ブックタイトル情報通信研究機構年報

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概要

情報通信研究機構年報

78■概要当研究室は、革新的ICTの研究開発を進める未来ICT研究所の中でも、既存技術の延長線上に無い新たな技術の種を創出し芽吹かせるため、最先端融合領域の基礎・基盤研究を、幅広い研究分野にわたり総合的に実施している。その中で、1 .通信速度や消費電力、感度等に係る課題に対してブレークスルーとなるデバイスの創出を研究開発する「高機能ICTデバイス技術」、2 .ミリ波及びテラヘルツ波を利用した100 Gbps級の無線通信システムを実現するための技術を研究開発し、未踏周波数領域の開拓に貢献する「超高周波・テラヘルツ基盤技術」、3 .生物の感覚受容システムを利用したセンシングシステム、生体や細胞における情報伝達・処理を模倣したシステム及び生体材料が示す応答を計測・取得するシステムに関する技術を研究開発する「バイオICT基盤技術」の3 分野を中心に、量子ICT基礎を加え、さらに、それらの派生・融合分野の研究プロジェクト(PJ)を設け研究を進めている。平成28年度は、第4 期中長期計画の初年度にあたり、また本研究室の特徴である広い研究分野の基礎基盤研究の成果であることから、各研究分野、各研究PJにおいて、目標達成の起点となる多様な成果が出ている。以下の成果のほかにも、例えば、量子ICT基礎のPJでは、光と物質をつなぐ量子インターフェース実現に向けた、人工原子の深強結合状態を観測するなどの成果(3.8.2量子ICT先端開発研究センター参照)も挙げられる。これら詳細については、別途研究所広報誌や、それぞれの部署、連携研究先などの報告を参照いただきたい。■平成28年度の成果1 .高機能ICTデバイス技術高速・大容量・低消費電力の光通信システム等を実現するため、原子・分子レベルでの材料・構造制御や機能融合等を利用したICTデバイスの新機能や高機能化を実現する技術の研究開発を進めている。平成28年度は、小型超高速光変調器等の実用化に向けた、超高速電気-光変換素子等の動作信頼性及び性能向上の基盤技術研究において、有機EOポリマーの表面に原子層堆積法(ALD)により2 nmの極薄無機膜(酸化アルミ)を形成する技術を確立し、化学安定性を向上しポリマーの積層による光導波路デバイスを試作しシングルモード光伝搬特性を確認した(図1 )。また、小型超高速光変調器の実用化に向けて、有機EO/Siスロットハイブリッド光変調器の設計・試作を行った。さらに、有機分子アクセプタ基の化学的改変により、Oバンドで最適な分子の開発に成功、性能指数7.3倍を実現するとともに、EO分子を架橋剤としてクロスリンクさせるNICT独自のポリマー構造により、EOポリマーで世界最高のガラス転移温度205℃の超高耐熱EOポリマーの開発に成功した。超伝導単一光子検出器(SSPD)の広範な応用展開を目指した研究開発では、誘電体多層膜を用いた光キャビティ構造を検討し、実際のSSPD素子においてその有効性を実証した。また、SSPDの多ピクセル化の実現に向けて、64ピクセルSSPDアレイ用に設計した2,610個のジョセフソン接合を含む大規模SFQ回路の動作を確認した。2 .高周波・テラヘルツ基盤技術ミリ波及びテラヘルツ波を利用した100 Gbps級の無線通信システムの実現を目指したデバイス技術や集積化技術、計測基盤技術等の研究、その信号源や検出器等に関する基盤技術の研究開発を進めている。平成28年度は、テラヘルツ集積回路の実現に向けた半導体デバイスや受動素子等の作製技術の開発に関し、高周波無線通信回路で最も鍵となる機能ブロックの1 つであるPLL(Phase Locked Loop)発振回路において、集積化の妨げとなる水晶発振器に替えて、高集積化可能な圧電振動子を利用できる画期的な構成を開発した(図2 )。本成果は、集積回路の世界的会議の1 つであるVLSIシンポフロンティア創造総合研究室室長(兼務)  久保田 徹 ほか66名3.8.1最先端研究の融合による新たな情報通信パラダイムの創出を目指す図1  原子層堆積法(ALD)を用いた化学安定性の向上したポリマー積層光導波路デバイスの試作Siポリマー表面を酸化し緻密な酸化アルミのALD 成膜Si SiEO ポリマークラッドポリマー導波路出射光