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主担当者 古田健也 主任研究員
チーム構成:ポスドク2名、技術員3名、学生5名(2018年10月現在)

研究の背景
人は、動いている物を観ると直感的に「生きている」と感じます。動画1の猫ジャラシのオモチャは生きてはいませんが、板をランダムに振動させてその上に猫ジャラシを載せると、非対称に生えている猫ジャラシの毛が、ランダムな振動を一方向への運動に変換して猫ジャラシが動きます。猫ジャラシは人間の眼に見えるサイズですが、生き物の中で動きを作り出しているのは髪の毛の太さの1/1000程度のサイズの小さな生物分子マシンです。動画2の顕微鏡像では、ナノメートル程度の分子マシンが(動画では見えていない)、マイクロメートルサイズのアクチン繊維(動画でヒモ状に見える)を動かしています。
生物分子マシンの創製-動画1
動画1
生物分子マシンの創製-動画2
動画2
生物分子マシンの創製-画像1
生き物は分子マシンのような部品の集合体ですから、これらを自由自在にデザインすることができれば、極論ですが、生き物のようなデバイス、例えばデバイス自身が自分で環境に適応したり、進化したり、自発的に仕事をしたりするようなモノを創ることができるはずです。
 
人工の分子マシンは2016年にノーベル化学賞を受賞しましたが、現状の人工分子マシンは比較的単純で、生物分子マシンのような自律性を持たず、まだまだ有用な仕事が出来る段階にはありません。数十億年の生物進化の結果をお手本に、これから新しいパラダイムを拓く必要があります。
生物分子マシンの創製 画像1
生物分子マシンの創製
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生物分子マシンの中でも、生物分子モーターと呼ばれるタンパク質は、燃料(インプット)と、仕事(アウトプット)が分かりやすいので、生物分子マシンの動作原理の本質をつかむのに最適な実験材料です。生物分子モーターは、細胞内で一方向に動く分子マシンであり、筋肉の動きや細胞分裂など生物のほとんどの動きを担っています。私たちは生物分子モーターが、ランダムな熱運動の支配する小さなスケールの世界で一方向に進む機構を明らかにし、この原理を応用して様々な分子マシン、デバイス、ナノスケールで物を作る「ナノ工場」の創成へとつなげたいと思っています。
 
二つの問い
①分子マシンそのものの設計原理
生物分子モーターが動いているナノメートルスケールの世界は、水分子が熱運動で激しく動くことによって一秒間に一兆回も衝突してくるような世界です。このような環境で、アミノ酸がつながったヒモが折りたたまれただけの分子マシンが、確実に前に進むことは一見難しそうに思えます。
そこで、私たち取り組むべき問いは、このような熱運動の嵐が吹き荒れる分子のスケールで、一方向に動く機械をつくるために最低限必要なメカニズムは何か、ということです。
 
②分子マシンの集団特性の設計
個々の分子モーターはそれぞれがバラバラに機能していては生命現象を起こすことができません。分子、小器官、細胞、個体と階層を上がるに従い、バラバラだった動きが統制が取れたものになり、それがまた各階層にフィードバックされて影響を及ぼすという複雑な連環があることは分かっています。しかし、この部分と全体がどのように連環しているのか、という問題は未解決であり、この点は生物がどのようにデザインされているかを知るための鍵だと考えます。この問題に対して実験的にアクセス可能な適切な複雑さ・適切な規模のモデルを選択する必要があります。
タンパク質エンジニアリングで逆方向性の分子モーターを創る
タンパク質エンジニアリングで逆方向性の分子モーターを創る
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私たちの戦略
問い①に答えるために、私たちは、既存の生物分子モーターの分析に加え、単純な要素を幾つか組み合わせて実際に新しい生物分子モーターを創ってみて、それがどう振る舞うかを観察し、これをさらに作り直すというサイクルを経ることで「創って理解する」という構成的な研究手法を確立しようとしています。
 
問い②に対しては、鞭毛運動や筋肉などの生体機能を、同期現象・協同現象として捉えなおすこと、また、これらを実験的に最小限の部品で再構成して数理的に解析することが一つの方法です。このような再構成実験には、DNAナノテクノロジーを活用するのが最適解です。DNAはミクロスケールの建築材料として有用で、生物が作るナノメートルスケールの周期構造のような構造を人為的に正確にデザインできます。このように作った人工的な生物機械を、一分子蛍光イメージング、光ピンセット、電子顕微鏡、高速原子間力顕微鏡などを駆使して詳細に解析し、その動作原理に迫ろうとしています。
DNAナノチューブとモーター複合体の構築
DNAナノチューブとモーター複合体の構築
光ピンセットでモーターとレールの間の相互作用を測る
光ピンセットでモーターとレールの間の相互作用を測る
研究テーマ 
  • 単純な酵素から分子モーターを創る
  • ダイニンモーターを基に天然にはないモーターシステムを作る
  • 分子モーターベースのチューリングマシンの実装
  • キネシンモーターの一方向性の起源の解明
  • 分子モーターの集団的性質と協同性
  • 一見ランダムな細胞内輸送の謎を解く
  • 最小限の分子モーター、バネ要素に依る鞭毛・繊毛運動の再構成
  • 走化性、走光性をもつロボットを作る
  • 細胞骨格と記憶の形成のモデル構築
研究環境
「知りたい事、そのためにやるべき実験」を最優先にして、材料や装置を選ぶように常に意識して取り組んでいます。
 
材料:
大腸菌・ヒト培養細胞・昆虫細胞発現系を用いて生物分子モーターを作製しています。一部クラミドモナスや酵母も使用しています。
 
装置:
それぞれの研究テーマに合わせて、光学系を一から設計、構築しています。現在4台(TIRFM、光ピンセット等)が実動中、2台を新たに構築中です。新しいアイデアや情報を収集し、一旦完成した後も「スクラップアンドビルド」を柔軟に繰り返すことで、常により良い観察システムを追求しています。