ブックタイトル情報通信研究機構年報

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概要

情報通信研究機構年報

54■概要我々が日々の生活や仕事の中で取り扱う情報は、情報通信技術の進展と共にテキスト、音声、映像だけでなく、匂い、質感など様々な広がりを持ちつつ増大している。人がこれらの情報を理解し、伝える新たなICT技術の研究開発には、人が情報を処理している脳に着目したICTの研究開発が重要な課題となる。平成28年度は第4 期中長期計画の開始年度であり、本研究室では前掲の課題に対応するために、新たな中長期計画に基づき、1 .脳機能解明と次世代ICT研究課題(多様な人間のポテンシャルを引き出し、人の心に寄り添うロボット等の実現に貢献するために、脳内表象や脳内ネットワークのダイナミックな状態変化をとらえる解析や脳機能の解明を進め、これを応用した情報処理アーキテクチャなどの次世代ICTの研究を行う)、2 .ヒューマンアシスト研究課題(認知・行動等の機能に係る脳内表現・個人特徴の解析を行い、個々人の運動能力・感覚能力を推定・向上させる技術のみならず、社会的な活動能力を向上させる技術の研究開発を行う)、3 .脳情報に基づく評価基盤研究課題(製品やサービスの新しい評価方法等に応用可能な脳情報に基づく快適性・安全性等の評価基盤の研究開発を行う)、を大きな3 つの中心課題として、基礎的な研究開発を更に発展させるとともに、実社会での応用に近づけるべく研究開発を進めた。1 .脳機能解明と次世代ICT研究課題においては、人間が光や音が意識に上るより前に遡ってタイミングを知覚していることを明らかにするなど、次世代ICTの研究開発の基盤となる脳機能解析を進めた。また、2 .ヒューマンアシスト研究課題においては、ブレインマシンインタフェースや社会的活動能力向上に関する基盤技術の開発を進めるとともに、動作変容システムや仮想人体筋骨格モデルなどの研究開発を開始した。3 .脳情報に基づく評価基盤研究課題においては、動画を見ているときの被験者の脳活動データを基に構築したCM動画等の印象評価システムの更なる展開を進めるとともに、知覚判断に対する運動負荷の影響に関する基礎的な研究を行った。■平成28年度の成果1 .脳機能解明と次世代ICT研究課題次世代ICT研究開発の基盤となる脳機能解析研究の一環として下記の研究を実施した。光や音のタイミングの情報は、別々に処理された感覚情報を対応付けるうえで非常に重要な手がかりとなるが、その脳内処理についてはわかっていなかった。光や音などの感覚刺激は、それらによって生じる脳活動の時間積分信号が一定の閾値を超えた瞬間に意識に上ることが知られているが、本研究により、刺激が生じたタイミングの情報は、同一の積分信号が、より低い閾値を超えた瞬間に既に取得されており、その時点まで遡ってタイミングの知覚がなされることが実験から明らかになった(図1 )。この成果は、テレビ通話などの音声と画像遅延の許容範囲の解析などへの応用が期待される。実験では、多数の点がランダムに動いている画面から、点の一部(その割合をコヒーレンスと呼ぶ)が右または左に動く画面に切り替わる動画(コヒーレント運動)を見ながら、単純反応課題(右または左の運動が見えたら、できるだけ早くボタン押すことによって回答。運動が知覚に上るまでの時間がわかる)と同時性判断課題(運動が見えたタイミングと、その前後に鳴った音とが同時であるか否かを回答。運動が生じたタイミングの知覚がわかる)を遂行中の脳磁図(MEG)を計測し、解析した。脳情報通信融合研究室室長  鈴木 隆文 ほか38名3.5.1脳を理解し人に優しい情報通信技術を図1 コヒーレント運動に対するMEG反応の時間積分