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無線用測定器等の較正に関する業務 電磁波計測研究所 電磁環境研究室 研究マネージャー 藤井 勝巳

較正とは

較正(こうせい)とは、測定器に表示された値が、基準となる正しい値と、どれだけ一致しているのか、正しい値からのずれを測定して調べ、測定器が正しい値を表示するように調整することです。我が国では、電波を公平かつ能率的に利用することを目的として、1950年(昭和25年)に制定された「電波法」に則って電波が使われていますが、携帯電話やトランシーバーからスカイツリーに設置されたテレビ放送用送信機、人工衛星搭載の送信機に至るまで、すべての無線設備から発射される電波については、その周波数や強さといった電波の質について、較正が行われた測定器による検査が行われ、他の無線局に混信や妨害を与えたりしないよう監理されています。

較正の歴史

電波法の制定により、電波監理委員会(現総務省)が行う無線局検査に用いる測定器の較正は、同委員会電波監理総局電波部技術課が担当することになりましたが、1952年(昭和27年)8月、電波研究所(現NICT)の発足に合わせて、同課の業務の一部が電波研究所に組み込まれることになり、電波研究所が較正業務を行うことになりました。無線設備の検査に使用する測定器類はすべて、電波研究所が維持・管理している標準器と比較することにより較正が行われていますので、較正済みの測定器で測定するということは、間接的にではありますが、電波研究所の標準器で測定するのと同等であることを意味します。当初、電波研究所が行う較正は、郵政省地方電波監理局(現総務省地方総合通信局)が維持管理している副標準器だけが対象でしたが、1959年(昭和34年)に、地方電波監理局以外からの測定器の較正も受け付けるようになりました(委託較正制度)。その後、1999年(平成11年)に技術基準適合証明制度が導入され指定較正機関制度ができ、地方電気通信監理局(1985年地方電波監理局が改組)の副標準器の較正は指定較正機関が行うことになる等、いくつかの大きな法改正が行われ、また一方では、電波研究所(1952年~)は、通信総合研究所(1988年~)を経て、NICT(2001年~)に変わりましたが、較正業務自体は60年以上の間、変わらずに続けています。なお、現在は、行政刷新会議での決定により、原則として、指定較正機関の較正用機器だけが較正対象となっています。

較正対象

周波数標準器を除く、すべての無線用測定器の較正業務は、現在、NICT電磁波計測研究所電磁環境研究室が担当しています。較正対象は、電波を利用するために欠かせない基本測定器及びアンテナ類であり、具体的には、周波数計、高周波電力計、高周波減衰器、信号発生器、スペクトラムアナライザ、電圧電流計、電界強度測定器、アンテナ、SAR(Specific Absorption Rate: 比吸収率)測定用プローブなど多岐にわたります。また、測定の対象周波数も直流(0Hz)、電源周波数(50/60/400Hz)から、長波、中波、短波、VHF/UHF、マイクロ波、ミリ波、テラヘルツ波(3THz)に至るまで全周波数が対象となっています。製造メーカーによる測定器の違いや、アンテナ形状の違いも加味すると、対象とする測定器類は数十種類にもなります。また、電波の測定には、オープンサイトや電波暗室、シールドルームといった測定設備も不可欠であり、これらの設備の各周波数帯に応じた特性評価も研究の対象としています。どれをとっても、それぞれに深い専門的な知識と較正技術、計測技術が必要であり、NICTにおける他の業務や研究開発にはない独自の知識と経験が求められます。

多様化する電波利用と較正技術

1950年度には、わずか5610局しかなかった無線局は、携帯電話や無線LANの普及により、1億4000万局を越えるに至りましたが、今後も、ますます増加するものと予想されています。

例えば、ハイビジョン映像のような大容量・高速通信を可能にするために、現在、周波数120GHzや300GHzといったミリ波帯を用いた無線通信の研究開発が行われています。一方、低周波数帯では、省エネ製品、エコ製品と呼ばれる家電製品に広く用いられているスイッチング電源から放射される不要な電磁雑音が、他の無線を妨害するといった電磁環境の悪化が懸念されています。電波を正確に測定すること、そのための測定器を較正することが、電波を安全に快適に使用するために、ますます重要となってきています。NICTでは、社会の電波利用ニーズに応じた、社会基盤を支える技術を、較正業務を通じて提供していきます。

藤井 勝巳
左から藤井勝巳、西山巌、
瀬端好一、杉山功
藤井 勝巳(ふじい かつみ)
電磁波計測研究所 電磁環境研究室 研究マネージャー

大学院博士課程修了後、東北大学電気通信研究所助手を経て、2006年、NICT入所。無線用測定器やアンテナの較正及びEMC計測に関する研究に従事。博士(工学)。
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