ブックタイトル情報通信研究機構年報

ページ
89/318

このページは 情報通信研究機構年報 の電子ブックに掲載されている89ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

情報通信研究機構年報

813拓く●フロンティア研究分野3.8 未来ICT研究所に向けて、NICT本部(小金井)と電気通信大学をつなぐ7.8 kmの光空間通信テストベッドを構築し、アイセーフ波長の光信号の空間伝送特性を計測した。観測結果から、大気の環境や時間帯などを適切に選ぶことで、物理レイヤ暗号の実装が十分可能であることが明らかとなった。継続的な取組として、量子鍵配送ネットワークの信頼性試験を行い、安全性評価基準の策定に向けたドキュメント化を進めている。また、欧州電気通信標準化機構(ETSI)の量子暗号産業仕様検討グループに参加し、国際的な標準化活動にも寄与を続けている。2 .量子ノード技術将来のネットワークノードにおける多機能化や、抜本的な低消費電力化、また超微弱信号の受信技術などを実現するためには、光信号の量子力学的な性質を直接自在に制御する技術が必要となる。第4 期中長期計画では、その基礎技術開発及び計測技術への展開などを目指し、光量子制御技術、量子計測標準技術、量子インターフェース技術等の開発に取り組んでいる。平成28年度は、前中長期目標期間中に開発した超高速高純度量子もつれ光源を改良し、複数の周波数にまたがる多次元量子もつれ状態の光子対の生成に、世界で初めて成功した。第3 期中長期計画期間中に開発した光源の量子もつれ光は、光子の偏光状態という2 次元の自由度において量子もつれが形成された光子対であったが、これを更に時間遅延干渉させることによって周波数面上で光子相関の干渉縞を生じさせ、干渉が強めあう複数の周波数成分で量子もつれ相関を形成する、多次元の量子もつれ光生成の手法を考案し、実証実験に取り組んだ。その結果、10次元以上にまたがる多次元周波数もつれ状態を実験的に観測した(図3 )。また、量子もつれ光源の集積化に向けた取組として、直径7 ミクロン程度のシリコンリング共振器による小型量子もつれ光源を開発し、通信波長帯において波長多重された量子もつれ光の生成に成功した。一方、量子技術の周波数標準への展開にも取り組んでおり(量子計測標準技術)、次世代の小型周波数標準の実現に向けて、小型イオントラップサブシステム用小型レーザー冷却光源の動作実証を確認し、さらに同光源によるレーザー冷却の実証に成功した。従来、周波数標準技術の開発は、日本標準時など正確な時間標準を主な目的としているが、トラック等で運搬できるレベルの可搬型周波数標準技術が確立されれば、それ以外にも超高速光通信における超精密位相同期など、新たな応用展開が期待されるため、電磁波研究所時空標準研究室との密な連携により、開発を進めている。物質と光(電磁波)との間で量子情報の自在なやり取りの実現を目指す量子インターフェース技術については、未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室巨視的量子物理プロジェクトで開発された超伝導量子回路技術を活用することを念頭に、中長期目標期間中での実証を目指した連携を進めている。図2 仙北市におけるドローン秘匿制御通信技術の実証図3  多次元量子もつれ光子生成実験の光学系(左)と量子もつれ(量子相関)測定の実験結果(右)