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成瀬 誠(なるせ まこと) 情報通信部門 超高速フォトニックネットワーク グループ研究員
東京大学リサーチ・アソシエート、助手を経て02年CRL入所。JSTさきがけプログラム「情報基盤と利用環境」兼務。博士(工学)。 |
 左より、CRL成瀬、共同研究者の富士ゼロックス三津氏、岩佐氏、古木氏 |
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図1 超高速フォトニックネットワーク「タイミング」 |
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光は「速い」と言われ、1秒間に1兆 ビットの情報(1テラビット)を自在に扱うことも期待されています。確かに、光は1秒間に地球を7周半もするので「速い」ですが、しかし、1テラビットを1秒で送るとなると、長さでいうと0.3mm、時間でいうと1ピコ(1兆分の1)秒間隔で、光信号を並べなくてはなりません。しかも光の伝わり方はちょっとした環境変化で変わります。例えば長さ50mの光ファイバに、0.1℃の温度変化が生じるだけで約750フェムト秒(1フェムト秒は1000兆分の1秒)もの揺らぎが生じてしまいます。したがって、フェムト秒オーダーでタイミングを注意深くコントロールしなければ、超高速フォト ニックネットワークは成り立ちません(図1)。しかし、もしそれができれば、「超高速」を付加価値にした、光で初めて可能になる革新的ネットワーク技術に繋がります。 |
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図2 富士ゼロックスの面型光スイッチ |
フェムト秒テクノロジー研究機構(FESTA)の富士ゼロックス分散研究所は、「面型」の光スイッチという、極めて斬新な技術を持っています。これは、スクエアリリウム(電子写真にも利用されている安定性の高い色素)J会合体(有機色素分子が複数集まった集合体)という有機薄膜で、光を当てた部分だけが透明になり、しかも、その応答が極めて速い、という特徴を持っています(図2)。
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フェムト秒のような速い現象には、時間軸にそって光電変換するといった方法では、もちろん対応できません。従来は、非線形光学結晶が用いられていますが、現状では光信号の幅程度のわずかな時間を検出するのが限界で、雑音も大きいという問題がありました。掃引というテクニックを用いれば、計れる時間幅(ダイナミックレンジ)は大きくなるのですが、その掃引がネックとなり、揺らぎを実時間で評価することができなくなってしまいます。そこで注目したのが前述の面型光ス イッチ。これは、スイッチの制御光が当たった場所だけがその瞬間に透明になるので、場所によって制御光が到着する時刻が異なるようにしておき、光信号はそれらの場所に同時に到着するように仕組んでおけば、「光信号が通過した場所を見る」ことで、逆に、「その光信号がいつ到着したのか」がわかります。これは時空間変換と呼ばれるテクニックの一形態です。この方法で複数の光信号のタイミングを一括して「見れば」、超高速光信号のタイミングの揺らぎを計ることができます。さらにその情報を利用して、タイミングをアクティブに制御することも可能になります(図3)。
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図3
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面型光スイッチを用いたタイミング検出の原理 |
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超高速光信号のタイミング揺らぎ低減システム |
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 光信号のタイミングの揺らぎは面型光スイッチでの空間的な揺らぎとなるので、「光信号がいつも面型光スイッチ上の特定の位置に見える」ことが、「揺らぎがない」こと、すなわち、ジッターの低減となります。実験では空間的揺らぎを実時間画像処理等で抽出して、その揺らぎを打ち消すように光信号のタイミングを制御しています。これは、超高速現象をフェムト秒光技術(面型光スイッチ)で捉えつつ、タイミング揺らぎ情報の抽出や制御装置のコントロールなど、複雑な処理機能をエレクトロニクスで対応した、一種の階層的なシステムと見ることもできます。ジッター低減制御により、図4のように、最大約600フェムト秒のジッターが1/5以下に低減されています。また、2系統の光信号の「タイミングの差」を抑えるスキュー低減実験では、片方の光信号の揺らぎを見て、他方がそのタイミングを追いかけるように制御しました。下記のWEBページでその動画デモを見ることができます。
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図4 ジッター低減のデモ例:
a |
面型光スイッチ上の光信号の空間的揺らぎ |
b |
ジッター低減制御の効果 |
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 フォトニックネットワークで面白いのは、「サービスとは何か?機能とは何か?」という人間や社会にとっての理想像と、フェムト秒光技術やナノフォトニクスのような極限技術という、いわば「両端のセンス」のバランスなしには前に進めないということが、幸か不幸か最近の技術革新でますますクリアになってしまったことがひとつあると思います。こうした状況に対応するため、本研究の富士ゼロックス分散研究所の皆さんのような最先端のデバイス研究の方々との連携と、アプリケーション・システムアーキテクチャ・制御技術など含めたトータルな視点を今後も大事にしながら、超高速フォトニックネットワークに期待される厳しい要求に応えていきたいと思います。 |
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