ブックタイトル情報通信研究機構年報

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概要

情報通信研究機構年報

56■概要平成28年4 月から組織改編により、それまでの脳機能計測研究室は、脳機能解析研究室と名称を変更した。引き続き、脳機能計測基盤領域の研究開発を担当するとともに、先端計測手法の開発とその脳機能解析への応用研究を強化した。吹田(脳情報融合研究センター)では、平成27年度末に新規導入した最新鋭3T-MRIが平成28年7 月から本格稼働し、ほぼフル稼働して研究に活用されている。本年度も、大型脳機能計測機器の運用チームを組織し、安全委員会との連携の下、1,000人以上の被験者から脳機能データを安全に得ることができた。超高磁場MRI機器から得られるデータの質を向上させるため、高性能コイル開発や、撮像法の改善を進めている。また、ウェアラブル脳波計を用いた脳機能解析研究も進め、語学学習への応用技術開発が進んでいる。さらに、人間の脳における聴覚と触覚の関係で新しい知見が得られた。■平成28年度の成果脳局所領域を高い空間解像度で撮像するために、7T-MRI装置用のRFコイルの開発を進めている。既存のRFコイルでは実現できない信号感度の向上を目指すとともに、撮像対象やMR装置に対する安全性も考慮する必要がある。そのため、ネットワークアナライザによる共振特性の実測、有限差分時間領域法に基づいた電磁界シミュレーションによる磁場分布や比吸収率(単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量:SAR)などからコイルを評価した。視覚野領域用のサーフェスコイルを試作し、RFコイルの性能指標である励起磁場(B1+)と安全性の指標であるSARの電磁界シミュレーションを行い、B1+はRFコイル近傍に偏った分布を有し、同じ横断面では左右対称の皮質領域に高いSARが分布することがわかった(図1 )。今後は、RFコイルの形状・サイズ・配置などを検討し、撮像目的部位において極力均一なB1+分布を有し、低SARかつ高い信号雑音比をもつRFコイルの完成を目指す。機能的MRI(fMRI)は、MRIを用いて脳のはたらきを画像化する方法であり、脳機能研究で広く使われている手法である。しかし、神経活動に伴うMRI画像上の信号変化は非常に小さく、信号ノイズ比(SNR)の面から高解像度なfMRIはこれまで困難であった。当研究室の超高磁場7T-MRIは、原理的には、従来の3T-MRIの2 倍以上の計測感度を有し、これまでの空間分解能が大きく向上する可能性を有する。しかし、体動の影響や体内での磁場の不均一性、さらに生命活動に伴う生理的ノイズなどに対しても感度が高まるため、従来の一般的な計測法では、大幅な分解能向上は困難である。そこで、空間分解能を高めるための新しいMRI計測法を開発し、これにリアルタイム体動補正を組み込んだ。さらに、呼吸波形や脈波を同時計測し、呼吸や心拍の状態をも画像生成に組み込むことで生理的ノイズの抑制にも成功した。図2脳機能解析研究室室長(兼務)  田口 隆久 ほか28名3.5.2人間の脳機能計測・解析研究に関する世界的規模の拠点図2 視覚刺激下の視覚野脳活動図1 コイルの性能と安全性指標RFコイル励起磁場(B1+)RFコイル比吸収率(SAR)