ブックタイトル情報通信研究機構年報

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概要

情報通信研究機構年報

833拓く●フロンティア研究分野3.8 未来ICT研究所ノーマリーオフトランジスタと呼ぶ。このノーマリーオフトランジスタは、何らかの原因で制御端子に相当するゲート部分が破壊されたときに、自然にオフ状態となり電流を遮断することで、その動作を停止するので安全性に優れる。このメリットは、特に大電力を扱うパワーデバイス回路においては重要である。また、故障の際常時オンとなり、機器の暴走をもたらすノーマリーオンデバイスをスイッチング回路に用いる場合には必須となる安全回路を省くことができるため、回路の簡略化、小面積化及び低コスト化にもつながる。パワーデバイス以外の用途に目を移した場合でも、ノーマリーオフトランジスタは、ノーマリーオンと組み合わせることで論理回路を構築することができるため、信号処理にも有用である。これらの要求を踏まえて、本年度ノーマリーオフGa2O3トランジスタの開発に取り組み、実現した。試作したノーマリーオフGa2O3トランジスタ構造の断面模式図を図3 に示す。このトランジスタ試作には、当センターにて開発した分子線エピタキシー法により成膜したエピ基板を用いた。デバイス特性としては、おおむね良好であった。ゲート電圧0 Vの状態では、ドレイン電圧を掃引しても電流は流れず、ノーマリーオフ動作が実現している(図4 )。また、+12 V以上のゲート電圧印加時、その印加電圧に応じてチャネルが開き、デバイスとしてのオン動作も確認できている。このように、スイッチング動作を可能とするノーマリーオフGa2O3トランジスタの開発に成功した。3 .Ga2O3トランジスタへのガンマ線照射実験現在、極限環境エレクトロニクスと呼ばれる、高温・多湿・放射線下に代表される過酷な環境で利用するための、半導体デバイス、論理・無線回路の必要性が増している。それらの多くは、人間が立ち入ることができない環境での作業において、現場の状況を離れた場所でリアルタイムに把握するための各種センサー(カメラ、温度計、放射線量計など)と組み合わせて利用される。比較的身近な応用例として、自動車・航空機のエンジンルームから、未開拓区域に該当する地下資源探査、宇宙空間まで、その用途は多岐にわたる。また、高温・放射線両方への高い耐性が必要な原子力施設や、災害時に活躍するロボットなどからも同様に要求がある。Ga2O3は、その材料特性から、上述のような過酷な環境においても安定かつ特性劣化無く動作し続けることが期待される。本年度、Ga2O3デバイスの基礎的な放射線耐性を確認するための実験を、(国研)量子科学技術研究開発機構との共同研究として行った。具体的には、Ga2O3トランジスタへのガンマ線照射実験を行い、照射後の様々なデバイス特性における劣化の有無について確認した。その結果、高い線量のガンマ線照射後においても、特性劣化はほとんど認められなかった。わずかに悪化したデバイス特性も、Ga2O3自体の劣化に伴うものではなく、ゲート絶縁膜の劣化によるものであった。これらの結果から、Ga2O3の有する耐放射線デバイス半導体材料としての高いポテンシャルが確認された。図2  フィールドプレートGa2O3ショットキーバリアダイオードの電流-電圧出力特性図3  ノーマリーオフGa2O3トランジスタの断面模式図図4  ノーマリーオフGa2O3トランジスタの電流-電圧出力特性