衝撃を加えた後、性能試験装置や温湿度試験装置を用いて様々な試験を行います。

また、毎年最も申請の多い船舶用レーダーは、2008年に技術基準が大幅改正され、国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)の規定改正及び推奨試験法の導入を受け、従来の送信機と測定機を導波管で接続する測定法ではなく、実際にアンテナから輻射した不要波を測定することとなりました。さらに、IEC62388では様々な条件の対象物(崖や小島、航路ブイ等)を実測する物標探知能力試験の強化が加わりました。

この結果、ITU-Rの推奨試験法によるスプリアス測定では、測定誤差を少なくするため、測定するアンテナの遠方界距離(200~500m)の測定場所が必要となりました。NICTの敷地内ではそれだけの場所を確保することはできず、条件に見合う場所を全国各地調査しましたが、恒常的な測定場所を確保することはできませんでした。そこで、小規模航空機離着陸場の一時使用について検討し、福島市農道離着陸場(図2)を使用することとしました。しかし一時使用の条件として離着陸の優先事項があるため、飛行機の離着陸時には測定を中断しなければならず、その都度、再測定のための準備を一からやり直す必要がありました。また、猿などの野生動物による測定機器の破損などもあり、1台あたり通常3日程度の測定が2週間以上かかることになりました。さらに東日本大震災により滑走路の一部にひび割れが生じたことや滑走路の除染作業が継続的に行われているため、本離着陸場の一時使用が困難となりました。そこで現在は、北海道の大樹町多目的航空公園の滑走路を利用していますが、この滑走路は宇宙航空研究開発機構(JAXA)が通年的に実験を行っているため、暫定的な使用しかできず、恒常的な測定場所の確保が大きな課題となっています。

図1 20m落下鉄塔
図1 20m落下鉄塔

図2 福島市農道離着陸場
図2 福島市農道離着陸場

国際標準化への対応と今後の課題

一方、物標探知能力試験ではアンテナ高15m、風速10m/s以上の状況において、対象物が「80%以上の確率で探知」できるかについて陸上及び船上から確認する必要があり、日本海側を中心に調査した結果を踏まえ、2010年2月に総務省が新潟県上越市の町有地に試験用鉄塔を設置しました(図3)。

NICTでは2011年2月に被測定用の遠距離ブイを設置し、試験を開始しましたが、厳しい自然環境のため、ブイの支柱の破損等が続き、陸上からの試験がなかなか思うようにできず、チャーターした船による海上からの試験ですべて対応せざるを得ない状況が続いています(図4)。そのため、早期に陸上から安定して試験を行うことができるシステムの構築が必要とされています。

NICTでは型式検定試験の実施だけではなく、将来の型式検定の対象となる機器や測定精度向上に資するため、技術基準の策定や国際標準化活動を実施しています。特にレーダーの不要輻射測定ではITU-R会議に積極的に参加し、米国の情報通信局(NTIA)測定グループと共同実験を行って寄与文書を作成するなど、無線機器検定にかかる国際標準化活動にも積極的に参加しています。

型式検定では、日々向上している機器の機能も確認する必要があることから、確認するための試験方法や機器等の研究開発を行っていくことが求められます。また、確認のための様々なノウハウの継承・要員確保も大きな課題となっています。

NICTでは、国民の生命の安全、財産の保全及び電波利用秩序の維持に重要な役割を果たしている型式検定業務をとおして、豊かで安心・安全な国民生活の実現に貢献していきたいと思います。

図3 新潟の試験用鉄塔
図3 新潟の試験用鉄塔

図4 船上試験風景
図4 船上試験風景

●型式検定業務担当者
●型式検定業務担当者
(左から川原昌利、塩田貞明、姉川久美子、宮澤義幸)

宮澤 義幸 宮澤 義幸(みやざわ よしゆき)
電磁波計測研究所 電磁環境研究室 主幹

1978年、電波研究所(現NICT)に入所し、企画部でプロジェクト管理に従事。1984年に通信機器部機器課(検定係)に異動し、以降一貫して型式検定関連業務を実施。
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