ブックタイトル情報通信研究機構年報

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概要

情報通信研究機構年報

593創る●データ利活用基盤分野3.6 先進的音声翻訳研究開発推進センターは、訪日外国人客を案内する際に言葉が通じず車内で沈黙しがちであったが、KDDIが運転座席・後部座席連動型のタブレット型音声翻訳機(図3 )をタクシー内に設置し活用することにより、利用客との会話が可能となった。さらに、平成28年度には、音声翻訳による会話支援と観光スポットの映像や画像の情報提供を合わせて行うことにより、顧客満足度向上につながることが実証された。医療分野では、感染症の広がりを予防するため、機器に直接触れずに操作できることが望ましいというニーズを踏まえ、医療分野向け非接触UIの試作(富士通研究所との共同開発)を行い、平成28年度は、倫理審査の承認が得られた東京大学医学部附属病院をはじめとする6 病院において臨床試験を行った。消防庁の消防研究センターとの共同研究では、消防訓練等で救急隊がVoiceTraをベースとした音声翻訳アプリ“救急VoiceTra”(図4 )を活用しており、一部では実利用も始まった。さらに、東京都と共同で、東京国際ユース(U-14)サッカー大会の交流会やジュニアスポーツアジア交流大会、東京マラソンにおける救護所、東京都・渋谷区合同帰宅困難者対策訓練等で、VoiceTraを活用した実証実験を行った。特に、非常時の利用では、よく使う文を定型文としてあらかじめ登録し、呼び出せる機能が有用であるため、“救急VoiceTra”では定型文を登録する機能を実装した。実例として消防庁では、救急隊がよく使う表現を収集して“救急VoiceTra”に登録し活用している。救急現場では当事者が取り乱していることが多いため、定型文にはYes/Noや指差しで答えられる質問を優先的に登録するなど、ユーザが独自に工夫をはじめており、救急現場においてなくてはならないシステムになりつつある。よく使う表現は、災害等に分野を絞ると多様な施設に共通するものも多いと思われ、今後、そのような表現を災害対応の現場などで共有していくことも重要と考える。上記に加え、岡山県警をはじめとする約10の県警、京浜急行電鉄等の約10の鉄道会社、東急百貨店やドン・キホーテ等の小売店等がVoiceTraを試験的に導入して道案内や経路案内、店内での説明等、訪日外国人とのコミュニケーション支援に活用しており、その実例は約60件となった。このように様々なシーンで活用される中で、VoiceTraに実装されている“誤り報告機能”を利用したフィードバックも多数いただいている。その情報に利用ログの情報も合わせて音声翻訳の精度改善に役立てている。3 .民間企業への技術移転例多言語音声翻訳技術及びその要素技術はNICTから既に20社にライセンスされている。VoiceTraは多言語音声翻訳技術のベースラインを体験できる実証実験用アプリである。上述の各種実証実験により、分野や使われるシーンによって、専門用語や固有名の追加登録、学習用コーパスの拡張あるいは絞り込みによる優先度情報のカスタマイズが必要となることが明らかになっている。次の例のように、その点に着目した商用サービスも生まれている。・ 三菱地所は丸の内の商業施設などを対象に、おもてなしに役立つ語や表現を約3,000収集し、それらを追加登録してカスタマイズしたアプリ“接客音声翻訳*4”を平成28年11月から公開している。・ 凸版印刷が平成29年3 月に公開した音声翻訳アプリ“TabiTra(タビトラ)*5”では固有名を追加登録する商用カスタマイズサービスが行われている。* 4   http://www.mec.co.jp/j/news/archives/mec161028_honyakuapplication.pdf* 5   http://www.toppan.co.jp/news/2017/03/newsrelease170331.html図3 訪日外国人向け観光タクシーでの活用図4 “救急VoiceTra”を用いた実証実験