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衛星双方向時刻比較法は、1970年前後より実験的に開始され、その高精度時刻比較の可能性などから多くの機関で実験が実施されてきた方式です。当所においてもATS-1衛星と当時当所で開発されたSSRA(スペクトラム拡散ランダムアクセス)通信装置を利用して日米間の精密時刻比較実験を行い、比較精度1ns(10-9秒)という当時としては最先端の成果を挙げて来た方式です(図1に本方式の原理図を示します)。 | ||
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しかし、1980年代に入るとGPS衛星システムの構築が開始され、GPS衛星を用いたコモンビュー法(測地でいうディファレンシャル法)と呼ばれる時刻比較法が出現しました。利用者装置・運用コスト共に安価であることや当時の原子時計の比較には実用上十分であることなどの理由により、全世界の標準時を比較して世界標準時の元である国際原子時を作り上げるための時刻比較方法の主力としてGPS衛星コモンビュー法が採用されてきました。一方、衛星双方向時刻比較法は、比較精度は高いのですが、装置・運用経費ともに高価であるため、国際原子時を作り上げるための時刻比較方法として採用されるには至りませんでした。 |
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原子周波数標準器の技術開発は目覚ましく、近年、一次周波数標準器では10-15台のものが開発されてきています。また実用周波数標準器(原子時計)も高安定なものが開発され世界各国の時間周波数標準機関で利用されています。これらの結果、国際原子時を作り上げるための精密時刻比較法としてGPS衛星コモンビュー法では精度的に不足しつつあり、より高精度の時刻比較方法を実用化していくための研究開発が必要であることがCCTF(時間周波数諮問委員会)やITU-R(国際電気通信連合無線通信分野)などの国際的な場で唱えられ議論されてきました。その中で衛星双方向時刻比較法は、最も有望な手法の1つとして取り上げられ、研究開発の実施並びに実用化に向けた方策の推進が各国の時間周波数標準機関で開始されてきました。現在一部の研究機関の間では、すでに衛星双方向時刻比較結果が国際原子時のための時刻比較に採用されはじめています。 |
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アジア太平洋地域は、衛星回線の確保の点などから衛星双方向時刻比較法の実用化に向けた動きが若干遅れていましたが、1997年に当所とオーストラリア(NML)との間でインテルサット衛星を用いた定期的(2回/週)比較の開始したのを皮切りに、1998年には中国陜天文台(CSAO)が、また、1999年には国内の計量研究所(現産業技術総合研究所;AIST)が、さらに2000年には台湾の電信研究所(TL)がこのネットワークに加わり国際原子時の高精度化へ向けた長期性能確認実験を実施しています(CRLとCSAO、AIST、TLの間はJSAT衛星を利用)。図2は現在と今後の同ネットワークの構想を示したものです。 | ||
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前期の衛星双方向時刻比較ネットワークの構築に、商用の双方向時刻比較装置を使用して進めてきましたが、その結果いくつかの課題や問題点が明らかになってきました。それらは、 (1)衛星回線経費(高ランニングコスト) (2)自動運用化への課題 (3)複数局同時時刻比較が困難 (4)衛星地球局内遅延時間変動の評価 です。 これらの課題の多くを解消するため、当所ではマルチチャネル方式衛星双方向時刻比較装置の開発を開始しております。本装置は、1台に複数の送信チャネルと受信チャネルを備えており、図3に概念図を示すように、同時にすべての参加局から信号を送信します。その結果、各局はすべての参加局の信号が重畳された信号を受信・信号処理を行います。各局で測定した結果を相互にデータ交換することにより時刻比較に参加したすべての局の間で時刻比較が同時に実施できるわけです。また、同装置のマルチチャネル性を利用して地球局局内遅延時間の変動についても同時に測定を行うことができます。本装置は現在製作が進められており、本年後半には図2のネットワークで実証実験を開始することを予定しています。 |
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衛星双方向時刻比較ネットワークは当然ながら相手局との装置の互換性、比較の実施・運用に関する協力関係の構築など、技術的・科学的な意義はもとより、国際協力・国際貢献が実践できる非常に良い場であると考えられます。当該研究開発を通じて、特にアジア太平洋地域の時間周波数関係研究機関との連携をより深めて、当所のミッションの1つである国際貢献を推進していきたいと考えております。 なお、新モデムの開発等に関しましては、科学技術庁(現文部科学省)科学技術振興調整費を利用して進めております。 |
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