ブックタイトル情報通信研究機構年報

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概要

情報通信研究機構年報

80■概要現在の情報通信技術は19世紀に確立された物理法則に基づいており、既に光ファイバの電力密度限界や最新技術による暗号解読の危機が指摘されるなど、今後も次々と物理的限界を迎えることが予測される。このような限界を打破するため、究極の物理法則「量子力学」に基づいて、絶対安全な量子暗号技術や関連する物理レイヤセキュリティ技術、従来理論の容量限界を打破する量子情報通信の研究開発(量子ノード技術)を自ら研究と産学官連携により戦略的に進めている。平成28年度は、量子暗号と現代セキュリティ技術である秘密分散技術を融合した、量子暗号秘密分散ストレージネットワークの実証に世界で初めて成功した。また、量子ノード技術の研究開発では、量子情報通信の基本リソースとなる量子もつれを多数の自由度に拡張する多次元量子もつれ光子対の生成に世界で初めて成功した。■平成28年度の成果1 .量子暗号・物理レイヤセキュリティ技術第4 期中長期計画では、量子暗号の基幹技術である量子鍵配送技術を現在のネットワークのセキュリティ技術や、(量子ではない)最新の現代暗号技術と融合した、総合的なセキュリティ技術の実証を目指している。また、これまで開発を進めてきたファイバーネットワーク上での量子鍵配送に加え、衛星通信等を念頭においた光空間通信網への拡張も進めている。平成28年度は、現代暗号技術である秘密分散技術と量子鍵配送の融合に取り組んだ。秘密分散は1 つのデータを分割・暗号化し複数拠点で分散保存することにより、一部の拠点の分散データが攻撃されたとしてもデータ情報が一切解読不可能である、という情報理論的安全性(攻撃者がいかなる計算能力をもっていても原理的に解読不可能な安全性のこと)を保証できる技術として古くから知られている。しかし、この技術を実際に運用する場合、拠点間で幾分かの情報を必ずやり取りする必要があり、その通信の情報理論的安全性を確保する手段が無いことが、大きな問題となっていた。量子鍵配送はこの問題を解決し得る(情報理論的に安全な秘匿通信を実現する)現状で最も有望な手段であり、今回、拠点間の量子鍵配送で結んだ新しい秘密分散ストレージネットワークをNICTが持つテストベッドである東京QKDネットワーク(QKDは量子鍵配送の略)上に実装し、ストレージ間における情報理論的に安全なデータ伝送・保存・復元の実証に世界で初めて成功した(図1 )。これは、量子情報通信技術と現代暗号技術が本格的に融合した新しい技術分野を切り拓く最初の一歩となる重要な成果となった。いかなる計算機でも解読不可能な秘密分散ストレージネットワークは、ゲノムデータをはじめとする医療データや、国家機密など、世紀単位の超長期安全性が要求される重要情報の伝送・保存で重要な役割を果たすことが期待される。さらに、量子暗号の要素技術を切り出した早期応用展開に向けた取組として、前年度開発したドローンの飛行制御通信の安全性強化技術を改良し、ドローン制御通信の完全秘匿化と乗っ取り防止技術を開発・実装した。またこれを用いて、秋田県仙北市国家戦略特区において、完全秘匿ドローンによる図書自動配送の実証実験に成功した(図2 )。今後は、制御通信だけでなく、ドローン-地上間やドローン間でのデータ通信の秘匿化など、より高度なセキュリティ技術の実現を目指す。また、量子暗号関連技術(物理レイヤ暗号)の光空間通信での実証量子ICT先端開発センターセンター長  武岡 正裕 ほか8名3.8.2量子情報通信技術の研究開発図1  東京QKDネットワークに実装された量子鍵配送秘密分散ストレージ