RESEARCH
38GHz帯広帯域ミリ波加入者無線アクセスシステムの実現
金澤 亜美(かなざわ あみ)
無線通信部門 横須賀無線通信研究センター
新世代モバイル研究開発プロジェクト推進室研究員


1996年CRL入所。以来、無線通信システムに関する研究に従事。
金澤 亜美

はじめに
 インターネット等のマルチメディア通信の普及により、高速アクセス回線の需要が高まり、光ファイバー網を補完する手段として加入者系無線アクセスシステム(Fixed wireless access (FWA) system)が注目されています。FWAシステムは光ファイバー網に比べ、安価で迅速なネットワークの構築が可能であるため、短期間で急速に普及することが考えられます。国内の動向としては、総務省がFWAの割り当て周波数として、1998年に準ミリ波/ミリ波帯(22GHz,26GHz,38GHz)の電波を開放し、その後新たに5GHz帯の周波数を開放しており、現在までに多くの事業者が電波免許を申請しています。
 FWAには、基地局と加入者局の2地点間を1対1で結ぶポイント・ツー・ポイント(Point-to-point:P-P)方式と1つの基地局に対して複数の加入者局を1対多方向で結ぶポイント・ツー・マルチポイント(Point-to-multipoint:P-MP)方式の2種類があります。現在、P-P方式は最大156Mbpsの通信速度で通信距離4km程度の構成、P-MP方式は10 Mbps程度の通信速度で半径1 km程度のセル構成を用い、加入者を収容するサービス形態が一般的です。しかし昨今はさらに高速な回線が望まれるようになり、FWAにおいても、より安価で高速なアクセスシステムが望まれています。
図1 野外装置(ODU) 図2 野外装置(IDU)
図1
野外装置(ODU)
図2
野外装置(IDU)

広帯域ミリ波加入者系無線アクセスシステム
 このような背景を踏まえて当グループでは、(1) P-P方式でギガビット級伝送、P-MP方式で156 Mbps以上を目指した通信速度の高速化、(2) 基地局や中継局の高機能化による柔軟なネットワークの構築、(3) ミリ波の降雨減衰対策ならびに干渉対策についての検討を進めています。 ここで紹介する38GHz帯広帯域ミリ波加入者無線アクセスシステムでは、このうち(1)(3)の実験検証を目的としています。 まず(1)の検証を行うため通信速度が622 Mbps(片方向)である3本のP-Pリンクを構築し、変調方式をそれぞれ16QAM、64QAM及び128QAMを用いました。
 そしてこれらのシステム装置群を上位レイヤで接続し、スター型のネットワークを構成した伝送システムに展開して、P-MP方式と同等の機能を実現しました。
 また(3)の検証を行うため、無線システムを設置している一部の地点に雨量計を設置し、降雨強度と送受信電力などを同時に測定して、降雨による影響を継続的に取得し、統計的な調査を進めています。

装置構成
表1 FWAシステム仕様
表1
FWAシステム仕様
 38GHz帯広帯域ミリ波加入者系無線アクセスシステムは、電波を送受信する屋外装置(Outdoor unit:ODU)(図1)と、変復調などを行う屋内装置(Indoor unit:IDU)(図2)から構成されています。アンテナはODUに取り付けられています。また、IDUに は光通信用インターフェースがあり、ネットワーク装置や測定装置などが接続されます。
 システム仕様は表1の通りです。このシステムでは、相対する方向で送受信を同時に行うために周波数分割複信方式(Frequency division duplex:FDD)を用いています。中心周波数は、下り回線で37.00 GHz、上り回線で36.25 GHzです。また、QAM変調の多値化やクロック周波数など考慮して、下り回線と上り回線でそれぞれ4マルチキャリア方式を用いています。伝送速度は、すべてのシステムにおいて622 Mbpsで、STM-4のデータフォーマットを使用しています。占有周波数帯幅は変調方式によって異なりますが、最も周波数利用効率の良い128QAMでは99%電力帯域幅が120 MHzとなり、5.2bit/Hzの周波数利用効率を実現しました。現在、サービスされているFWAシステムでは、変調方式に16QAMを用いているものが主流です。16QAMで622 Mbps伝送するシステムを実現する場合には、290MHzの周波数帯域幅を必要としたことから、2.1 bit/Hzの周波数利用効率となります。このため128QAMにしたことにより、2.4倍の周波数利用効率が得られたことになります。
 現在これらの装置を用いて、スループットやレイテンシー(Latency)などのネットワークを評価するための基本的な試験を進めています。

FWAテストベッド構築
図3 FWAテストベッドのシステム配置
図3
FWAテストベッドのシステム配置

図4 デモンストレーションにおけるシステム構成図
図4
デモンストレーションにおけるシステム構成図

 今回実現したFWAシステムを用いて、無線情報通信技術に特化した研究開発拠点である横須賀リサーチパーク(神奈川県横須賀市)を中心に、4地点を結んだテストベッドを構築しました(図3)。
図5 展示会の様子
図5
展示会の様子
伝送距離は、16QAMを用いたシステムで1km、64QAMシステムで650m、128QAMシステムで300mとなっています。2003年3月18日に横須賀リサーチパークにて開催された第5回ミリ波国際シンポジウム展示会では、複数のFWAシステムにVOD(ビデオ・オン・デマンド)サーバー等を接続して、ビデオコンテンツやリアルタイム映像の同時配信を行い、YRP1番館や5番館内の展示会場に向けてクリアな動画映像を配信するデモンストレーションが行われました(図4、図5)。

今後の展開
 無線通信においても、光ファイバーによるアクセス回線に匹敵するような広帯域化が実現され、より柔軟なネットワークの構築が可能になると考えられます。今後は、この無線による広帯域通信を有効に利用するアプリケーションの開発も必要となるため、4月から横須賀リサーチパークにおいて、広帯域無線アクセスに対するアプリケーション検討のための共同研究が開始される予定です。この中では構築されたFWAテストベッドを用いて、アプリケーションも含めた検討を進めていきます。