ブックタイトル情報通信研究機構年報

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概要

情報通信研究機構年報

82■概要我々の日常生活において、半導体エレクトロニクスはその重要度を増しつづけている。実際、身近に接するほとんどすべての家電において、半導体デバイス回路が組み込まれ、その制御に用いられている。また、一般に広く普及したインターネットに続き、IoTなど高度情報化に対する絶えることのない要求も存在する。そのため、大容量データを高速に伝送する半導体デバイス技術が必要になると同時に、そのエレクトロニクス機器全般における省電力・省エネ化も必須開発事項となっている。これら社会的要求を念頭に、本センターでは、新半導体材料の開拓に取り組み、その優れた材料特性を活かした新機能先端的電子デバイス(トランジスタ、ダイオード)を開発し、近い将来、社会に大きな変革をもたらすことを目標として研究開発を行っている。上述の理念に基づき、当センターでは、現在新ワイドバンドギャップ半導体酸化ガリウム(Ga2O3)を材料とするトランジスタ、ダイオードの研究開発を中心テーマに据えて活動している。第4 期中長期計画では、第3 期中長期計画にて達成した世界初のGa2O3トランジスタ実証に代表される成果を受けて、Ga2O3デバイス実用化に向けた研究開発に注力している。また、パワーデバイス用途だけに留まらず、極限環境と呼ばれる過酷な環境での応用に向けたデバイス開発を本格的にスタートした。これら研究開発においては、NICT内自主研究だけにとどまらず、大学・企業との緊密な連携を積極的に推進している。また、研究開発において生じる特許などの知的財産に関しても、戦略的かつ効率的な取得を目指して活動している。本年度Ga2O3パワーデバイス開発においては、耐圧1kVを超えるショットキーバリアダイオードを世界に先駆けて実現した。また、ノーマリーオフ型電界効果トランジスタ(FET)の実証にも成功した。その他、Ga2O3デバイスの耐放射線性を見定めるために、ガンマ線照射のデバイス特性に対する影響について調べた。■平成28年度の成果1 .Ga2O3ショットキーバリアダイオードパワーデバイスとは、主に電力変換、スイッチング用途に用いられる半導体デバイスの総称である。その用途は、家電の100~200 V程度の低耐圧領域から、ハイブリッド・電気自動車などに代表される数百V中耐圧領域、1,000 V以上の高耐圧領域と多岐にわたる。現在、我々のGa2O3パワーデバイス開発は、高耐圧、大電力用途を主なターゲットとしている。いかに、損失を抑えて大電力オン/オフスイッチングを、高効率に行うかが、デバイス性能の良し悪しを測る大きな指標となる。本年度のショットキーバリアダイオードの開発においては、フィールドプレートと呼ばれる耐圧向上に効果がある構造をGa2O3ダイオードに初めて採用した(図1 )。なお、デバイス作製には、東京農工大学から提供されたハライド気相成長法により作製したGa2O3エピ基板を用いた。フィールドプレート採用に伴い、必要となったいくつかのデバイスプロセスを新たに開発、もしくは開発済みのプロセスに関しても改善を加えて試作を行った結果、利用電圧の限界値に相当する耐圧を、これまでの500 V程度から1,076 Vまで、2 倍以上増大させることに成功した(図2 )。この耐圧値は、トランジスタ、ダイオードを問わず、Ga2O3デバイスとして世界初の1,000V超えに相当する。2 .ノーマリーオフGa2O3トランジスタゲート電極に電圧を印加しない状態においては、ドレイン-ソース電極間に電流が流れず、デバイスとして動作オフ状態に保たれるタイプのトランジスタのことを、グリーンICTデバイス先端開発センターセンター長  東脇 正高 ほか6名3.8.3新半導体材料・デバイス技術が拓く、快適・安全な未来に向けて図1  フィールドプレートGa2O3ショットキーバリアダイオードの断面模式図