ブックタイトル情報通信研究機構年報

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概要

情報通信研究機構年報

493創る●データ利活用基盤分野3.4 ユニバーサルコミュニケーション研究所その回答から応答を生成する)。こうしたアーキテクチャを考案した第一のねらいは、WISDOM Xを用いることによって、膨大なWebページにある多様な情報を取得して、その情報に基づいて多様なトピックに関する対話を行うことである。ユーザの興味を引く対話を行うためには、対話システムはユーザが知らず、興味を引く可能性の高い新規な情報に応答で言及することが必要になる。適切に質問の生成ができれば、その回答は新規でユーザの興味を引く情報である可能性が高まり、対話の質を保証することが可能になる。単に多様なトピックに関して応答を生成するだけであるならば、ユーザの入力発話にあるキーワードを検索エンジンに投入し、それらのキーワードを含むテキストを応答として返すようなアーキテクチャも考えられるが、これでは応答の中に新規かつ興味を引く情報がある可能性は低く、単にユーザ発話をオウム返しで返してしまう可能性も高まる。また、近年、対話システムのターゲットとして注目を集めている「雑談」は、ユーザの入力とそれへの応答の間の意味的関係がしばしばつかみ所がなく、その自動化は極めて困難であるとされてきた。一方で、本アーキテクチャにおいては、ユーザの入力と応答の関係が「質問」という形で定式化でき、逆説的ではあるが「雑談」の制御も可能になる。図2 では、ユーザの「iPS細胞で臓器を作るんだって」という入力に対して、「iPS細胞でがんワクチン用細胞量産技術を開発するかも」といった応答が出力されている。これはユーザ入力から「iPS細胞で何を作るか?」という質問を生成し、その結果、「がんワクチン用細胞量産技術」という回答を得て、応答を生成している。この時、最初の入力「iPS細胞で臓器を作るんだって」と、応答「iPS細胞でがんワクチン用細胞量産技術を開発するかも」の関係は、「iPS細胞で何を作るか?」という質問で表されていると考えることができる。この質問としてどのようなものを選択するかによって、どのような対話ができるかが決定されることになる。例えば、iPS細胞に関してあまり知識を持たない一般ユーザや小・中学生のような年少者向けの教育目的の対話では「がんワクチン用細胞量産技術」といった専門的用語を用いた応答よりも、「誰がiPS細胞を作ったか」あるいは「何でiPS細胞を作ったか」といった質問によって、「山中教授がiPS細胞を開発した」あるいは、「マウスの皮膚細胞に4 種類の遺伝子を組み込む方法でiPS細胞を作ることに成功した」といった、より基本的な情報を応答として提供する方が適切な可能性が高い。近年、高齢者介護の現場で高齢者と雑談を行い、介護労働者の負担を軽減するといった役割が対話システムに求められるようになってきており、また、自動運転の普及に伴い、手持ち無沙汰になった自動車のドライバーとやはり雑談も含めた対話を行い、有益な情報を提供できる対話システムへの期待も高まっている。これらに限らず、対話システムは日常的にユーザと接し、様々な有益な情報を提供できることが期待されるようになると言われており、WISDOM Xを用いることで、多様なトピックに関して多様な情報を提供できる意義は非常に大きい。特に、ルールベース等の手法を用いた対話システムでは応答のバリエーションが限られるため、ユーザに飽きられる可能性が高い。一方で、Web40億ページの情報をもとに回答を行うWISDOM Xは、極めてバリエーションに富んだ情報を提供でき、なかなか飽きることのない対話システムが可能になることが期待される。また、高齢者のメンタルケアのための対話等の具体的な目的に沿った対話は、それぞれ目的ごとに複雑な戦略が必要になるが、質問の生成・選択はそうした戦略の実現において重要なツールとなり得ると期待される。なお、現在のプロトタイプでは、どのようなユーザの入力に対してどのような質問を生成するかは、SNS等におけるユーザ間の対話から自動的に学習している。これはつまり、SNS上の対話からやりとりをつないでいる質問を自動的に推定することが可能だということであるが、今後、SNS上のやりとりではなく、高齢者ケアや業務上の情報を提供する対話システムを開発する際には、SNS等における対話以外の対話データ(例えば、介護労働者と高齢者の間の対話データ)を学習データとしたり、あらかじめ適切な質問のタイプを選択しておくなどの工夫が必要となる。これらが今後の研究課題である。以上、対話システムプロトタイプについて説明をしてきたが、その他の成果である、深層学習を用いたテキスト中の問題の検出やWISDOM Xの質問応答の精度向上、ミドルウェアの改良については、今後上記の対話システムに組み込まれ、より適切な対話を行わせる技術と位置づけ、対話システムと共に今後も研究を推進していく予定である。図2 対話システムプロトタイプ「WISDOMくん」のアーキテクチャ