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ICTによって、世界をレジリエントに

センター長 井上 真杉
国立研究開発法人
情報通信研究機構
ネットワーク研究所
レジリエントICT研究センター長
 井上 真杉
 平成23(2011)年3月11日の東日本大震災から10年が経過しました。その間、地震、台風、洪水、火山噴火、大雪、突風等の大規模自然災害が国内外で幾度となく発生し、そのたびに災害に強い情報通信ネットワークの必要性が認識されてきました。それに対し、携帯電話システムを例にとれば、一部基地局の電源長時間化等の各種対策が施されて着実に耐災害性が向上してきています。引き続き、各情報通信ネットワークの耐災害性向上やそれらを重層的に構成すること等による災害時の通信確保が求められています。そして近年は、強化されるべき対象が情報通信ネットワーク、エネルギー、道路・港湾等の輸送施設といった個別の社会インフラだけではなく、それらで構成される社会システム全体に広がってきています。そして備えるべき対象も、新型コロナ感染症パンデミックや災害を含む突発的な事象全体へと広がりつつあります。

 キーワードは「レジリエンス」です。困難な状況から回復する能力、対応力、適応力、弾性力などと説明される言葉です。Beyond 5G 6Gと称される次世代モバイル通信規格、そして私たちの暮らしが便利、快適になるスマートシティでも、もたらされるべき効用のひとつにレジリエンスが挙げられています。国連SDGsでも「11:住み続けられるまちづくりを」として、都市と人間の居住地のレジリエンスが目標の1つとされています。

 当センターの前身である耐災害ICT研究センターは東日本大震災後の平成242012)年4月に東北大学や関係各位の協力を得て設立されました。構築したテストベッドを有する産学官連携研究の拠点として、大震災の経験をフィードバックしながら、情報通信の耐災害性を強化する研究開発と社会導入に向けた活動を行なって参りました。研究開発したネットワーク系の技術は被災地の宮城県女川町、南海トラフ地震に備える和歌山県白浜町、首都圏直下地震に備える中央省庁災害対策本部(東京都立川市内)で活用され、熊本地震後の高森町において臨時通信回線の提供に役立てられました。情報系の技術は実際の災害や自治体の防災訓練で活用されてきました。産学官連携活動を通じて「災害に強い情報通信ネットワーク導入ガイドライン」を策定して公開するなど、耐災害ICT全般の普及と社会展開にも取り組んで参りました。

  令和32021)年41日からは、第5期の国立研究開発法人情報通信研究機構中長期目標及び中長期計画(令和3年度〜7年度)の開始に伴い「レジリエントICT研究センター」に名称を変更し、体制も拡充して、これまでの研究成果や関係機関との連携体制及び連携成果を礎に、世界をレジリエントにするICTの研究開発並びに国土強靭化に向けた取り組みの推進を開始しました。研究開発では、光ネットワークの障害予兆検知及び機能復旧技術、ネットワークが動的に変化するタフフィジカル空間における情報通信基盤構築技術、自然環境の急変を検知する自然環境計測技術を中心に取り組みます。また、これらの技術に加えてこれまでに研究開発してきた技術の社会実装に向けて、機構内、及び関係機関との連携をさらに充実させながら、ニーズの把握、知見の蓄積と共有、共同の研究や実証実験、標準モデルやガイドライン作成等の多様な取り組みを通じて国土強靭化に貢献していきます。

 引き続き、関係各位のご支援、ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

令和3(2021)年4月1日