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情報バリアフリー実現に向けて CASE1 「手話翻訳映像提供促進助成金」活用

右からCS障害者放送統一機構の大嶋専務理事、事務局

NICTでは情報バリアフリーの実現に向け、各種助成制度に基づく事業支援に取り組んでいます。これら助成制度をより多くの方にご理解・ご活用いただくため、制度を活用して通信・放送サービスを提供している企業・団体の活動を本号から3回にわたって紹介します。

身体障害者手帳をお持ちで聴覚に障害のある方は30万人以上、日本手話を母語とする方は推計で約6万人と言われています。しかし、手話の付いている番組は総放送時間に対して1%もありません。「新しい技術を使って、全ての人のコミュニケーションをもっと豊かにしたい」と語るNPO法人 CS障害者放送統一機構事務局の佐藤さんと湊さんにお話を伺いました。

―設立の経緯と事業概要を教えてください

CS障害者放送統一機構は、1998年に財団法人全日本ろうあ連盟と社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会などが中心となり結成されました(当時の名称はCS聴覚障害者予備実験放送統一機構)。発足の契機となったのは、1995年に起きた阪神・淡路大震災です。この震災では多くの聴覚に障害のある方が避難情報や配給情報などの緊急性が高く重要な情報をテレビ放送から得ることができませんでした。このような情報格差を少しでも埋められればとの思いから当機構を設立し、耐災害性のあるCS衛星通信を用いて、聴覚障害の方のための手話や字幕を付加した番組「目で聴くテレビ」の放送を開始しました。聴覚に障害のある方がキャスターやカメラマンとして番組制作に参加し、ニュースや地域の話題からスポーツ、手話学習、災害時の情報まで様々な情報をお届けしています。

―手話翻訳映像について教えてください

現在、「手話翻訳映像提供促進助成金」で助成を受けている範囲は、手話翻訳映像の制作(撮影・編集・手話翻訳などの業務)です。字幕の入った録画番組に対して手話を付加したり、生放送のニュースや情報番組などに対してリアルタイムで手話を付加しています。

これらの番組を視聴いただくには特約店(代理店)から販売される通信衛星の専用チューナー「アイ・ドラゴン3」(図1)とアンテナの設置が必要です。「目で聴くテレビ」の番組はもちろん、地上デジタル放送の字幕放送も受信できます。現在の利用世帯はおよそ11,000世帯です。

図1 聴覚障害者情報受信装置「アイ・ドラゴン3」
図1 聴覚障害者情報受信装置「アイ・ドラゴン3」CSアンテナ、緊急警報装置とセットで身体障害者日常生活用具に指定されている。

―手話翻訳映像はどのように制作されるのですか?

翻訳者の前にテレビを設置し、 映像に合わせて手話を行います。その様子をクロマキー撮影し(図2)、「SUPERBIRD C2」という衛星を用いて、専用受信機に対して手話の映像情報を送信、受信機側でオーバーレイさせることで成り立っています(図3)。映像は3つのレイヤーで構成されていて、1番下のレイヤーは受信機にセットされている緑の下地です。その上に地上波が重なり、さらにその上に私たちがクロマキー撮影した手話翻訳者の映像が合成されます(図4)。画面に小窓で映像を表示するワイプではなく、PIP*1で構成しているのが大きな 特長です。視聴者は好みに合わせて3種類の画面の大きさを選択することができます。私たちは全国の聴覚障害者情報提供施設とネットワークで結び、日常的に番組制作のやりとりをすることで、観やすい画面構成比で提供できるよう取り組んでいます。

図2 リアルタイム手話翻訳放送の撮影の様子
図2 リアルタイム手話翻訳放送の撮影の様子

図3 手話翻訳映像提供の仕組み
図3 手話翻訳映像提供の仕組み

図4 アイ・ドラゴン3で合成された映像
図4 アイ・ドラゴン3で合成された映像

―撮影現場を拝見し、放送の音声と手話に3・4秒しかズレがないことに驚きました。手話表現ではどのような工夫をされているのでしょうか?

一定のスキルを持った方でなければ、手話の同時通訳をうまく行うことはできません。特にリアルタイム手話の場合は、分からない言葉が出てきても聞き返すこともできませんので、慣れていない方だと詰まってしまいます。日本語と同じで手話も、普段の会話とテレビ画面を通して多くの方に語る言葉は異なりますし、すごいスピードで身体を動かします。精神的にも肉体的にも非常にハードな仕事です。

そのため当機構では、1人の翻訳者が1回あたり15分ずつ作業できるよう、約30名の手話翻訳者にご協力いただいています。また品質向上のために同時通訳時の要約の方法や分かり易い大きくはっきりとした動作など、手話翻訳者同士で検討会を重ね、成果を共有しています。例えばニュースの場合は事前にニュースの内容を調べ大筋を理解しておくことで、翻訳の間違いを防ぎます。さらに、標準手話の確定・普及に取り組んでいる社会福祉法人全国手話研修センター 日本手話研究所と協力し、最新の標準手話を取得しています。

―今後の抱負をお聞かせください

現在、月に15本前後の手話翻訳番組を制作しています。視聴者からは「地上波放送の手話翻訳を増やして欲しい」「番組のバリエーションを増やして欲しい」という声をいただいておりますし、内容・放送時間共に充実させることで、満足度の高いものにしたいです。また、聴覚に障害のある方だけでなく、手話を勉強している方・されたい方にも、有用なコンテンツとして発信できればと考えています。IPTV*2での配信や視覚に障害がある方のための解説放送*3なども視野に入れて、より多くの方に便利にご利用いただけるようなサービス提供を目指します。

―ありがとうございました。

手話翻訳映像提供促進助成金とは

手話翻訳映像提供促進助成金とは

聴覚障害者のために放送番組に合成して表示される手話翻訳映像を制作し提供する事業者に対して、手話翻訳映像を制作・提供するために必要な経費の2分の1を上限として助成するもので、例年2月に公募を行います。

交付対象となるためには、①チャレンジドにとって利便性が高い事業であること ②事業実施の効果を多くの方が享受できること ③業務遂行能力を有し管理体制が的確であること ④資金調達が自己のみによっては困難であること ⑤自己負担分の経費の調達能力を有すること、など所定の用件を満たすことが必要です。

対象となる経費は、対象事業を実施するために必要な経費のうち、外注費、委託費、労務費、消耗品費、諸経費、機械使用料などです。なお、視聴年齢制限付き番組は助成の対象になりません。

助成金の交付を希望される事業者は、所定の様式に沿って申請書を提出してください。当機構で申請内容を審査し、必要に応じて実態調査や学識経験者などからなる評価委員会の意見聴取を行い、助成金の交付を決定します。

事業終了時に実績報告書を提出いただき、当機構で検収後、助成金をお支払いします。

助成内容・事務手続きなどについての詳細はこちら
TEL: 042-327-6022 FAX: 042-327-5706 E-mail: jimaku@ml.nict.go.jp
https://www2.nict.go.jp/ict_promotion/barrier-free/106/index.html

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