ブックタイトル情報通信研究機構年報

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概要

情報通信研究機構年報

72■概要本研究室では、第4 期中長期計画のサイバーセキュリティ分野における「暗号技術」に示されている下記の3 つの課題の研究開発に取り組んでいる。1 .機能性暗号技術:IoTの展開に伴って生じる新たな社会ニーズに対応するため、新たな機能を備えた機能性暗号技術や軽量暗号・認証技術の研究開発に取り組む。2 .暗号技術の安全性評価:暗号技術の安全性評価を実施し、新たな暗号技術の普及・標準化に貢献するとともに、安心・安全なICTシステムの維持・構築に貢献する。3 .プライバシー保護技術:パーソナルデータの利活用に貢献するためのプライバシー保護技術の研究開発を行い、適切なプライバシー対策を技術面から支援する。■平成28年度の成果1 .機能性暗号技術現在のセキュリティシステムの課題やIoTシステムの展開により新たに生じる社会ニーズを解決する機能を実現する暗号要素技術を精査し、それらを活用するための課題抽出・検討を行った。そのいくつかを紹介する。安全・安心な社会システムの実現には様々な課題が存在する。クラウドなどに集められるユーザ情報を利活用するサービスが注目を集めているが、一方、プライバシーの問題が懸念される。プライバシーを保護したビッグデータの利活用のため、暗号文を復号せずに演算することが可能な「準同型暗号」において、特定のキーワードに関連した暗号文に対してのみ選択的に準同型演算を許し、別のキーワードの暗号文の誤演算混入を防ぐ新方式(図1 )を提案し、情報処理学会コンピュータセキュリティシンポジウム2016において最優秀論文賞を受賞した。また、柔軟な鍵の取り扱いを可能とする、効率的な鍵失効機能を有するIDベース暗号の提案を行い、国際会議RSA Conference 2017にて発表した。その他、鍵共有方式FACEの公開鍵暗号(KEM) 国際標準ISO/IEC18033-2(AMD)掲載に向けた標準化活動を進めた。また、大規模なシステムや複雑なアプリケーションを安全性と機能性を両立させながら実現するためには、モジュラー設計・構築が有用となる。モジュラー設計を可能にしつつ、安全で利便性の高い機能性暗号技術を実現する群構造維持暗号系の研究について、市村学術賞(功績賞)を受賞した。また、代数的構造のシンプルな対称ペアリング上で設計された暗号方式を、実装効率の優れた非対称ペアリング上の方式へと最適な変換を行う技術を提案し、暗号分野の世界最高峰の国際会議CRYPTO2016にて採録された。IoTシステムは急速な広がりを見せているが、リソースが限られ、従来の暗号技術を実装することが困難なIoTシステムが数多く存在する。IoT時代に適した軽量暗号の利用促進を図るため、軽量暗号を選択・利用する際の技術的判断に資する軽量暗号ガイドライン(日本語・英語版)をCRYPTREC軽量暗号WGにて作成した。また、軽量ハッシュ関数の国際規格ISO/IEC 29192-5の出版にエディタとして寄与した。2 .暗号技術の安全性評価総務省及び経済産業省、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)と連携して運営している暗号技術評価プロジェクトCRYPTREC(Cryptography Research and EvaluationCommittees)において、現在利用されている暗号及びセキュリティ基盤研究室室長  盛合 志帆 ほか12名3.7.2IoTやプライバシー保護等の社会ニーズに応えるセキュリティ基盤技術図1 暗号化したままデータ分析を行う際の課題を解決